第106話
「えっと、本当に良いの?」
「私は教えて欲しい」
「もぐるも」
「僕はみるるんともぐるんが言うなら合わせるっす」
「わたくしも皆様に合わせます」
「あたいはちょっと自分達で進めていく楽しさが無くなるのは勿体ないと思うが、これから山程初見のモンスターを相手にすることになるって考えたら、別に良いぜ」
「うちはそもそもユーマさんの動画見てますし、知ってるモンスターも多いです。それにうちはユーマさんに教えてもらうことが出来るこの時間を大切にしたいので、どんどんモンスターの特徴を教えてもらって倒したいですし、何よりユーマさんと一緒に攻略したいです!」
若干1名熱量が違う気がするが、全員俺がネタバレを含む戦い方を教えることに異論はないらしい。
「じゃあ気をつけないといけないこととか、弱点とかも全部言っていくから、どんどん倒してこうか」
針鼻モグラやアイアンスパイダー、ブライトゴリラが出てくる場所に着いた俺達は、それぞれのモンスターの注意点を伝えた後、早速狩っていってもらう。
「針鼻モグラはヒナタさんとみるくさんのリーチの短い武器持ち2人と相性悪いから、他の人が助けないと。魔法か弓で倒すのが1番だけど、取り敢えずアヤさんがタゲ取って上げて!」
「分かった」
「ブライトゴリラは仲間を呼ぶから見つけたらすぐ倒さないと。火力を集中させて一気に倒し切る! それが出来るのはもぐるさんとアリスさんだから、2人の息を合わせて」
「もぐるが合わせる」
「息を合わせて、一気に倒し切る!」
「アイアンスパイダーの攻撃は前衛が避けてあげて後衛に余裕を持たせないと。時と場合によるけど今は自分で倒し切ろうとするんじゃなくて、仲間が倒しやすいように考えて。今はヒナタさんとみるくさんの2人で攻撃を避けるよ!」
「おっす!」
「簡単に言うけど、ユーマにはたぶん本当に簡単なことなんでしょうね! 私盗賊って自由に動いて良い? って聞いて、良いよって言われたのに、自分ならその自由な時間で仲間の戦いやすい環境作りをするなんて言われて、自由なら好き勝手動ける! って思った私が恥ずかしいじゃない!」
「みるるん、何の話をしているのか分からないっす。けど、取り敢えず口じゃなくて僕達は身体を動かさないといけないっす!」
「分かってる!」
「この状況だと1番攻撃を受けそうなのは前衛3人の中でもアイアンスパイダーの相手をしてる2人だから、その2人に回復できるギリギリの距離に移動して待機。もし攻撃手段があるなら、先に移動してから攻撃がいいと思う」
「分かりましたわ。わたくし皆様のために頑張ります!」
こうしてアドバイスをしたあとは、モンスターを倒す皆を少し遠いところから見ている。そしてウル達にもこうやって色々教えて、今では随分強くなったなぁと感慨に耽っていた。
「そもそもアリスさん達のレベルだと、ちょっと同時に相手する数が多くても、この辺の敵は倒し方さえ分かれば余裕だろうしなぁ」
最初と比べると随分スムーズに倒せるようになったため、ここから更に進むことを提案しに行く。
「じゃあ次は森クラゲと四つ首トカゲ倒しに行きますか」
「森クラゲ? もぐるはクラゲ苦手」
「四つ首なんて強そうだぜ」
もうネタバレの了承は得ているので、しっかりと敵の特徴を伝える。
「もぐるさんは森クラゲとの相性が良くないし、四つ首トカゲの方を積極的に狙おっか」
「分かった。もぐるは四つ首トカゲ」
「今回森クラゲは前衛組に任せるつもりなんだけど、一応アリスさんは四つ首トカゲだけじゃなくて森クラゲのカバーの意識も持っておいて」
「はい! うちは火力集中と森クラゲのカバー。うちは火力集中と森クラゲのカバー」
「オリヴィアさんはいつも通りの意識で、前衛はさっき教えたモンスターの特徴を頭に入れながら戦おう」
「分かりましたわ」
「おっす!」
「分かったぜ」
「了解」
今回の敵は皆にとって格上の相手だし、数が増えれば確実にやられるだろう。
「どうなるか分からないけど、一応ウルとエメラとシロはカバーの準備だけしてて」
「クゥ」「……!」「コン」
「もしカバーが必要になってもルリは俺とお留守番な」
「アウ」
ウルとエメラとシロは魔法が使えるし、ウルは更にスピードもあるからすぐカバーに行けるだろう。
