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第90話

「ゴゴ」

「ゴーさんありがとう」

「あら、美味しそう」

「確かにこういった料理もたまには良いな」

「あ、何も考えてませんでしたけど、ここで食事はされますか? もし食べることが出来なかったり、他のお店で予約を取ってるとかなら遠慮なく言ってください」


 モニカさんで感覚が麻痺してたけど、そもそも貴族の人に今日会ったばかりの者が料理を出して良いものなのか。


「お気遣いありがとうございます。私達は貴族ではありますけど、毎日豪華な食事をしているわけでもなければ、毒見をしてもらわないと何も食べられないというわけでもないのですよ。モニカも食べているなら安心ですしね」

「まぁそういう者も居ることは否定しないがな」

「大変な世界なんですね」

「どんな身分だろうと大変なことは誰にでもある」

「確かにそうかもしれません」


 モニカさんのご両親はゴーさんが作った料理を美味しそうに食べてくれてるので、本当に無理をして食べていたりはしてなさそうだ。

 

「お父様、ユーマとさっきから色々話しているが、そもそもお父様はユーマのことをどう思っているのだ?」

「とても良いプレイヤー様だと思っているぞ。そして流石モニカだとも思っている。我が娘ながら人を見る目がいい」

「あ、ありがとうございます。俺もモニカさんの行動力と決断力は本当に凄いと思ってるんですよ」

「おお! 分かるか? モニカは私達の宝であり……」

「あなた、もうモニカの話はやめてあげなさい。モニカが恥ずかしがってるじゃない」

「そうか。ユーマくん、モニカは素晴らしい娘だが完璧というわけではない。迷惑をかけることも失敗をすることもあるだろう。だが、2人なら乗り越えることも出来るはずだ」

「あなた! 別にユーマ様とモニカは結婚するわけではないのですよ!」

「確かにそうであったな」


 ダニエルさんは話してみるととても話しやすい人であり、モニカさんとソフィアさんを大事に思っていることも伝わってくる。


「あの、少し聞いておきたいんですけど、貴族の方と接する時って何に気をつければいいですかね?」

「私は今のユーマくんのままで良いと思うぞ。なに、プレイヤー様に貴族の作法など求めることはない」

「私もダニエルの言っていることは正しいと思います。思いますけど、そういった貴族ばかりでないのも事実ではあります」

「そんな奴は無視してやればいい。私たち貴族は、貴族だから偉いわけではない。偉いから貴族なのだ」

「あなた、そんなこと言っても分かりにくいでしょ」

「いえ、なんとなくダニエルさんが言いたいことは分かった気がします」


 ただ、何代も続くような世襲貴族だったり、身分の高い貴族の方にそういう身分だけを誇りに持つ貴族が居て、そういう人達をダニエルさんは不満に思っているんだろうなというのが、同時に少し伝わってきた。


「あの、失礼かもしれないんですが、ダニエルさんって貴族の中ではどういった位置というか、爵位をお持ちなんですか?」

「モニカ、言ってなかったのか?」

「確かにユーマに言ったことはなかったかもしれない。ファーベスター家は今でこそ農業に力を入れているが、元々は外敵から国を守る辺境伯としての地位を預かっていた」

「今もその役目はある。モニカが騎士を出来たのも我が家にはこういう背景があったからだ」


 確かにモニカさんは1人娘なのに騎士という仕事ができているのは少し疑問に思っていたが、そういうことだったのか。


「辺境伯って貴族の中でも相当高い位置にあると思うんですけど、それでもモニカさんが逃げないと駄目だった相手って、相当凄い貴族だったんですね」

「中央貴族は地方の貴族を下に見ているというのもある。地方から送られる物資がなければ何も出来ないというのに」

「あなた、そんな話今はいいでしょ?」

「それもそうだな」


 モニカさん家族もご飯を食べ終え、これからのことについて話すことにする。


「じゃあこのあとはどうします?」

「私はモニカに会えただけで満足だ。このあとは全てソフィに任せよう」

「じゃあ少し体を動かしたいのですが、よろしいですか?」

「確かにモニカの腕が鈍ってないか見る必要はあるな」

「久しく対人の訓練はしていないが、その分モンスターを狩ってきた。ユーマ、いつもの場所を貸してもらうぞ」

「あ、はい。うちのモンスター達だけ気をつけてくれれば大丈夫です」


 モニカさん達はいつもエマちゃんとモニカさんが訓練しているスペースまで行き、どこからか取り出した武器を握って素振りをはじめた。


「お、皆来たか。ちょっと危ないから俺と一緒に居ような」

『モウ』『ムウ』『『ヒヒン』』『ヒヒーン』

「もし怖くなったら厩舎の方に行っていいから」


 それぞれ使う武器は少し違い、モニカさんは両手剣、ソフィアさんはそれよりももう少し細い剣、ダニエルさんは大剣を持っている。


「最初は私から」

「あぁ、お母様、行くぞ!」


 モニカさんの攻撃から戦いが始まったが、俺から見てもソフィアさんは対人戦に慣れている。特に相手の武器の持ち手を目掛けてカウンターを狙っているあたり、モンスター相手には使うことが出来ない戦い方なので、俺も急にやられたら驚いてしまうだろう。


