第166話
「……!」
「敵に氷魔法を使う奴が居たらやっぱり厄介だな」
俺達は触れたものを凍らせる棍棒を避け、ボスの身体に咲いている花から撃たれる氷魔法も避け、先程までとは全く違って積極的に攻撃してくるボスを相手に困っていた。
幸いシロやエメラの魔法攻撃は吸収されていないため最悪の状態ではないが、この2人の魔法も吸収されれば更に苦しい戦いになるだろう。
「ウル、アイツの身体に出来てるあと2つある実を全部取ってきてくれ」
「クゥ!」
「ウルがボスの身体にある実を取れるように、俺とルリはアイツの動きを止めるぞ」
「アウ!」
これ以上敵を強化させるわけにはいかないし、仕組みが分かってしまえば簡単だ。あの実に魔法を当てなければいい、もしくはその後その実をボスに食べさせなければいいだけのこと。
ウルにあの実を全部取ってもらえば、こっちは全力で攻撃できる。
「エメラとシロはウルが取ってくるまで、あの実に絶対に魔法を当てるなよ!」
「……!」「コン!」
この2人の魔法がアイツに吸収されたら本当にヤバい。
全身植物巨人のボスが樹魔法を使えるようになったらそれだけでマズいし、シロの水魔法もこの雨の中で吸収されたらヤバい。
ウルの氷魔法を既に吸収している相手が水魔法まで使うようになれば、俺達の十八番である水魔法と氷魔法の最強連携を相手にされることになると思うとゾッとする。
それだけは避けないと俺達に勝ち目はないだろう。
「ア、アウッ」
「ルリ! すぐシロに回復してもらってくれ!」
「アウ」
敵の冷気を帯びた棍棒をなんとか避けたルリだったが、雨のせいで色んな場所が濡れており、棍棒が少し身体を掠っただけでも凍らせてくる。
ルリは小盾と手斧を使って相手の振り下ろしてきた棍棒を受け流そうとしたのだが、その時に受け流し切れず、少し身体に掠ったところが凍ってしまっていた。
「クゥ!」
『オオオオアアアアア!!!!』
ただ、ルリが敵の意識を引きつけていたこともあり、作戦通りウルが敵の身体に出来ていた2つの実を取ることに成功。
「クゥ」
「えっ、食べて大丈夫?」
「クゥ!」
そしてなんとそのまま取った実をウルは食べてしまったが、今のところ問題はなさそうだ。
俺達もあの実食べれるんだ……というか、お腹壊さない?
「……!」「コン!」
そしてウルのおかげで魔法を自由に撃てるようになり、エメラとシロはどんどんボスへと攻撃していく。
ルリはまだ凍ってしまった部分が治るまでエメラ達のいる所で待機するだろうし、今は前衛として俺がボスを引き付けないといけないだろう。
「これ本来ならハードモード過ぎるんだけど、たぶん俺は大丈夫だよな」
『オオオオアアアアアアア!!!』
「受けっ、流せたな。やっぱり俺は凍らないのか。なんかダメージは食らってるけど」
うん、幸運の指輪様々だ。
棍棒を受け流した俺の身体は、棍棒の冷気をモロに受ける程近くの距離にいたのだが、雨で濡れた装備についている水滴が少し凍るだけで、俺の身体が凍ることはない。
ただ、凍らなかったからといってダメージを受けないわけではなく、ずっと冷たいなと思いながら棍棒の近くで居ると、少しずつダメージを食らっていることに気付いた。
これは火魔法のダメージは受けても火傷状態にならないのと一緒で、氷魔法のダメージは受けるけど凍らないということなのだろう。まさか近くにいるだけでダメージを貰うとは思わなかったが、それだけ冷気が強いということだと思う。
「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」
俺が前衛を張っている間に、魔法部隊がどんどんボスへと攻撃し体力を削っていく。
ルリも状態異常が治ったのか前線へと戻ってきて、もう同じ轍は踏まないと言うように、ボスの攻撃を受け流したらすぐその場から移動している。
「魔法を撃ってくるあの花をどうにかしたら更に戦いやすくなるな」
俺の考えていることをウルも感じているのか、花を狙って攻撃を仕掛けている。
ただ、先程自分の身体に成っている実を取られたどころか、目の前でウルに食べられたボスはウルのことを警戒しており、なかなか花を攻撃させてくれない。
花がお腹の部分に集中していることもあり、手で隠されるとこちらの攻撃が届かないのだ。
まぁそうするなら思う存分に攻撃させてもらいますよと言うように、エメラとシロの魔法がボスの身体へと降り注ぐのだが。
「……!」
「クゥ」「アウ」「コン」
そして長かった戦いもボスの体力があと少しという所まで来て、遂に終わりが見えてきた。
エメラの指示により一度後ろで集まった俺達は、相手の次の行動を注意深く観察する。
『……ォォォオオオオアアアアア!!!!!』
ボスはカイキアスの時と同じように力を溜めているが、身体から更に花が咲き始め、実も出来ていく。
「……?」
「……いや、安全をとってここで防御体勢を取ろう。前と同じで良いよ」
「……(コクッ)」
力を溜めている今が攻撃のチャンスだというのは俺も分かる。ただ、もし今攻撃したとして倒し切る前に溜めている力を解放されてしまえば、次は俺達のピンチになる。
エメラはどうするべきか判断が付かず俺に指示を仰いでくれたのは良かった。もし俺達のレベルがもっと高ければ倒しきりの判断を出していたかもしれないが、今回は安全策で行こう。
「今回も耐えるぞ」
