第145話
《はじめの街にクラン専用のクランハウスが販売されるようになりました。詳細は商人ギルドにてお聞きください》
「あ、来た。これが言ってたやつか」
小岩さんの面接を終えた後すぐにこのアナウンスが来たので、タイミング的には丁度いい。
「先に商人ギルドへ行くか」
急いで商人ギルドへ行くと、他にも大勢のプレイヤーが集まっていた。
「すみません、クランハウスについてお伺いしても良いですか?」
「はい。クラン名を教えてもらってもよろしいですか?」
「『幸福なる種族』というクランです」
「……はい、確認できました。優先権をお持ちですので、こちらへどうぞ」
そう言われてついて行くと、見知った顔が居る部屋に通された。
「ユーマだ〜、もしかしてユーマも優先権ある感じ?」
「ユーマさん!」
そこに居たのはオカちゃんとゆうた、そしてリーダーの3人だ。
「自分でクラン作ったのか?」
「はい。色々流れはあったんですけど、クランを作ることになりました」
「良いクランハウスはもらうぞ」
「うちら最優先だから、ユーマのとこは2番目だと思う」
「僕ユーマさんの話を聞きたいです!」
どうやら最前線攻略組が選んだ後、俺が選ぶことになるらしい。
「えっと、俺はアウロサリバでちょっと商人ギルドの待機所を掃除してたら、色々あってクランハウスの優先権を貰えたんだ」
「僕達は生産職のクランメンバーの方がユニークボスを東の街で倒して、その流れで今回クランハウスの優先権をいただいたって聞いてます」
「あとはうちらが商人ギルドへ納品した素材が多いのも関係してるとか言ってなかったっけ?」
やはり最前線攻略組は色んなところで活躍している。
「お待たせしました。最前線攻略組クランのナナシ様と、幸福なる種族クランのユーマ様でしょうか?」
「あぁ」
「はい」
「あと2組のクランの方が優先権を所有されているのですが、先に見に行きましょうか」
商人ギルドの職員さんがそう言ってくれたので、俺達はついて行く。
「あ、あれ最前線攻略組だ!」
「今からクランハウスを買いに行くんじゃないか?」
「あんな人居た?」
「知らないのかよ。前のメンバーだよあの人」
「コネファンから見てるから知らなーい」
「俺も最前線攻略組に入れてください!」
「俺も!」「僕もお願いします!」「だったらおれもおねが」……
「リーダー、うちとゆうたで対応しておくから」
「ユーマさん、また今度お話しましょう!」
「あぁ」
「オカちゃんもゆうたもありがとう」
「これ程の騒ぎになるとは思わず、大変失礼いたしました。商人ギルドから職員を呼んでおりますので、それまでのご対応をよろしくお願いします!」
オカちゃんとゆうたはプレイヤー達の対応に行ってくれたので、リーダーと俺だけで商人ギルドの職員さんについて行く。
「あれ、クリスタルのそっち側ってそんな場所ありましたっけ?」
職員さんは俺の質問に答えることなく、どんどん道を真っ直ぐ進んでいく。
「こちらは全て購入可能なクランハウスでございます」
「いいな」
「すごいですね」
噴水を中心として円形に、大きな家というかお城級のクランハウスがいくつも建っている。
「さらに奥にも同じような場所がいくつかありますが、こちらにあるクランハウスはクリスタルから最も近いため、利便性にも優れています」
「ここが一等地ってことか」
「他の場所もここと同じようなクランハウスなんですか?」
「いえ、中心部から離れていくにつれてグレードは下がっていきますので、こちらにあるクランハウスが1番上のグレードのものです。そして真正面に見えますのが、こちらにある中でも1番のものとなっております」
ここには5つのクランハウスがあるが、真正面にあるクランハウスはその中でも1番大きくて迫力がある。
そして他の場所だとクランハウスが小さくなるため、ここと同じような空間に10や20のクランハウスが並んでいるらしい。
他のクランと交流しやすいという意味ではそういった場所もありだが、大きくて迫力のあるクランハウスは魅力的だ。
「あれをいただこう」
「中は確認されませんか?」
「必要ない」
「かしこまりました。職員を呼びますので「お待たせしました!」」
リーダーは即決であのクランハウスを購入し、そのタイミングでもう1人商人ギルドの職員さんが来た。
「ナナシ様にあのクランハウスの案内をよろしくお願いします。購入されるとのことですので、あのクランハウスの権利も渡してください」
「はい、かしこまりました。ではナナシ様行きましょう」
そう言って職員さんとリーダーはそのままあのクランハウスへと入っていった。
「ではユーマ様、どちらのクランハウスにされますか?」
「あの、金額って……」
「? ユーマ様は聞いておられませんか?」
「? 何がですか?」
「最前線攻略組、幸福なる種族の2組のクランについては、お支払いただかなくて良いと私は聞いております」
「え?」
俺は何割かクランハウスの料金を負担してもらうという話なら断ったし、全額払わなくて良いなんて話は全く知らない。
「幸福なる種族クランの方は……、マルス様が全額負担されると聞いています」
「え、マルスさんですか?」
俺の知ってるマルスさんは、西の街のマルス宝飾店のマルスさんだが、合っているのか?
