間話11
「俺達って何してたんだっけ?」
「鉱石だよ鉱石。同じデザインの装備を揃えたいからって、クランメンバーに依頼があったじゃないか」
「わたし原石を削って出たきた宝石を、絶対にいくつか盗まれてると思うの」
「職人ギルドの人にやってもらったんだから1つも無かったって言われたら諦めるしかないって。まぁ、10個中0は笑えねえけど。これって俺らの運が悪いのか?」
「飽きた、もうピッケル嫌だ」
「俺らもサポーター雇ってもっと探索したいって」
クランに所属したは良いものの、ただタスクが増えて自由に遊ぶ時間がなくなったパーティーは、少しずつストレスが溜まっていた。
「そもそも俺らって何のためにクラン入ったんだっけ」
「攻略クランの雰囲気をちょっと知りたかったから入ったんじゃなかったっけ?」
「レベルが生産職と同じで俺らちょっと浮いてるし」
「もうこのまま居てもクランに迷惑かけるし、辞めるか?」
「たぶんあっちから声かけてきたし、俺達をクランメンバーの枠が埋まる前に辞めさせにくいんだと思う」
「なら辞めようぜ! やっぱり自由なのが1番!」
と言うことで今ログインしてるこのクランを設立したメンバーの1人にチャットを送ると、すぐに抜けていいという返事が来た。
「やっぱ俺らっていらなかったんだな」
「いや、いらないどころか忘れられてたかも」
「邪魔じゃなかっただけマシだな」
「これでまた自由だけどどうする?」
「宝石は絶対に手に入れる」
「まだやってんのか」
こうしてクランを抜けたパーティーは、今後について話し合う。
「まず俺達は冷静になる必要がある」
「誘われたのが嬉しくて、自分達に合わないクランに入ったのが良くなかったな」
「でも、俺らだけでも楽しかったけど、やっぱクランに入ってみて面白さはちょっと感じたな」
「挨拶が返って来るのは嬉しかったわ」
「じゃあまた良さそうなとこがあったら、どこかのクランには入るってのでいいか?」
「「「「「賛成」」」」」
「ま、どんなクランに入るかは掘りながら考えるか」
「まだこのピッケルを使うのか」
「次こそは宝石ゲットするわ。原石出てきなさい!」
「もうあとは俺達も原石を掘り当てるしかないな」
「採掘スキル持ちのサポーター雇う方が絶対良かったって」
「サポーターと言っても、ずっと掘らせる訳にはいかないって」
「とにかく今回で採掘はもう終わりにするから、最後だと思って出来るだけ多くの原石掘り当ててやろう」
こうしてクランのために採掘をしていたメンバーは、クランを抜けたあとも仲間のために採掘を続けるのだった。
「うち、会っちゃった」
「え、もしかして前から言ってたあの人?」
「そう! 家から出てイベントで集まったリスナーに挨拶しようとしたら、なぜか皆後ろ向いてて。それでうちもそっちを見たら居たの!」
「へぇ、本人と話せた?」
「本当は話しかけるの禁止っていうルールが昔から動画で言われてて、うちも無視するか話しかけるかちょっと迷ったんだけど、そもそもうちが来る前にちょっと注目されてたっぽかったから、近くに行って少しだけ話した」
「良かったじゃん」
「ちょっと今でも感動してる」
女性2人の話が盛り上がる中、また1人新しく女性がやってくる。
「おっすおっす、あれ、何の話っすか?」
「いつも言ってるあの人に会えたんだって」
「え、良かったっすね。ずっと会いたいって言ってたっすもんね」
「うち、コネファンやってて良かった」
「最初はリスナーを1人アカウント停止させた女配信者だったもんね」
「それはうちのせいじゃなくてあっちが悪かったでしょ」
「僕もあれがあったから、もしかしたらコネファンをやめちゃうかもって思ったっす」
「確かに結構SNSで叩かれてたもんね。ゲーム開始してすぐに遊べなくなるのは可哀想、とか。BANしたのはコネファンの運営なのに、私だったら絶対配信で文句言うけど」
「うちはもうあの人に会えたからそれだけで良い」
「もう満足しちゃってるっすね」
「ちょっと話したって聞いたけど、フレンド登録は出来たの?」
そう言われた女性は、他の2人には見えていないことを分かりつつも、フレンドの欄を指差しながら話す。
「フレンド交換しちゃった」
「おお、何かメッセージは送ったっすか?」
「ううん、まだ何も送ってない」
「そういえばフレンド登録したのは良いけど、リスナー達もそこには居たんじゃないの?」
「そう。だからリスナーの一部がちょっと騒いじゃって、迷惑かけちゃった」
「僕は状況をよく分かってないっすけど、リスナーが何人か居たなら誰か1人くらい気付かないっすか?」
「それが何人か気付いてる人が居て、だからこそあんまり会話出来ずに終わっちゃった」
「それは残念だったわね」
まだ自分にしか見えないフレンド欄を見つめている女性は、急に思い出したかのように話し出す。
「というか横に居たあのNPCの女性とは何をしてたんだろう」
「NPC?」
「綺麗な女性で、今あの人と同じ家に住んでるNPCがいるの」
「NPCと一緒に住んでるんすか」
「あの人は優しいから」
「でも、NPCと一緒に居たってことはどっか出かけてたんじゃないっすか?」
「う、羨ましいし、何をしてたのか気になる」
「じゃあそれをメッセージで聞いてみる?」
「む、無理無理、絶対に無理!」
