第109話
「これはこうで、これはそのままでいっか。よし、オッケー!」
俺はさっき起きたのだが、寝る前にまだ作られていなかった動画の確認を済ませ、AIさんにしっかりとアリスさん達の家に入ったシーンを動画化されていたため、今後の俺の動画活動のために全て切り取った。
これで少なくとも俺の動画にはあの女性配信者達のファンに羨ましがられる様な部分はない仕上がりになっただろう。
あるとすればアリスさんが俺の動画を昔から見ていたという発言が少し載っていることと、俺が最前線攻略組を抜けた理由について2人で話したシーンくらいか。
「皆で食べたのは楽しかったなぁ」
家で色んな人と料理を食べながら会話をしたが、酔っているフカさんが暴走してターニャさんとエマちゃんに抱きつきに行ったのは凄かった。
ターニャさんとエマちゃんにビンタされてノックアウトしたあとは見てないけど、たぶんセバスさんもそのタイミングで居なくなったから家に連れて帰られたのかもしれない。
「あとはゴーさんも凄かったな」
モニカさんが言っていたゴーさんが最後に作っていたものは、さつまいもを使ったスイートポテトで、俺に渡してきた時のゴーさんは真剣そのものだった。
もちろんさつまいものアイスを朝俺が食べた時からずっと頑張っていたんだろうことはすぐに分かったし、だからこそこれを食べて普通の味だった時はどうしようかとも思った。
でも、俺のそんな心配は必要なく、お世辞抜きでゴーさんの作ったスイートポテトはあの村で食べた焼き芋と同じくらい美味しかった。
まぁゴーさんの1日の努力が詰まったスイートポテトと、ただの焼き芋で同じくらいの美味しさって、どれだけあの焼き芋が美味しかったんだって言う話でもあるのだが。
とにかく俺の心からの美味しいという言葉を聞いたゴーさんは満足してくれたので、今日ログインした時に家の中が料理だらけなんてことは無いだろう。たぶん。
「よし、じゃあログインするか」
俺は動画の確認を終えコネクトファンタジーの世界に入るため、カプセルベッドの中へと急ぐのだった。
「おはよう」
「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」
今の時間は夜の21時。現実でも23時だったのでゲームと現実の時間のズレはあまり感じない。
「ちょっとご飯食べるから待ってて」
「クゥ!」
「ん、どうした?」
「クゥ!」
ウルがご飯を食べている俺に何かを渡してくる。
「お、これはピアルの実か?」
「クゥ!」
ピアルの実は見た目が梨なので、おそらく味も梨なはず。
「収穫できたんだな。持ってきてくれてありがとう」
「クゥ」
焼き魚を食べた後、デザートにもらった梨を食べたが、予想通り梨の味で美味しかった。
「取り敢えず今は夜だしどうしようかな」
しばらく今から何をしようか考えるが、すぐに何か思いつくわけでもなかったので、鉱石や植物、この時間にしか取れない骨粉などを取りに行くことにする。
「あ、また雨だな」
「クゥ」「アウ」「……!」「コン」
前に一度雨が降った時はいつの間にか晴れていて雨に打たれることはなかったが、今回はスケルトンアニマルを倒している最中に降ってきたため、雨が視界を更に悪くさせなかなか鬱陶しい。
「一旦帰るか」
「クゥ」「アウ」「……!」「コン」
夜で周りが見え辛い上に雨が降ってくるなら、流石に探索を続けることは出来ない。
「でもこれならサポーターを雇わなくて正解だったな」
一応冒険者ギルドに寄った時はサポーターが何人か居たが、採掘とスケルトンアニマル狩りと石や植物系の採取をするつもりだったので、採掘と採取の能力がある人が居たら雇おうと思っていた。
しかし、何人かのサポーターに聞いても俺の希望する能力を持っている人は居なかったので、結局サポーターを雇うことなく街の外に行ったのが結果的に良かった。
「あ、また帰ってきた」
おそらく雨のせいで中止になったパーティーが、続々と冒険者ギルドに帰ってくる。
「今の時間は切り捨てじゃなく、しっかりと払ってもらわないと困る」
「はぁ? 超えたのはたったの数分だろ?」
「雨が降ったのはそのタイミングだったが、ここに帰ってくるまでのサポートもしたし、少なくとも30分はそれからプレイヤー様のサポートをしたぞ」
