第126話
「うちったらなんてことを」
「わたくしも不注意でした」
「一旦配信切ってきたよ」
「う、うち、本当にすみませんでした」
「いや、俺はもう良いですから」
現在俺達は王国領前のボスエリアの直ぐ側で座っている。
「オリヴィアさんに俺が配信のことを聞けば良かったですね」
「わたくしも皆様にユーマ様が来ることを先にお伝えしていれば良かったです」
「オリりんはなんで僕らに言ってくれなかったっすか?」
「配信中にもわたくし達の先生のような存在ができたという話はしてましたし、サプライズになると思いまして。それにユーマ様が追いつくかどうかは分かりませんでしたから」
「ユーマっちはその本を届けに来ただけ?」
「そうだね。アリスさん達にボス戦のアドバイスがちょっと出来たら良いなとは思ってたけど、前に話はしてたし、こっちはついでかな」
「あたいらもすぐに配信のことを言わなかったのが悪いな」
今回問題なのは、俺がアリスさん達と知り合いだったことや、オリヴィアさんにチャットしていたことではなく、アリスさんが俺の所属しているクランがあると聞いてそのクランに入りたいと暴走してしまったことが不味いらしい。
「まぁ私達はアリスがユーマのファンなのは前から知ってるけど、リスナーはそうじゃないし。何よりこの前のイベントでアリスがユーマのことを知らないフリしてたのも色々言われるかもね」
「うち、ユーマさんに迷惑かけちゃった」
「まぁ起きたことはもうしょうがないし、俺としてはこれからどうするのか考えたいんだけど」
と言ったは良いものの、何もいい案は思いつかない。
「ま、私はアリスが叩かれるのと恥ずかしいのを受け入れられるなら、この状況を乗り切れそうな案は何個か思いついたけどね」
「みーちゃん!」
「皆にもあとで許可が必要だけど、それでいい?」
「僕はいいっすよ」
「もぐるもみるくっちがそう言うなら良い」
「あたいも」
「わたくしもそれでお願いいたします」
「うち、何でもやる!」
「あ、俺も? 俺は何も思いつかないんで、みるくさんに任せるけど」
「じゃあこれで解決。配信再開するからユーマはここに居ないほうがいいかも」
「了解」
ということでオリヴィアさんに初級魔法習得本だけ渡して、ガイル達の居る工房へと戻った。
「あ、ユーマ。いつも急に来て急に居なくなるから……どうした?」
「あれ、ユーマさんどうしたんですか?」
「あぁ、実は……」
ウル達に遅めの昼ご飯を出して、俺はアリスさん達のことと先程起きた事故について伝える。
「なるほどなぁ。まぁアイドル的な売り方をしてないとは言え、男の動画投稿者のファンってのは結構不味いかもな」
「有名な配信者さんばっかりです!」
「俺はもぐるさん以外聞いたこともなかったのに。それにもぐるさんも名前と声だけで配信は見たことないけど」
「おいおい俺でも知ってるぞ。ま、俺もチャットのタイミングが悪かったな。ユーマが出てすぐにすれば良かった」
「いや、それは関係ないよ。俺が声に出さなかったらこんなこと起きなかったし」
「ユーマさんはやっぱり凄い人なんですね」
メイちゃんだけはさっきから少しズレてる気がする。
「まぁみるくがどうにかしてくれるって言ってるんだったら、それに任せればいいだろ。その中だと1番そういうの得意そうだしな」
「まぁそうかも」
「それよりも、そういうことならクランメンバー増えそうだな」
「え、ガイルは今のを聞いてアリスさん達がこのクランに入ると思ってるの?」
「まぁ可能性は高いだろうな」
「しかも高いんだ……」
「私、もし配信者の皆さんが入ってきたら緊張して何も出来なくなるかも」
「メイがここでは先輩だ。有名配信者をあごで使う最初で最後のチャンスかもな」
「そんなことしませんよ!」
「チュン」
とりあえずガイル達にはさっきの出来事を話したので、俺がまたここに呼ばれた理由を聞く。
「あぁそうだそうだ。ユーマを呼んだのはこれを渡したくてな」
そう言って見せてくれたのは以前よりも性能の高い装備装飾品だった。
装備装飾品『敏捷の珠・碧』
名前:敏捷の珠・碧
効果:敏捷+5、器用+2、一部スキル発動速度上昇
説明
製作者メイ:碧い瞳をベースに作られた装備装飾品。敏捷値、器用値、一部スキル発動速度を上昇させる。
装備装飾品『敏捷の珠・紅』
名前:敏捷の珠・紅
効果:敏捷+5、筋力値+2、一部スキル攻撃威力上昇
説明
製作者ガイル:紅い瞳をベースに作られた装備装飾品。敏捷値、筋力値、一部スキル攻撃威力を上昇させる。
