第162話
『ブオオオォォォォォォォォ!!!』
戦いはまだ続いていた。
第2形態になったカイキアスは、その身に纏う風と氷の鎧を存分に使ってくる。あれは自分が近付けば相手が困ると理解しての行動だろう。
そしてもう1つの変化である大きな盾の武器化。これは雹が盾に突き刺さったことによって、こちらの攻撃を防ぐだけでなく、盾に刺さっている棘により武器としても機能するようになった。
これの被害を一番受けているのは勿論今うちの唯一の前衛であるルリ。もう一番最初にやったあの盾の振り下ろしを受け止めるなんてことは、絶対にできないだろう。もしあれを今受け止めれば、全身氷の棘が突き刺さってしまう。
「……コン」
そしてルリだけでなくシロもボスが第2形態になってから苦戦していた。
その理由は魔法の相性にある。
相手は攻撃魔法こそ使ってくる様子はないが、風魔法と氷魔法を鎧のように纏っている状態。そんな相手に水魔法で攻撃すると、相手に与えるダメージよりも、水魔法を吸収して更に身に纏う氷の粒を大きくしてしまい、相手を強化してしまうという状況になった。
ウルは早々に相手へ小さな氷魔法を撃ってはいけないと判断し、出来るだけ大きな氷の塊を撃ってなるべく吸収されないようにしているから今のところ問題ないが、シロは攻撃すればするほど相手が丁度良く身に纏える分の水魔法を氷の粒に変えてしまうため、全く手を出せなくなっていた。
「……!」
が、そんな中いつもと変わらず、いやいつも以上に活躍しているのはエメラ。
マグマの番人と戦った時は今のシロと同じ状態だったが、エメラはシロの分も樹魔法で相手を攻撃し、味方へ指示まで出している。
そんな中俺は……
「み、みんな頑張れ〜」
「クゥ!」「アウ!」「……!」「……コン」
俺だってシロが手を出せなくなったから、「手伝おうか?」って聞いたのに、皆に止められたら言葉で応援するしかないじゃないか……
なんて誰に向けて言ってるのかわからないが、とにかく俺は今まで通り強化して応援、強化して応援、その繰り返しだ。
『ブオオオォォォォォ!!!』
「(もうそのおんなじ咆哮は聞き飽きたなぁ)」
「クゥ!」「アウ!」「……!」「……コン」
ウル達は第2形態のボスに苦戦してはいるものの、シロの魔法攻撃分ダメージが落ちただけで倒せそうではあった。
もう今は完全にサポートしかできなくなったシロは、治癒の陣をルリに、魔力の陣をエメラに出してあげて、ボスがこっちへ向かってきたら俺に抱っこされて逃げる気だ。
いや、シロさん、あなたボスがこっちへ向かってきたら狐の状態に戻れば避けれますよね? などと俺は思ってしまうが、自分が今回あのボス相手にもう活躍できない事が残念なのだろう。
自分のできる事はしているし、拗ねているわけではないけど、元気はさっきから全く無い。
「シロ、もういちいち抱っこするのもあれだし、最初から背負っとくよ」
「コン!」
ボス戦の最中ではあるが、元気のないシロをどうにかしたくて、人化したままのシロを俺は背負う。
「コン!」
「分かった。もうちょっと前に出てルリに治癒の陣出すのね」
「コン!」
「はいはい、守りの御札付け直しね」
「コン!」
「はいエメラに魔力の陣ね、ってそれはこの距離でも出せるでしょ?」
『ブオオオオオォォォォォォォォ!!!!!』
「……!」
「クゥ!」「アウ!」「コン!」
そしてそんなやり取りをシロとしていると、本日何度目か分からないボスの咆哮が来たが、それが特別な咆哮であることは残り少ない体力から分かった。
エメラの指示もあり、また全員一箇所に集まってボスの最後の動きを待っていると、ボスは何か力を溜めるような動作に入ったため、俺は皆へすぐ防御態勢を取るように指示を出そうとしたが……
「……!」
「クゥ!」「アウ!」「コン!」
「いやぁ成長したなぁ」
エメラは俺と同じ考えだったのか、皆に指示を出して防御態勢へと移った。
エメラの樹魔法で壁を作り、その後ろにシロの水魔法の壁、更に後ろには小さいがウルの氷の壁も張った。
そして守りの御札や強化スキルを受けたルリが壁の後ろで盾を構え、更にその後ろで俺達は自分が出来る防御手段を使ってボスの攻撃を待つ。
『ブ、ブ……ブオオオオオオオオオオ!!!!!』
カイキアスの咆哮が聞こえた後、とてつもない爆発が起きた。自分達が壁を作った後ろ以外、全方位に氷の粒がものすごい勢いで飛び散る。
おそらく今のは手榴弾のような爆発の攻撃だろうが、流石に威力と範囲が桁違いだ。
「みんな大丈夫か?」
「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」
壁の後ろに隠れていた俺達は全員無事で、ボスを見てみると雹はおろか風の鎧まで消えていた。
正真正銘あれが最後の攻撃だったのだろう。
「コン!」
「あ、待ってシロ、テイム!」
『ブォォォォォォォォ!!!!』
「あぁ、失敗か、良いよシロ」
俺は興味本位で久しぶりにボスに対してテイムを使ってみたが、結果は予想通り失敗だった。
「コン!」
『ブ、ブ、ブォォ、ォ』
そして鬱憤の溜まっていたシロの水魔法によって、カイキアスはトドメを刺されたのだった。
《ユーマのレベルが上がりました》
《ウルのレベルが上がりました》