「意外とモニカが動けていて安心したわ」

「お母様も相変わらず対人戦が上手い。普段モンスターと戦っているのもあるが、なかなか防御し辛い攻撃をしてくる」

「じゃあもう少ししたらダニエルと交代するわね」


 次はソフィアさんがモニカさんに攻撃を仕掛け、2人ともある程度攻守を入れ替えやり合ったあと、戦いは終わった。


「では次は私がやろう」

「お父様」

「久し振りに稽古をつけてやる」

「よろしく頼む」


 そしてすぐ戦闘が始まったが、先程とは打って変わって大味な展開の戦いになった。


「ユーマ様、モニカの戦いを見るのは初めてですか?」

「そうですね。なんならこんなにちゃんとした戦闘をこの世界の人がしている姿は初めてです」

「プレイヤー様はこの世界に来て日が浅いですものね。意外と私達も戦えますでしょ?」

「もうこの戦いを見たら驚くプレイヤーがほとんどでしょうね。今のモニカさんとダニエルさんの戦いなんて一発でも俺が当たれば終わりですよ」

「でもユーマ様はあまり驚いていない様子でしたが」

「まぁそれは、俺の代わりに後ろのモンスター達が驚いてくれたということで」

『モ、モウ』『ムウムウ』

『『『ヒ、ヒヒン』』』


 戦闘が始まってすぐに俺とウル達の後ろに隠れ、今はソフィアさんのことも少し怖がっている。


「あら、嫌われちゃったかしら」

「おやつでもあげればすぐ仲良くなれますよ」


 ソフィアさんと並んでモニカさんの戦いを見るが、今回はソフィアさんの時と違って明らかにダニエルさんの実力が抜けているため、今はモニカさんの攻撃をダニエルさんが受け止めるという形になっている。


「本当に強いですね」

「モニカも強くなりましたけど、まだダニエルには届かないでしょうね」

「ソフィアさんも強かったですよ」

「ありがとうございます。私は自分の身を守れる力があれば、あとはあの人に任せられますから」


 ソフィアさんがそう言うのも分かるくらいダニエルさんは強く、俺は少しだけこのゲームが対人戦なしだということを残念に思った。


「(いや、プレイヤー同士が禁止されてるだけで、NPC相手には戦うこともあるかもしれないか。まぁこのゲームだとたぶんイベントでも無い限り無さそうだろうけど……)」

「ユーマ様?」

「あ、すみません。こっちの話です」

「そうですか。もしかしてユーマ様もダニエルと戦ってみたいとか?」

「いえいえ、それは遠慮しときます。俺の今の実力だとダニエルさんが俺の攻撃を防ぐだけになりますし」

「少し面白そうだと思ったのですが、無理やりするものでもありませんしね。あ、終わったようなので行きましょうか」


 ダニエルさんが余裕な表情に対して、モニカさんは少し疲れた様子でその場に座り込む。


「お疲れ様でした」

「久し振りに稽古をつけたが楽しかったぞ」

「私は自分で戦うよりも2人の稽古を見る方が良かったわね」

「はぁ、はぁ、久し振りだと、疲れるな」


 モニカさんも強いが、大剣を扱いながらモニカさんの攻撃を全て防いでいたダニエルさんはさらに強かった。


「ユーマ、風呂に入ることを許してくれるか?」

「良いわね。ユーマ様、私もいいですか?」

「えっと、良いですけど、その間ダニエルさんはどうしますか?」

「私は待っていよう」

「ならさっきは断っていましたけど、ユーマ様もダニエルと戦ってみるのはどうでしょう?」

「いや、俺の実力じゃあダニエルさんのカウンター一発で終わりですから」

「ということは私が手加減すればいいということだ。心配無用、モニカが小さい頃から私は稽古をつけてきたのだ。力加減は任せてくれ」

「そ、そうですか。あの、弱くても残念に思わないでくださいね」

「元々何もせず待っているだけの時間を運動に回すのだ。何も心配することはない」

「じゃあ私達は行ってくる。お父様はユーマに頼んだ」

「あなた、楽しくなってユーマさんのこと傷つけちゃ駄目よ。私もできるだけすぐ戻ってくるわ」


 そう言い残してモニカさんとソフィアさんは行ってしまった。


「えと、じゃあやりますか」

「お、ユーマくんは片手剣を使うのか」

「まぁ大体の武器は使えますけど、一応今は片手剣を中心に練習しようと思ってます」

「大剣ならば私が教えてやれることもあると思うが、今はまずユーマくんの実力を見よう」

「では行きます!」


 こうして俺は大剣を構えるダニエルさんに片手剣を持って飛びかかるという、数時間前には想像できなかった状況になるのだった。




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