第146話
「これからよろしくお願いします」
「はい! よろしくお願いします!」
俺はマルス宝飾店から帰ってきて15人の面接をし、10人のクランメンバーを今採用し終わったところだ。
「こっちで面接してよかったのか?」
「あ、ガイル。うん、あのクランハウスで面接したら、たぶんうちがめちゃくちゃ大きなクランだって勘違いされるからね。このお店の宣伝も込みでここを使わせてもらってるし、今日の夜まで面接はここでさせてもらうつもり」
ガイルは少し休憩するということで、ここまで俺の話し相手をするためだけに来てくれたらしい。
「面接はどうだった?」
「ガイルとメイちゃんが連れてきた人は皆採用したよ」
「ってことはアキラが連れてきた奴を落としてるのか?」
「あ、もうガイルは会った?」
「そもそもアキラをユーマへ通したのは俺だからな。丁度採用するか微妙なラインだと思ってユーマに任せた」
「ホントに微妙なラインだったよ」
「アキラも自分でメンバー探しをしないといけないってことで、同じ場所に来たから俺とメイには挨拶してきたが、あれは攻略クランに入る方が良いだろうな」
「やっぱりそう思う?」
一応今日の夜になったらクランメンバー全員に集まってもらって、そこで皆の紹介をしようと思っているが、アキラさんだけは俺の中でもまだちょっと引っかかっている。
「ユーマさん居ますか?」
「お、噂をすればアキラだな」
「どうしましたか?」
最初に会った時よりも更に低姿勢でこの部屋に入ってきた。
「あ、ガイルさんも居たんですね」
「俺は居ないほうが良いか?」
「いえ、あの、クランに入れてもらったのは本当にありがたかったんです。ただ、ユーマさんに面接してもらった皆が落とされたと聞いて」
「あぁ、ごめんね。アキラさんが連れてくる人は攻略クランに入りたがってる人が多くて」
「えっと、それは、確かにそうだったかもしれません」
アキラさんみたいに攻略をメインで遊びたい人は、攻略クランに入りたい人が多いだろう。
「あの、やっぱりクランを抜けます!」
「理由を聞いても良いですか?」
「メンバー集めをしていて思いました。俺は攻略クランの下っ端になりたくないだけで、攻略クランに入りたいと思っていることを」
確かにそれが今のアキラさんの状態を言語化するには1番しっくり来る。
「確かにそれはそうかも、分かりました。ちなみに抜けてどうします? クランを作りますか? それとも誰かとパーティーを組んだりします?」
「一応面接してもらった皆とパーティーを組んで、ある程度自分達が強くなったら攻略クランに入ろうと思ってます。もしかしたら自分達でクランを作るかもしれません」
「そっか。じゃあ頑張ってください。はいこれ、俺も微妙な感じでクランに入れちゃったし、時間を取った分それで序盤は戦えると思うので」
そう言って俺は黄金の槍と怒りのアンクレットを渡す。
「良いんですか?」
「どっちもまだ1つずつ余ってるし、それがあれば序盤の敵はすぐ倒せると思います。コネファンはレベルとか能力で付けられる装備に制限とか無いし、しばらくアクセサリーと武器はそれでいけると思うので、これから頑張ってください」
「ありがとうございます」
「さっき面接した人達にもよろしくお伝えください」
「はい! ありがとうございました!」
こうして1人、幸福なる種族から脱退者が出たのだった。
「クランの奴らに装備はあげなくて良かったのか?」
「ガイルに作ってもらうよ」
「俺はアクセサリーは作らねぇぞ」
「それは確かに。ならガイルが誰かアクセサリーを作る鍛冶師育ててよ」
「だから俺は作らねぇって」
早速クランから抜けてしまう人が出たのは残念だが、みんなに挨拶した後とかだと更に抜けづらくなってただろうし、このタイミングで良かった。
「今は17人か」
「俺とガイルとメイちゃん、スー君ユー君、モリさんと小岩さん、あとはさっき採用した10人か」
「アリス達をクランメンバーから外してて良かったな」
「まぁガイル達が見つけてきた人は皆、配信者が居るからこのクランに入ろう、ってなる感じはなかったよ。ただ、断ったけどアキラさんが連れてきた人の何人かは、そういう人がいたかも。俺のことを知ってて色々聞いてきた人もいたし」
「攻略クランに入りたがってるやつは流石にユーマを知ってるか」
「いや、コネファンから最前線攻略組を知った人が多いんだと思うよ。意外と俺のことは知られてない気がする。俺はアリスさんとの件の方が影響力あったかも」
「なるほどな」
有名になるのは動画投稿者として嬉しいが、最初第2陣のプレイヤーに声をかけられた時のような、カジノやオークションでの俺の行動に色々文句を言ってくる人には気を付けないといけないなと思った。
