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第92話

「マルスさん居ますか?」

「あ、ユーマさん」

「今から宝石の配達ってどうですか?」

「もちろん大丈夫です。準備しますね」


 そう言うとマルスさんは店を閉めて、大事そうに宝石の入った箱を持って出てきた。


「では行きましょう。ユーマさんは先に帝国領まで行きますか?」

「そうですね。どこ集合にします?」

「では商人ギルド前でお願いします」


 俺はすぐに帝国領の街へ行き、少し街の中を探索する。


「前ここに来た時はすぐ帰ったからな」


 マルスさんが来るまでの暇つぶしに冒険者ギルドへ来てみたが、何故か皆俺を避ける。


「あの、ちょっとお話いいですか?」

「ひっ、他の奴に聞いてくれ」


「あの、少しお話を」

「お、俺は今から依頼なんだ」


「少しだけはな」

「す、すまねぇ!」

「皆話しかけたら離れてくのはなんでだろ」

「クゥ?」「アウ?」「……?」


 何もしてないのに俺が悪いことをしたような気分になってきたので、冒険者ギルドの受付の人に話を聞くことにする。


「すみません。ここの街のことを知りたいんですけど、冒険者の方に話を聞こうとしたら皆離れて行っちゃって」

「それは申し訳ございませんでした。最近プレイヤー様に絡んだ冒険者が返り討ちに遭いまして、ギルド内でもプレイヤー様を避けるように動く方が多いのだと思います」

「え、プレイヤーに絡むってそんなに治安が悪いんですか?」

「いえ、それほど治安が悪い街だとは思いませんが、少し乱暴な冒険者もいることは事実です。ですがどの街もそのような方は居るので、この街が特別というわけではありません」

「ちなみに冒険者同士の争いって何か罰則があったりします?」

「こちらに何も被害がなければ、冒険者ギルドから特に言うことはないですね。冒険者は乱暴な方が一定数居ますし、そういった方が活躍できる場でもありますから。行き過ぎた暴力等はギルドからも注意いたしますが、他のギルドよりも比較的緩い方ではあるかもしれません。ただ冒険者ギルドに限らず、ギルドへの迷惑行為があった場合は内容に応じて罰則があるので、それは注意してください」


