第165話
「なんか植物系のモンスター多いな」
ここへ来る前に天候の指輪を預けてしまったのは、少しタイミングが悪かったかもしれない。まぁそもそも俺は今のところあんまり戦わないからあの指輪があっても意味ないけど。
「クゥ!」
「お、また不思議な種が出たか」
前にモニカさんから聞いた通り、植物系のモンスターからいくつか不思議な種と苗が手に入った。
これまで育てた不思議な種や苗はほぼ全てゴーレム作りで使ったので、今回こそメイちゃんのような錬金術師の誰かに渡して、どんな物が出来るのか色々調べてもらいたい。
「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」
「うわ、こうなると可哀想だな」
俺達へ襲いかかってきた植物系モンスター達。
一番多いのは草ダマと呼ばれる雑草が全身から生えた丸っこいモンスターで、丸い体を活かして転がりながらこちらへ突進してくる。
このモンスターで気をつけないといけないのは、個体によって生えている草の種類が異なるため、毒や麻痺といった状態異常にしてくる草が生えているものの攻撃は避けることだ。
あと、棘がいっぱいついたツルなんかを身に纏ってる草ダマもいるので、とにかく突進してきたら触れずに対処するのが一番良い。
と、これまで言っていたのはあくまでも普通に戦うならの話。うちにはあの草ダマがいくら転がってこようが正直あまり脅威ではない。
「クゥ!」「……!」「コン!」
何故ならエメラの樹魔法で敵の突進は受け止められるし、シロとウルの連携で敵をすぐ凍らせることも出来る。最悪この3人の魔法を抜けてきた奴はルリの盾で防げば問題ないため、俺達のレベルからしたらどれも格上のモンスターではあるが、草ダマに関しては向こうから経験値が来てくれるような感覚だった。
「お疲れ様」
「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」
全ての草ダマを倒した後はまた目的地を目指してゆっくり進むのだが、今の草ダマとの戦闘で他のモンスター達が寄ってきたのか、少ししか進んでいないのに俺達はまた囲まれる。
「いやぁ、草ダマだけなら良いんだけどなぁ」
「クゥ」「アウ」「……!」「コン」
さっき大量のモンスターを返り討ちにしたが、それはほぼ草ダマだけしか居なかったので簡単に倒せた。しかし敵に食虫植物のような大きいモンスターが居ると話が変わってくる。
そのモンスターの名前はウツボバズーラというウツボカズラのような見た目のモンスターで、コイツ単体ならそこまで強くないが、草ダマと一緒に出てきた時が厄介過ぎる。
「……!」
「あぶねっ」
ウツボバズーラは草ダマを自分の体に取り込んだかと思うと、口からものすごいスピードで撃ち出してくるのだ。
最初見た時は草ダマが食べられて可哀想だなと思ってたのに、ウツボバズーラがこっちへ口を向けてきた時に違和感を覚え、何とか口から撃ち出された草ダマを避けた時は自分の勘を信じて良かったと思った。
その後何度かアイツの撃ち出す草ダマを防御出来ないか試したのだが、エメラの樹魔法では2〜3発耐えるのが限界で、それなら各々避けて相手を攻撃する方が良いということになり、アイツが出てきた時はドッジボールのボールを避けるような状況になっていた。
「草ダマキャッチしたら、もれなくトゲが刺さるか状態異常付きだけど、なっ」
流石に俺も避けた後の撃ち出された草ダマにトドメを刺すことは許されたので、避けては倒し、避けては倒しを繰り返している。
そしてウツボバズーラと草ダマの連携に少々苦戦している俺達だが、ウルに関してはそこまで苦戦している様子はない。
持ち前の敏捷性と氷魔法で、走り回ってウツボバズーラを優先的に倒してくれる。そうなると敵は草ダマだけになるため、あとは転がってくる草ダマを皆で倒せば終わりだ。
「で、やっぱりボスだよな」
ゆっくりと森を進んで行った俺達は目的地に到着したのだが、そこにはやはりボスエリアがあった。
「あのボスは……アペリオテスって名前ね」
ここに来るまでのモンスター達が植物系モンスターであったように、今回のボスは植物っぽい身体をした巨人型のモンスターだ。
身体にはいくつか実がなっていて、手に持っている籠の中にもその実がいくつもある。そしてカイキアスの時と同様風の鎧を纏っており、またあの風魔法には注意しなければならない。
あと、足に長靴を履いているのだが、それがどんな意味を持つのかも今のところ不明だ。
「今回はどうする? 俺も戦って良いか?」
「クゥ」「アウ」「……!」「コン」
今回は俺も戦っていいとのことなので、後ろでバフをかけるだけの見物人ではなくなった。
「取り敢えずいつも通りやろうか」
もう今日2回目のボス戦なので、あまり話し合うことはなかったし、肥大せし大樹の時のような、植物を使った攻撃には気を付けようくらいのものだった。
「じゃあ行くぞ」
「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」
ボスエリアに入るとルリが一番前に行き、その後ろを俺がついて行く。エメラとシロは更に後ろで攻撃魔法を準備していて、ウルはいつも通り単独行動だ。
