第137話
「キプロー」
「ユーマさん!」
「インゴットには自分でしてくれる?」
「はい! こんなにありがとうございます!」
「雨だったらもっと銀とか月火鉱石とか出たんだろうけど、今回は鉄と銅が多かったよ」
「いえ、全く問題ありません! むしろ鉄と銅はありがたいです!」
「それなら良かった」
「それに少しでも月火鉱石があれば、プレイヤー様の要望に応えられます」
自分で掘っててあんまり分かってないから知りたいんだが、月火鉱石ってなんなんだ? あと、月火草とかも過去に拾ったことがあった気がする。
「知りたいんだけど、月火鉱石ってどんなものなの? 普通に鉄とかよりも強いって感じ?」
「そういう面もありますが、月火鉱石は夜に輝くという特性がありまして、その特性を今回は利用したくて欲しかったんです」
プレイヤーから装備に何かオリジナリティを出したいと相談され、月火鉱石の特性の話をしたらそれが良いと言われたらしい。
「なので今から月火鉱石を使って、肩の辺りに模様を入れる作業です」
「なんか大変なんだな」
「複雑なデザインなら断ってましたけど、模様がシンプルであまり労力が要らないのと、何よりもプレイヤー様が月火鉱石の話を聞いた後とても嬉しそうにしていたので、僕としてもご要望に沿った装備は出来るだけ作りたかったんです」
「そうか」
キプロはやっぱりしっかりしてるし、何より思いやりがある。
「キプロのことだし代金は払うって言うと思うけど、今度まとめて頼むよ。今後もちょっとずつ持ってくるかもしれないし、今は忙しいでしょ?」
「そうですね。正直ありがたいです」
「じゃあ頑張って。体調だけは気を付けてな」
「はい、ありがとうございました!」
俺が店を出たのと入れ違いで冒険者が入って行ったし、キプロはなかなか忙しそうだ。
「このままベラさんのとこにも行くか」
「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」「ググ」
グーさんも連れてそのまま直接ベラさんのスイーツ店へとやって来た。
「いらっしゃいませ」
「お、うちのアイスが売れてる」
「ユーマ様、どうされましたか?」
「あ、どうも」
知らない店員さんだけかと思ったら、前にも会ったことのある店員さんが居た。
「(この方がオーナーお気に入りのユーマ様だから)」
「(なるほど、覚えておきますね)」
「(オーナー呼んできてくれる? ユーマ様が来たって言ったら来ると思う)」
俺は久しぶりにウル達へ好きなものを2つずつ選ぶように言って、グーさんと後ろの方で皆が選んでいる姿を眺める。
「一応ゴーさんのためにもここに売ってる商品をなんとなく覚えてあげてくれる?」
「ググ?」
「もしかしたらここには売られてない商品を作りたい! とかあるかもしれないし、そもそもここに売ってるのと同じ商品はあんまり作らない方が良いと思うから」
「ググ!」
まぁゴーさんなら自分で見に来ることが出来るけど、グーさんから伝えてあげても問題ないはず。
「俺はこの感じだとさつまいもはめちゃくちゃ良いと思う。前食べたさつまいものアイスとスイートポテトはここにある商品と被らないし」
「ググ」
「生クリームとかをメインで使ったものはお店で作ってもらえるだろうし、牛乳、卵、果物で作れるのが良いな」
「ググ」
「まぁその材料で俺が思いつくのは牛乳プリンくらいか?」
誰か詳しい人が居たらワインとかチーズ、バターなんかもゲーム世界だしある程度簡単に自分で作ることが出来るんだろうけど、知らないものは仕方ない。
「ユーマ様」
「あ、ベラさんどうも」
「今日は買いに来てくれたのですか?」
「そうですね。ベラさんに話したいこともあるんですけど、ウル達を見てもらったら分かる通り、スイーツを買いに来ました」
「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」
ウル達が選び終わったので、お会計をして外に出る。
「そこで食べますね」
「はじめの街を思い出します」
「確かにこうやって食べてたのが今は懐かしいですね」
ウル達は自分が選んだものを食べているが、少し交換したり、シロに味見をさせたりしている。
「ユーマ様のお話をお聞きしてもいいですか」
「そうでしたそうでした。たぶん早くてあと2〜3日くらいで色んな果物を納品できるようになると思うんですけど、そのタイミングかもう少し後でうちのゴーさんの商品をベラさんのところで出してほしくて」
「アイス以外でと言うことですよね。それはこちらでの加工は必要ないということですか?」
「そうですね。ただ、他から生クリームを買ったりチーズを買ったりして、それがメインのスイーツを作るんじゃなくて、全部うちで取れたものをメインで使った商品にしようと思ってます。前に晩御飯でベラさんを呼んだ時にスイートポテトをゴーさんが作ってたのを覚えてますか?」
「はい。食べさせていただきましたが、とても美味しかったです」
