第156話
「ここで休憩するか」
「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」
『ヒヒン!』『ヒヒーン!』
馬車に乗って王都を目指している俺達は、ウルのおかげでほぼ止まることなく馬車を走らせることが出来ていた。
普通は道に出てきたモンスターがいると馬車を止めて戦わないといけない場面も、ウルが前で索敵するだけでなくモンスター達を引き付けて馬車の通り道を作ってくれるため、本当に馬車を止める機会が少ない。
ウルはモンスターを引きつけて馬車を通らせたあとは、後ろから猛スピードで馬車に追いつきまた前で索敵してくれるので、馬車を引くライドホース達も気持ちよく走ってくれている気がする。
「ご飯食べたらまた馬車を走らせるけど、ルリ達って休憩はもっとほしい?」
「アウ」「……!」「コン」
長時間座っているだけでも結構しんどいと思ってルリ達に聞いてみたが、そんなことはないらしい。
やっと座った状態から解放される、みたいな感じでもないため本当に大丈夫なのだろう。
「じゃあ食べたらすぐ出発しよう。夜が来る前に行けるところまで進みたいから」
「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」
アウロサリバから王都までは遠回りしないと本当に街が無いらしく、街を経由するルートだとアウロサリバから王都まで4日は掛かるらしい。
それを聞いた時マップの規模感が凄いなと思う反面、そこまでリアリティに拘らなくても良いのでは?と少しだけ思ってしまった。
誰かが新しい街に着けば、数日後にはそこまでの移動手段が解放される可能性もあるので、ガイル達が王都を目指す頃にはこんな長い道を通らなくていいかもしれない。
「よし、夜にログアウトするのは不味い気がするし、一旦ここで軽いトイレと食事だけ済ませてくる。周りにはモンスターいなかったよな?」
「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」
俺はライドホース達にも声をかけたあと、馬車の中に入りログアウトする。
「馬車でログアウト出来る仕様で良かった」
カプセルベッドから出た俺は急いで胃の中にご飯を流し込む。
この間もライドホースと馬車はあの場所に残っているが、俺は家でログアウトしたわけではないため、ウル達は俺が帰ってこないとコネファンの中で存在できない。
こうしてご飯とトイレを済ませた俺は、流しに食器を運ぶこともせず、急いでカプセルベッドへと戻ったのだった。
「ただいま。ライドホース達は……大丈夫だな」
「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」
馬車がモンスターに襲われていないことを確認し俺達はまた王都に向けて走り出すのだが、これまでと違って馬車を止めなければならない状況が多くなって来た。
「クゥ!」
「あれは多いな。皆戦闘準備!!」
「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」
これまですれ違ってきたモンスター達よりも大きい集団で、流石にあれを全てウルに引き付けてもらうことは出来ないだろう。
「ルリは敵に囲まれないよう注意!」
「アウ!」
「エメラとシロはライドホース達の近くから魔法で攻撃!」
「……!」「コン!」
「ウルは自由でいいけど、相手は格上だから無理しない!」
「クゥ!」
「俺はルリのサポートしながら戦うけど、結構攻撃多めで行くからそのつもりで」
「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」
こちらに気付いたモンスター達はゆっくりと近付いてくる。
「ゴブリンと突進ボア、ビッグ・スライムに悪戯フェアリーか」
突進ボアは大きさこそそれほどではないが、イノシシ系のモンスターが弱点としていることの多い鼻の部分が硬そうだ。
そしてビッグ・スライムはスライムをただ大きくしたような見た目だが、リーチの短い武器を使う人にとってはそれだけで倒しにくそうである。
最後の悪戯フェアリーは、フェアリーという名前が付いているため、少しテイムしてみようかなという気持ちが芽生えたが、その気持ちが失くなるほど顔から邪悪さが滲み出ている。身体は小さく背中に小さな羽が生えているが、その羽を使うことなく宙に浮かんでいる。
「初見のモンスターだらけだけど、やるしかないな」
なんとなく後ろの悪戯フェアリーが他のモンスター達を操っている感じがする。
