第150話
「100体くらい倒せば進化は終わると思うから、とにかく頑張って!」
「……頑張ります!」
「自分も応援するです!」
俺とイクサさんと小岩さんは、イクサさんが魔獣ギルドでもらったタマゴを進化させるために、街の外へと来ていた。
「小岩さんも近づき過ぎないように松明で照らしてあげて」
「了解です」
今は夜なので照明係が居ないとモンスターとは戦えないのだが、第2陣のプレイヤーのために松明を持ってあげてる人は結構いる。
「あれはたぶん全部クランを組んでる人達だろうね。第2陣のプレイヤー同士で組んで夜も探索するのはレベル的にも危険だろうし」
「自分が松明を持てるのも、ユーマさんの魔獣が守ってくれるからです」
これは俺の勝手な方針を押し付けているのだが、俺とイクサさんで組んで、俺がモンスターを倒してイクサさんのタマゴを進化させるのはなしにさせてもらった。
やっぱり自分の魔獣は自分の力で進化させて欲しい。流石に俺がパーティーを組んでその辺りのモンスターを狩ったら一瞬で進化するだろうし。
というかその場合俺が倒して経験値は入るのだろうか? 流石にレベル差がありすぎると経験値が入らなかったり、イクサさんのステータスが伸びなかったりするのだろうか?
「……1段階進化しました」
「お、良いね。どんどん倒そう」
「どんどん行くです!」
「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」
ウル達もイクサさんのことを応援しており、小岩さんを守りながらイクサさんのところにモンスターが一気に襲いかかってこないよう、モンスターを睨みつけて数を調整している。
「……あと1段階です」
「頑張れ」
「後少しです!」
イクサさんは俺の貸した大荒熊と荒猪の片手剣を使って角ウサギを倒していく。
「……上限まで進化しました!」
「お、それじゃあどこかで孵化させようか」
「……はい!」
やっぱり武器が強いとサクサク倒せる。もうテミスさんのような第2陣の攻略組は、こういう強い武器を使ってるなら10レベルを超えててもおかしくない。
「……ここで孵化させます」
そしてイクサさんはかつて俺がウルを孵化させた、あのアポルの実の木の下までやってきた。
「……孵化!」
イクサさんがそう言うと、タマゴから小さな魔獣が生まれてくる。
やっぱり何度見てもタマゴから魔獣が生まれる瞬間はワクワクするな。
「……かわいい」
「ミャ」
タマゴから生まれたのは真っ黒な子猫で、イクサさんはミィと名付けたようだ。
「おめでとう」
「おめでとうです」
「……ありがとうございます」
「ミャア」
ミィは見た目通り種族が子猫となっており、進化先はネコ科の動物モンスター系になるだろう。
「スキルは超速、成長、インベントリ、『子猫』、『炎魔法』です」
「たぶんだけど、インベントリと『子猫』がテイムでも孵化でも魔獣になると誰でも持ってるスキルで、成長、超速、『炎魔法』がタマゴ進化をさせたからこそのスキルかな」
成長はタマゴ進化だと誰でも手に入るのものだろう。
そしてタマゴ進化で得たあと2つのスキルだが、火魔法ではなく炎魔法だったり、超速といういかにも使い勝手が良さそうなスキルがあったり、ミィはなかなか将来が楽しみな魔獣だ。
「……手伝っていただきありがとうございました」
「次は自分の依頼を手伝って欲しいです」
「了解」
これでイクサさんの魔獣は無事タマゴ進化をさせてから孵化できたので、次は商人ギルドの依頼を受けようとしていた小岩さんを手伝う。
「ちなみに小岩さんの受けようとしてる依頼はどんな依頼なの?」
俺が商人ギルドで受けた依頼は清掃依頼と配達依頼だけだ。
配達依頼もやってることは行商人のような、安く仕入れて他の場所で高く売る、みたいな依頼だったし、今回もそのどっちかと似たような内容のものかもしれない。
「自分は商人ギルドへ納品するための商品を、他の場所から買ってくる依頼を受けたです」
「へぇ、そんな依頼あるんだ。やっぱ商人にしか受けられない依頼とかもありそうだな。俺はそんな依頼見たことないかも知れない」
「今は夜なので買いに行くことが出来ませんが、職人ギルドや冒険者ギルドに商人ギルドで取り扱いたい素材を買いに行き、商人ギルドへ納品するのが今受けている依頼の本来のやり方だと思うです」
「ま、まぁたぶんギルドじゃなくて個人経営のお店とか、冒険者ギルドで依頼を出したりして素材を集めるのが本来のやり方だと俺は思うなぁ。ん? 今本来のやり方だと思う、って言ってたけど、今回は小岩さんの思う本来のやり方では行わないってこと?」
「そうです」
受けた納品依頼はウサギ肉300個と薬草50本、そして木の板100枚らしい。
「本来ならウサギ肉を冒険者ギルドへ、木材を職人ギルドへ、薬草はそのどちらのギルドからも購入出来るのだと思うです。ただ、今回はユーマさんがいるので、ウサギ肉と薬草を集めてほしいです。それを自分が買うです」
「そ、そっか(たぶん冒険者ギルドとか職人ギルドで直接買うような依頼じゃないと思うなぁ。ギルドじゃない場所や人から安く仕入れる、ってのがこの依頼を受けた人の腕の見せ所だと思うし。たぶん今小岩さんがやってることが本来のこの依頼やり方だと思う……)。あの、うちに伐採が出来るグーさんって言うゴーレムが居るんだけど、グーさんも呼んで木の板も集めてみる? 丁度伐採してるところも見てみたかったし」
