第102話
「お、これは良いの」
「それなら良かったです」
「全部割ったり削ったりした形跡もないのぅ」
「いや、流石にそんなことしませんよ」
「過去にそうやって不自然な形の石を納品した者もいるんじゃよ」
現在俺達は変わった形の石を依頼主の家まで届け、その石が納品するに値するか見てもらっている。
「ちなみにこの石は全てお前さんが?」
「いえ、俺と魔獣達全員で1つずつ見つけました」
「なるほどのぅ、どれも違った個性が見えるわい」
「良かったです」
「よし、ではわしがお前さん達に珍しい石を見せてやろう。心配せんでも同じような変な形の石を見せるわけじゃないからの。価値のあるものじゃから少し待っとれ」
そう言って依頼主は家の奥に行き、光り輝く石を手に持って帰ってきた。
「これがわしの持つ石の中でも珍しいものじゃ」
「これ熱想石に似てますね」
「おや、熱想石を知っとるのか」
「はい、なんなら今持ってます。見ますか?」
「い、良いのか?」
「大丈夫ですよ。これが南の街あたりで見つけた赤い熱想石で、これがさっき石探しの時に見つけた緑の熱想石です」
「おおおぉぉぉ!! これはまさしく熱想石じゃ!!」
急にテンションがおかしくなった依頼主に驚いていると、早口で熱想石の説明をしてくる。
「熱想石はとても貴重なものでの。モンスターから手に入るものでもないから見つけるのは難しいのじゃ。昔戦争が起きた跡地に多くの熱想石が見つけられてから、人の想いが宿った石や、恨みが染み付いた石など言われたこともあったのじゃが、全部本当かどうかは分からん。熱想石は錬金の素材として優秀じゃから、悪い噂を立てて安く買い取ろうとした者が居たとも言われておる。とにかく熱想石は今ではあまり見られない貴重なものなのじゃ」
「前にサポーターさんから言われたのは、災いを呼ぶだとか、幸福を呼ぶだとか、売るならお店によって値段が変わるから色んな場所に持っていくと良いってアドバイスをもらいましたね」
「それは正しいの。まぁ錬金の素材としては優秀じゃから、職人ギルドで売ると値段は安定するじゃろな。オークションじゃと1人くらいは熱想石を買いたい者が居ると思うから、値段は跳ね上がるじゃろう」
「あの、ちなみに錬金素材以外だとどんな効果があるんですか?」
「そうじゃ、それを言うのを忘れとった。熱想石は災いと幸福を呼ぶと言われておるとお前さんは聞いたと言ったが、その理由が今から話すことに関係してくるのじゃ」
依頼主は一度熱想石を見つめたあと、その理由を話す。
「熱想石を持つものに災いが訪れる。これはかつて熱想石をアクセサリーとして身につけ冒険した、有名な冒険者が言った言葉じゃ。その冒険者は元々熱想石が幸福をもたらすと信じていた者じゃった。故にオークションで熱想石のアクセサリーが出てきた時、ほぼ全ての財産を使って手に入れたのは今でも有名な話じゃ。そしてその熱想石を身につけ討伐依頼に出たその日に、今まで出会ったことも無い強敵に襲われ、命からがら逃げ帰ってきた。その冒険者は長年活動していた場所で、熱想石を身につけたその日に全く知らないモンスターに襲われたのじゃ」
「それは熱想石に何か力がありそうですね」
「その冒険者もそう思ったのじゃろう。逃げ帰った後すぐに熱想石を売ってしまおうと思って見てみると、そこにはもう熱想石はなかったのじゃ。途中で外れるような加工もされておらんかったらしい。この出来事から熱想石の悪い噂は加速度的に広まっていったの」
この話だけを聞くと、この世界の人達は熱想石を錬金の素材以外で使おうとする人がいるのか? と思ってしまう。なんなら錬金の素材としても使いたくなくなる可能性すらある。
「えっと、じゃあ熱想石が幸福を呼ぶと言われる理由を聞かせてもらっても良いですか?」