「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」
『……ォォオオオアアアアア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!!!』
カイキアスの時と同じように爆発が起こり、凄まじい数の氷の粒が飛んでくるが、今回も耐えることが出来たみたいだ。
「いやぁ……花咲かせ過ぎだし、実もつけ過ぎじゃない?」
ボスが力を溜めている間に出来た花と実の数は10じゃ足りない。もうここからは一気に火力を出すしかないだろう。ボスの身体に出来てる実に当てないようにとか、そんなことを考えてたらいつまで経っても倒せない。
「この1回で倒し切る」
「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」
「ルリ、耐えろよ」
「アウ!!」
ここでルリに敵視上昇を使ってもらい、ボスのヘイトを全て受けてもらう。そしてその隙に他のメンバーで一気に倒し切るという作戦だ。
他に良い作戦があればそっちを採用したいが、時間をかければかけるほどその間に雨で敵はどんどん回復してしまうため、この作戦で行くしかない。
「行くぞ!」
ルリは俺達から見て左側へ走り、他全員が右側に行く。いくら敵視上昇を使っているからといって、高いダメージを出す相手はボスも無視できない。
なので少しでもボスが俺達を狙ってくる時間を稼ぐためにも、ルリと俺達の位置は反対にしておくのだ。
「クゥ!」「……!」「コン!」
そして背中を向けているボスに俺も攻撃する。風の鎧が邪魔だし、雨も混じって鬱陶しいけど、とにかく使えるスキルを全て使って攻撃し続ける。
あと15秒くらい経てばルリにかけていた強化が切れるし、更に時間が経てばシロの守りの御札も切れるだろう。そうなればルリが倒されてしまうのは時間の問題だ。
ルリは今も花から撃たれる氷魔法の雨に小さな盾1つで耐え、振り下ろしてくる棍棒も身を投げ出してなんとか避けている。もう敵の攻撃を見て受け流す余裕もないのだろう。
「クゥ!!」「……!!」「コン!!」
ウル達もそれが分かっているのか、とにかく魔法を撃ちまくり、早く倒そうという気持ちが伝わってくる。
「クゥ!!!」
特にウルは自分が敵を強化してしまった負い目もあるのか、魔法だけではなく爪でも敵を攻撃している。
安全に攻撃するならエメラやシロの位置から氷魔法を撃つのが良いが、今はもし敵に攻撃されても避ける気が全く無いような、そんな捨て身の攻撃だ。
『アァ……オォ……ォ』
そして俺達にはあまりにも長く感じたこの数十秒だったが、思いは届いたのかボスの体力をなんとか削り切ることが出来た。
何度も回復されてまた体力を削るという繰り返しだった前半戦のあの時間よりも、ボスが瀕死になった状態からの時間の方が長く感じたのは、ルリの命の重み故だろう。
《始めてアペリオテスを討伐しました》
《始めて単独でアペリオテスを討伐しました》
「アウ!」
「クゥ!」「……!」「コン!」
ルリはボロボロだが、皆に良くやったと褒められているのか嬉しそうだ。
最後の作戦は実質ルリが倒されるか俺達がボスを倒し切るかの勝負だったし、もし身体に出来ている実を食べられて回復されたら絶望的だった。
まぁたぶん身体に付いてる実を食べるには色々ボス側にも条件があったのだろう。
「皆お疲れ様。ルリも良く耐えたよ」
「アウ!」
「こういう能力を吸収してくる敵は警戒したいけど、初めて戦う相手だとそもそも気付けないし仕方ないな」
「クゥ」「……」
相手の能力を見抜けなかったエメラと、誤って攻撃してはいけない場所に攻撃したウルは反省中だ。
「倒せたし皆無事だから大丈夫大丈夫」
「アウ!」「コン!」
最後大活躍したルリと、後半ずっと雨のおかげで魔法の威力が上がっていたシロは元気だ。
ルリは時間さえあれば超回復で体力が戻るし、ボスを倒したあと出してもらったシロの治癒の陣で完全に回復しきっていた。
「素材は……取れてるな」
インベントリには『アペリオテスの蔓』と『風の樹皮』がある。
これさえあれば一応ここに来た目的は達成されたのだが、やっぱり追加報酬は気になる。
「アペリオテスを倒した場所には……ないかぁ」
俺は最後全員で攻撃している時に使える全てのスキルを使ったのだが、その時にテイムも試していた。
これまでの俺の統計上、テイムを使ったボスからは追加報酬を貰える可能性が高い、という結果が出てしまっているため、今回も使ったのだが残念だった。
「まぁそもそもカイキアスの時もそうだけど、テイム出来ちゃったらどうすんだよ、って話だよな」
ここ2回は報酬欲しさにテイムを使っていたが、これからはやっぱりやめようと思う。
黒の獅子の時は本気であのボスが仲間になって欲しいという気持ちがあったけど、そう思わない相手にテイムするのはそのモンスターにも失礼だ。
「よし、予定よりだいぶ時間がかかっちゃったけど、そのおかげでタイミング的には丁度良いから、家に帰ってご飯食べるか」
「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」
ご飯という言葉で調子が戻るうちの魔獣達に単純だなぁと思う反面、それくらい単純な方が可愛げがあって良いよな、とも思うのだった。