「ま、他のプレイヤーが怖くて行動できなくなるのは、俺も俺の動画を楽しみにしてくれてる人も望んでないだろうし、今まで通りやるか」
「そんなにユーマのアンチが居たのか?」
「いや、全然そんなことはないよ。応援してくれる人もいたし」
「そうか」
勢いよく立ったガイルは、また勧誘へ戻るらしい。
「次はメイがここに来るってよ」
「了解。ガイルももっと休憩していいから」
「取り敢えず暗くなるまでは勧誘してくる」
そう言ってガイルは外に出て、入れ違いでメイちゃんがやって来た。
「ユーマさん、連れてきました!」
「メイがお世話になっております。姉のサキです」
メイちゃんに似ているところもあるが、ぱっと見エルフのような見た目の金髪の女性が入ってきた。
「ご丁寧にどうも、ユーマです。サキさんは今来られたんですか?」
「人が多かったので、少し外へ出てレベル上げをしていました」
「上がりました?」
「全然上がらなかったです」
「ちなみに職業は?」
「魔法使いを選びました」
「姉は私と違ってゲームが上手いんです!」
「メイやめて、ユーマさんの前でそれは恥ずかしいわ」
メイちゃんはゲーム初心者だが、姉のサキさんは色んなゲームをしてきたためなかなか上手いらしい。
「あの、うちのクランに入りたいってメイちゃんからは聞いてますけど、本当ですか?」
「はい。メイと一緒のクランに入りたいって気持ちが1番ですけど、メイから色々ガイルさんやユーマさんのことは聞いていますし、このクランに入りたい気持ちは本当です」
「あの、これまで色んなゲームをしてきたってことなんですけど、攻略とかされてました?」
「はい。最前線攻略組と比べたら攻略には入らないかもしれないですけど」
「いやいや、俺が言うのもあれですけど、あそこは攻略組の中でも頭1つ抜けてると思いますから」
「私は他のタイトルでも有名な攻略クランの、1つ下のクランで活動してました」
攻略をしていたゲームのタイトルを出すわけじゃなく、攻略クランで説明してきたということは、本当に色んなゲームをやってきたのだろう。
「今回はそのクランじゃなくても良いんですか?」
「1番はメイと遊びたいというのがあるので」
「ではコネファンでは攻略を諦める感じですか?」
「……いえ、攻略はしたいです」
「じゃあうちで攻略を続けたいと」
「出来れば続けたいですけど、メンバーが居なければ諦めます」
「人が居なかったら私がやるよ!」
「……気持ちだけ受け取っとく」
姉妹の絆でもメイちゃんの戦闘能力は許してもらえなかったか。
「まぁメイちゃんには錬金術師として頑張ってもらうから」
「分かりました」
「サキさんは魔法使いってことですけど、そのエルフの見た目だと、弓も使うんですか?」
「はい」
サキさんはエルフに見た目を寄せたり、使う武器もちゃんとエルフっぽくしたり、結構遊び心がある人らしい。
「じゃあメイちゃんと一緒に攻略パーティーのメンバーは集めてもらって良いですか?」
「てことは、姉は採用ですか!」
「うん、もうメイちゃんからこのクランのことは聞いてると思うし、採用で」
「ありがとうございます」
「やったねお姉ちゃん!」
もう少し早く来てくれたらアキラさんとサキさんで攻略パーティーを組んでもらえそうだったけど、辞めてしまったものは仕方ない。
「じゃあさっきも言いましたけど、メイちゃんとパーティーメンバーは探してもらえますか?」
「分かりました」
「少し前に早くも1人うちのクランを抜けた人が居て、その人には今のサキさんと同じように攻略パーティーのメンバーを探してもらってたんです。けど、やっぱり攻略をしたいと思ってる人は皆攻略クランに入りたい人が多いので、もしパーティーメンバーを探すならその辺を注意して探してくださいね」
「分かりました」
「私も頑張って探すから!」
俺はサキさんの隣にメイちゃんが居たら安心して任せられる。たぶんアキラさんの横にメイちゃんが居たら、このクランに合った人を見つけられていた気がする。
「ガイルとメイちゃんはなんやかんやうちのクランの中核を担ってるな」
本人に言ったら否定されるだろうけど、俺とガイルとメイちゃんはこのゲームだと一緒に長くやってきただけあって、1番このクランのバランスを考えられている気がする。
「やっぱりサブリーダーが2人任命できるならガイルとメイちゃんだな」
俺はサキさんとサキさんが入って嬉しそうなメイちゃんが、攻略パーティーのメンバーを探しに2人で出ていくのを見送り、その後はウル達を撫でて部屋の中で次の面接者が来るまで時間を潰すのだった。