第144話
「2人はコネファンが初めてなんだね」
「はい」
「ゲームは全然これまで出来ませんでした」
今ベラさんのお店の部屋で面接している2人は、ガイルとメイちゃんの連れてきた初心者プレイヤーだ。
「スーです。1日16時間なら出来ます!」
「ユーです。僕は12時間くらいから始めてみようと思ってます」
スー君は金髪のお兄ちゃん、ユー君は銀髪の弟で、2人は1歳差の兄弟らしくこれが初めてのゲームらしい。
「たぶんまだ学生くらいの年齢だと思うけど、勉強とか学校は大丈夫?」
「もう勉強は全部終わりました!」
「学校も行かなくて良くなったので、あと2年くらいは遊べます」
なんか分からないけど勉強に終わりとかあるんだ。俺の知らない世界だ。
「ま、まぁ、ご両親が許してるならいいか」
とりあえず長時間ログインするという条件はクリアしているらしい。
「たぶん初めてだとまだ何も分からないと思うけど、どうしてうちのクランに入ろうと思ったの?」
「メイさんが僕達に声をかけてくれて、自分も初心者だったけど教えてもらったらこのゲームを楽しめたって」
「だからクランに入って遊びたいと思いました!」
メイちゃんらしいといえばメイちゃんらしいな。
「分かった。これ以上聞いても初心者だから分からないことも多いだろうし、2人とも採用!」
「やった!」「ありがとうございます!」
「でもまずは2人で試行錯誤しながら楽しんでみて。職業も1回ならやり直しが出来るし、何となくこれがしたいっていうのを見つけてやってみると良いかも。アドバイスが欲しかったらクランの皆に聞いてくれたら良いし」
「「分かりました!」」
こうして俺達のクランに2人入ることが決まった。
「さっきの2人は、入ったよ、と」
クランチャットにも2人入ったことを報告しておく。
「お、次は第2陣で来た人じゃないのか」
このタイミングは第2陣で参加してきたプレイヤーを勧誘する目的ではじめの街に皆集まっているが、最初からプレイしてる人達が自分に合ったクランを探す場でもある。
「モリです。お願いします」
「どうぞ座ってください」
少し痩せ型で、白髪の優しそうな眼鏡の男性だ。
たぶんこの眼鏡は現実でかけてるから、キャラクリの時にもつけたのだろう。全部俺の勝手な妄想だけど。
「第2陣じゃないですけど良いですか?」
「勿論大丈夫ですよ。どうしてうちのクランに入りたいと思ってくれたんですか?」
「1番は仲間が欲しかったっていうのがあります」
「確かにそれは分かりますよ。人数は多い方が色々出来ることも増えますから」
「あとは、あんまりクランに入るにあたって条件があるところは嫌で、ここのクランはログイン時間が長かったらそれだけで居心地は良いと思うって言われて、それなら僕に向いてるなと思い来ました」
結構ログイン時間が長いっていう条件は厳しいと思うが、この人にとっては難しくない条件なんだろう。
「このクランに入ったらどんなことをしたいですか? こっちから強制することはないんで、結構何でも出来ますけど」
「錬金術師なので、アイテムを作って貢献したいです」
「うーん。ええっと、もっと楽に考えてください。何して遊びたいですか?」
「クランの方とパーティーを組んで、探索に行きたいです」
「明日の何時に集合とか」
「はい」
「この武器を作るための素材集め手伝って、とか」
「はい!」
「クラン内のパーティーがボスに挑戦するから、そのためのポーションいくつか作って欲しいって頼まれたりとか」
「はい!!」
「新しく入ってきたクランメンバーに色々この世界のこと教えてあげたりとか」
「はい!!!」
この様子だと俺達のクランにはピッタリだ。
「採用で。丁度第2陣から始めた2人が居るんですけど、本当に初心者らしくて、もし良かったら一緒についてってもらって良いですか?」
「本当ですか?」
「今日は本人達に全部任せて、聞かれたら答えるくらいの後方腕組み状態になると思いますけど」
「分かりました!」
「あと、うちのクランは工房を持ってるんで、今度から作業する時はそっちを使ってみてください」
「はい!」
「じゃあ俺からもその2人には連絡しておくんで。……あの、楽しくなかったらすぐ切り上げて良いですから」
「はい! 行ってきます!」
途中からはもう早く行きたいのか、どこに2人が居るのかも知らないはずなのに席を立とうとしていた。
「ええっと、また1人入りました、と」
順調にクランメンバーが増えている。
「お、次は経験者ね」
第2陣で来たが、こういうゲームはやってきた人らしい。
「アキラです。失礼します」
これまでの人と比べたら、結構気が強そうで、身体ががっしりした茶髪の男性が来た。
「どうぞ、楽にしてください」
「あの、ケーキは本当に食べて良いんですか?」
「はい、この串焼きも今食べないなら持って帰ってもらっても良いですよ。良いですけど何でですか?」
「序盤でお金を使ってしまうのは避けたいので」
「確かにそうですよね。全部こっちで払うのでそこは安心してください」
これまでゲームをやってきただけあって、結構慎重だ。もしかしたらプレイヤーに騙されたりした経験があるのかもしれない。
「ではなぜうちのクランに入ろうと思ったのか聞いても良いですか?」
