第123話
「私は行ってくる」
「ぼくも依頼受けてくるよ」
朝の訓練が終わったあとは、いつも通りモニカさんはパーティーのところへ、モルガは冒険者ギルドへ依頼を受けに行った。
「一応第2陣が入ってくるのは現実の時間で明日の12時からだし、もう王都とか帝都を目指すのは第2陣が来てからで良いか」
冒険者ギルドの話だと、アウロサリバから頑張って1日中歩けば王都には着くと言われていて、ほんの少しだけまだ心の中に第2陣が来るまでに行こうかなという気持ちがあったが、もう諦めて第2陣は関係なくゆっくり目指すことにする。
「そういえば王国と帝国と連合国はあったけど、東の街の先は何があるんだろう」
一応今は進めないっていう噂は聞いたが、いつ解放されるのか気になる。
「まあ良いか、とりあえずクランチャットで2人が今何してるのか聞いてみよ」
クランチャットで気軽に聞けるのは、人数が少ないからこそできる良いところだな。
これが何十人と増えてきたらチャットを気軽にしづらくなったり、チャットが流れてしまって読んでもらえなくなったりする。
「ん、工房まで来てくれ?」
一応アウロサリバのサポーターを雇って、忘れられた森の賢人の宝箱から出た、宝の地図の宝箱を探しに行こうと思っていたが、急ぎじゃないし呼ばれたなら行くしかない。
「行こっか」
「クゥ」「アウ」「……!」「コン」
こうしてクリスタルから西の街へと移動し、カジノ裏の工房へと行く。
「お、ユーマ。わざわざ来てもらってすまん」
「私達のクランに入りたいという方が来たようで」
「え、俺の方は呼びかけも何もしてないけど、なんで?」
「俺とメイがここの工房を2人で使ってるってのは周りの生産職に知られてるんだが、クランを作ったことによって使わせてくれって声はなくなった」
「狙い通りだしそれは良かったけど、それなら尚更なんで加入希望者が?」
「それが他の鍛冶師や錬金術師で集まってるクランの何人かが、こっちのクランに入りたいって言ってきてよ」
「へぇ、まぁそういうこともあるか」
「いや、それはそうなんだが、何人のクランなんだって聞かれて、嘘をつくことも出来なくてよ。正直に3人って言ったんだ」
「あちゃ、まぁ嘘はつかなくて良いけど、ちょっと面倒くさいことになるかもね」
またこの工房を使わしてくれとか、貸してくれって言われてもおかしくないか。
「ん? いや、クランに入りたいって言ってきたの?」
「あぁ、5人以上は居るな」
「全員生産職?」
「あぁ」
一気に5人はちょっと微妙な気持ちもあるけど、ガイルとメイちゃんがもし入れたいなら入れてもいいかな?
「まぁ俺は良い人達なら前向きに考えようかな。一応入団テスト? 面接? みたいなのは形だけでもしようと思うけど。ガイルとメイちゃんはその人達入れたい?」
「いや、俺は正直どっちでも良かったんだがよ。メイがそいつらが集まって話してるヤバい内容を聞いちまったらしくて」
「私、何人も生産職の人達が集まって話してる横を通り抜けようとしたら聞こえたんです。3人なら大人数で入って乗っ取っちゃうか、またすぐ抜けようって」
「正直このクランに入りたいって言ってきた奴らかどうかは分からねぇ。俺が直接見てないし、聞いてないからな。ただ、俺達のクランが3人って話はそこまで多くの人間にはしてない」
なるほど、それはちょっと、うーん。
「メイちゃんはそれ以外に何か聞いた?」
「いえ、私が聞いているとバレたら不味いと思って、すぐその場から逃げました」
「そっか。まぁ一旦今の話は頭の片隅に置いといて、面接だけしようかな。ガイルとメイちゃんは誰かこの人は入れたいって気持ちはない?」
「俺はないな」
「私もないです。そもそも誰が来るのか私は知らないですし」
「それなら後は俺が入れるかどうか決めても良い? もしかしたらメイちゃんの話とは全く関係ない人もいるかもだし」
「あぁ、俺はそれで構わねぇ」
「私も任せます!」
「じゃあ早速『幸福なる種族』へ入団希望の人を、ここに呼んでもらってもいい? 1人ずつ10分くらい時間をずらして呼んでくれたらありがたいかも」
「分かった」
「なんだかクランって感じです!」
「敢えて名前を言ってそれっぽくしたからね」
メイちゃんが嬉しそうにしている間に、ガイルは入団希望の人を呼んでくれた。
「あ、どうも」
「こんにちは」
「クラン長の方ですか?」
