第105話
「だからうちは家にユーマさんを入れなかったの!」
「でも外で待ってても誰かに見られた可能性があったでしょ?」
「それはそうだけど、絶対に家から出ていくのを見られた方がユーマさんに迷惑かかるし」
「ならアリスが止めればよかったじゃん」
「みーちゃんがユーマさんを家に入れるって言ってくれたのが嬉しくて。ちょっと話してお別れするつもりだったけど、うちが何も言わずに放っておいたら家の中に連れてってくれそうだったから。うちもユーマさんには色々聞きたいことあったし」
「うわ、アリスがユーマのファンガールなの忘れてた」
「(そんなにおっきな声出してうちがファンなの本人の前で言わないでよ!)」
「いや、あれだけ長文のマシンガントーク披露してそれはない」
アリスさんとみるくさんが俺をここから安全に出す作戦を考えてくれるらしいので、その間に他の女性配信者の人達と交流を深めておく。
「もぐるさんは何の魔法を使うの?」
「もぐるは水の魔法が好き」
「確か違うゲームでコラボしてた時も、水魔法に関係するアイテムだったような」
「ユーマっちもぐるのこと知ってるの?」
「残念ながらここにいる誰の配信も見たことはないけど、俺のやってたゲームとコラボしてたから名前と声だけは知ってた」
「そうなんだ、嬉しい」
「水魔法なら火属性のモンスターは敵無しだろうし、他のゲームと使用感は違ったとしても慣れてそうだね」
「ユーマっちは魔法使わないの?」
「俺には魔獣がいるからね」
「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」
ルリは魔法を使わないんだけど、まぁ1人だけ返事をしないのもそれはそれで仲間外れみたいで嫌だよな。
「うっし、もぐるんの次は僕っす。格闘家はどうやったら強くなれるっすか?」
「このゲームは結構武器と防具が重要そうだから、早く格闘家にあった装備を見つけるところからかな」
「もしかして格闘家って微妙なんすか?」
「いや、そんなことはないと思うよ。このゲームは今のところバランス良く出来てるなって思うし、格闘家が弱いなんてことはないと思う。ただオークションの時に感じたけど、やっぱり剣とか杖とか槍とかは多く出品されてたし、そういうメジャーな装備の方がモンスターからのドロップ率も高いんだと思う。まぁこれは完全に勝手な予想だから気にしなくていいけど。で、プレイヤーの鍛冶師が格闘家のための武器を敢えて作ることなんて無いと思うから、結構装備集めが大変そうだなって思っただけ」
「そっか。でもそれならアヤりんに作ってもらえば良いだけだし、何とかなりそうっすね」
そういえばアヤさんは鍛冶師って言ってたし、ヒナタさんが格闘家として強くなれるかどうかはアヤさんの腕にかかってそうだ。
「わたくしも良いですか? ヒーラーとして皆様を回復したいのですが、なかなか思うようにヒールを回すことが出来ず困っているのです。それに皆様が攻撃を受けないことが1番良いのですが、そうなると私の出番がなく暇になってしまいまして」
「ヒーラーが良く悩むことなので大丈夫ですよ。結構立ち位置が難しいんですよね。自分だけじゃなくてパーティーメンバーにもこれくらいの範囲しか回復できないって事前に話しておくのは大事ですし、敵の数や強さによって自分の位置を調整する必要があります。基本は前衛の人に回復が出来るギリギリの距離を自分の立ち位置の目安にするといいかと。そして暇な時間ですけど、パーティーへのバフとかかけてもすぐ終わりますもんね。たぶん弓のような遠距離武器を新しく持つか、魔術師ギルドで魔法を覚えるかですね。コネファンはMP消費のような概念がないですし、オリヴィアさんも攻撃できる時はどんどん攻撃するのがいいと思います」
「ユーマ様に言われたことを意識して頑張ってみますわ」
「あたいも教えて欲しい。ユーマはテイマーでありながら前衛もやるって聞いたんだ。あたいも鍛冶師で前衛向きの職業じゃないが、戦う時は刀を使ってる。どうすれば生産職のあたいが戦闘職に勝てる?」
「そもそも勝ち負けの話で言えば、厳しいことを言うと生産職が戦闘職に勝とうと思う時点で間違いかな。じゃないと戦闘職の意味がないからね。でも、このゲームは生産職でもサブ職業みたいに少しは戦闘職のスキルが使えるから、それを上手く使うしかないかも。結局戦闘職と比べて使えるスキルの差はあっても、プレイスキルでどうとでもなる範囲だし。もしかしたらこれから先複数の職業に就けるようになるとかあるかもしれないし、その時は戦闘職をお勧めするかな。いや、まぁ流石にそんなことは無いか。けど、戦闘職以外の人が戦いやすくなる調整は入るかもしれないね」
「そうか。確かに生産職が戦闘職のスキルを全て使えたらズルいのはそうだ」
「まぁ純粋な戦闘職以外はスキルが使えない分プレイスキルを磨くしか無いね」
「あたいは皆の派手な戦闘スキルを見て少し弱気になってたようだ。はっきりと言ってくれて感謝するぜ」
こうして4人と話している間に、あちらの2人も作戦が決まったらしい。
「皆で先に家を出て、その後ユーマさんには家を出てもらいます。もしこの家を見ているプレイヤーが居たとしても、うちらが出ていけばそっちを追いかける可能性が高いので。そしてユーマさんが出てもいいとこちらで判断したタイミングでチャットを送るので、その時は素早く出てください」
