第134話
「おはようございます」
「エマちゃんおはよう。この前言ってた新しい2人だよ」
「キプロです。これからよろしくお願いします!」
「ハティです、よろしくお願いします!」
「エマです、一緒に運動する人が増えてわたしは嬉しいです」
キプロとエマちゃんは会ったことあると思うが、ハティはエマちゃんに会うのが初めてなので、少しだけ時間をとって3人で会話をしてもらってる間に、先生役の方でも教え方について話し合っておく。
「モニカさんはエマちゃんを主に見て、俺はキプロ、モルガはハティって感じにします? それとも全員で全員を見る感じのほうがいいですか?」
「私は合わせるぞ」
「ぼくも特にないかな。でも気になったことがあったら誰にでも言うと思う」
「じゃあ今日は誰か見る人とか決めずに、こっちの3人で向こうの3人全員を教える感じで行きますか」
「了解した」
「分かった」
最初から担当の先生を決めてしまうと、キプロ達もその先生にしか色々話すことが出来なくなってしまう気がして、最初からずっと誰かを担当して教えるというのは無しにした。
「ランニングも終わったし、今からやってこうか」
「分かりました」
「「はい!」」
キプロとハティのやる気は伝わってくるが、最初からそんなに力が入ってると後半バテる気がする。
「じゃあまずは全員片手剣で戦ってもらおうかな」
「え、素振りみたいなのはしないんですか?」
「うん、そういうのは後で良いよ。まずは使ってみて。エマちゃんはモニカさん、ハティはモルガ、キプロは俺と組んでやろっか」
「ぼくはそんなに武器の扱いは得意じゃないから、ハティが強かったらやられちゃうかもね」
「まぁその時は俺が2人同時に相手するか、ハティの相手ならサイさんに任せれば良いかな?」
「では始めるぞ。エマ、来い」
こちらで話している間に早速エマちゃんの方は始まった。
「ぼ、僕もいきますよ!」
「うん、思いっきり来ていいからね」
「ぼく達もはじめよっか」
「自分も行きます!」
俺はキプロの片手剣を受け流していくが、そこまで悪いようには思わない。
「いい感じかも、こっちもちょっと反撃して良い?」
「は、はい」
「よっ」
「う、っ」
「ほいっ」
「くっ」
「キプロ腰引けてるぞ」
「す、すいません!」
なるほど、サポーターをやってきただけあって結構動きは良い。ただ、どうしても自分が攻撃されるとなったら急に全てが駄目になる。
「攻撃されるのが怖いか」
「距離を取りたくなって、攻撃することより逃げることを考えてしまうんです」
「よし、じゃあお腹に攻撃するから、力入れて耐えて」
「えっ」
「行くぞ」
「っ、はいっ!」
俺はそう言ってキプロの胴体に少し重い一撃を入れた。
「痛いでしょ?」
「うっ……い、今のでも、ユーマさんは本気じゃないですよね?」
「本気じゃないけど結構重めのやつを入れようと思ってね。キプロに軽めの攻撃をして、訓練中当たってもこれくらいのダメージだよ、とか言っても実戦じゃ意味ないと思ったから」
「そ、そうですね」
「これだけの重みがあったら攻撃は受けたくないでしょ?」
「はい。それにまださっきのは攻撃されるって分かってましたから」
「不意打ちだとあれめちゃくちゃ痛そうだよな」
「はい……」
キプロはようやく立てるようになったのか、ゆっくりと立ち上がる。
「やっぱりキプロは攻撃する勇気と、今は攻撃されても我慢するっていう気持ちかな。ちょっと相手の攻撃にビビり過ぎな所が勿体ない。全然キプロが言ってた戦闘のセンスがないってのは感じないよ」
「ほ、ホントですか!」
「サポーターをして身に付いたのかな。ちゃんと俺の攻撃は目で追えてるし、攻撃にビビってるって言っても最低限のことは出来てるから、全然戦えるようになるのはすぐだと思うよ。お腹に俺が攻撃するって言ってた時も、攻撃をちゃんと目で追ってたからね。あれ目で追ってたのは無意識だと思うけど、結構重要だから」
「そ、そうなんですね! 分かりました! もう1回お願いします!」
キプロのお腹に一発入れてからは、動きもそれほど悪くなくなった。やはり最大でもこれくらい攻撃が来るって分かってた方がやりやすいのだろう。
弱すぎたら駄目だと思って強めに攻撃したけど、それでもこの動きができるならすぐ強くなりそうだ。
「その調子」
「はい!」
そうしてキプロと何度かやり合った後、キプロには休憩してもらって、俺はハティ達の様子を見に行く。
「ぼくの教え方良くなかったのかな?」
「ちょっと見てたけど、片手剣が合ってないのかも、うん」
「じ、自分、これから、練習します!」
「そうだね。ハティも一旦休憩していいよ」
まだやろうとするハティを休ませ、モルガに話を聞く。
「次は俺がハティを教えようと思うんだけど、どんな感じ?」
「まず武器を使う体力がないかな。それに自分の動きで精一杯だから、相手の動きを見る余裕がないね。あとは、全体的にやる気はあるけど全部空回りしてる感じ?」
「了解、ちょっと考えるよ。片手剣は基礎だけど、もしかしたらハティには他の武器を今日試してもらうかも」
「分かった。ぼくは次誰を見れば良い?」