「ああいうのを出したいなって勝手に俺は思ってますね」
ベラさんは少し考えていたが、俺の提案に賛成してくれた。
「良いと思います。ただ、商品としてお店に出す場合は、一度こちらでも審査はさせていただきますがよろしいですか?」
「それは勿論です」
「私も食べたことがあるので分かりますが、味が理由で却下することはないと思われます。お店に同じような商品がある場合や、保管しておくことが難しい場合ですと、お断りさせていただく可能性が高くなるでしょうね」
「それはこっちでも考えてから持っていくようにしますね」
「そうしていただけるとこちらも助かります」
「……それで、正直こっちが本命のお願いというか相談なんですけど」
「はい、何でしょう?」
「ゴーさんが作った商品って分かるようなマークを付けたいなと思ってまして」
これは後でフカさんにも話すことだ。というかフカさんに協力してもらうつもりの話である。
「たぶん良いよって言われると思うんで先に話しますけど、うちの商品をちゃんとゴーさんの作ったものだと分かるようにしたくて」
「なるほど」
「ブランドって言うんですかね。そういうのをちゃんと分かるようにしたいなって思ってます」
「今はアイスを販売していますが、マウンテンモウの可愛らしいイラストも変えられるのですか?」
「それも含めてデザインの相談をベラさんにしたくて」
俺は考えていた案をベラさんに言う。
「アイスはゴーさん、グーさん、マウンテンモウ、あとはここに居るウル達の力で作られてるので、皆のイラストを商品に入れようかなと」
「それは良いですね」
「で、例えばスイートポテトを売るなら、ゴーさんは勿論居るとして、畑の管理をゴーさんとしているグーさん、ミルクを使ってると思うのでマウンテンモウ、後は卵も使ってると思うのでカシワドリですね。今言った人達というかモンスター達のイラストが描かれた包装用紙か箱を使いたいなと思ってます」
「とてもいいと思います」
「こういう感じでその商品に関係する人を分かるようにしたいなって思ってて、どう思います? やっぱりシンプルな方が良いですかね?」
「いえ、良いと思います! もしそちらで上手く行きそうになければ、私の方で作らせていただきます!」
ベラさんはとても俺の考えに肯定的だ。
「じゃあ今後そういう感じになるかもしれないということだけ先にお伝えしました。もしベラさんの方で何かあれば遠慮なく言って下さいね。俺達はベラさんのお店で販売させてもらってるので」
「ユーマ様のところで作られていると分かるような工夫はとても良いと思いますし、商品数もそこまで多くならないと思いますから、おそらく問題ないでしょう。私も完成を楽しみにしてますね。新商品もお待ちしてます」
「はい。ありがとうございました」
今度話そうと思ってたことも気付いたら今日話すつもりで来たんです、みたいな感じでベラさんに相談してしまった。
そしてほぼ全ての提案にベラさんは肯定的だったし、結果的に今話しておいて良かった。
「流石に今からフカさんのところへ行って相談するか」
このまま勝手に話を進めるのはあまり良くないと思い、今のアイスカップを作ってくれている人と繋がりのあるフカさんまで話をしに行く。
「フカさん居ますか?」
「おや、ユーマくん珍しいね」
「あの、少し相談したいことがありまして」
「中でゆっくり聞こうかな」
「お邪魔します」
俺はフカさんの家に久しぶりに入り、ベラさんのところで話したことをフカさんにもする。
「良いね! 素晴らしいと思う。私の方からまた新しいものを描いてもらえるようにお願いするよ。けど、どうやって皆のことを描いてもらおうかな?」
「あ、じゃあウル達と一緒に写真を撮ってくるので、それを見てイラストにしてもらっても良いですか?」
モニカさん達と写真を撮った経験がこんなところで役立つとは。
「じゃあその写真を送って、それを見て描いてもらうね」
「お願いします」
早速イラストの準備に取り掛かりたかったので、俺達はフカさんの家を出てゴーさんにもついて来てもらい、前と同じ場所で写真を撮った。
そしてまた戻って写真をフカさんに渡し、皆を今のデザインであるマウンテンモウのような可愛いイラストにしてもらえるよう願う。
「これで皆のことが色んな人に知られるようになるな」
「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」「ゴゴ!」「ググ!」
やっぱりこういうのは自分が商品に描かれていたらやる気も上がるだろうし、ウル達の反応を見てもやって良かったと思う。
「よし、これでやることは終わったかな。もし行くならそろそろどっか探索する場所を決めないと、今日1日どこにも探索に行けない可能性すらありそうだ」
「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」
「分かった分かった! すぐ行くから!」
俺の独り言で不安にさせてしまったのか、ウル達に探索へ行こうと何度も急かされるのだった。