第116話
「美味しかった。ご馳走様でした」
「クゥ」「アウ」「……!」「コン」
「ゴゴ」
今回の食事で分かったのは、シロは柔らかいお肉が好きだということだな。
なぜ分かったのかというと、ずっと俺と同じようなメニューだったシロが、今回ゴーさんがシロに出したメニューがシロ用に変わっていたからだ。
「じゃあまたあの焼き芋の村に行こうと思ってるんだけど、アウロサリバで少しだけ寄るところがあるから、ちょっと皆には付き合ってほしい」
「クゥ」「アウ」「……!」「コン」
俺は先に皆へ事情を話し、アウロサリバへと移動した。
「あ、どうも」
「こんにちは、どうされましたか?」
「前に清掃依頼をした時に、拾ったア「あ、ユーマ様! 受け取っていただけましたか?」」
俺は冒険者ギルドで少し依頼を受けた後商人ギルドへとやって来たのだが、受付の方の後ろから、この前話した職員さんが出てきて会話に入ってきた。
「急にお金を渡されてびっくりしましたよ。もしかしてどこの商人ギルドに行ったとしても、あんな感じでお金を渡されたんですかね?」
「1000万Gであれば、お金をユーマ様へ渡すようにと情報が回っていればそうですね。もう少し高額になるとどの商人ギルドでも、という訳にはいきませんが」
「てっきりこの商人ギルドで貰うものだと思ってたんですけど、とにかくありがとうございました」
「いえ、こちらこそありがとうございました。アイテムを届けていただいたこともそうですが、待機所がとても綺麗になっていて、商人ギルド職員の間でも話題になってますよ」
掃除で話題になるって、これまでの人はどれだけ雑だったんだろう。
「あの、今から少し遠くの村へ行くんですけど、商人ギルドの依頼で俺にできるものってありますか?」
「基本的にプレイヤー様には商品を運んでいただいた場所で販売したり、職人ギルドや他の場所で作られた商品を代わりに売っていただいたり、お貴族様等の依頼主の要望に応えた新しい商品を探してもらうなどの依頼が殆どですので、今ユーマ様ができる依頼となりますと、配達依頼でしょうか?」
「ならそれでお願いします」
「配達依頼となっておりますが、冒険者ギルドの配達依頼とは違いまして、依頼を受けた商人に自腹で商品を買っていただき、その商品をこちらに指定された値段の範囲で売っていただくことになりますが、よろしいですか?」
「そんな仕組みなんですね」
「はい。こちらの商品をユーマ様自身がお使いになられるのは禁止されています。そしてプレイヤー様に商品をお売りになる際は、指定された最低価格が少し高くなっていますのでお気をつけください」
「分かりました」
「ではこれからユーマ様が向かわれる村を教えていただけますか?」
こうして商人ギルドの人に、あの村に持って行くと売れるだろうと言われたものを少しずつ買っていく。
「ではそちらの売り上げ分がユーマ様の報酬となります」
「分かりました」
「売り切れなかったものは持って帰ってきていただいても構いませんが、消費期限があるものは受け付けておりませんので、ご理解の程よろしくお願いします」
「了解です。じゃあ行ってきます」
これでアウロサリバでしようと思っていたことは全てできた。
「じゃあ依頼で受けたモンスターを倒しながら、あの村を目指して行くか」
「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」
あの村が遠いことは身を持って体験しているため、近くのゴブリンやモルデルウルフ、忘れられたキノコ等を倒しつつ、遠くのモンスターは無視してあの村へと急ぐ。
「つ、着いた」
全てモンスターの対応はウル達に任せ、俺は魔法の手袋をつけて薬草や錬金に使える石を取ることに集中していたのだが、アイテムを探して拾いながら進むのは、モンスターを倒すよりもしんどかった。
「あれ、ユーマ!」
「モルガ久し振りだね」
「久し振りどころかこの村だと会えるのが早いよ。今日はここに来てどうしたの?」
「焼き芋をまた食べに来たのと、商人ギルドで依頼を受けてきたから、ちょっとここで売りたいなって感じかな」
「それならぼくが皆を呼んでくるよ」
「いや、そんなに商品は持ってきてないんだけど」
「大丈夫大丈夫」
そう言ってモルガは村の家を回って色んな人を呼びに行ってくれた。
「おや、また来たんだね」
「また焼き芋が食べたくて来ちゃいました」
「お、それなら焼かないとね。少し待っとくれ」
「あと、焼く前のさつまいもも少しだけもらったり出来ますか?」
「もちろん良いさ。まさかこれほどすぐに来てくれるとは思ってなかったからね。本当に嬉しいよ」
「ありがとうございます」
「ユーマ連れてきたよ」
「ありがとう。皆さんどうぞ見ていってください」