「はい。リーダーのユーマです」
「鍛冶師のコウタです」
「どうぞお座りください」
「失礼します」
ガイルとメイちゃんは端の方に居て、今は俺とコウタさんが対面で座っている状態だ。
「コウタさんはなぜうちのクランに?」
「鍛冶師としていっぱい活動したいんですけど、なかなか自由に使える工房が無くて」
「職人ギルドの工房は使ってないんですか?」
「そっちも使ってますけど、やっぱりずっと使い続ける事はできなくて。色々アイテムも置いておける自由に使えるような工房が欲しいなと思ってたら、ここのクランが工房を持っているという話を聞いて入りたいなと思いました」
「どこかに所属していたりはしないんですか?」
「鍛冶師が集まっているクランに一応入ってるんですけど、お金を払って工房を使わせてくれるっていう感じで、いつ抜けても何も言われないと思います」
「なるほど、分かりました」
コウタさんは鍛冶師としてもっと不自由なくやりたいからうちに入りたいということか。
「ではうちのクランに入るのに1000万Gの入団金をいただくと言ったらどうですか?」
「えっ?」
「もちろんすぐには払えないと思いますし、後払いは可能ですよ」
「えっと、このクランもお金を取るんですか?」
「このクランは結成したばかりなので、ちゃんとしたクランハウスがないんですよね。なのでとりあえず今はお金が必要なんです。人数も見ての通り3人ですから、1人あたりの出すお金は高くなるんですよ。後4人入団希望の方が居ると聞いているので、全員入れば1人600〜700万Gくらいで5000万Gのクランハウスが買えますね」
「え、あの」
「無理に何かをやらせることはしませんし、うちは結構自由にやってて良いですよ。ただ、うちもクランなので、お金だったり素材だったり、損得なしの助け合いは必要になります。向き不向きはあるのでそこは考慮しますけど、何かしらクランのためになることをしてもらうとは思います」
「あの、俺、やっぱやめときます。あんまり今お金持ってないんで」
「お金は後払いで良いですよ。それにクランに入ってからコウタさんがどんなことをしたいのかとか、コウタさんがクランに求めることも聞いてなかったですし具体的に聞きたいです」
「いや、大丈夫です! お時間ありがとうございました!」
そう言ってコウタさんは工房を出ていった。
「メイちゃんが聞いた話は頭の片隅に置いておくって話だったのに、滅茶苦茶コウタさんに圧かけちゃった」
「入団金1000万か」
「私払えないです」
「いや、そもそもコウタさんは最初からクランで何かしたいって気持ちがなさそうだったからね。自分が工房を使えて便利だからクランに入りたいってのをずっと言ってたから。本当はもう少し話を続けて、クランに入った後何をしてくれるのか聞きたかったんだけど、最初に圧迫しすぎたかも」
「確かにそれはそうだな。まぁそもそもどんなクランなのかを事前に知らなかっただろうし、ここに来てからもあんまりうちのクランの話は聞こうと思ってなさそうだったからなぁ」
もし俺がクランに入るなら、絶対にクランのことを色々聞くだろう。ほとんど知り合いとかだったら別だけど。
「あ、他の4人が面接行かないってさ」
「じゃあ5人とも繋がってたのか。もしかしたらガイルとメイちゃんこれからその人達に会ったら気まずいかも。なんかごめんね」
「私は話したこともほぼないので気まずさはないですよ」
「俺はむしろ相手が俺達を避けてくれるなら、ここが使いやすくなって良い」
「確かにそうですね」
「なるほどね」
ということでこのクランへの加入者は0人で終わった。
「あ、お金は一応今4000万くらいあるし、一旦2人はそこまで無理してお金を貯めようとしなくて良いからね」
「「え?」」
「じゃあまた何かあったら呼んでね。自分達で頑張るなら応援してるけど、帝国領とか王国領前のボスを一緒に倒して欲しいとかだったら俺も手伝うから」
この2人とボスを倒すなら、ガイルとメイちゃんとピピの3人の枠が埋まって、俺とあと2人しか魔獣は連れていけない。
なので俺は魔獣を家に2人残していくことになるが、まぁ何とかなるだろう。
「じゃあね」
「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」
俺達は固まったままのガイル達に挨拶して、工房を出るのだった。