《ルリのレベルが上がりました》
《エメラのレベルが上がりました》
《シロのレベルが上がりました》
《始めてカイキアスを討伐しました》
《始めて単独でカイキアスを討伐しました》
名前:ユーマ
レベル:32
職業:中級テイマー
所属ギルド :魔獣、冒険者、商人
所属クラン:幸福なる種族 (リーダー)
パーティー:ユーマ、ウル、ルリ、エメラ、シロ
スキル:鑑定、生活魔法、インベントリ、『中級テイマー』、『片手剣術』
装備品:四王の片手剣(敏捷の珠・紅)、四王の鎧(希薄な存在)、四王の小手(暗闇の照明)、四王のズボン(協力の証)、四王の靴(敏捷の珠・碧)、幸運の指輪 (ビッグ・クイーンビー)、速さのブレスレット
名前:ウル
レベル:32
種族:アイシクルウルフ
パーティー:ユーマ、ウル、ルリ、エメラ、シロ
スキル:勤勉、成長、インベントリ、『アイシクルウルフ』『氷魔法』
装備品:赤の首輪(魔獣)、赤のおまもり(魔獣)
名前:ルリ
レベル:32
種族:巨人
パーティー:ユーマ、ウル、ルリ、エメラ、シロ
スキル:忍耐、超回復、成長、インベントリ、『巨人2』
装備品:赤の腕輪(魔獣)、赤のおまもり(魔獣)、銀の手斧(魔獣)、銀の小盾(魔獣)
名前:エメラ
レベル:32
種族:大樹の精霊
パーティー:ユーマ、ウル、ルリ、エメラ、シロ
スキル:支配、成長、インベントリ、『大樹の精霊』『樹魔法』
装備品:赤のチョーカー(魔獣)、赤のおまもり(魔獣)
名前:シロ
レベル:32
種族:善狐
パーティー:ユーマ、ウル、ルリ、エメラ、シロ
スキル:聡明、成長、インベントリ、『善狐』『水魔法』
装備品:赤の足輪(魔獣)、赤のおまもり(魔獣)
今回レベルが上がるとは思ってなかったが、それだけボスと俺達のレベルに差があったということなのだろう。これでもまだ家に居るキノさんに俺達のレベルは追い付いていない。
まぁなにはともあれこれで1体目のボスは倒せた。
「うん、目的の『カイキアスの角』と『風の毛皮』はインベントリにある」
確定ドロップなのか分からなかったが、この感じだとおやっさんから言われたものは1回討伐するだけで手に入りそうだ。
「で、お待ちかねのドロップアイテム以外で報酬があるかどうかなんだが……タマゴじゃないけどあるな」
これまで黒の獅子の時以外タマゴを落としたボスは居なかったが、これでボスがタマゴ以外も低確率で何か落とすということは分かった。
逆に言うとテイマーでタマゴを狙ってる人にとっては、タマゴ以外を落とされてしまう可能性があるということでもあるが……
「なになに? 『魔獣の結び(魔獣)』って魔獣の装備なのか」
何やら俺達を強化してくれそうなアイテムが手に入った。
名前:魔獣の結び(魔獣)
効果:経験値共有、経験値共有によるレベルアップ制限
説明
ドロップ品:パーティーメンバー外である魔獣が装備すると、主の取得した経験値のいくらかを共有することが出来る。共有する経験値量は信頼度に依存し、この装備の経験値共有によってレベルが上がることはない。この装備によって主側の獲得する経験値量が減少することはなく、装備者はパーティーメンバーの1人として計算もされない。
「これは今のところうちだとキノさんのための装備だな」
説明を見た限りではこれをキノさんにつけてもらっても、こっちの経験値が減るわけではないしデメリットはなさそうだ。
残念な点としては、レベルアップをするためにパーティーを組んでモンスターを倒さないといけないというところだが、そもそもこれを付けるだけでデメリット無く経験値が貰えるなら文句は無いし、知らない間に進化してたりするのも嫌だからこの効果で良かったと思おう。
「まぁこの手の装備品の問題点は、本当の意味での経験値が溜まらないから、レベルアップした時に強くならない可能性があるんだけど……キノさんは戦闘に関心がないし良いか」
装備するだけで経験値を獲得できたり、使用することによってレベルアップ・進化が可能なアイテムは色んなゲームで見てきたが、ほぼ全てにおいて隠れたデメリットがあった。
コネファンで言うと、魔獣の進化先が色々あることから察せられるように、その魔獣が経験したことによって進化先が変わるため、ただ経験値を受け取るだけだと通常の進化先にしかならない。
そしてまだそれだけなら全然良いと思うが、ステータスが伸びなかったり、戦闘の技術が伸びなかったりと、レベルだけ上がって実力が付いていかないというような事態が起こる可能性は大いにある。
そうなると経験値をもらえるアイテムなど必要ないと思われるかもしれないが、使いようによってはとても便利なものにもなる。
例えば戦闘ではなく生産職の働きをするような魔獣には、モンスターを倒す技術など必要ないため使えるだろうし、キノさんのようにただ家に居てくれる存在にも使える。
要はその魔獣にとって必要な経験を積めているのであれば問題ないということだ。
「じゃあ一旦キノさんにこれ渡したいし、休憩がてら家に戻ろっか」
「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」
こうして王都で初めてのボス討伐は、ほぼ俺抜きでボスを倒してもらい、追加の報酬も運良く手に入れることが出来たのだった。