逆に俺とルリは遠くの敵を倒しに行くのはステータス的にも戦い方的にも少し苦手なので、大人しくお留守番だ。
「おー、結構頑張ってる」
「クゥ」「アウ」「……!」「コン」
「四つ首トカゲはもう僕1人じゃ抑えられないっす!」
「私も森クラゲ2体引きつけて逃げてるから無理!」
「あたいも森クラゲ1体を相手するので精一杯だよ!」
「ヒナタ様とアヤ様の回復がこのままだと間に合わなくなります!」
「四つ首トカゲにもぐるの攻撃全然効かない」
「うちは火力集中、森クラゲのカバー。うちは火力集中、森クラゲのカバー。うちは……」
「なんかアリスさんだけテンションがおかしいけど、1番動けてるのはアリスさんなんだよな」
俺から事前にどういうモンスターなのか教えてもらってもこのピンチだ。いかにこのモンスター達が強いか証明された。
ただアリスさんだけは愚直に俺の言ったことを守り、もぐるさんが四つ首トカゲに攻撃する時は一緒に四つ首トカゲを狙い、それ以外の時間は森クラゲを攻撃している。
おそらくアリスさんの森クラゲのカバーがなければ今頃アヤさんは倒されてるし、みるくさんも2体の森クラゲを引き連れて逃げ回ることも出来なかっただろう。
「じゃあそろそろ四つ首トカゲは倒してあげて。あとエメラとシロは皆が森クラゲを倒し終わったら回復もしてあげて欲しいから、あの近くで待機で」
「クゥ!」「……!」「コン!」
「うぉぁ!? ってユーマの魔獣か」
「クゥ!」
「もぐるの水魔法で濡れた敵が凍ってる?」
「コン!」
「あの狐の魔獣様も水魔法を使っていますわ!」
「皆! ユーマさんの魔獣が四つ首トカゲだけを倒したって事は、森クラゲはうちらで倒してってことだよ!」
「私の予想とは違って、もしかしてユーマって結構鬼なのか?」
「あたいの森クラゲはそろそろ倒せるぜ!」
「僕は手が空いたからそっちを助けに行くっす!」
「クゥ」
「お疲れ様。あの感じだとエメラとシロも帰ってきて良かったかもな」
ウルは帰ってきたが、エメラとシロはまだ現場の近くで待機している。
「倒したっす!」
「やった」
「私、疲れた」
「あたいもだ」
「わたくしも少し休憩したいですわ」
「うちは火力集中、森クラゲはカバー。うちは火力集中、森クラゲは、ってもう倒したなら大丈夫か」
「皆お疲れ様、結構良かった気がするよ。エメラ、シロ、回復はお願いね」
「……!」「コン!」
エメラとシロの回復を受けて、全員の体力が全回復する。
「あと1体四つ首トカゲ亜種っていうデカいモンスターも居るんだけど、それに出会った時は皆で頑張って倒してね」
「ちなみにユーマはどうやって倒したの?」
「俺はウルと2人で倒したよ。大丈夫、四つ首トカゲが倒せたら亜種も倒せるよ」
「あたいは今回戦ってみて、ユーマの凄さが分かったぜ。アリスの言ってたことは本当だったんだな」
「そうでしょ? アヤちゃんもやっと分かってくれたかー」
「私は逆にユーマが怖くなった。この敵を初見で倒したって考えると、やっぱり最前線攻略組は私達とは違うんだなって」
「もうそこは慣れだからそんなこと無いと思うけどね。よし、じゃあそろそろ休憩は終わりにして、帝国領のモンスターも倒しに行こっか」
俺がそう言うと皆が俺を見て固まった。いや、1名を除いて皆が固まった。
「ユーマさん、もしかしてまだ一緒にやってくれるんですか?」
「流石にこの先のボスを今日倒すのは無理だろうし、帝国領もここと同じようにボス前までは教えようかなって思ったんだけど、どう?」
「ぼ、僕はいけるっす!」
「もぐるもやる」
「わたくしも頑張れますわ」
「あたいもまだ大丈夫だ」
「私は、まぁ、行けるかな?」
「全員行けるということなので是非お願いします!」
正直アリスさんの動きは1番良いから、他の人達の都合に合わせようと思ったんだけど、これだと断る雰囲気でもないか。
「まぁ無理しないで行こうね。まだ第2陣が来るまでの時間はあるし」
「ユーマさんに教えてもらえるのは今日しかないですから!」
「あはは、まぁ皆ほどほどに頑張ろう」
こうしてアリスさんがパーティーメンバーを引っ張り、俺達は帝国領へと移動するのだった。