第173話
《始めてリプスを討伐しました》
《始めて単独でリプスを討伐しました》
今回でレベルが上がってくれたら嬉しかったが、32から33レベルになった時は2体のボスを倒して上がったし、流石に上がらなくても仕方ないか。
「皆は……大丈夫そうだな」
「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」
このボス戦が始まって少ししてから、ずっと皆を後ろで待機させてしまった。
恐怖状態になっていても戦えることは分かっていたが、今回俺の我儘で最後まで皆を待機させたことは申し訳ないと思っている。
そしてこれから先こういった状況になれば、次こそはウル達に戦ってもらおう。
まぁ1番心配なのは俺がまた今回みたいにならないかだろうけど。
「皆戦いたかったよな」
「クゥ」「アウ」「……」「コン」
「ごめんな」
戦いたかったけど、恐怖状態になった自分達が悪いとでも言うような皆の表情。
レベル差もあったし、恐怖状態なんてウル達は始めてだからパニックを起こしても仕方がなかったのに、皆反省しているのがよく伝わってくる。
たぶんルリとウルが早い段階で恐怖状態になりながらもしっかり戦えていたことから、エメラとシロは余計にそういう反省が出てくるのだろう。
「まぁ俺も1人で戦うってなると、このペースで進むならそろそろ限界かな」
1人で戦ってみて分かったが、正直俺だけで初見のボスを倒すのはそろそろキツくなるだろうなという気配はした。
そもそもテイマーが1人で戦うことを考えるのはどうかとも思うが……。
今回ボスを討伐するのにかかった時間が約1時間、そしてこのボスエリアに入っていられる制限時間も1時間だった。
俺は集中して本気で相手したのにも関わらず、倒すのに1時間もかかったということは、ソロで倒すならもっと強い装備を付けるか、レベルを上げないと難しいということだろう。
ボスによって制限時間は変わるが、とにかくこれまでは最悪俺が倒せば良いと思っていたのが、今後通用しなくなるであろうことは分かった。
これからはより一層ウル達と協力していかないと。
「俺も今回1人で戦ったことは悪かった。後悔はしてないけど、反省はしないとな」
次また同じような状態異常になった時、ウル達がしっかり戦えるようにするためにも、今回その経験をさせてあげられれば良かったが、俺が暴走したせいでその経験の機会を奪ってしまった。
この点はしっかり反省しないといけない。
ただそれでもウル達なら、次同じ状況になった時、ちゃんと戦えるんじゃないかと思ってしまうのは、期待してしまうのは、俺が親バカだからだろうか。
「あ、丁度今呼び出されたし、おやっさんに素材渡してからクランハウス戻ろっか」
「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」
ということでボス戦で戦えなかったウル達にモンスターを倒してもらいながら、俺達は急いで王都へと戻るのであった。
「お、1体くらい倒してきたか? それとも順番通りでもやっぱりきつかったか?」
「指定された場所に居たボスは全部倒しましたよ。道中のモンスターを狩るだけでも結構大変でした」
「……ん? 全部、か?」
「はい」
俺はインベントリにあるボス素材を全部出す。
「『カイキアスの角』に『風の毛皮』、『アペリオテスの蔓』に『風の樹皮』、『スキーローンの大髭』に『風の皮』、『リプスの牙』に『風の羽毛』……確かに全部揃ってるな」
他にもいくつか道中のモンスターを狩って手に入れた素材をおやっさんに渡す。
「これで素材は全部だと思います。余計なものもありますけど、使えそうなら使ってください」
「あ、あぁ」
「じゃあそれでよろしくお願いします。装備っていつ頃出来ますか?」
「……すまねぇ、これは俺のミスだ。もう少し遅いと思ってたからこのあと予定があってな」
確かにボスを4体なんて、こんな短時間で倒すものではないよな。
俺達プレイヤーは結構ボスを気軽に狩りに行くけど、それはこの世界の人にとっては異常なんだろうし。
あと、そもそも俺達のレベルが今回のボスと戦うには少し足りてなかっただろうから、それもあっておやっさんはもっと時間がかかると思ったのだろう。
こんなことならもっとゆっくりやればよかった。俺は自分のことだけ考えて素材を集めたけど、そりゃあ作ってくれる人のことも考えないといけないよな。素材を持ってきたらすぐに作業してもらえると思っていたことは反省反省。
「それはそちらを優先してください。その後作ってくれたら問題ないので」
「あぁ、そうさせてもらう」
今はまだ作業に取り掛かれないため、完成までどれくらいの時間がかかるのか分からないらしく、また今度俺がここに来た時にせめて装備が完成する時間を教えるから今は待ってくれ、ということを言われた。
「じゃあまた来ます」
