第141話
「今日は皆お疲れ様、今日やったことは重要だけど、ずっと考えないといけないことでもないから。行き詰まったり、何か調子が悪いなって思ったりした時に思い出してみて」
「はい!」
「分かりました!」
「ありがとうございました!」
今日は戦闘をしたわけではないから皆もそこまで疲れていない。
ただ、地面と平行に腕を上げてみたり、目を瞑って指定された場所まで歩いてみたり、自分の身体を自分の想像通りに動かす事がどれだけ難しいかは知ってくれたと思う。
そして今日一番の収穫は、色んな動きを俺が全てノーミスで成功させた時に、全員から尊敬の眼差しが向けられたことだろう。
「現実だと角に足の小指をぶつけるし、躓いて転けそうになることもあるんだけどな」
ただ、いつの日からか物を落とした時に、空中でキャッチできるようになった。それに気付いた時は感動したし、現実の身体も成長してるのかもと思ったものだ。
実際はカプセルベッドに籠もりっきりで、むしろ身体能力は下がっているというのに。
上がっているのは反射神経や反応速度で、身体は意識して運動しないと衰えるばかりだった。
「じゃあ明日からは俺抜きになる日が増えるかもしれないけど、頑張ってね」
「その日はぼくが魔法を教えようかな?」
「私も騎士の精神を知ってもらおう」
「まぁハティとキプロは冒険者を目指してますし、エマちゃんは強くなることもそうですけど、運動が1番の目的ですから」
モニカさんとモルガに任せるのは少し不安にも感じるが、2人とも求められていることを教えるのは上手いだろうし、そもそも俺が寝てる時は2人が訓練をしているので大丈夫だろう。
「キノさん、は行かないか」
畑の近くでキノさんとゴーさんとグーさんの3人で話しており、早速居場所を見つけているならよかった。
「よし、予定通り工房に行くか」
「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」
クランで集まる時間が近づいていたので、俺達は家のクリスタルから西の街へと移動するのだった。
「おはよう」
「お、ユーマ、これからクランの話し合いだよな?」
「おはようございます! 今日は楽しみですね!」
工房の中にはガイルとメイちゃんが居て、他のメンバーはまだ来ていないらしい。
「アリスさんはチャットで来るって言ってたけど、他の人達はどうするんだろう」
「まぁ、今回は誰も来ないかもな」
「え、なんで?」
「正確に言うと、勧誘は一緒にしないだろうな。配信者は目立つし、それだけでこのクランに入りたいって言う奴らは出てくるだろ」
「まぁそっか」
「ここはユーマがリーダーのクランだからな。アリス達も配信で幸福なる種族に入ったことはまだ言ってないだろうし、今回の勧誘はユーマと俺とメイでやるしかないだろう」
「私皆さんの分まで頑張ります!」
「今回は配信者を顎で使えなかったな」
「そんなことしません!」
ぼちぼち話し合いを始めようとしたタイミングでアリスさん達がやって来た。
「おはようございます!」
「おはようございます、皆さん来てくれたんですね」
「話だけ聞いてその後の勧誘はユーマ達に任せると思う。その間は配信を付けて、皆で探索へ行くつもり」
「みーちゃん、うちらもユーマさんと一緒に勧誘出来ない?」
「私達のファンばっかり入ってくるけど、それでも良いなら?」
「……我慢する」
「もぐる達はユーマっちのクランに入ってることを配信で言わないよ」
それはありがたいが、そうなると俺も今日の夜に投稿される動画は編集し直したほうがいいかもしれない。
「ちょっと一旦ログアウトして、今日の動画確認してきても良いですか?」
「なんでっすか?」
「アリスさん達がこのクランに入るシーンがそのまま動画になってると思うんで」
「勧誘がそれまでに終われば良いんじゃないか? あたいらも配信でクランに入ってることを隠し続けるのは無理だ」
「わたくしもアヤ様の意見と同じです」
「じゃあガイルとメイちゃんには頑張ってもらわないといけないかも」
「まぁしゃーないな」
「頑張ります!」
これで今日のうちにある程度このクランに入ってくれる人を集めないといけなくなった。
