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第152話

「ま、また?」

「俺が1回様子を見ようか?」

「……ガイルにお願いしていい?」

「あぁ、任せてくれ」


 スー君とユー君にアドバイスした俺は、クランの皆が集まっている玄関近くのスペースで楽しく会話をしていた。

 するとこのクランハウスの呼び鈴が鳴らされ、クランへの入団希望者や同盟の誘い等内容は様々だが、このクランのことを知らないのに取り敢えず押しかけてみる、みたいな人達がどんどん増えていった。


 何か嫌がらせをされたわけではないのだが、いきなり自分達のクランにお金を貸して欲しいなどと頼まれても困る。

 俺達はこのクランハウスを自分達のお金で購入した訳では無いが、普通に考えてこのクランハウスを買ったということは、今お金が無いクランなんだな、と思って欲しい。

 まぁこのクランハウスを買えるだけの資金力があるという意味では、お金の話をしに来るのは仕方がないかもしれないが。


「問題は最前線攻略組が公言してることだよなぁ」


 俺達はここのクランハウスが幸福なる種族のものだと大々的に言っていないし言う場もないが、隣の最前線攻略組は自分達のクランハウスであることを隠していない。

 だから皆最前線攻略組の隣にあるクランハウスは、一体何処のクランなんだと気になっているのだとか。


「うちは新生クランだし、他のクランが期待してるような活躍はする気ないんだけど」


 なんか「同盟を組んで一緒に最前線攻略組を倒しましょう!」とか、「私達攻略クランに物資の援助をしていただけたら、必ず最前線攻略組より先に攻略してみせます!」とか、俺が最前線攻略組と敵対関係にある前提で話してくる人が多かった。


「クラン長大丈夫ですか?」

「あ、皆ごめんね。今コネファンが1番楽しい時期なのに。こっちは気にしないで」

「いえ、僕達は全然何も気にしてませんよ」

「なんとなくガイルさんとクラン長の会話を聞いてたら何が起きてるのか推測できますから」

「ははは、」


 俺は皆と楽しく話したくてここに居るのに、今日入ったクランメンバーの皆に俺が慰められている。


「よし、俺も元気出さないとな」

「そうですよ! クラン長は堂々としてください!」

「僕達もすぐお役に立てるようになりますから」

「ありがとう。さ、そろそろ皆準備したら? 後少しで朝が来るよ」

「よーし! 今日でレベル5にはなる!」

「皆! 腹ぺこさんが食材系のアイテムは納品依頼超過分をここに持って帰ってきて欲しいだって! その分ご飯は作るから皆によろしく伝えてって言ってた」

「ほんとだ。クランチャットにも料理担当からのお知らせって来てるね」


 俺は訪ねてきたプレイヤーの対応をしていたので、その間に皆が更に仲良くなったり、クランが勝手に回りだしてるのはちょっと感動だ。


「ユーマに客だ。あの部屋に通すから対応してくれ」

「了解」


 ガイルがそう言うってことは、俺が出るべき相手ってことだろう。


「誰だろ?」

「クゥ」「アウ」「……!」「コン」


 俺はちょっとだけワクワクしながら、誰か来たときのために使おうと決めていた一階の一室で待っていると、その扉が開かれた。


「ユーマさんお久しぶりです」

「ユ、ユーマ、さん、久しぶり」


 入って来たのはミカさんとくるみさん。なんかくるみさんが少しだけ前と雰囲気が違う気がする。


「お二人ともどうしたんですか?」

「私達団長からユーマさんに伝言を預かってきました」

「あぁ、テミスさんから。何ですか?」

「ほらっ、くるみ言って」

「ぁ、ぁの……ユーマ、さんの、家に、北の街に着いたら、行かせて欲しいって、お話、です」

「く、くるみさん? その話し方はどうしました?」


 さっきから目を合わせてもらえないし、下を向いてぼそぼそ話している。


「くるみはユーマさんが元最前線攻略組っていうことを、団員の人からさっき聞いちゃって。団長が『バレたならもうくるみがユーマに話をしてきて』って、くるみのこと伝言役に回して面白がってるんです」