「と、取り敢えずクランハウスは最前線攻略組の横にある家から全部見ていっても良いですか?」
「かしこまりました」
俺は衝撃の事実に少し混乱しながら、余った4つのクランハウス全てを見学するのだった。
「ありがとうございました」
「いえ、慎重になるのは当然のことですので」
1番左はゴツゴツしていて堅牢な感じがカッコよかったし、左から2番目は畳とかもあって和風な感じ、1番右はお城っぽくて、右から2番目はこれといった特徴はないものの、とにかく全部のスペースが広く部屋も多かった。
「右から2番目のあのクランハウスでお願いします」
「かしこまりました」
他のクランハウスはコンセプトがそれぞれあって良さそうに思ったけど、このクランハウスが1番広くて使いやすそうだった。
「ではこのクランハウスの権利をお渡ししたので、幸福なる種族の皆様にはこちらを使用していただけるようになりました。その他設定はクランリーダーであるユーマ様、サブリーダーであるガイル様が変更できますので、確認の方よろしくお願いします」
「ありがとうございました」
今すぐにお金は払えないから、もう少しクランハウスを使えるのは先になりそうだと思っていたのに、マルスさんのおかげですぐに購入出来てしまった。
「クランチャットでクランハウスを買ったことは言っとくか」
何人かまた面接してほしい人が居るらしいが、ほんの少しだけ待ってもらう。
「ダッシュで行くぞっ」
「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」
ウル達は走れて楽しそうだが、俺はそんな気持ちになれない。
「マルスさん!」
「あ、ユーマさんお久しぶりです」
クリスタルを移動しマルス宝飾店まで走ってきた俺達は、マルスさんに奥の部屋へ通されるのを拒否してその場で尋ねる。
「なんでクランハウスのお金を出してくれたんですか?」
「あ、クランハウスを購入されたのですね。おめでとうございます」
マルスさんが言うには、俺がマルスさんに渡した宝石の代金を渡してくれただけらしい。
「ゲウスさんからあの事件で失くなった宝石の加工代だけでなく、宝石の代金まで貴族様に支払われており、その状態で私とユーマさんで届けたあのアクセサリーを受け取ってしまうと、実質タダで宝石を受け取ることになってしまう、とのことでした。なので宝石の代金を少しと加工費を私とユーマさんに支払うと言われ、商人ギルドからユーマさんへお支払いいただくようお願いしたのですけど、もしかするとお金でお渡しする方が良かったですか? 商人ギルドの方からクランハウスの話をされて、良さそうな話でしたのでよく分からないまま頷いちゃいました」
俺がマルスさんから受け取ったお金は8億らしく、今回買ったクランハウスは10億だったので、マルスさんのおかげで2億得したことになる。
「いや、マルスさんのおかげで2億Gも得しました。ありがとうございます」
「良かったです。新しいプレイヤー様も来るということで、お忙しいと思いこちらで勝手にお支払い方法を決めてしまったことは申し訳ございませんでした」
「いや、俺がクランハウスを買わない場合はお金でもらえるって話でしたし、全然良いです」
あのちょっと怪しかった貴族の息子から、当主にアクセサリーがしっかり渡されたのは良かった。
マルスさんが言うにはもっと宝石の代金は高いはずだと言っているが、そもそもタダだと思っていたものにお金が払われただけでも俺は嬉しい。
ただ、それとは別で少し気になることもある。
「あの、マルスさんは俺がクランハウスを買うって知ったのはいつですか?」
「数時間前ですね」
「そうですか」
となるとアウロサリバにいる商人ギルドの職員さんが言っていた、俺がクランハウスを買うなら何割か負担すると言ってきた人はマルスさんではないということか。
「ありがとうございました」
「いえいえ、わざわざ来ていただいてすみません」
「いや、なんでマルスさんに払われてたのか気になったので、そういうことなら納得です」
「また宝石の加工が必要な時は何時でも来てください」
「あ、じゃあこれお願いします。ちょっとまだやらないことがいっぱいあって急いでるので、これで失礼します。加工はいつも通りマルスさんに全て任せるので」
「ユ、ユーマさん! これ、小さいですけどあの宝石と同じ種類のものじゃないですかぁぁ……」
俺は新しいクランハウスに面接してほしいプレイヤーを連れてきた、というチャットをガイルとメイちゃんがしてきたのを確認し、急いではじめの街へと戻るのだった。