「でもせっかくフレンド登録したのに勿体ないっす」
「もうフレンド登録してもらっただけでうちは良いの」
「いや、それならフレンドになった意味ないって」
「御機嫌よう」
「やっとログインできたぜ」
「あ、皆来た」
家の中で話していたら、続々と他のメンバーがログインしてきた。
「3人で何話してたんだ?」
「昔から皆に話してたあの人と出会って、フレンド交換までしたんだって」
「それはおめでとうございます」
「ありがとう」
「今はせっかくフレンド登録したのにメッセージを送らないっていうから、僕達が背中を押そうとしてたっす」
「そんなのあたいならすぐチャットするけどな」
「流石にそれはちょっと私でも出来ないかも。ずっと会ってみたかった人にいきなりチャットはハードルが高い気がする」
「そうか? メッセージは現実で言うメールみたいなもんだろ。そんな堅苦しいのよりチャットで話すほうが良くないか?」
「あの、皆様、そろそろ家を出て探索に行きませんか?」
皆話に夢中になり、今日集まった本来の目的を忘れていた。
「確かにそうだ。ちょっとあたいも話し過ぎたかもしれないな」
「もうこんな時間だったんだね」
「僕もいつの間にか時間を忘れて、話に夢中になってたっす」
「今からだとちょっと探索して寝て、また明日皆の予定が空いてる時間に集まろっか」
「明日はたぶん6人で出来るっすよ」
「なら明日は配信しようかな?」
「あたいもそうするか」
「わたくしもそうさせていただきます」
「じゃあ今日は軽くやろ」
こうして女性5人は明日また集まることを約束し、配信はつけず裏でコネファンを楽しむのだった。
「で、リーダー、結局どういう結果になったんだ?」
「まず大前提として、冒険者ギルドは冒険者同士の揉め事に口を挟むことは基本的にない。ただ、これから多くのプレイヤーがこの街に来ることを考えて、プレイヤーに絡んでくるような冒険者、つまり俺達に絡んでくる冒険者を2度とそんなことをする気が起きないよう、徹底的に力を見せつけて良いとは言われたな」
「これは本当に良い感じの隠しイベントを俺達は進めてるのか?」
「でもこれだけはっきり言われたなら、相手をボコボコにしても他のNPCに嫌われることは無いんじゃない?」
「これからはモモも絡んできた冒険者、やる」
「僕も少しは対人戦をやりたいです」
「お前ら俺にこれまで戦わせておいて急に何言ってんだよ」
「皆NPCからの好感度が下がるのを気にしてたから手を出さなかったが、こうなるともうリキの出番はなさそうだな」
「はぁ?」
少し最前線攻略組の中でも揉めそうになったが、すぐに話を戻される。
「これを受けて俺達はどうするかだが、俺はもう絡まれたら対処するだけで良いと思っている。自分達から積極的に冒険者へ近づいて、プレイヤーの事を嫌いな者を炙り出して倒す、なんてことはしないつもりだ」
「でもよ、もしこれがプレイヤーを嫌ってる冒険者を全員ボコボコにしろって隠しイベントだったらどうする?」
「確かに僕達が冒険者に絡まれるのは前の街から続いてますもんね。この街に来てからも何回絡まれたか分かりませんけど、これは僕達に冒険者と戦わせるイベントなのではないかなって感じるところはあります。なのでリキさんが言うことも僕は少し分かりますね」
「俺はこのゲームをこれまでのゲームと同じように考えるのはやめたほうが良いと思っている。もちろんゲーム側が用意した隠しイベントはいくつもあるだろう。おそらく俺達が多くの冒険者に絡まれるこの状況も、確実に何かの隠しイベントを俺達が進めているからこそ起きていることだと思っている。だが、だからと言って俺達がそれを意識して冒険者に絡まれに行くのは不自然だ。こういうゲームは自然な流れに沿ってやる方がいい。そして何よりも俺がこのイベントにあまり乗り気でないのは、弱い冒険者と戦わないといけないからだ。俺は強い者と戦うなら良いが、もしこのまま絡んでくる相手が強くならないなら、無視しても良いとすら思っている」
こうして最前線攻略組のリーダーらしさ溢れる意見を聞き、メンバー達も自分の持つ意見を考えなおす。
「まぁうちも対人戦は好きだけど、確かに相手もある程度強くないと面白くないしね〜」
「モモもそれなら喧嘩は任せる」
「俺もリキに喧嘩は任せるか」
「そういうことなら僕もリキさんに任せます」
「お前らあんだけのこと言ったんだから少しは戦えよ。あとゆうた、お前最近俺のこと舐めてるだろ」
「いえ、全くそんなことないです。誰よりも常識人だとか本当に思ってないですから」
「こぶは良い人」
また少しパーティー内で言い合いが起こりそうになったが、全員の進む方向は定まった。
「じゃあこれからもこの隠しイベントのことはあまり考えず動くことにする。もし冒険者に絡まれたら喧嘩を買っても良し、相手にせず無視しても良し。とにかくこれから他の攻略組との競争も始まるんだ、攻略の方に全力を注いでくれ。と言っても少しの間は自由時間とするから、攻略はその後だが」
「あぁ」
「おっけー」
「分かった」
「分かりました」
「了解」
こうして最前線攻略組はこのゲームが始まって初めてのまとまった自由時間となり、攻略に関係のない楽しい時間を過ごす者もいれば、これからの攻略競争に向けた準備をする者もいるのだった。