「あぁ、装備はしっかり作るから安心してくれ」
俺もおやっさんもこの後予定があるため、最低限の話だけをしてここを離れる。
「じゃ、クランハウス行きますか」
俺はなぜ呼ばれたのかまだ知らされていないため、少しドキドキしながらクランハウスへと向かうのだった。
「ユーマ、何とかしてくれ」
「う、うん」
クランハウスに戻ってくると、正座しているクランメンバーが3人。
「ユーマからも言ってやるのが1番だろ」
「まぁそれはそうだね」
扉を開けてすぐの床に正座していたのは、女性配信者であるとおるさんとともるさんの双子姉妹にカンナさん。
「「「……」」」
この3人はレベル上げを配信でしていたらしいが、雑談中に雨の日は良いものが取れるという話をしてしまったらしい。
そしてコメント欄でそのことに驚く視聴者が多く、何か大変なことを言ってしまったのではないかと思いガイルに相談して、今この状況だとか。
「雨の日は良いものが採取出来たりするから、天候の指輪を使う時は雨が降るならチャットして、としか書かれてなかったんだもんね」
「「「……」」」
「ユーマ、その話はしたぞ。配信したり動画投稿してるやつは情報の取り扱いに気を付けてくれとも書いておいた。そういう強力な装備だからこそ、皆で使うために共有してるんだからな」
「それは、そうだね……うーん」
この3人が悪かったことは確定しているが、少しでもフォローはしてあげないと、特に双子の2人の元気がなさ過ぎて、ちょっと気まずいというかなんというか……
「えっと、まず大前提として、わざとではないよね?」
「それは」「もちろん」
「某はそんなこと致しませぬ!!」
「でも配信中に言っちゃったのは駄目だったね」
「「……」」
「こちらの認識が甘かった故、無意識に」
「ユーマ、天候の指輪を借りたのはとおるとともるの2人だ。カンナは知らなかったっぽいぞ」
なるほど、ということはカンナさんは一緒に謝ってるだけで、とおるさんとともるさんに話を聞かないといけないな。
「天候の指輪は2人で借りたの?」
「「(コクコク)」」
「借りる時の注意事項は読んだ?」
「「(…………コク)」」
「流し読みだった?」
「「(……コク)」」
「そっか。まぁ今回のその指輪と雨の日の情報は、全部俺から提供したものだから、他の誰かが迷惑を受けたわけじゃないしね」
「だけどなユーマ、そもそもこの情報はクランの情報として考えてるし、今後もまたこういったことを起こされると……」
「ガイルも良いよ、無理に自分が悪役になろうとしなくても」
「……」
ガイルは気遣いのできる男だし、責任感もあって友達思いだ。だから、自分が犠牲になってでもっていう行動に走る時がある。今のがまさにそれだ。
「まず、俺がここへ来るまでに3人はガイルから色々叱られたと思うから、それを忘れないように。で、ガイルもこういう事があった時は、今後は1人で対応しなくて良いよ。俺が居なかったらメイちゃんでもいいし、誰か呼んで2人以上で話は聞くようにして。それまでに話は聞いても良いけど、あくまでも対応する時は2人以上でお願い。今回も俺を呼んだなら、俺が来るまで待って欲しかったな」
「……あぁ」
「あとカンナさん、ちょっとこっち来て」
「……はい」
少し離れてカンナさんに小声で話す。
「(とおるさんとともるさんにちょっとペナルティ的なのを与えようと思うんだけど、カンナさんは何も知らなかったんだよね?)」
「某は知りませんでしたが、自分にもどうか同じ罰を!!」
「わ、分かったよ」
カンナさんは巻き込まれただけだし、ペナルティを受けなくても良いと思ったから、離れてそのことについて聞いてみようと思ったんだけど、本人は一緒に受ける気満々だった。
「じゃあ3人にはルールを破った罰を与えます」
「「「……」」」
「えーと、今後は出来るだけフルメンバーでのパーティー活動に、クランのための素材集め、あとは……生産職組のお手伝いもお願いしようかな?」
「分かった」「やる」
「承知!」
今回は3人で活動していたが、俺としてはなるべくクランメンバーの6人で活動して欲しいし、素材集めはクランのためになるし、最後の生産職のお手伝いは、次の街に行くためボスを倒せない生産職の皆を手伝ってもらう、という内容でどうだろうか。
「今回はこれをイベントの日までやってもらおうかな。まぁ配信の都合もあるだろうし、無理してしなくてもいいけど、その場合はクランへ多めに素材を回してもらえると助かるよ」
ペナルティと言っても、やっぱりゲームは楽しむために、遊ぶためにやっているから、楽しく出来そうなことを考えたつもりだ。
「じゃあそういうことで、解散!」
「ありがとう」「ございました」
「かたじけない!」
こうして3人は早速クランチャットの方であと3人メンバーを探しているが、取り敢えずその手に持っている天候の指輪をガイルに早く渡さないと、次こそは俺でもフォローしきれないぞと思うのだった。