第122話
「ふぅ、ただいま」
「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」
ずっとログアウトしていなかったので、急いでご飯を食べに帰って、またコネファンへと戻ってきた。
「あ、ゴーさん。ここへ帰ってくる前に職人ギルドで鉱石の加工をお願いしたから、今日はゴーレム作り出来ると思う」
「ゴゴ」
「料理楽しい?」
「ゴゴ!」
人数も増えて料理の時間が増えるだけでなく、人によってメニューも変えているゴーさんには頭が上がらないが、こうもテキパキと楽しそうに料理をされるとこっちも止められない。
「おはよう」
「あ、モニカさんおはようございます」
「顔を洗ってくる。モルガはまだ起きてないのか?」
「たぶんまだ寝てますね」
「もし朝ごはんの時間までに起きて来なかったら私が起こそう」
「お願いします」
今家の中には俺、ウル、ルリ、エメラ、シロ、ゴーさん、モニカさん、モルガの8人が住んでいる。
ゴーさんは食べないし寝ないしでちょっと特殊だけど、本当に多くなったなと思う。
「ゴゴ」
「おお、今日も美味しそうだな」
「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」
ウルには大イノシシ肉をそのまま焼いたものが、ルリにはおそらくフラワー・ビーの蜂蜜がかけられたフレンチトーストが、エメラには野菜スティックと色んな野菜やフルーツがミキサーにかけられたであろうスムージーが、最後のシロは闇ウサギ肉を焼いたものとシカ肉を煮込んだシチューが出された。
「いや、インベントリに入れてるからこれだけの料理を同時に出せるのは分かるよ。分かるけど、それにしても種類が多すぎない?」
「ゴゴ」
「あ、俺の分もありがとう」
「ゴゴ」
焼き魚と味噌汁にご飯、最近肉料理が続いたから魚にしてくれたのかな? それか朝は魚を食べることが多いからそれを見て合わせてくれたのかも。
「美味しそうな匂いだ。まだモルガは起きてないのか」
「そうですね」
「モルガ、朝ご飯だ。皆で食べるぞ」
モニカさんがそう言うと、部屋からパジャマ姿のモルガが出てくる。
「ぉ……」
「ん?」
「ぉ……ぅ」
「あぁ、おはよう。すぐ食べるぞ」
「ぁぃ」
モルガは朝が弱いのか。もうモニカさんとモルガが親子にしか見えない。
「いただきます、うん、美味しい」
「ゴーさん、まだ米はあるか? 無いなら私が今度買ってくるが」
「ゴゴ!」
「では今日の帰りにでも買ってこよう」
「お米ありがとうございます」
「いや、私が今出来るのはこれくらいだからな」
「でもそろそろゴーさんも買い物を覚えたら、それも必要なくなるかもしれないです」
「なに! ゴーさんが買い物に1人で行くのか?」
「一応前に場所は伝えたので、たぶん行こうと思えば今も行けますね」
ゴーさんの話をしていると、ようやく頭が起きてきたのかモルガの声がリビングに響き渡る。
「おいしい! これおいしすぎるよ!」
「それならゴーさんに感謝して」
「ゴーさん、ぼくもうこんなおいしいご飯食べたらどこにも行けないよ」
「たぶんこれからもっとモルガにあった料理を出してくれるようになるから、楽しみにしてて」
「ゴゴ」
モルガは朝弱いけど元気になるのも早いとメモしておこう。
「そうだ、今日はキプロが朝来るかもしれなくて、明日はハティも来る可能性があるんだった」
「エマにも今日その説明をしよう」
「ぼくは今日キプロが朝ご飯食べに来ると思ってたけど、来なかったね」
言われてみれば確かにそうだ。
「まぁそのうち来ると思うし、無理にこっちから言うのはやめておこう」
「そうだね」
「ちなみに今日もし誰も来なかったら、エマを一緒に見てくれるのか?」
「まぁそうですね。モルガもそれでいい?」
「ぼくはそれで問題ないよ」
「ならいくつか訓練用の武器を私の方で用意しておこう」
「ありがとうございます」
皆ゴーさんのご飯を食べ終えた頃、エマちゃんが家にやってくる。
「おはようございます」
「後でエマに話がある。あと今日はユーマとこのモルガがエマのことを見てくれるぞ」
「えっ、どういうことですか?」
エマちゃんへの説明はモニカさんに任せ、俺は少し畑を見に行く。
「あ、そういえば不思議な苗からできた実をまだ使ってないな」
「ユーマ、色々育てているとは聞いていたけど、これは凄いね」
「今はこれ全部ゴーさんがお世話してるんだけどね」
「す、凄いけど、それって良いの?」
「仕事を奪おうとしたらゴーさん怒るんだよね。それか悲しそうにするか」
「ぼくだったら絶対に人に任せちゃう」
「というかこっち来てるけどモルガはエマちゃんに挨拶した?」
「魔術師モルガって言ったらぼくのこと知ってたよ」
やっぱりモルガは有名らしい。
「ちょっと俺は作業するから、先に向こう行ってて」
「分かった」
そう言ってモルガはモニカさんとエマちゃんのいる場所に行った。