「おや、どれも安いね? こんな値段で売って損してないのかい?」
「ちゃんと商人ギルドで指定された値段の範囲内で売ってますから、安心して買ってもらって大丈夫ですよ」
「なら自分だけ買っても悪いし少しだけ買うよ。ほら皆! 安いから買ってあげな!」
「お、確かに安いな」
「インベントリに入れてきたので、馬車とかは使ってない分安いのかもしれないです」
まぁこれで儲けようとは思ってないし、ほぼ最低価格でしか売ってない。
「なるほどな、これとこれをもらおうか」
「はい、どうぞ」
「あたしもこれ」「俺もこれを買う」「私もそれとその奥の……」……
あっという間に商品はなくなり、村の皆さんには感謝された。
「ふぅ、全部売れてよかった」
「またここまで来てくれただけでなく、商品も安く売ってくれて、本当にありがとうねぇ。焼き芋ならいっぱい焼くから、どんどん持ってっとくれ」
「全然商品を持ってくるのは苦じゃなかったので大丈夫ですから。でも焼き芋はいただきますね」
「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」
ウル達は先に食べているが、やっぱりここの焼き芋は美味しいのだろう。俺もすぐ食べることにする。
「いただきます。うん、やっぱり美味しいなぁ。このさつまいも、なんでこんなに美味しいんですか?」
「美味しいのは水のおかげさ」
「水?」
「ここには栄養満点の水が流れてくるのさ。直接飲むには適してないけどね。水のおかげで美味しい作物が育つ。ここには昔から水を清めてくれるといわれる神様がいてね。もうこの村でも信じてる者は少ないが、うちの娘は神様を信じてた」
美味しい理由は水だったかぁ。
「娘さんが居るんですね」
「……しばらく帰ってきてなくてね。街に出たのかどこかで迷子になったのか、全く分からないのさ」
「それは、心配ですね」
「神様へのお供え物を持っていく途中で、迷子になったか、この村が嫌で出ていったか、だね……」
「そうですか」
もしかしたら忘れられた森の賢人がいた先の、大きなお墓があった所がお供えの場所かもしれないな。お墓の裏の洞窟には水の仕掛けがあったし。
「ちなみにその神様へのお供えってなにを?」
「この焼き芋はよく持っていったけど、他にも作物を持っていけばすぐ食べてくれたのさ」
もうそれはほぼほぼ俺達が行った場所だろう。
「ユーマ、売れた?」
「あぁ、モルガのおかげですぐ買ってもらえたよ」
「良かった。あ、ぼくも焼き芋貰うね」
「あぁ、今日はいっぱい焼いたから遠慮なくお食べ」
「やった! いただきます!」
モルガが来て話が途切れてしまったが、俺は焼き芋を作ってくれる娘さんの話が気になる。
「あの、モルガ」
「どうしたの?」
「しばらく娘さんが帰ってきてないって話、モルガは知ってるの?」
「……ちょっと離れよっか」
ウル達をその場に残し、俺はモルガと少しだけその場から離れる。
「おじさん、たぶんもう娘が帰ってこないって分かってると思う。だって帰ってこなかった次の日に、ユーマがこの前倒したモンスターが出てきたんだよ?」
「てことは奥にあったあのお墓って、娘さんがお供え物を持って行ってた場所なのか」
「そう、たぶんその途中でモンスターに襲われたんだと思う。もちろんこの目で見たわけじゃないから絶対だとは言えないけど、たぶん間違ってないんじゃないかな」
「なるほどな。そのことを本人に言ったのか?」
「村の皆も何回か言ったけど、心が拒否してるんだと思うよ。次の日になったらまた忘れて、ずっと家の前で娘が帰ってくるのを待ってるから」
俺はなんでユニークボス級のモンスターと何もなしに戦えたのか不思議だった。もしかしたら焼き芋に秘密が隠されていたり、この村の誰かと話すことがトリガーとなって、忘れられた森の賢人というボスと戦えるようになったのだと自分を納得させていた。
でも話を聞くとそうではない。やっぱり熱想石が何らかの形であのボスエリアへと入れられ、ボスが生み出されてしまい娘さんが襲われたのではないかと俺は思う。
「確か、あったあった、これだな」
「それは?」
「熱想石だよ」
「きれい」
「これが娘さんが帰ってこなくなった原因だと思う」
「え、その石が?」
「うん。よし、教えてくれてありがとう。俺おじさんと話してくるよ」
俺はこの村へ来ておじさんに焼き芋をもらった恩がある。もしかしたら今から話すことがおじさんを傷つけてしまう可能性もあるけど、俺は娘さんのためにもおじさんのためにも、真実は伝えておきたい。
「あの、娘さんの話をしても良いですか?」
俺はずっと家の前で娘を待つことしか出来なくなったおじさんに真実を伝えるため、焼き芋を焼くおじさんの横へと座ったのだった。