「エマちゃんをお願いして良い? モニカさんにはこっちへ来るように言って」
「はーい」
俺はハティをどう鍛えるか考えながら、モニカさんが来るのを待った。
「ユーマ、次は私がキプロの相手か?」
「お願いしていいですか? 結構基礎的な部分は出来てるんで、後はメンタルの部分かもしれないです」
「分かった」
「相手の攻撃にビビらなくなればこの中で1番動けるのはキプロだと思います。もしかしたら今の段階でもキプロが1番かもしれないです」
「なるほどな、エマよりもか」
「そうですね。あと今日は片手剣を使ってもらいましたけど、毎日使う武器を変えてって、本人が使いたい武器を使わせようと思います」
「分かった、では私は行ってくる」
「お願いします」
さて、俺はハティを教える番なのだが、どうしようかな。
「ハティは片手剣使いにくかった?」
「自分は何が使いやすくて何が使いにくいのか分からないので、良く分かりません」
「じゃあそこで片手剣を振り下ろしてくれる?」
「はい!」
そう言われてハティはその場で片手剣を力いっぱい振り下ろした。
「なるほどね、分かった。ハティはなにか動作をする時目を閉じちゃうね。たぶん全力でやろうと力むからかな? 半分くらいの力で振り下ろして、次は地面に片手剣が触れないようにしよっか」
「分かりました!」
「いいねいいね、その感じで俺に攻撃してきて。自分が攻撃されそうになったらいつでも分かるように、俺のことは見ておくんだよ」
「はい!」
ハティの片手剣は攻撃力が皆無だが、動きだけはほんの少しだけそれっぽくなってきた。
「そうそういいね。今は訓練だけど、自分が相手を倒してやるって気持ちと、攻撃されたら避けるって気持ちは常に持っておいて」
「あの、1ついいですか?」
「何?」
「自分でも綺麗な戦い方が出来ていないのは分かってます。自分は本当に素振りからしなくても良いですか? ユーマさんが自分に気を使ってるなら大丈夫です。自分は何でもやりますから!」
ハティは2人に遅れているこの状況を冷静に把握できてるらしいが、俺も別にハティに対して気を使って皆と同じメニューをさせているわけではない。
「相手が居ない時なら素振りはいいと思う。ただ、俺は不格好でも下手くそでも相手が居るなら戦う方がいいと思うな。だって今素振りを頑張ったら倒せる程度の敵と戦うわけじゃないでしょ? 素振りが楽しいならいつでもやっていいよ。俺もそうだったけど、たぶんハティにもいつか素振りが大事だって気付く時期は来ると思うし。でもちゃんと頭の中に入れておかないといけないのは、ハティの戦う相手が命を狙ってくるモンスターだってこと。木剣で対人戦をやるんじゃなくて、モンスターと戦うんだから、俺はどんどん戦って戦いの経験値を積んでいく方が皆のためになると思ってる」
「そうですか」
「だからハティだけ素振りさせるのは可哀想とか、そういうのじゃないよ。ちなみに俺はこの訓練が終わった後ハティにはいっぱい今の課題を言おうと思ってたしね」
「そうだったんですか!」
「だってまずはハティに早く皆へ追いついてもらわないと、訓練もやり辛いでしょ? ハティに強くなってもらおうとするのは当たり前だよ」
「分かりました! もう1回お願いします!」
「じゃあ行くよ、俺も今から攻撃す……」
こうして俺はハティの相手をした後、エマちゃんの相手もして訓練は終わった。
「皆おつかれ、結構疲れてるね。ゴーさん! 皆に飲み物お願いしていい?」
「ゴゴ」
3人ともその場に座って一歩も動けていない。
「俺も経験したけど、ライバルがいると1人の時より限界を超えるのが簡単なんだよね」
「エマも今日はいつもと違って疲れているしな」
「ぼく、今日はあんまり皆の役に立てなかったな」
「モルガの片手剣も結構上手かったよ。魔法がメインなら十分だと思う」
「でも、このまま続けてれば皆に抜かれる日も遠くないかなって」
「その時はたぶんモルガに魔法を撃ってもらって、皆には避けてもらうから」
「「「え」」」
「大丈夫大丈夫、まだまだ先だよ。あと、俺が昨日モルガの魔法を避けたけど、魔法の力加減はバッチリだったから、そこは安心して」
俺はモルガの魔法の技術の高さを伝えたつもりだったが、3人とも不安な表情はそのままだった。
「よし、とりあえず明日の訓練はたぶん俺が居ないと思うから、他の武器を試してもらおうかな。槍、短剣、両手剣か大剣、あとは盾とかか? 弓とか魔法の時間もまた今度作りたいね。体術は俺が居る時にやりたいから、最初に言った4つか5つを明日は使ってみて、何となくこれがいいかもっていうのが見つかったら今後はそれを使う感じで」
「分かりました」
「「はい!」」
「あ、勝手にエマちゃんもそのメニューにしたけど良かった?」
「大丈夫です。一緒に訓練するのは楽しいので!」
「良かった」
こうして今日の訓練は解散になったのだが、モニカさんはハティとキプロを呼んでパーティーの話をしようとしている。
「じゃ、最後に何かして、布団貰って、今日は終わりかな?」
俺はハセクさんの手伝いやアイス作りが終わって走ってきたウル達を撫でながら、ログアウトするまでのあと少しの時間をどうするか考えるのだった。