俺は本来ボス戦だとウルのような単独行動を許されているのだが、装備が皆と比べて貧弱なため、取り敢えず今は単独行動なしで戦っている。
『…………』
「アウ!」
風の鎧に逆らって、ルリはボスの身体に手斧で斬りかかり、早くも攻撃することに成功する。
「クゥ!」「……!」「コン!」
そしてそれに続くように皆も攻撃すると、どんどんボスの体力は減って行き、このままだとすぐに体力を半分まで削りきりそうだった。
(いや、こんなに簡単な訳が無い)
俺もボスへと攻撃しては後ろへ下がり、また攻撃するということを繰り返していたが、こんなにも簡単にボスの体力を削らせてくれるわけがない。
『………………』
そしてそんなことを思っていた時だった。
アペリオテスは籠の中にある実を食べると、これまで俺達が削った体力を全て回復したのだ。
「おいおいおい、その実1つで今まで削ったの全回復されたら、あと何回同じこと繰り返せば良いんだよ」
『………………』
ボスは俺達の方を見て、倒せるなら倒してみなさいと言うように、少し笑った気がした。
「……!」
この状況でエメラはすぐに皆へと指示を出す。
俺にはどんな指示を出したのか分からないが、皆がボスの持つ籠を狙うようになったため、もう回復されないように実を潰してしまおうという作戦なのだろう。
そしてそんな俺達にボスの反応はというと……
『………………(ククッ)』
明らかに笑っていた。俺達が籠を狙うのを分かっていたかのように。
「全員やめろ!」
「クゥ?」「アウ?」「……?」「コン?」
なんとなく、本当になんとなくあの籠へ攻撃するのはマズイ気がした。
『………………』
そしてボスの反応を見てみると、笑っていた表情から無表情に変わっている。
カイキアスの時とは違って叫んだりしないためボスの感情は分かりにくいが、先程の嬉しそうな表情から無表情に変わったということは、相手にとって今の状況はあまり嬉しくないのだろう。
「……何回回復されても良いから、最初と同じように戦おう」
「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」
ウル達は俺の指示に従ってくれた。これだけ自信がなさそうな指示でもすぐに動いてくれるのはありがたい。
そして俺達は何回も何回も攻撃し、ボスはその度に回復するが、遂にその籠の中にあった実はなくなり、ボスの体力が半分になる。
「こっからだな」
「クゥ」「アウ」「……!」「コン」
『………………ォォオオオアアアア!!!!』
これまでの戦いの中で聞いたこともないボスの声が響き渡る。
……パラパラ、パラパラパラパラッ
そしてその声とともにボスエリアに雨が降り始め、ボスの身体にあったいくつもの蕾が咲き、手に持っていた籠も棍棒のような武器へと変形した。
「この雨が降ってる間はちょっとずつ回復するのか」
「……!」
「クゥ!」「アウ!」「コン!」
ここまで削った体力をまた回復される前に、俺達はすぐ攻撃を開始する。
あのボスの長靴は雨を降らせるということのヒントだったのかもしれない。
まぁ身体が植物で出来てるのに長靴を履く意味はないと思うが、それは言ってはいけないのだろう。
雨によって風の鎧に雨粒が混じるのは鬱陶しいが、今回こちらの魔法部隊の中に雨によって困る者はいない。
むしろシロは雨によって水魔法が強化されるし、ウルもエメラも雨が降ってようが特に問題ないため、ボスの攻撃手段がこのままあの棍棒での物理攻撃のみなら、簡単に倒せてしまいそうだ。
「クゥ!」
そしてそんなことを思っていると、ウルの氷魔法がボスの頭の近くに成っている実に当たった。
俺が皆に籠を攻撃しないように言った時、ボスの身体にあるあの実にも攻撃を当てないように言っていたのだが、今回遂に魔法を当ててしまった。
ただ、当ててしまったからといって何が起こるかはわからない。もしかしたら何も起こらない可能性もあるが……
『ォォ……ォォオオオアアアア!!』
何が起こるかはすぐにボスが見せてくれそうだった。
ボスはウルの氷魔法が当たって少し凍った実をもぎ取って食べると、身体と棍棒に変化が起こる。
先程雨によって咲いたボスの身体にある花が冷気を帯びていき、棍棒に当たった雨粒も凍っていく。
「……なるほど、相手の能力を吸収するタイプか」
前半戦ではボスが俺達に全然攻撃してこないなと思っていたが、全て俺達に実を攻撃させるためだったのだろう。
籠の中にあった実をウルやシロが魔法で攻撃してしまえば、その魔法攻撃を受けた実をボスが食べて、強化されてしまうという仕組みだな。
前半戦の時魔法攻撃だけを受け入れるとかだと分かったかもしれないが、俺やルリの物理攻撃もボスは受け入れていたため、全く敵の弱点というか、やってほしくない事が分からなかった。
俺達のボスに対する対応の正解としては、物理攻撃で実を全部潰す、だったが、流石に初見でそれは分からなかったな。
「初見殺しタイプのボスだなこれは」
『ォォォオオオオアアアアア!!!!!』
こうして俺達はウルの氷魔法を吸収し強化されたボスとの、後半戦が始まるのだった。