「もちろんじゃ。さっきの話だけじゃと熱想石は危ない物でしかないからの。次に話すのは熱想石を使って成り上がった冒険者の話じゃ。これもまた冒険者の話なのじゃが、こっちは元々熱想石に何の思い入れもない者じゃった。その冒険者は採石スキルを持っていての。ある日採石依頼で来た川辺でたまたま熱想石を拾い、当時お金がなかった冒険者は高値で売れる熱想石に喜んだ。絶対に落とさないようカバンの奥にしまい、街に帰る途中で見たこともない美しい角ウサギのようなモンスターに出会った。これはラッキーだと冒険者は美しい角ウサギを狩って街に帰ると、なんとその角ウサギの角が熱想石よりも高値だと言われる。角と一緒に熱想石も売ろうとカバンを探しても見つからなかったことにはショックを受けたが、これは熱想石が与えてくれた自分への救いなのだと信じ、その日から冒険者は安値で売っておる熱想石を買っては冒険に出るというのを繰り返した。そして信じたことは正しく、熱想石を持って出かけた日は全て珍しいモンスターを狩ることができ、熱想石は幸福を呼ぶと信じられたのじゃ。実際に冒険者が狩ってきたモンスターの素材が薬の原料になり、その街に流行っておった難病が治ったことも後押ししたのじゃろう」
依頼主は話したかったことはもう話したという満足気な表情をしている。
「ちなみに災いと幸福のどっちが本当の話だと思いますか?」
「わしか? わしはどちらも本当であり、どちらも嘘であると思っとる。こういう話は体験した者以外真実は分からんものじゃ。それにこうして語り継がれる話は誰かが尾ひれをつけると昔から決まっておる。じゃが、火のないところに煙は立たぬなどと言うように、少なくとも熱想石によって人生が変わった者が2人居ることは真実じゃとわしは思うがの」
「なるほど、ありがとうございました」
「まぁわしもこうは言ったが、この熱想石を大事に持っておる以上、この石のもたらす幸福を信じておるのやもしれんな」
こうして話を聞くことが出来たのは、絶対に何か意味がある。変な依頼をしているとたまにこういったことが起こるから面白い。
「じゃあこれで納品は完了ということで」
「ありがとのぅ。久し振りにこの依頼で気持ちの良いものをもらえたわい」
「そ、そうですか(変な形の石渡しただけなんだけどなぁ)」
こうして変わった形の石5つの納品は、依頼主に直接渡すことで終了した。
「よし、じゃあ最後の清掃依頼に行くか」
「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」
この清掃依頼は商人ギルドの横の待機所を掃除する依頼なので、まずは商人ギルドに行ってみる。
「すみません。冒険者ギルドの依頼で、商人ギルド横の待機所の清掃に来ました」
「そうですか、ありがとうございます。一応名前を伺ってもよろしいですか?」
「はい、ユーマって言います」
「ユーマ様ですね。あ、商人ギルドに所属しているのであればこちらの依頼も受けておきませんか? 商人ギルドでも同じ内容の依頼を出していますので、よろしければどうぞ」
「ありがとうございます。じゃあそうさせてもらいますね」
商人ギルドに所属したのはアイスを売るためで依頼を受けるつもりはなかったのだが、せっかくなので受けておく。
「では、清掃の方よろしくお願いします。道具は待機所の中にありますから」
「分かりました。ちなみに何か気を付けることはありますか?」
「今待機所に居るモンスターもそうですが、帰って来るモンスター達のスペースも少し確保しながら掃除をしていただけると助かります」
「なるほど、分かりました」
俺は早速ギルド横の待機所に入るが、待機所自体は広いものの、そこまで汚れているようには見えない。
「これは結構楽かもな」
取り敢えず掃除道具を手に取り、手前から掃除をしていく。
「ライドホースよりもお前はガッチリしてるな」
『ヒヒーン!!』
馬やトカゲのようなモンスター達が何体もそこには居て、ウル達もモンスターに興味津々だ。
「じゃあこの区画を掃除するから、そっちに移動してくれるか?」
「クゥ」「アウ」「……!」「コン」
『ヒヒン!』『グァ!』
ウル達の協力もあり、すぐにモンスター達は移動してくれる。
「東の街でゴミ拾いをした時にも思ったけど、やっぱりこのゲームのインベントリの機能はあまりにも掃除に向いてるな」
「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」
「あぁ、ありがとな。じゃあ次はそっちを掃除するから、こっちに皆移動してくれ」
『ヒヒン!』『グゥ!』
こうして邪魔なものやゴミは全てインベントリに入れ、ブラシで床を擦ったり壁を布で拭くのはウル達にも手伝ってもらい、あっという間に掃除を終わらせるのだった。