第143話
「じゃあ俺はどっか離れてるね」
「あぁ、あとは任せろ」
「頑張ります!」
はじめの街に着いた俺達は、あと少しで第2陣が入ってくるため別行動をする。
「流石に人が多いな」
道の端っこにはプレイヤー達が並んでおり、分かりやすく同じ装備を付けているクランや、クラン名を書いた旗を持っている人、料理やポーション、装備を手に持って自分達のクランがどういうクランなのか一目でわかるようにしているところもある。
「お、入ってきた」
「攻略クランに興味はないか!!」
「鍛冶師をするならうちに来ない?」
「魔法使いになるなら色々教えられるぞ、魔法使い6人で全てを破壊しないか?」
「マイペースにやりたいけどクランにも入りたいって人はこちらまで」
「けんと〜、どこ〜?」
「プレイヤーの商人組合を作りました。商人になる方はお声がけください」
「早く追いつくためにパーティー組まないか? 俺と同じで第2陣だろ?」
クランの勧誘にパーティメンバー探し、元々のフレンドを探してる人まで色々いる。
「あ、カジノブレイカー!」
「オークションの人!」
「元最前線攻略組だ!」
「え? 俺?」
「動画見ました! 何であんなにカジノで勝てるんですか?」
「他のテイマーって強くないのに、なんでそんなに魔獣が強いんですか?」
「魔法のアイテムってどうですか? どんな効果を感じました?」
「オークションで買い占めたんだから、魔法のアイテムの説明動画くらい出せよ! それかもっと分かりやすく動画内でアイテム使え!」
「ユニークボスってどうやって見つけたんですか? 重要なところが動画で出てないじゃないですか! 俺もすぐ強くなりたいんで教えてください!!」
「NPCと仲良くなるイベントってどんなことをしたら出てくると思います?」
「ルリちゃんもエメラちゃんも可愛い! 私もテイマーになろっ!」
「あ、アリスちゃんの推しだ! アンチはこれから湧いてくるかもしれないが、俺は応援してるぞ!」
「え、ええと、ありがとうございます。ちょっと色々言われても困るんで失礼します!」
思った以上に俺も影響力があることを知った。
「はぁ、はぁ、はぁ、走っても疲れないはずなのに、なんか疲れたな」
これまでコネファンをやってる時はそんなに言われなかったから、おそらく第2陣のプレイヤーの多くが色々言ってきたのだろう。
「やっぱりコネファンをしてない人の方が、色んなコネファンの動画とか配信を見てるって事なんだろうな」
少し騒ぎにはなったが、他の場所でも今の俺と同じようなことは起こっている。配信者のアリスさん達も今みたいな状況になっている可能性は高い。
「俺達の時より更にカオスだな」
とりあえず久しぶりにここへ来たので、気持ちを落ち着けるためにもギムナさんのところへ挨拶に行く。
「こんにちは」
「おう、元気か?」
「ちょっと今ハプニングもあったんでドキドキしてますけど、元気です」
「そうか、何か食ってくか?」
「あ、じゃあ10人分、いや、20人分くらい小分けで作ってもらってもいいですか?」
「あぁ」
俺が何も言わなくても、串焼きはおすすめでお願いしていることは伝わっているようだ。
「今日は焼かなくて良いか?」
「あ、素材持ち込みでってことですよね。じゃあ少しだけお願いします」
いつもならギムナさんの屋台にこんなに長く居たら他の人が来ると思うが、今日はこの辺に人が全然居ない。
「プレイヤー様はあっちにどれくらい居たんだ?」
「もう俺達がこの世界に来た初日よりもうじゃうじゃ居ましたよ」
「あの時は串焼きを買うプレイヤー様なんて余程の物好きしか居なかったがな」
そう言われてもウルがこの屋台へ吸い寄せられたのだから仕方ない。
「ほら、出来たぞ」
「ありがとうございます」
「頑張れよ」
「はい、行ってきます」
こんなにギムナさんとゆっくり話したことはなかったが、あと少ししたらここもプレイヤー達でいっぱいになって、食欲をそそるこの香りに色んな人が負けて、串焼きを買うのだろう。
「ウル達も美味しかったか?」
「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」
もうギムナさんは何も言わなくてもウル達の分を最初に用意してくれたため、さっきの代金にウル達が食べた分のお金が入っているのかどうかも分からない。
「じゃあ先に探すか」
クリスタルの近くから更に離れ、ガイル達から面接して欲しいと言われた時のための場所を探しておくことにする。
「いらっしゃいませ」
「こんにちは。あの、ここって個室とか無いですよね?」
「そうですね」