「お願いするです!」
ということで一度クリスタルから家に帰り、トイレだけ済ませまた戻ってきた。勿論伐採のためにグーさんを連れてくることは忘れていない。
「お待たせ。今回のやり方としてはイクサさんと小岩さんが松明を持ってくれて、ウル達にモンスターは倒してもらうってことで良いんだよね?」
「自分はそれでお願いするです」
「……戦いやすいように松明で照らします」
まずはウサギ肉を集めるため、先ほどイクサさんの魔獣ミィを孵化させたあのアポルの木まで戻ってきた。
「アポルの実を取ったらたぶん大量の角ウサギが襲ってくるはず」
「……動画で見ました!」
「自分もです!」
「あはは、」
そういえばこの2人は俺の動画を見てくれてるんだった。まぁ俺以外の人も流石にこの仕様には気づいてるだろうけど。
「来たです!」
「じゃあウル達に任せるよ」
「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」
本当はウル達がモンスターを倒すよりイサクさんや小岩さんに倒してもらった方が良いんだろうけど、ここで経験値を稼がなくても武器の性能的にもっと先のモンスターを倒せるはずなので、今回は素早さを重視する。
「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」
「まぁすぐ倒せるよな」
30レベルを超える魔獣がレベル1で戦うようなモンスターを狩ったらそりゃあこうなる。
「たぶん後少しでウサギ肉は集まるから、薬草集めと伐採に行こうか」
「……分かりました」
「了解です」
「ググ」
グーさんには既に道中見つけた薬草は全て回収してもらっているが、それでもまだ10本くらいだ。
「俺も魔法の手袋で探すからグーさんは伐採をお願い」
「ググ」
俺はこのゲームの伐採スキルが使われている瞬間を見たことは無いし、どの木を切って良いのかもわからないため少し不安だが、グーさんはそんな俺の不安をよそに、どんどん奥へと進んでいく。
「ググ」
「その木を切るの?」
「ググ!」
早速グーさんは魔法の万能農具を使い木を切っていく。
「……魔法の万能農具凄いです」
「自分も初めて形が変化してる所を見たです」
俺の持っている魔法シリーズにも色々あるが、魔法の万能農具はその中でも凄い方だろう。クワにもスコップにも斧にもなるし、農作業をすれば何となくどこにどう植えれば良いのかも分かる。
「ググ!」
「たぶん今から木が倒れるから離れてってことだと思う」
グーさんの呼びかけに従い少し離れて木が倒れるのを待つ。
「お、丸太が1本になってる」
「丸太1本で木の板20枚になると聞いてるです」
「じゃああと5本切っていい木を探してくれるか?」
「ググ」
グーさんには伐採に集中してもらって、俺は手袋で薬草を見つけ、皆で暗い道を松明で照らしながら進むのだった。
「これで終わったです」
「グーさんありがとう」
「ググ」
丸太5本にウサギ肉300個と薬草50本、全部この夜中のうちに集めることができた。
「今はまだお金が足りないです。後で必ずユーマさんにお支払いするです」
「まぁ冒険者ギルドだとウサギ肉5つで100G、薬草10本で200Gだから、合わせて3,000Gだと思うけど、正直この段階でそれくらいのお金を第2陣のクランメンバーからもらってもって感じだし、少額だけどこれは幸福なる種族のクラン資金に回してくれる?」
「クラン資金です?」
「そう。今回は俺が良いイベントを進めてたからクランハウスを買えたけど、また大金が必要になった時にすぐ使えるお金は貯めておきたいから。あとは結構お金が貯まってきたら、クランメンバーに向けてクランから依頼を出したりしても良いしね。このクランの商人のリーダーは小岩さんだし、経理は任せるよ」
「が、頑張るです」
会議の時にも言ったけど、商人は元手が多ければ多いほど利益も出せると思うので、俺としては小岩さんにクラン資金をどんどん使ってどんどん儲けて欲しいくらいの気持ちだ。もう最初はクラン資金って言っても商人への投資くらいに思っている。
「じゃあ2人ともまた手伝ってほしいことがあったら言ってね」
「……ありがとうございました」
「助かったです」
2人のお手伝いは終わったので、俺達は一旦クランハウスへ戻る。
「お、ユーマ」
「ユーマさん決まりましたよ!」
「決まったって、何が?」
「大まかな収納場所だ」
帰ってくるとガイルとメイちゃんが俺の所まで来て、余った武器、防具、アクセサリー、宝石、錬金素材、モンスター素材等、どこの部屋に置くかと言うのが大体決まったことを教えてくれる。
「ありがとう。結構大変だったでしょ?」
「いや、まぁどこにするか決めるのは悩んだが、このクランハウスが大き過ぎてよ。スペースには困らねぇな」
「50人のクランメンバーでもまだまだ余裕があります!」
「まぁ100人で使って少し余裕があるくらいの感じだよねここ」
他のクランハウスの方が雰囲気は良さそうだったが、この圧倒的広さと利便性には代えられなかった。
「取り敢えず説明するからついてきてくれ」
「了解」
クランハウスの玄関付近で雑談をしたり、パーティーを組もうとしているクランメンバーを見ながら、俺は皆が暇な時に集まれる場所を早く作らないといけないなと思うのだった。