 これまでは乱暴そうな冒険者はあまり見なかったが、確かに態度がデカい冒険者や周りを気にしないような冒険者は帝国領に来てから少し増えた気がする。


「じゃあ一応俺も冒険者に絡まれた時はやり返しても問題ないってことですよね?」

「そうですね。常識の範囲内であれば実力差を見せつけることも大事です。ですが、しばらくプレイヤー様にちょっかいをかける方はこの街では現れないと思いますよ」

「あぁ、プレイヤーが返り討ちにしたんですもんね」

「そうです。冒険者はプライドも重要ですから、プレイヤー様に負けたとなればしばらくギルドには顔を出せないでしょう」

「なんか思ったよりやんちゃな人達が多そうですね」

「全ての冒険者がそうというわけではありません。ありませんが、目立つのはそういった方達ですので、冒険者に少し怖いイメージを持たれている方も多いと思います」


 確かに大人しい冒険者は今だって居る。そしてはじめの街と、その周りの方角の名前が付いた4つの街では、乱暴な冒険者などプレイヤー以外では見なかった気がする。

 だが、もしかしたらプレイヤーに対してリスペクトがあっただけで、本当は乱暴な一面もあったのかもしれないなと今になってみると思う。


「これまではプレイヤー様のための街がありましたが、ここからはこの世界の住人のための村が、街が、国があります。その事をお忘れにならないでください」

「確かにそうですね。ありがとうございました」

「いえ、今思うと冒険者ギルドの受付として少し良くない発言もあった気がしますが、それは全て忘れていただけると」

「分かりました。お話ありがとうございました」


 受付の人は俺に頭を下げて見送ってくれた。


「ちょっと話しすぎたし、早く商人ギルドに行かないと」


 受付の人と話してなんとなくこの街のことが分かったし、冒険者ギルドのことも知れたのは良かった。


「あ、ユーマさん」

「マルスさんすみません。待たせました?」

「いや、今来たところですよ」

「良かったです。じゃあ行きますか」

「モンスターはユーマさん達に任せますね」

「クゥ!」「アウ!」「……!」


 本当は冒険者ギルドでもう少しこの街の周辺のことも聞いておきたかったが、今回はマルスさんの案内だけで頑張ろう。


「この街からはそう遠くないですけど、モンスターには気をつけて行きましょう」

「そうですね。俺達も初めての場所なんで、モンスターは慎重に倒していきます」


 王国領ではゴブリンが出たが、帝国領では何が出るのだろうか。


「来ました! コボルトです!」

「よし、いつも通りの陣形で行こう」

「クゥ」「アウ」「……!」


 これも王国で戦ったゴブリンに続いて有名なモンスターではあるが、ゴブリンの巣にまで行って戦った俺達にとって、コボルトはやりやすい相手だった。


「アウ!」

『コボッ』

「クゥ!」

『ゴボ』

「……!」

『コ、コボ』

「皆さんお強いですね」

「最近ゴブリンを相手にしてたので、それもあって戦いやすいのかもしれないです」

「なるほど」


 そしてあっという間にコボルト達を倒してしまったが、ウル達は周りの警戒を怠らない。


「これなら安心して任せられます!」

「それなら良かったです」

「クゥ!」「アウ!」「……!」


 そしてこのあとも何度かコボルト達に襲われたが、全て倒して目的の街まで護衛することが出来た。


「ユーマさん、ありがとうございます!」

「いえいえ、どうぞその宝石を持っていってください。正直誰かに奪われたりする方が俺としては不安なので」

「確かにそうですね。すぐに行きましょう」


 街の中でもマルスさんを俺とウル達で囲みながら、宝石が奪われないようにした。


「ここです」

「大きいですね」


 ハティの家と同じくらいの大きさ、いや、もしかしたらそれ以上の家が目の前にあった。


「マルスです。あの時渡すことが出来なかった宝石を持って参りました」

「マルスさんというと、マルス宝飾店のマルスさんですか?」

「はい、そうです」

「少々お待ちください」


 家から出てきた執事らしき人は、マルスさんの話を聞くとまた家の中に戻っていった。


「ちなみに宝石を今日持ってくることは連絡したんですか?」

「いえ、私には今回の事件も含めてどう説明すれば良いのか分からなかったもので、全く連絡はしていません」

「そ、そうなんですね。でも、一応来ることくらいは言っておいた方が良かったんじゃないですか?」

「ここに来る正確なタイミングが決まっていなかったのもありますが、確かに来ることくらいは伝えておいた方が良かったですね」


 マルスさんも今になって少し顔が青くなってきた。


「私、この宝石を渡すことに夢中で、とんでもない失礼をしてしまったのかもしれません」

「いやいや、そんなことないですって。説明したら分かってくれますよ」

「どうぞお入りください」

「わ、分かりました」

「俺も良いんですかね?」

「どうぞ」


 家に案内された俺達は、入ってすぐの部屋に入れられて、この家の主人を待つことになる。


「失礼がないように、失礼がないように、失礼が……」

「マルスさん、あんまりこういうの慣れてないんですか?」

「お店の中であれば大丈夫なんです。ただ、こういった形で商品をお渡しするのは昔からどうも苦手でして。フォルスが生きていた時は貴族様の相手を任せていたもので、久し振りというのもあり、き、緊張します」


 マルスさんが緊張しているせいというか、おかげというか、俺は全く緊張していなかった。もしかしたら最近貴族の方と関わりがあるのも影響しているかもしれない。


「おまたせしました。父は今外に出ておりまして、息子の私が代わりに対応させていただきます」

「突然の訪問で申し訳ありません。本来であれば事前に連絡するところでしたが、早くお届けしないとという気持ちで来てしまいました。早速ですがこの宝石をお受け取りください」


 マルスさんはこの家の息子さんに宝石の入った箱を渡す。


「これは?」

「私が以前加工を依頼されたものでございます。遅くなってしまいましたが、どうか受け取ってください」

「中は見て良いのですか?」

「本来は依頼された御当主様へ最初にお見せしたかったのですが、急な訪問でしたし、御当主様の代わりということですのでどうぞご覧になってください」

「……な、なんと」


 俺も完成品は見たことがなかったが、息子さんが宝石を手に取り持ち上げてくれたおかげで初めて見ることが出来た。

 俺は宝石に詳しいわけではないが、遠くからでも今までの宝石とは全くレベルの違うものだということだけは分かる。


「こ、これを父はどうして?」

「それは私には分かりません」

「と、とにかく父には私から伝えてこう。余計なことは言わなくて良い」

「では、よろしくお願いいたします。お渡しするのが遅くなったこと、心よりお詫び申し上げます」

「あ、あぁ、それも私から伝えておこう」

「では失礼いたします」


 マルスさんに続き俺も部屋から出る。


「あの、息子さんに渡して本当に大丈夫でしたか?」

「私はしっかりと父の代わりに受け取るということを聞きましたから。何も問題はありません」

「あ、執事さんの前ですみません」

「いえ、今のお話は聞かなかったことにします」


 こうして宝石を渡すというマルスさんの目的は達成され、執事さんに玄関まで案内してもらい俺達はこの家を出るのだった。




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