「ゴーさん、たぶん不思議な苗の実は1つ残してたら周りに影響を与えてくれると思うし、あとは全部収穫しちゃっていいよね?」
「ゴゴ」
実をつけたまま残しておけば周りに影響を与えると思うので、聖なる果実と幸運の果実、癒しの果実がなっているものは果実を1つだけ取らずに置いといて、他のは全部取ってしまう。
「不思議な苗は1本につき5個だな。普通の果物ができる木は植えとくだけでまた実を作ってくれるけど、流石に不思議な苗はずっと増え続けることは無いよな」
さて、不思議な苗から出来た実をどう使うのか難しいが、こういう時はゴーさんに預けておくに限る。
「てことで持っててもらっていい?」
「ゴゴ」
「一応使う時は言ってほしいけど、最悪同じ種類のものを数個残してるなら、俺に言わなくても使っていいよ」
「ゴゴ」
最初はこういった貴重なものは自分で色々使い道を考えようと思っていたのだが、ゴーさんが来てから考えることをやめた気がする。
「ユーマ、そろそろ始めるぞ」
「あ、すぐ行きます」
ウル達は俺とゴーさんが話してる途中で、ハセクさんを見つけてそっちの手伝いに行ったので、今は俺しか居ない。
「準備運動も終わったし早速始めたいんだが、始めて良いか?」
「はい、大丈夫です。もしかしたら後で来るかもしれないですけど、キプロも毎日は来れないと思うので、こういう時は始めましょう」
「分かった。ではまず私とエマでやるから、ユーマとモルガは見ていてくれ」
「了解です」
「分かった」
そしていつものようにモニカさんとエマちゃんは訓練を始めた。
「モニカは両手剣なんだね。元騎士って言うから盾と片手剣とかが慣れてるのかなって思ってたけど」
「たぶんモニカさんのお父さんが大剣使いだから、それに引っ張られてるってのはあると思う」
「へぇ、なるほどね」
「エマ、もっと堂々と構えるんだ」
「はい!」
「ブレてはいけない、そうだ、攻撃されてもブレるな」
こうしてしばらく続いたモニカさんとエマちゃんの戦いは、エマちゃんの体力がなくなったところで一度終わった。
「ではユーマとモルガに少し戦ってもらおうか」
「え」
「ぼくは魔法でいいの? 武器を使っても全然強くないし」
「あぁ、ユーマがモルガの魔法を避けてくれ」
「俺の意見は」
「これはエマに見せるための戦いだ。モルガも攻撃力のある魔法はやめてくれ」
「分かった」
ということで俺は魔法を避けることになったらしい。
「俺はモルガに攻撃しますか?」
「そうだな、攻撃はしなくて良いが、モルガに近づこうとはしてほしい」
「分かりました」
「ではいくぞ」
「いいよ」
「いけます」
「……はじめ!」
早速モルガは水魔法を正面から飛ばしてくるが、流石にそれは当たらないし、それをおとりにして横から土魔法を当てようとしてるのも見えている。
「おっと、やっぱり風魔法もきてたか」
「今のは全部威力は弱いけど、どれかは当てるつもりだったのに」
「まぁモルガが手加減してくれてるからな。今のを全部同時にモルガなら撃てたでしょ?」
「ぼくだって鬼じゃないからね」
そうは言うが、明らかにさっきより避けにくい魔法攻撃が増えた。
「いやっ、これはっ、ギリギリだな!」
「ユーマ凄い! 全部避けてるよ!」
「あっ、ぶない、っ」
俺の限界を試すように、モルガはさっきから魔法の数とタイミングを変えて俺に当てようとしてくる。
「これは?」
「いやっ、それはマズイ!」
片手剣で魔法は防いだが、俺の身体は地面へと吹き飛ばされた。
「はぁ。まぁ、今はこんなもんか」
「ユーマ大丈夫だった?」
「なんだその嬉しそうな顔は」
「ぼく凄いでしょ」
「あぁ、魔術師モルガ様の一面が見れたよ」
地面についた背中やお尻の土を払い、俺とモルガはモニカさん達のいる場所へ戻る。
「こんなんで良いですか?」
「2人とも凄かったです!」
「モルガの魔法も凄かったが、ユーマの戦闘センスも凄かったな」
「ぼくもそれは驚いちゃった」
「まぁこれは慣れかな。最後の方はほぼ予想で避けてたし」
ウル達もハセクさんの手伝いやアイス作りが少し前に終わっていたのか、俺の方に寄ってくる。
「ウル達にはカッコ悪いとこ見せちゃったな」
「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」
「ぼくユーマを攻撃して皆に嫌われてない?」
「大丈夫大丈夫、訓練ってのはウル達もちゃんと分かってるし」
モルガとの訓練は、ワイルドベアーやホブゴブリンと戦った時を思い出すような、ステータスの限界を少し感じた。
「今日はこれくらいにしようか」
「ありがとうございました!」
「バイバイ」
「結局キプロは今日来なかったけど、明日からはメンバー増えるかもしれないからよろしくね」
「はい、楽しみにしてます」
こうして朝の訓練はほぼ俺とモルガの戦闘を見る会になってしまったわけだが、エマちゃんが満足そうにしてたのでそれはそれで良かったと自分を納得させるのだった。