「はぁ、ならきっちり半額払うからそれで良いだろ?」
「まぁ、それなら良い」
「俺達は雨のせいで採取ポイント2つしか回れなかったのによ、なんで……」
目の前で1人のサポーターがパーティーから解雇されるのを確認した俺は、すぐそのサポーターに声をかける。
「すみません、サポーターさんはまだ今日サポーターをする予定はあります?」
「え、俺ですかい? 本当は朝までの予定でしたが、雨も降ってますし今日はもう帰ろうかと思ってたんで、でももし行くなら今からでも全然付き合いますよ」
「良かったです。実はあのパーティーから離れるまでのあなたの会話を聞いてたんですけど、採取って出来ますか?」
「あぁ、そうだったんですね。俺は採取と採石のスキルを持ってるので出来ますよ。それよりもさっきの会話を聞かれてたのは恥ずかしいな」
そうサポーターさんは言うが、俺は何も恥ずかしいことなど無かったように思う。
「どこも恥ずかしい所はなかったと思いますけど」
「いやね、最後の1時間分のサポート料をプレイヤー様にしつこく言ったのを聞かれてたなら、恥ずかしいなと思いまして」
「別にあれは当然の権利だと思いますし、良いんじゃないですか?」
「俺も本当はあれくらいのサポート料は無かったことにしても良かったんですけどね。でも俺があれを許したら、また他のサポーターに同じ事をされた時、良くない前例を作っちまいますから」
「なるほど、確かにそれはそうですね」
このサポーターさんは他のサポーターよりも少し年齢が高めで、今見える周りのサポーターと比べてもちょっと珍しい存在だった。
「あの、失礼なことを聞いても良いですか?」
「答えたくないと思えばそう言いますし、まずは聞いてみてくださいよ」
「あの、サポーターさんって今居る他のサポーターよりちょっとベテランに見えるんですけど、結構若めの人しかここでは見ないんですよね。何か理由があったりしますか?」
「ベテランじゃなくて他の人より歳をとってるだけですがね。質問の答えですが、ここはプレイヤー様の街ですから、プレイヤー様のサポーターをしたいと思った者が多くやって来るんですよ。そして年齢が高い者は基本的に専属のパーティーが居たり、いくつか決まったパーティーのサポーターをすることがほとんどです。俺のような年齢でブラブラしてるのは珍しいんでしょうね。なんか話してて悲しくなったんで、後で慰めてもらわないと」
「ご、ごめんなさい」
「嘘です嘘です。俺はもう半分趣味でやってますから。こう見えてサポーターの講習とかしてるんですよ?」
申し訳ないですけど、全然講習してそうに見えます。
とそんなツッコミを1人心の中でやるんじゃなくて、今聞いたサポーターの話の続きを聞く。
「話を戻しますけど、若者はこれからの人生を共にする仲間をまだ見つけられてないんです。もし居るならここに来ないか、来たとしても仲間と一緒に来るはずなんで。歳を重ねれば重ねるほど、家族や恋人、昔からの友達と離れてまでここに来るには大きな理由が必要になる。そうなるともう重い腰が更に重くなって、地面にへばりつくんですわ」
「なるほど」
「まぁこれは自分で歳をとってから実感してください」
今までこんなにもNPCの年齢を感じさせる会話があっただろうか。
「そうだ、そろそろプレイヤー様の名前を聞いても良いですかい?」
「あ、すみません。俺はユーマです。俺もサポーターさんの名前を聞いても良いですか?」
「俺はバンって名前です。何か物が破裂したような名前でしょ?」
「えっと、そうですね」
「何ですかい? そのお腹いっぱいの時にする苦しそうな顔は」
バンさんのことを最初はもっと静かで仕事人って感じの人かと思ったのに、意外と面倒臭い感じの人だったので、これから長時間一緒にいることを想像して嫌な顔をしてしまった。
「バンのせいでお腹がパンパンってか。あ、また面倒臭いなって顔したな。そんな顔したら俺がカンカンに怒ってお前をぶん殴るぞ、なんてな。ガハハハッ」
最初は採取スキル持ちで、他のサポーターよりも年齢が高いベテランサポーターを雇えたことに喜んでいたが、今は本当に少しだけ後悔の気持ちが顔を出し、誘って良かったと思う自分と、後悔の気持ちが俺の中で戦っていた。
あとバンさん、冗談なのは分かってるんですけど、笑顔でぶん殴るぞと言われるのは、ちょっと怖かったです。