第168話
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
「やはりユーマの動きは見ていて気持ちがいいな」
「凄いよユーマ! 前よりももっと避けれるようになってた!」
モルガは純粋にありがとう。俺も前よりモルガの魔法を避けてる感覚はあったし、ステータスが伸びたからと言うより、モルガの魔法の癖を知ったからというのが前よりも避けれた要因だと思う。
そしてモニカさん、最初は俺もまだ格好がつくような避け方してましたけど、途中から地面転がってでも避けてた俺の姿見てました? 見てて気持ちがいいっていうのは、虫みたいにぴょんぴょん跳ね回ってて面白かったということですかね? それとも反撃の意思が1ミリもない潔い回避行動に気持ちよさを感じてくれましたか?
……駄目だ駄目だ。このように思ってしまうのは全て疲労が原因だ、そうに違いない。
肉体的な疲労を感じることがないコネファンで、俺はこれ程までに疲れているからこんな嫌なことを考えてしまうんだ。
「クゥ」「アウ」「……!」「コン」「キノッ」
「あぁ、皆ありがとう」
うちの魔獣達は疲れ切った俺を休ませるためか、各々俺が喜びそうなものをインベントリから出している。
左から大きい肉、ケーキ、イチゴ、小さい肉、水。
うん、この中だと普段一緒にあまり居ないキノさんの用意してくれた水が1番ありがたいかもしれない。
「よし、今日はこれで終わりだ」
「自分はユーマさんみたいにいつか必ずなります!」
「ユーマくん、家から見てたけど凄かったよ」
「お、お父さん!」
モニカさんは今日の訓練終了を知らせてくれて、ハティはなんかキラキラした目で俺を見てるし、フカさんはこっちまで来てエマちゃんに驚かれてるしで、俺の疲れた脳にはこの状況を処理しきれなかった。
「ゴゴ」「ググ」
「ん? ゴーさんとグーさんどうしたの?」
「ゴゴ」「ググ」
2人が俺に見せてくるのは不思議な種と苗。
ボスモンスターであるアペリオテスを倒しに行った時に道中で手に入れた種と苗を全てゴーさんとグーさんに渡していたのだが、何か問題が発生したのか?
「えっと、ここに俺が植えるの?」
「ゴゴ」「ググ」
ゴーさん達に連れられて畑まで来た俺は、もうこれから一生無いだろうと思われるような、ゴーさんとグーさんに仕事を任されるという体験をしていた。
「えっと、これで、良い?」
「ゴゴ!」「ググ!」「キノッ!」
いつの間にかキノさんもゴーさん達の横に並んでいる。キノさんは良く畑の近くにいるから畑の世話もしてくれているのかもしれない。
「じゃあ本当にこれだけでいいの? 何かあるなら他のこともやるけど」
「ゴゴゴ!」「グググ!」
「無いかぁ」
「キノッ」
「あ、キノさん何?」
不思議な種5つと苗2つを植える以上のことは俺に何も頼むことはないと、ゴーさんとグーさんはNOを突きつけてきたが、キノさんは何かありそうだ。
「キノッ」
「ここに何か欲しいのか、座れる椅子とか?」
「キノキノ」
「木かな?」
「キノキノ」
「自分用の小屋みたいな?」
「キノ〜」
全然当たらない。キノさんは何かを求めてるけど、最後の小屋が1番反応を見た感じ近そうだった。
「小屋っぽい何かかぁ」
「キノッ」
「あ、影ね」
「キノッ!」
どうやらここに日差しが当たらないような場所を作って欲しいらしい。
確かに日陰になるところは皆と交流できる場所じゃないし、畑の近くにキノさんが過ごしやすい場所があると、ゴーさんやグーさんともストレスなく話せるか。
「簡単なものでいいの?」
「キノ」
普通は俺が買いに行くんだけど……
「……じゃあお使い頼んで良い?」
「ゴゴ!」「ググ!」
「キノさん1人入れるくらいのテント買ってきてもらってもいい? 無かったら影さえ作れればいいし、棒と日差しを遮るようなシートさえあればそれで良いんだけど」
「ゴゴ!」「ググ!」
「たぶん設置までやってくれるよね。キノさん専用だから好きに切ったりして使いやすいようにしてくれて良いから」
「キノッ」「ゴゴ」「ググ」
うん、たぶんゴーさんとグーさんに最初から頼んだ方が早かったよね。ごめんねキノさん、気づいてあげるのが遅くなって。
俺には言葉が通じないから伝えるのが難しいだろうに、それでも俺を頼ろうとしてくれたキノさんには感謝しかない。
「ユーマくん、ハセクに渡してくれた白銀の鞍はターニャが使っても良いかい?」
「あ、はい。それは良いですけど」
「エマには万能鞍を使ってもらうことにしたよ」
「あぁ、確かにそれが良いですね」
「今からライドホースに乗って行くのが楽しみだ!」
「ユーマさん、ライドホースに乗る練習をしても良いですか?」
「全然好きに乗ってもらって良いよ。前も言ったけどここで乗る分にはいつでも好きに乗って良いから」
