第174話
「で、さっきのは俺が呼ばれた理由とは違うんだよね?」
「あぁ、あれはたまたまタイミングが重なっただけで、ユーマを呼んだのは違う理由だ」
無事ガイルがキレる前に天候の指輪を返したとおるさん達は、メンバーが見つかったのかすぐにここを出て行った。
そしてとおるさん達と入れ替わるようにクランハウスへ入って来たのはメイちゃん。
「すみません! お待たせしました!」
「いや、こっちも色々あって丁度今手が空いたんだけど、俺が呼ばれたのはメイちゃんにも関係あるの?」
「あぁ、俺達を王都に連れてってくれ」
どうやら2人ともアウロサリバまでは来たらしく、前に俺が王都までは連れて行くと言ったことを覚えていたようだ。
「もう来たんだね」
「俺達はこのクランで最初のメンバーだからな。先輩面出来る時にしとかねぇと」
「そろそろユーマさんに使ってもらえるような装備が作れるようになるだろうって、ガイルさん張り切ってました」
「余計なことを言うなメイ!」
「装備は丁度さっき新しいの頼んだんだよね」
「まぁユーマの今の装備はもうちょい前が替え時だったろうしな。次の装備を見てから俺も考える」
ガイル的にはそろそろ俺の着ている装備と同じくらいの性能の装備が作れるのだとか。
ただ、俺の装備は他の人と違って、かなり腕の良い鍛冶師に作ってもらってるってのが、ガイルから見た俺の装備の評価らしい。
「今ガイルの作った装備って見せてもらえたりする?」
「あぁ、これなんかは最近作ったやつだ」
名前:大樹の木剣
効果:攻撃力+40、筋力+5、敏捷+4、空き
説明
製作者ガイル:肥大せし大樹の素材から作られた片手剣。筋力値と敏捷値を上昇し、装備装飾品を1つ付けられる。
「すごっ、もう俺の今使ってる片手剣より強いな」
「流石に俺もその片手剣と同じ素材で作ったら性能で負けるだろうがな」
それでもガイルの作るものがこの世界の鍛冶師達に追い付いてきたのは凄い。最初の頃を知ってる身としては、少し感動すらしている。
「ん? あれ、このマーク……」
「あぁ、それは前言ってたやつだ。良いだろ?」
そこには簡単に人と子どもの狼が彫られており、たぶんこれは俺とウルだろう。
これがガイルとメイちゃんのブランドというか、製作者を証明するマークになっているということだが、もっとガイルとメイちゃんを表す良いマークは他にあったのではないか?
「なんで俺とウルがマークに?」
「流石に犬とは間違えないか」
「ウルが生まれてきた時は間違えたけどね」
このマークはガイルとメイちゃんの両方が納得しているらしく、俺としては少し申し訳ない気持ちがある。
「ガイルとメイちゃんの商品だし、2人のマークにすればよかったのに」
「これが一番良いマークだよ。なぁ?」
「はい! ギルドの方が話しているのを聞いたことがあるんですけど、ユーマさんが配達依頼をしてくれたおかげで、最初の頃素材の無かった私は錬金が出来ましたし、ガイルさんとも出会えたんです!」
「まぁ確かに配達依頼を受けた記憶はあるけど、他の人だった可能性もあるでしょ」
「良いんだよそんなのは。ユーマとあの小さかったウルが、俺とメイにとっては大きい存在だったんだ。現に今こんなでかいクランハウスを持ってるしな」
……本人達が納得してるなら良いのかな?