取り敢えず俺は敏捷の珠・碧を以前貰った敏捷の珠と交換し、敏捷の珠・紅を武器のスロットへはめる。
これで俺は全ての装備に装備装飾品が付いたことになる。
「ありがとう、なんか前より強くなってるね。それに製作者がガイルのやつもあるし」
「これでもまだまだだが、装備装飾品にこれくらいの性能があれば、武器や防具にスロット部分を作って、武器自体の性能が少し下がっても大丈夫だろう」
「なるほどね」
「でもガイルさんはあまり高く売ろうとはしてないんですよ」
「へえ、ちなみになんで?」
「まずはプレイヤーの鍛冶師達に武器や防具へスロット部分を作る習慣を付けてもらう所から始まるからな。色んなプレイヤーに装備装飾品を売って、スロット付きの装備を鍛冶師に作らせないと話は進まねぇ」
「ガイルの装備を買う人だけ装備装飾品が使えるのは駄目なの? 俺はオーダーメイドだったからNPCの鍛冶師にスロット付けてもらったけど、聞いた感じだとスロット付けたら結構性能下がるって。ガイルはスロット付きの装備はもう結構作ってるだろうし、他の人よりその技術はめちゃくちゃ高いんじゃない?」
するとガイルは長年の気持ちを吐き出すかのように話し始めた。
「俺らが攻略クランで人数も多かったならそれもあったかもな。ただ俺達は今3人しか居ねえし、攻略組でもねえ。何より俺は1度でもいいから鍛冶師として最先端を行ってみたかったんだ。俺よりレベルが高くて強い装備品を作るやつも、俺より貴重な素材を使って新しい装備品を作るやつも、この装備装飾品の存在によって、スロットのない装備品は一昔前の装備として扱われる。これが証明できる状況で、俺は装備装飾品や装備にスロット部分を作ることを他の奴らに隠すなんて出来ねぇ! 最前線攻略組クランの専属鍛冶師にもちょろっと聞いたが、まだ装備装飾品の扱いには困ってるらしいからな。一瞬でも俺が先頭に立つなら今しかないんだ!」
俺はガイルのことをお人好しで大人っぽいゲーム好きくらいに思ってたが、心の奥底には俺がかつて最強になりたいと思っていたような熱い気持ちがあったんだなと、少しだけ嬉しくなった。
「ま、色々恥ずかしいこと言ったがただ自慢したいってだけだ。装備装飾品がこれだけ強いって知られたらすぐに色んな奴が作り出すだろうし、俺自体が凄腕の鍛冶師として居続けられるわけでもないだろうがな」
「そもそもガイルさんが居なかったら私は装備装飾品を作ることなんて出来てませんし、こんなに凄い物を作ることはなかったですから、ガイルさんは最初から凄いです!」
「だってガイル?」
「もうやめろ、恥ずかしいっ」
いつもはメイちゃんに強気なガイルも、今は強く出られない。
「俺はガイル達の好きにしてくれていいよ。思う存分今はガイルとメイちゃんの作る装備がプレイヤーの中で1番なんだぞって証明してもらって」
「元々装備装飾品の存在を教えてくれたのはユーマだからな。特定の宝石を使うと性能が上がるって話を教えてくれたのもユーマだ。あれを知らなかったらまだサファイヤとエメラルドで作ってただろう」
「あとは鍛冶と錬金が出来る工房を使えたことも大きいです!」
「そうだな。だからユーマの確認は取っときたかったんだ」
「せっかくだし2人が作った装備です! みたいなマーク入れれば? その方がもっとインパクトありそうだし」
ガイルとメイちゃんが現段階でプレイヤーの装備製作者の中では1番だと言うなら、このチャンスを逃すわけには行かない。
生産職に光があたることなどほんの僅かしかない。そのチャンスを俺はしっかりと掴み取って、2人には良い体験をしてもらいたいのだ。
「確かにそうだな。それならデザインはもう頭の中にあるから、それを俺が作った装備には入れるようにするか」
「私も装備とは全然関係ないポーションの瓶とかに同じマークを付けても良いですか? 私は武器や防具は作らないので、マークを入れるなら装備装飾品になるんですけど、流石にあの球体には描けないですから」
「あぁ、もちろん良いぞ。後で俺の考えたマークは伝える」
「やった! これで私もコネファンの中なら有名人に?」
ガイルはある程度ゲームに慣れているが、メイちゃんは本当にやって来なかったんだろう。だからこそ見てて面白い部分がいっぱいある。
「じゃあそういうことで」
「あぁ、また来てもらってありがとな」
「私これからいっぱいクランのために頑張りますから!」
「程々にね」
「楽しいので大丈夫です!」
これからガイルとメイちゃんのブランドがコネファンの世界に広がることを期待しながら、俺は少しだけ南の街に行き採取と採掘をして家へと帰るのだった。