「ユーマ様」
「あ、ベラさん、こっちに来てたんですか?」
俺はベラさんのお店に来たのだが、ここに来た時はほぼベラさんが出てきてくれるのは凄い。
「今日はプレイヤー様が来られる日ですので、私もこちらで待機しておりました」
「そうなんですね。あの、このお店って個室とかないですよね?」
「隣に小さい部屋はありますが、どうされました?」
「ちょっとうちに入ってくれるクランメンバーを探してて、面接をする場所が欲しかったんですけど」
「何もない部屋ですが使われますか?」
「良いんですか? 最終的にどこもなかったら商人ギルドで部屋を借りようとは思ってたんですけど」
ベラさんがここに居てくれたこともそうだが、個室を借りることが出来て良かった。
「このお店のケーキを面接に来た人には食べてもらおうと思ってたので、自分で毎回選んで持ってきて貰う形にしても良いですか? 後でまとめてお金は俺が払いますので」
「かしこまりました」
「新しいプレイヤー様へのお店の宣伝にもなるわけですね」
「まぁ結果的にはそうなるのかもしれないですね。俺としては話してる間に何か食べるものがあればいいなと思っただけですけど」
「部屋はご自由にお使いください、後はよろしくお願いします」
「かしこまりました」
「ありがとうございます」
ベラさんが店員さんに何か話しかけていたが、とにかくこれで面接場所は確保できた。
「次は遠くから見るか」
さっきみたいに色んな人が同時に押しかけてくるような状況は嫌なので、目立たないように見る。
「クゥ」「アウ」「……!」「コン」
「まぁ目立たないのは無理かもな」
皆姿勢を低くしたところで、魔獣4体は流石に目立つ。
「ユーマ?」
「はい?」
名前を呼ばれて振り返ると、見慣れた背の高い黒髪の女性がいた。
「あ、テミスさん」
「久しぶりね。ユーマの動画は見せてもらってるわ。ユーマは最前線攻略組を抜けてどう? 楽しい?」
「今のところ楽しく遊べてますね。特に今日からは更に面白くなりそうですし」
テミスさんは優美なる秩序の団長で、ミカさんやくるみさんが入っているクランのリーダーだ。クランの人達からは団長と呼ばれている。
「今日から最前線攻略組以外の攻略組も、ほとんど揃うらしいわね」
「そうみたいですね。テミスさん達はこれからすぐ追いかけるんですか?」
「最前線攻略組も待って2日か3日でしょうし、そうなるわね」
「じゃあ、あの、他の方々は? サブリーダーのププさんとかテミスさんを探してたりしてないですか?」
「今もチャットでどこに居るのか聞かれてるわね」
「えっと、じゃあそろそろ戻る方がいいんじゃないですか?」
いつもサブリーダーのププさんはテミスさんに振り回されている。
「ユーマは私のパーティーに入らない?」
「あの、いつも言ってますけど、俺は男なので無理です」
「今回も駄目なのね」
「1回本気で勧誘してきた時は焦りましたけどね」
「今回も本気よ?」
「俺も本気で断ってます」
「なら仕方がないわね。コネファンではユーマが私の先輩だし、色々教えてくれる?」
「協力出来るところはしますよ。でも、最前線攻略組を他の攻略クランと組んで倒すとかなら、俺は協力出来ませんけどね」
「それはそうね」
この人は俺が軽いノリでオッケーを出したら、そのまま本当に入れてしまいそうな気がするので慎重に答えないといけない。
「あ、あとミカさんとくるみさんとはダンジョンへ一緒に行きました」
「見たわ。動画が出る前から少しユーマっぽいプレイヤーの話はミカ達から聞いていたのだけど、あの子達ユーマが最前線攻略組とも知らずに一緒に行動していたのは面白かったわね」
「まぁ元ですけどね」
「まだユーマのことは知らないから、今度会ってもバラしちゃ駄目よ?」
「自分から言うことはたぶん無いですよ」
優美なる秩序も十分凄いが、流石に元最前線攻略組のプレイヤーに向けて、攻略組の一員なんだと自慢気に話したことは恥ずかしいだろう。
くるみさんに恥をかかせないように、出来るだけ俺が最前線攻略組だったことは隠したい。
「はぁ、そろそろ行くわ。ププが怒ってるの」
「あまりププさんを困らせないであげてくださいね。あと、たぶんこれから寝不足になると思いますし、体調に気をつけてください」
「ありがとう。ユーマも視聴者のプレイヤーには気を付けなさいね?」
「確かに……気を付けます」
アリスさんとの一件をテミスさんも知っているのか、最後に俺へ一言注意を残して行ってしまった。
「お、早速加入希望者が居るのか」
俺はガイルから来たチャットにベラさんのお店へ来るよう返信し、面接部屋へと向かうのだった。