さて、もう時間は10時を過ぎている。俺はまだ自分の装備の半分の素材しか手に入れていないため、早く集めないといけない。
今は何も連絡が来ていないが、クラン関係で呼ばれたら戻らないといけないし、今のうちに装備更新は済ませておきたいのだ。
「じゃあ俺達はここで失礼します」
「あぁ、ライドホースも、アイスもありがとう」
「いえいえそれでは」
こうして俺達はフカさんとエマちゃんに見送られて、王都のクリスタルへと移動した。
「ウル達は疲れたりしてない?」
「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」
俺は自分の装備のために急いでいて、ウル達の様子をあまり気にしてなかったが、見た感じ皆元気そうなのであと2箇所は続けて行こうと思う。
「じゃあ次の場所に行くよ」
俺達はまた森の中を進んで行くが、毎回向かう場所が違うため、出てくるモンスターの種類も全く異なる。
だから新鮮な気持ちでモンスターと戦えるのは良いが、逆に言うと毎回初見のモンスターと戦うことになって気を抜くことが出来ない。
「でも森の中に居るモンスターは、王都近くのモンスターの中ではレベルが低いんだろうなぁ」
今俺達のレベルは32で、たぶん40レベルは軽く超えるくらいまで王都にはお世話になるはずだ。
だから今の俺達のレベルでも倒せるモンスターは、王都だとまだまだ優しい方だろう。
「クゥ!」
「お、久しぶりに狼のモンスターだな」
相手の狼モンスターの方がレベルが高いだろうに、確実にウルの方が強そうなのは、進化先の違いなのか、身に付けている装備がそうさせるのか、そもそも本当にウルの方がステータスは高いのか。
「灰色オオカミって言うのか」
5体くらいの灰色オオカミに接近を許してしまった俺達だが、もう既にこちらの反撃準備は整っていた。
「……!」
『ガ、ガウッ』『キャウッ』……
エメラの樹魔法で脚を拘束された灰色オオカミ達は、そのままシロやウルの魔法を避けることが出来ず、体力が失くなるまでその場で暴れることしか出来なかった。
「今アイツらを簡単に倒せたけど、今の相手ってかなり強いはずだよなぁ」
「クゥ」「アウ」「……!」「コン」
ウル達のおかげで敵を倒すことにあまり問題はない。問題なのは俺の防御力だ。
俺の防御力がどうしても不安だから、なかなか前に出て戦うことが出来ないし、そうなると俺は何も出来ないからウル達任せになってしまう。
カイキアスの時はまだ俺にも余裕があったけど、少しずつ敵の強さが上がってきて、今は結構ボスエリアに着く前の道中のモンスターにも集中しないといけない。
俺が倒されればそれで終わりだし、とにかく今は不意打ちも警戒しながら進んでいる。
「これだとボスと戦う方が精神的には楽だな」
ボス戦はボス戦でひりつくが、大量のモンスターに囲まれたりする方が今はしんどい。
どうしても敵の量が増えると不意打ちをくらってしまう可能性が出てくるため、1体だけに集中できるようなボス戦の方がまだマシだ。
「ウル達は1体のボスと大量のモンスター、どっちの相手をする方が嫌なんだろうな」
「クゥ?」「アウ?」「……?」「コン?」
突然の俺の問いかけに、分かりやすく皆の頭の上に"?"が見える。
まぁ皆ボス戦は好きだろうし、同じモンスターと大量に戦うなら、強いモンスター1体と戦いたがるだろう。
「あ、また灰色オオカミか」
同じ敵が連続で出てくると、さっきの反省を活かして更に効率良く相手を倒せるようになるため、俺たちにとってはありがたいが敵にとっては不運だな。
「アウ!」「……!」
今回はルリに敵の注意を引いてもらって、その隙にエメラの完璧な樹魔法の拘束が相手に決まった。
さっき倒した時もほぼ相手の動いてる姿を見ることがなかったが、今回は更に相手は何も出来なかっただろう。
そしてシロとウルの魔法で今回も倒された灰色オオカミ。
もし他の灰色オオカミが今の戦闘を見ていたら、絶対に俺達には襲いかかりたくないと思う。
「俺って片手剣じゃない方が良かったのか?」
そして皆が戦っている中で、何もしていない俺は少し考えていた。
テイマーという職業だと、魔法を攻撃手段として持っている方がやっぱり良かったのだろうかと思ってしまう。
安全な位置から敵を攻撃できるならそれに越したことはないし、テイマーが前線で戦うのは余程実力がない限りリスクでしかない。
「いや、弱気になってるな」
俺はそんなのは元々分かってて片手剣を選んだはずだ。少しウル達が強くなったのと、レベルに合った装備がないせいで戦えないこの状況が、俺を弱気にさせていた。
「クゥ!」
「お、あれはボスエリアだな」
色んなモンスターを倒しながら進んできた俺達は、本日3度目のボスエリアを見つけ、ボスエリア前で少し休憩を取るのだった。