「まぁそれなら良いか。じゃあ早速王都に向かう?」
「そうだな。かなり時間がかかるって聞いたから、夜が来ないうちに行くか」
「あの、先にご飯だけ食べてからでいいですか?」
「確かにそうだな」
「じゃあ1時間もあればいける?」
「はい!」
「ここだと3時間後ってことであってるか?」
「そうだね」
ということで俺もこのタイミングで現実に戻りご飯を食べることにする。
「てことで3時間くらい居なくなるけど、家が良い? それとも今回はこっちで居る?」
「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」
「じゃあ今回はこっちでログアウトしようかな。皆が誰かに迷惑かける心配はしてないけど、一応気を付けてね」
「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」
調理場で料理をしていた腹ぺこさんにウル達が数時間クランハウスに居ることだけ伝えて、俺はログアウトした。
「ガイル達はそのまま王都に送った方が良いのかな?」
俺はご飯を用意しながら、この後ガイル達と王都を目指すルートを考えていた。
俺が前に通ったルートはずっと長い道を馬車で走るだけなので、距離が長くなる代わりにいくつかの街を経由できるルートに今回は変えてもいいなと思っている。
「まぁそれもガイル達次第か」
早く王都に行きたいと言われたら前のルートにして、他の街も見たいと言われたら新しいルートにするだけだと俺は思い直す。
「おぉ、第3陣も決定したのか」
スマホを少し見ていると、コネファンの第3陣参戦が第2陣の丁度1週間後に決定したことが書かれていた。
最近俺の投稿している動画の視聴回数が伸びているのも、コネファン自体が人気だからに他ならないが、またプレイヤーがコネファンに増えることは素直に嬉しい。
「配信かぁ」
動画のコメント欄には、俺のライブ配信を求める声が多い。俺の動画は色々特定されるとマズイことは隠しているため、その部分が気になる視聴者が多いのだろう。
例えばマグマの番人の時なんかは、あのボスエリアに行くまでの道のりを少しカットしていたり、俺の購入した家なんかも、コネファンを遊んでいる視聴者に特定されないよう、家の周りを歩いている映像には毎回AIにより編集が入っている。
俺のライブ配信が見たいという声の中には、純粋にカット編集がされていない長時間の映像が見たいという人もいるだろうが、第2陣が来てから急激にそういった声が増えたので、俺のプレイから何か有益な情報を得たいと思っている人も多いはずだ。
「まぁそれはそれでありがたいか。俺を参考にしてるってことだもんな」
自分でも魔獣のタマゴは他の人と比べて手に入り過ぎだと思うし、カジノなんかでも勝ち過ぎだと思うから、結構俺が普段何をしているのか気になる気持ちは分かる。
ただ、今はクランリーダーという立場もあるし、何か配信で失言をしてしまった時が心配だから、やっぱり配信はしばらく出来ないだろう。
「……よし、ご馳走様でした」
少し茹でる時間が足りなかったペペロンチーノを食べ終わり、俺はカプセルベッドへと戻るが、約束の時間までまだ少し余裕があるため、現実と時間の流れが3倍違うこの空間で、クランメンバーの配信を見てみる。
「おぉ、アリスさん達凄いな」
視聴者がもの凄い人数になっているアリスさん達の配信を見てみると、何か特別なことをしているわけでもなさそうなので、普段からこんなに大勢の人が見に来ているのだろう。
「あ、とおるさん達もやってるな」
そしてとおるさんとともるさん、カンナさんの配信を見てみると、反省中というタイトルで配信をしていた。
パーティーメンバーにはふぅさんとふるみさんが増えていて、今は皆でクランのために食材をドロップするモンスターを狩っているらしかった。
配信を少し見ただけだが、とおるさんとともるさんは相当雨の日の情報を配信で漏らしたことを後悔しており、カンナさんやふぅさん、ふるみさんにずっと励まされていた。
俺はこの双子のことをあまり動じないタイプだと思っていたが、配信で何度も反省しているのを見て、少しだけ印象が変わった。
「マイペースな双子って印象だったけど、しっかりと反省してるのをたまたまでも配信で見れたのは良かったな」
あの2人のことを好きだと言っていたもぐるさんやヒナタさんの気持ちが少し分かった気がする。
マイペースでありながらも、人に迷惑をかけた時はちゃんと反省できる心を持っていて、意外と感情が顔に出る2人は見ていて面白い。
いつもならふらっと2人でどこかに出かけていくのだろうが、今も一生懸命皆でモンスターを狩っているのを見ると、もうこれだけで許してあげたい気持ちが高まってくる。
「カンナさんも優しいなぁ」
口調は武士っぽいが、人一倍優しくて人一倍真っ直ぐな姿は見ていて気持ちがいい。
自分も一緒に罪をかぶろうとする姿勢や、何度もとおるさん達に優しく声をかけている姿はカンナさんの優しさが表れている。
たまに自分のことを某ではなく私と言い間違えると、コメント欄が盛り上がっているのはこの配信のノリなのだろう。
そしてふぅさんやふるみさんはこの3人に付き合ってペナルティを手伝っているが、終始楽しそうにしているからこそ配信の空気も悪くなっていない。
ていうか、俺の想像以上に皆人気者じゃないか? 視聴者の数が皆4桁あるんだけど……
「ってもうこんな時間か」
俺はゲーム世界と同じ速度で配信を見ている安心感から、約束の時間がもうすぐそこまで迫っていることにギリギリまで気付かないのであった。