「はい。第2陣でやってきたプレイヤーは、知識こそ動画や配信を見ていたのでありますが、最初から居る皆さんにはまだまだ追いつけません。なのでクランに入り、助けを借りて早く追いつきたいと思い来ました」
「ええっと、とりあえずあなたは攻略をしたいということですか?」
「はい」
「うちは攻略クランではないですけど」
「はい。攻略クランには入りたくありません」
「それはどうして?」
「新しく入った人は色んなノルマがあります。モンスターの素材や鉱石、錬金素材をいくつ集めてこいなど、自分が攻略するまでに時間がかかるのです」
こういうクランがあるのは本当だ。素材集めの班が少なかったら、新しく入ったメンバーに頼んで素材集めを一緒にしてもらう。
これがたまになら良いが、毎回してくれと言われたら困るだろう。
「確かにうちではそういう心配はあんまりないと思います」
「長時間ログインしますし、それ以外に条件がなく、自由にして良いならとてもありがたいです」
「でも、攻略するなら誰かと組むほうが良いと思うんですけど、誰かいますか?」
「……」
「クランメンバーの誰かを誘ってやる感じですか」
「そうしたいです」
気持ち的にはもう少し攻略に熱心なメンバーが居るなら入れてあげたい。ただ、攻略に興味がない人にまで協力してと言いそうな雰囲気がこの人にはある。
「俺としてはあなたを入れるかどうか少し迷っています」
「……そうですか」
「理由として、攻略に熱を持つメンバーが今うちのクランには居なくて、あなたが孤立してしまうと思っているからです」
「……」
「なので、メンバー探しをしてくれませんか?」
「え?」
「うちも攻略に熱心なパーティーが1つは欲しいんですよね。じゃないと生産職の人達が何のために頑張るんだって今後なりそうですし」
「はい」
「俺としては攻略に興味がないメンバーを無理に誘ったりしなければ、うちで攻略メインのパーティーを作ってもらって、どんどん活躍してほしいです」
「ホントですか!!」
俺に断られると思ってたのかさっきまで元気がなかったのに、今は机に手をつき身を乗り出している。
「あと、攻略はしてもらって良いですけど、クランの一員だということは忘れないでください。攻略クランと違って、攻略パーティーのために皆が動いてるわけではないので」
「確かにそうですよね。気を付けます」
「それさえ守ってくれたら、俺は大歓迎です」
「ありがとうございます!」
「じゃあ申し訳ないですけど、メンバー探しをお願いしても良いですか?」
「はい! パーティーメンバーを自分で集められるのは嬉しいので!」
「い、一応俺も面接しますからね」
こうしてうちのクランへまた1人加入した。
「お、次は商人希望の人か!」
そもそも商人をしたいと思う人がいないだろうと思っていたから、珍しい人が来てくれて嬉しい。
「こんにちは」
「小岩です。よろしくです」
「はい、よろしくお願いします。商人になりたいんですよね?」
「そうです」
ずっとここまで男性だったが、小岩さんは黒髪でショートカットの小柄な女性だ。
「珍しいですけど、何か商人をしたい理由があるんですか?」
「情報屋に憧れがあるです。だから商人をしたいです」
「モンスターを倒したりするよりもそっちの方が興味あるんですね?」
「そうです」
これまたキャラの濃い人が来たな。
「他のゲームで商人の経験は?」
「無いです」
「コネファンは配信や動画で見たりしてましたか?」
「勿論です。いつコネファンの世界に来ても良いように、最前線攻略組の動画は見てたです。第2陣に当たって嬉しかったです」
「えっと、答えたくなければ答えなくていいですけど、なんで情報屋に憧れが?」
「強くなくても攻略組の人達と対等な関係を築いているのがかっこいいです」
「なるほどなるほど」
情報屋は確かに渋い感じのロールプレイをしながら遊んでいる人が多い印象だ。ゲームには情報屋なんて職業はないのに、自分達で作り上げてる感じが小岩さんにはたまらないのだろう。
「クランに入るということは、一応ある意味縛られてるような感じですけど、そこはどう思われてますか? 俺のイメージだと情報屋だけのクランで集まるか、1人で情報屋をするかのイメージが強いんですけど」
「他のゲームでも戦闘は苦手で、商人も初めてで、どこかのクランに入れて欲しかったです」
「な、なるほど」
「ちゃんと長い時間遊ぶです。よろしくお願いするです!」
そんな長時間遊ぶことがノルマみたいなブラックなクランを目指してるわけじゃないけど、やる気はあるみたいだ。
「クランとしてはまだ商人へのバックアップ、小岩さんの情報屋のお手伝いが出来るかは分からないけど、一応うちは色んな職業の人が居るから、困ったら助けてもらって、逆に困ってる人が居たら助けてくれますか?」
「助けるです! 助け合いは1番の楽しみです!」
俺には分からないが、急に興奮し出したので何かを刺激してしまったらしい。
「じゃ、じゃあ採用で」
「ありがとうございます! ……です」
あ、語尾にですをつけるのはキャラ作りだったのね。
「基本好きにしてもらって、クランメンバーに迷惑をかけたり、無理やり何かに付き合わせたりしなかったらいいんで、それだけお願いします」
「分かったです!」
こうして幸福なる種族クランに、早くも5名のプレイヤーが加入したのだった。