「あぁ、そうなんですね」

「くるみもユーマさんに失礼な態度をとってたのは悪いですけど、団長も相当悪い顔してましたね。これはしばらくくるみで遊ぼうって」

「……ユーマ、さん、あたし色々自分のこと自慢して、最前線攻略組のことも悪く言って、ごめんなさい」


 あれだけいつもミカさんを振り回してそうなくるみさんが、今はすごく大人しい。


「いや、俺は別に何とも思ってないので。俺も自分が元最前線攻略組って言ってなかったですし。それにくるみさんは最前線攻略組のこと悪く言ってはなかったですよ」

「あたしユーマ、さん、に『ユーマが女ならあたし達のクランに紹介しても良かった』なんて、馬鹿みたいなこと」

「ま、まぁそれは、うーん。くるみさんが俺のことを高く評価してくれた、ってことで……」

「あたし自分より凄い人を、こんな上から目線で……」


 相当くるみさんは過去の自分の行いを反省しているし、凄く恥ずかしそうだ。


「だから私はあんまり調子に乗らないよう、いつもくるみには言ってたのに」

「……ごめんなさい」

「まぁ、俺はこれまで通りで良いから。なんかくるみさんから無理にさん付けで呼ばれるのも慣れないし」

「……ごめんなさい」


 まぁくるみさんのこの状態は時間が解決してくれるとして……


「あの、テミスさんからの伝言の返事だけど、俺の家は紹介出来ないって言ってもらっていいですか?」

「あ、分かりました。団長もユーマさんにたぶん断られるって言ってたのでそれは大丈夫です」

「じゃあテミスさん本当にくるみさんで遊ぶためだけに伝言頼んだんだ。優美なる秩序って今結構忙しいと思うんだけど」

「息抜きにくるみが恥ずかしがってる所を見たいとかなんとか」

「あはは、なんかテミスさんっぽい気がするなぁ」


 何故か俺はテミスさんに昔から気に入られてるため、困らされたり恥ずかしい思いをしたことはないけど、結構テミスさんの周りの人は大変そうなイメージがある。


「まぁそれがテミスさんの魅力か。ププさんは今どんな感じですか?」

「ププ先輩はいつも通り団長のサポートですね」

「あの……疲れてそうでした?」

「いえ、団長がユーマさんにププさんをあまり困らせるなって言われたとかで、いつもよりププ先輩の言うことを聞いてますよ」

「それなら良かったです」


 どうやらミカさん達の話は本当にこれで終わりらしい。


「あ、そういえば何でここが俺のクランだって分かったんですか?」

「団長が最前線攻略組のタピオカさんに聞いたとかなんとか」

「あ、そうだったんですね」

「……あの、くるみは本当に団長から遊ばれてるだけですけど、私はププ先輩からクランハウスがどんな感じか、少し見て来てと言われました」

「あ、それはなんとなく分かってましたよ。ミカさんだけこのクランハウスに入ってから凄くキョロキョロしてましたし」

「バ、バレてたんですね」

「たぶん商人ギルドで頼めば見学とか出来ると思いますけど、それはしないんですか?」

「今はレベル上げが忙しいので、私とくるみくらいしか余裕がないんですよね。私達もお手伝いをしているのでそこまで時間はないですし、団長の遊びのついでにちょっと中を見てきて、という感じです」


 テミスさんがくるみさんに恥ずかしい思いをさせるためだけにここへ送ってきた裏で、ププさんからミカさんが頼まれた話も聞けて、優美なる秩序の役割みたいなのが、分かりやすく出た内容だった。


「じゃあミカさんもくるみさんも頑張って」

「はい、ありがとうございました」

「……ありがとうございました」


 こうして優美なる秩序の2人はこのクランハウスを出て行った。


「優美なる秩序からユーマへ話があるってことで通したが、何だったんだ?」

「まぁ向こうのクランリーダーが、ちょっと自分のとこのクラン員をからかってたのかな」

「どういうことだ?」

「簡単に言うと何も無かったよ。俺達のクランハウスを見学に来ただけ」

「そうか。有名なクランでも次からは通さないようにするか?」

「そうだね、全部内容で決めよう。うちは新生クランで全く歴史なんか無いし繋がりもない、皆コネファンで集まったメンバーだからね。相手のクランが有名だろうが無名だろうが、うちにとって良さそうな話なら聞くし、迷惑そうな話なら断ろう」

「分かった。それなら俺の基準だとさっきの2人は良く分からねぇし追い返してたが、良いのか?」

「まぁ良いと思う。中身は全く無い話だったし、向こうもそれで怒ることは無いだろうからね。そもそも優美なる秩序の人とはフレンドだから、直接俺に聞きたいことがあったら連絡出来るし」


 このことからもテミスさんはくるみさんの恥ずかしそうな姿を見るためだけに、ここへ送り込んだのは明らかだ。


「クラン長、僕達行ってきますね!」

「副クラン長、俺達も行ってきます!」

「あ、皆頑張ってね」

「早くレベル上げて西の街に来てくれよ」


 俺とガイルに声をかけて出て行くクランメンバーが何人も居て、気付けばクランハウスの中はほぼ空になっていた。


「じゃあ俺も行こっかな」

「家に帰るのか?」

「いや、しばらくはクランの皆をサポートするって決めてたし、今意外な人からチャット来ててね。そっちを手伝って来るよ」

「ユーマも程々にな。こっちは俺とメイで今のところは楽しく回せてる、そっちも好きにやってくれ」

「ありがとう、じゃ、俺も行ってきます」

「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」


 俺達はクランハウスを出て少し明るくなってきた道を歩き、街のクリスタルを目指すのだった。




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