第104話
「あの、本当に大丈夫ですよね?」
「誰かに見られたら噂されるかも」
「やっぱりやめましょうか」
「嘘です嘘です! あと少しでメンバーが来るので、もう少し待ってください!」
俺達は依頼を頑張ったご褒美として、ウル達が選んだアウロサリバのお店でお昼ご飯を食べたあと、1回も行ってなかったキプロのお店へ行くために、北の街のクリスタルへと移動した。
するとそこには昨日モニカさんと一緒に居た時に出会ったアリスさんが丁度目の前で立っており、声をかけないのもどうかと思って話しかけると、そのまま少し話をしながら歩くことになり、気が付いた頃にはアリスさんの家の前に居た。
「お待たせアリス、その人が元最前線攻略組の人?」
「そうだよ。みーちゃんも失礼のないようにね」
「了解。私はみるくって名前で配信してるんですけど、アリスが前からこの人凄いってうるさかったから、やっと会えてちょっと感動してる」
「え、アリスさんと初めて会った時は俺のこと知らないような感じだったけど」
「それはアリスも配信して長いからね。迷惑かけないようにその場では知らないって嘘ついたんじゃない? 流石に元最前線攻略組でも知らない人にフレンド登録はお願いしないよ」
どうやらアリスさんは俺のことを結構前から知っていたらしく、みるくさんも俺のことをアリスさんから色々聞いていたと言う。
「ごめんね。寝坊して昨日はアリスっちにイベント全部丸投げしちゃった」
「仕方ないよ。収録長引いて大変だったんでしょ?」
また1人家から出てきたのは、俺も聞いたことがある声の女性だった。
「あ、もしかしてVチューバーの海栄もぐるさん?」
「あ、流石にもぐるは知ってるんだ」
「ゲームのコラボしてたから名前と声は一応聞いたことあるかな。配信は見たことないけど」
「アニメは見たこと無いけど、自分のやってるゲームとコラボしたアニメのキャラクターだけ知ってるみたいな感じだ。普通もぐるくらい有名なら配信見たことある人多いと思うけどね」
「俺はゲームばっかりでそれ以外のことはあんまり知らないから」
「あ、アリスっちが良く言ってるユーマっちだ」
「ゆ、ユーマっち?」
「もぐるは人の名前を呼ぶ時大体こうだから」
「みるくっちもおはよー」
「おはよう。もぐるは今日からゲームできるの?」
「うん! やっとコネファンに全力出せる!」
「じゃあアリスお気に入りのユーマに色々教えてもらおっか」
「ユーマっちお願い」
「お、俺? ちょっとメンバーに会って欲しいってアリスさんに言われて、待ってただけなんだけど」
「まぁまぁそんなこと言わずにちょっと教えてくれればいいだけだから」
「もぐる達は王国領と帝国領に第2陣のプレイヤーが来る前に行きたいの」
「だから元最前線攻略組かつアリスの推しメンのユーマに教えてもらいたいってわけ」
アリスさんが家に入ったっきり出てこないため、みるくさんともぐるさんが勝手に話を進めていく。
「あ、みーちゃん! もぐちゃん! ユーマさんごめんなさい。2人ともユーマさんが困るようなこと言わないの」
「でもアリスっちが1番ユーマっちに教えてもらいたいって普段言ってるよ?」
「アリスが連れてこなかったらそもそもユーマが困ることもなかったよ」
「そ、それはたまたま会って、折角なら少しお話したかったから」
「あの、俺はもう最前線攻略組じゃないですし、見ての通りテイマーですよ? 皆さん配信者の方ですし、俺なんかより他に上手に教えてくれる人は居ますって」
「あ、ユーマっち、それは駄目」
「ユーマ、それだけは言ったら駄目なのに」
「えっ?」
みるくさんともぐるさんの焦った声が聞こえたかと思えば、少し静かだなと思っていたアリスさんが堰を切ったように話し出す。
「ユーマさんは最前線攻略組でなくても凄い人です! 今はコネファンで忙しいのでユーマさんが投稿されている動画を全て追えている訳ではないですけど、少なくとも黒の獅子をウルちゃんと2人で倒すのは誰にでもできる事ではありません! というかそもそもその前のワイルドベアー亜種を倒せたのがおかしいんですよ。装備が整っていればユーマさんなら倒せると思いますし、というかうちはユーマさんの実力なら絶対倒せると思いますけど、あの装備で倒し切るのはユーマさん以外にできるはずありません! ルリちゃんが仲間になってからはパーティーとしての安定感が増して、ユニークボスを倒した時は本当に感動しました。ユーマさんっていつも珍しいボスとか見つけますよね。というかあのカジノの勝ち方どうなってるんですか? ユーマさんって昔からゲーム内のギャンブル要素に強いイメージはありましたけど、それでも勝ち過ぎです! エメラちゃんが仲間になったあとカジノに行った時も皆勝ってましたし。あと、あのオークションの動画とかも本当にあのまま載せて大丈夫ですか? 元々ユーマさんの動画を見ている視聴者は大丈夫だと思いますけど、コネファンから見始めた人達の中には、絶対にルールを無視してユーマさんに話しかけてくる人が出てきますよ。アイテムをくれとか情報をくれとか、もしかしたらNPCと仲の良いユーマさんに自分達も紹介してくれって頼んでくることもあるかもしれません。というかずっと気になってたんですけどその新しい子は誰ですか? めちゃめちゃ可愛くて抱っこしたいんですけど。でも動画で見るのが楽しみなので今知っちゃうのはそれはそれで勿体ない気もします。あ、そうだ、昨日NPCのモニカさんと一緒に居ましたけど、あれは一体どういう……」