「ユーマとは一度別れて、街の外で待ち合わせでお願い。そこで皆の戦闘を見てもらったり、色々教えてもらうことになったから」
「あの、うちらでここまで決めてしまいましたけど、ユーマさんは大丈夫ですか?」
「取り敢えずここを無事に出られたらそれで良いです。外で皆さんに少し教えるくらいなら何も言われないでしょうし、何より一目で俺が皆さんとパーティーを組んでいないことは分かりますから」
「クゥ」「アウ」「……!」「コン」
と言うことであっという間に皆家を出ていき、俺1人がこの家に残された。
「お、来たな」
アリスさんから合図が来たので、俺達はすぐに家を出る。
「あ、ユーマ様こんにちは」
「あ、カーシャさん、こ、こんにちは」
プレイヤーにバレないようにと思っていたが、そういえばカーシャさんがここの向かいに住んでいたのを忘れていた。というか出てくるタイミングが悪すぎる。
「ここで何をされてたんですか?」
「いや、ちょっと友達に呼ばれて」
「そうでしたか。あ、新しい魔獣ですか?」
「そうですね」
「ちなみにあれからモニカさんとはどのよう……」
「俺急いでるんで、ごめんなさい!」
「あぁ、ユーマ様! モニカさんとどこまで進んだのか詳しくお話を!」
ある意味カーシャさんが俺とモニカさんの関係にしか興味がなくて良かった。もしシロの話を続けられたら流石に無視するのは申し訳ないし。
とにかくこれで一応プレイヤーには誰にもバレることなく、あの女性配信者達の住む家を出ることが出来たと思う。
「あ、ユーマこっちだよ」
「ユーマさん、さっき皆にアドバイスしてたの少し聞いてましたから、うちにもお願いします!」
みるくさんとアリスさんを見つけ、俺達は一緒に他のメンバーが居る場所まで歩く。
「アドバイスっていってもそんなに大したこと言ってないですよ。聞かれたことに答えただけって感じで」
「じゃあ私からユーマに質問。盗賊はパーティーの1番前を行く方がいいのか、それとも前は他に任せて1人で行動するほうがいいのか」
「盗賊は基本的に自由に動いて良いと思う、かな。パーティーの前衛が足りてないなら前に居てあげないと駄目だけど、基本は1人で行動する方が良いかなって。ただ、罠が出てきたりすると話は変わってきて、盗賊が先に行って安全かどうか確かめて、その後ろを仲間がついてくる形になるからそこは絶対に盗賊が前。でも今はそんなことしなくていいから自由にしたら良いんじゃないかな」
「そっか。ちなみに仮の話なんだけど、ユーマが私の代わりで今のパーティーに入ったとして、盗賊をするならどう動く?」
「皆の動きが分からないから何とも言えないけど、周りのモンスターのタゲを引いてパーティーメンバーが攻撃できる範囲まで連れてくるかな。俺の思う自由な時間の使い方はパーティーメンバーが戦闘しやすい環境作りだから。前衛と後衛が攻撃出来て、後衛がモンスターに狙われないような位置に相手を持ってくるのを頑張る、で答えになってる? もしかしてボス戦とかの話だった?」
「ううん、大丈夫、なるほどね。参考にできるかな?」
みるくさんはそう言うと他のメンバーがいる場所へと走っていった。
「う、うちはその、アドバイスと言うか、質問というか、気になってることを聞きたくて」
「俺に答えられることなら何でも良いですよ」
「あの、全く関係ないことでもいいですか?」
「え、まぁ答えられることなら」
アリスさんは俺の動画の視聴者だからこそ、こんな確認をされると何を言われるのかドキドキする。
「あの……何で最前線攻略組を抜けたんですか?」
なるほど、確かにこれは昔から俺を知ってる人は気になるだろう。
「もし期待を裏切ってしまったのならごめんなさい。本当に簡単に言うと、ゲームをするのが辛くなっちゃって」
「確かにここ数ヶ月のユーマさんの動画は昔より元気がなかった気がします」
「まぁそれで辞めたのに、今もゲームしてるんですけどね。結局趣味がゲームなのは変わらなくて、攻略じゃなくて楽しむために今はやってる感じです」
「そうだったんですね。うちが聞きたかったことは聞けました」
「あの、今のって結構気になってる人もいる気がするんで、動画で出しても良いですか?」
「え、私がユーマさんの動画に!?」
「今は別に攻略動画じゃないし、ここで出会ったプレイヤーの名前は動画化される時にAIの方で隠されてると思うから、アリスさんも隠すなら隠すで良いんですけど。たぶんアリスさんも見てくれたと思うんですけど、このゲームで知り合った鍛冶師とか錬金術師のプレイヤーも居たでしょ?」
「確かに居ましたね。これまでのユーマさんの動画なら絶対に出られないような、全然強くなさそうな人達」
アリスさんのすごい辛口コメントがガイルとメイちゃんに刺さっている。勿論アリスさんがガイルやメイちゃんのことを嫌いなわけではなくて、事実を言ったら言い方がきつくなっただけなのは分かる。
「アリスさんは配信者だし、たぶんAIの方でもアリスさんの名前は隠さないでそのままさっきの会話を動画化してくれると思うんだけど、どうですか?」
「全然大丈夫です!」
「良かった、ありがとう」
こうして動画にする許可をもらい、パーティーメンバーが居る場所までアリスさんと歩いていくのだが、途中で弓使いとしてのアドバイスも求められ、なんとなくアドバイスは他の人と合流した後にすることではないという雰囲気で、俺達は亀のようなスピードで皆の元へと歩くことになるのだった。