「じゃあ始めようかな」
ということで、幸福なる種族のクラン会議が始まる。
「まずこの段階で誰か入れたい人は居ますか? 枠は余りまくってるので埋まる心配はないですけど、一応ここで聞いておきたくて……はい、みるくさん」
「前にも言ってたと思うけど、同じ家に住んでるメンバーは入れたい」
「確か10人以上住んでるって話だったんで、後5人くらいは入るかもしれないってことですよね」
「そう。勿論ユーマの面接はして欲しいけど、私達はクランに入って欲しいと思ってる」
「了解です」
これは前にも聞いたから予想通りだ。
「じゃあ他に居る人……メイちゃん」
「あの、今日の第2陣から始める人なんですけど」
「全然いいよ」
「リアルの姉なんです」
「メイちゃんの?」
「はい。ただどんな名前で始めるかは分からないので、後で分かったらユーマさんに言います」
「分かった。他にはもう居ないですか?」
「「「……」」」
誰も声を上げないため、もう居なさそうだ。
「じゃあ一旦今言った人が全員入ったとして、15人くらいのクランになると思うんですけど、どんなクランにするかここで決めておきたいなって思ってます。勧誘する前にこのクランがどんなクランなのかは説明できないといけないと思うので」
「ユーマっちはどんなクランにしたいの?」
「俺は何でも出来るクランが良いな」
「何でも出来るクランっすか?」
「勿論専門の人達には劣ると思うけど、ある程度自分達で攻略が出来たり、生産が出来たり、ただただのんびり集まって喋るだけの時間があったり、夜に幽霊が出るとか噂されてる場所に行ってみたり、とにかく自由にやりたいのが本心かな」
「わたくしはとても良いと思います」
「あたいもそれが出来るならそれが良い」
「配信者としてもユーマさんの考えはありがたいね」
俺の理想は一応皆に響いてはいるようだ。
「でもそうなるとどんな人をクランへ勧誘しますか?」
「それは……どうしよう? 今は農業をする人、商人に調理師、裁縫師とかが居ないかな。職業の名前はこんなのだったか覚えてないけど」
「それで言うと鍛冶師も足りてないぞ。俺は武器と防具を作ってるが、そろそろどっちかに絞りたい。そうなると装備装飾品をメイが作ることになるが、次はポーションを作る奴が居なくなる。全部クランで完結させるなら、生産職はまだまだ足りてない」
「そっか、じゃあ生産職の人は良い人が居たらどんどん入れたいね」
「あとはイン率が高い人じゃないと、このクランではやっていけないと思います」
確かにそこは盲点だった。あまりにもゲームをするのが当たり前過ぎて、メイちゃんに言われるまで全く考えてもいなかった。
「自分だけログインしていないと居心地が悪くなると思いますし、そういう方は最初から入れない方がその方のためだと思います」
「メイちゃんありがとう。今ので結構勧誘する人は絞れたかも」
「あと、少し関係ないかもしれないけど、ユーマは勧誘をしない方が良いと思う」
「え?」
「みーちゃんなんで?」
「ユーマはもうアリスのチャンネルで視聴者に知られてるし、私達との繋がりを持ちたいって考える人はユーマを探すと思うから」
「そこまでするか?」
「ガイルさんは甘いです。ここに居る方は皆さん凄い人ですから」
メイちゃんにそう言われてアリスさん達は少し照れている。
「分かった。俺は勧誘しないよ。まぁでも雰囲気を楽しんではこようかな」
「面接はどうする?」
「チャットで言ってくれたらすぐ面接するよ。ここには来れないだろうし、はじめの街で場所は探しとく」
「こういうのを聞くとうちらもクランの勧誘したい!」
「もぐるもちょっと見に行きたい」
「じゃあ勧誘は出来ないけど、配信を付けて少し見に行く?」
「みるるん本当っすか!」
「少し楽しんだら、その後は王国領を進むよ? 今日は探索を進めるって話だったし」
「あたいはまだ帝国領を進めたい気持ちは変わらないが、駄目か?」
「アヤ様、王国領を進むか帝国領を進むかは多数決で決めたではないですか」
アリスさん達の方でも色々話し合いがあったのだろう。
「まぁ一旦そんな感じで。一瞬お手洗いに行ってきますね」
俺はそう言って一度ここからログアウトするのだった。