俺はアリスさんのマシンガントークにやられ、口を挟む間もなくずっと言われるがままだ。
ただ、俺のことを昔から知ってくれていることと、俺に対するリスペクトは感じるのであんまり悪い気はしない。
ただ、それにしても話がなかなか終わらないなとは思ったが。
「あ、ごめんなさい。うちったらまた暴走しちゃって」
「やっとアリスっちの詠唱終わった。でも今日は早かったかも」
「ユーマ分かったか? アリスはこうなるから気を付けてくれないと困る」
「発言には注意するよ」
「(うち厄介オタクって思われたかな。でもユーマさんが自分のことを卑下するような発言するから……)」
アリスさんはもう置いといて、みるくさんともぐるさんに今日の予定を聞く。
「もう今日はそこまで予定ないし付き合うから、何を教えてほしいのか言ってよ」
「お、ユーマもやる気になってくれた? ただ、今チャットであと3人来るって言ってるから、もう少しここで待つことになりそう。なんなら家に入って待つ方が良い? ここだと他のプレイヤーに見られて写真でも撮られれば、ユーマが燃えるのは確実だし」
「家の中でユーマっちのこと教えてもらう。もぐる達のことも教えるよ」
「頼む、出来るだけ早く俺を家に入れてくれ」
今考えると女性配信者3人に囲まれて話している男が、ファンに嫉妬されないわけもなく、急いで家の中に入れてもらう。
「お邪魔します。お、結構広い」
「でもこの家は10人以上で住んでるけどね。知り合いの配信者皆でお金を出し合って買ったから、家は広くても人数で割ったら1人分のスペースは激狭だよ」
「もぐるは皆とぎゅうぎゅうの方が好き」
「あの、俺、聞きたいことがあるんだけど」
「何?」
「なーに?」
「ここに住んでるプレイヤーってどんな配信者なのかなって」
「事務所に入ってたり個人だったりバラバラだけど、皆友達だよ」
「もぐるは皆好きだよ」
「いや、この前アリスさんが参加型のイベントで視聴者のプレイヤーと話してた時に、この家に住みたい! みたいなこと言ってた人がちらほら居たなぁって思い出して」
「まぁファンからしたらここは桃源郷だね」
「皆女の子だから安全」
「あ、俺終わった。絶対今日の動画だけは自分で確認しないとヤバい。というかこの家出るのめちゃくちゃ危ないんじゃないか?」
「変な人は家に入れないって皆に言ってるから大丈夫。ユーマっちのことはアリスっちから皆聞いてるし問題なしだよ」
もぐるさん、あなたが問題なしでも俺は超危険なんですよ。というか絶対に誰にもバレないようにしないと。
「ユーマっち壊れちゃった」
「ブツブツ小声で何言ってるかは聞こえないけど、たぶんここから出る時の事考えてるんだろうね」
「(もういっそのこと今出るか? でもそんなギャンブルしてもし見つかったらヤバい。それなら先にウル達を出すか? いや、ウル達も俺の動画に出てるし俺と同じで見つかれば終わりだ。どうするどうするどうする……)」
「おっすおっす〜。おっ、噂のユーマさんっすか?」
「あ、どうも。おっすおっす」
「御機嫌よう。わたくし生でみるのは初めてですわ。ユーマ様よろしくお願いいたします」
「あ、どうも。御機嫌よう」
「あたいはユーマのこと知ってる。前のゲームで見たことあるからな。今日はあたいらに教えてくれるんだろ? よろしく頼むぜ」
「あ、どうも。よろしく頼むぜ」
「ユーマっち本当に壊れちゃった。なんか繰り返して話すおもちゃみたい」
「ハッハッハッ! ユーマは面白いな!」
みるくさんが横で豪快に笑っているが、俺はどうやってこの危機的状況を切り抜けるかを真剣に考えていた。
「取り敢えず皆の自己紹介からしようか」
「うっし、最初は僕っす。僕はヒナタ、職業は格闘家っす」
「わたくしはオリヴィアと言います。ここではヒーラーをしていますわ」
「あたいはアヤ。武器は刀を使ってるが、職業は鍛冶師だ」
「さっきも言ったけど、私はみるく。盗賊だよ」
「もぐるはもぐる。魔法使い」
「あの、うち……私はアリスです。弓使いです!」
「アリス、もう今さら取り繕っても遅いだろ」
「それでも挨拶はちゃんとしたいの!」
「えっと、ユーマです。見ての通りテイマーなんですけど、取り敢えず誰にもバレないようにこの家から出ることを皆さんも考えてくれませんか?」
そう俺が言うと、先ほどまで話し合っていた声がなくなり、全員口を閉じてしまった。