ゴブリンと突進ボアを前に出して、ビッグ・スライムに自分は守ってもらおうというような配置だ。
「やっぱり俺から1つウルへ指示を出しとく。後ろの悪戯フェアリーを出来れば狙ってくれ。あとは全部エメラの指示に任せるから」
「クゥ!」「……!」
馬車を道の端に止めた俺も御者台から降りて武器を構えると、相手は突進ボアを先頭にしてこちらに仕掛けてきた。
ルリが先頭の突進ボアを正面から受け止める準備に入ったので、俺は魔獣ステータス強化とスキル強化をルリに掛け、ルリが受け止めたあとすぐ攻撃できるように俺もルリの近くで待機する。
『プギアアァァァ!!!』
突進ボアという名前通り突進の威力は凄まじいものだったが、ルリは相手を真正面から受け止めると、そのまま突進ボアをひっくり返してしまった。
ひっくり返った突進ボアを処理するのは簡単で、俺は突進ボアの首元に片手剣術スキルを全て乗せた一撃を与え、ルリは敵の顔面にその手斧を振り下ろすこと数回、突進ボアは消えてドロップアイテムが俺のインベントリへと入ってきた。
「もうシロが回復してくれたのか」
「アウ!」
ルリが突進ボアを止めている間に、突進ボアに続いてやって来ていたモンスター達は、馬車の近くにいるエメラとシロの魔法で足止めされている。
そしてシロは魔法で後続のモンスターの足止めをしつつも、突進ボアの攻撃を正面から受け止めたルリに回復も回したのだろう。
今回はライドホースも居て馬車もあるあの場所にモンスターを近づかせないために、正面から突進を受け止めるというルリの判断は良かったし、すぐに回復の判断をしたシロも良い。
「アウ!」
「ついて行くよ」
ルリはエメラの樹魔法で拘束されているゴブリンにとどめを刺すため前に出る。
そして俺はルリについて行きつつ、ウルが俺の指示通り悪戯フェアリーの後ろから攻撃しようとしているのを視界に捉えた。
「ルリ! ちょっと強引でも良いから行くよ!」
「アウ!」
複数体のモンスターに囲まれながら、俺とルリはシロとエメラの援護をもらいつつ敵の敵視を集める。
そして俺は悪戯フェアリーもこちらに釘付けになっていることを確認して、この戦いがもうすぐ終わることを確信した。
「クゥ!!」
「良くやったウル!」
あの悪戯フェアリーは体力が少ないモンスターなのか、ウルが撃った死角からの氷魔法一撃で倒れてしまった。
俺が鑑定で見れたのはモンスターの名前だけだが、名前だけでも敵がどういった事をしてきそうか、どんな攻撃手段や防御手段を持っているのかは想像できる。
少なくとも今回のモンスターの中で1番気を付けないといけなかったのは、俺の中では悪戯フェアリーだった。
「やっぱり悪戯フェアリーがモンスター達の統率を取っていたんだな」
ウルがあの悪戯フェアリーを倒した後、敵のモンスター達は同種族で集まって行動するようになり、突進ボアとゴブリンの連携などは一切なくなった。
そして例のごとくスライム系に強いウルは、悪戯フェアリーを倒した後すぐにビッグ・スライムを凍らせ、俺達は本当にビッグ・スライムがただ大きくなったスライムだという認識しか出来ない、全くビッグ・スライムの情報が分からないままウルに全部のスライム達を倒されてしまうのだった。
「皆おつかれ」
「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」
今回の戦闘で分かったのは、最初から10体以上で居るモンスターの群れが出てくるということと、そういった群れには魔法を使うモンスターや統率を取るモンスター、いわゆるリーダー的存在が出現するようになったということだ。
これまでもビッグ・クイーンビーやコルククイーンアントのような存在も居たが、他種族のモンスターを集めて人間のようなパーティーを形成しているモンスターはあまり出ていなかった。
これはソロでこのゲームを楽しんでいる人が居たとすれば、なかなか難しくなってきた気がする。
テイマーのようにパーティーメンバーが何人も居るソロプレイヤーなら大丈夫だが、完全なソロでやるなら結構この道を通るのは厳しいだろう。
そして俺はそんな事を考えながらも馬車を動かす準備をする。
「ウルはまた走ってくれるか?」
「クゥ!」
「ありがとう。じゃあ皆馬車に乗り込んだら出発するよ」
「アウ!」「……!」「コン!」
これまでと少し違うモンスター達との遭遇に少し不安も感じるが、それはそれでこれからは普通の戦闘でさえも緊張感がある戦いになりそうだと思い、不安よりも楽しみな気持ちが強く湧いてくるのだった。