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void  作者: az
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2088年9月20日(月) その3

 IPアドレスは16バイトで表されるインターネットの接続先だ。よく例えとして「ネット上の住所」と言われるが、実は少し違う。IPアドレスは一般的にプロバイダに接続要求を出し、その時にIPアドレスが個別に割り振られる。いわゆる

DHCP(Dynamic Host Configuration Protocol)という古典的な手法が、現在でもずっと使用されている状態だ。IPアドレスはプロバイダへ接続(正確にはIPアドレス取得)要求を出す度に変わる。つまり、IPアドレスとは使い捨ての連絡先みたいなものだ。もちろんIPアドレスを固定にすることも可能だが、一般ユーザはそんなことはしない。オレたちは意識しないままに連絡先を貰っては捨てる。

「IPアドレスさえ分かれば、ギアのシリアルナンバーを取得することは十分可能だよ」

 結局はギアもインターネットに接続する必要がある。インターネットという媒体を通してARの世界やDRは繋がっている。

「でも、におさんって、相手がどこに住んでいるかとか知ってないとダメだろ?」

 ルネが首を振った。

「ヴァンはあまり使ったことがないのかな。におさんは配送先の指定がない場合は、ギアのシリアルナンバーから接続しているIPアドレスを取得するんだよ。そこで、接続先のアクセスポイントに一番近いお店へ運ぶの」

 もっともプロキシ使ってたら荷物なんか届かないけどね。ルネが吐き捨てるようにつぶやいた。

 たまたまカインが大久保のにおさんを指定したから、ドラッグプログラムはその店にあったが、もしなかった場合は他の店に行ってた可能性が高い。

 私書箱203システムはIPアドレスとギアのシリアルナンバーだけで個人を識別しているというわけか。

「一つのIPアドレスの、その時の使用者にドラッグプログラムを送っていた?」

「うん。少なくともこのデータから導き出される答えはそうだよ」

「スパムみたいな?」

 ルネは小さく首を振った。三つ編みも揺れる。

「少し、違うね。スパムは不特定多数の人にメールを送りつけるけど、基本的にメールは無料だよ。大量にメールを送りつけて誰か釣れたらいいや、的なものだよ。におさんは有料サービスだし、チップにもお金がかかる。それに、IPアドレスを狙い撃ちになんかしない。」

 熟考するように小さな手を顎に当て、ルネはスクリーンを見た。

「ねぇ、ヴァン。もし仮に一ヶ月間今日までチップ50枚を30名に配ったとして、掛かる金額は大卒初任給の一ヶ月分くらいになる。それにさ、このドラッグプログラムは金をいくら払ってもいいって人がたくさんいるはずだよ。それをわざわざお金を出して配るって。それを特定のIPアドレスに」 

ドラッグプログラムを不特定多数に送りつけたいわけではないはず、そう小さな唇が紡いだ。

「正直、結論を出すのはまだ早いと思う。だけど、あのIPアドレスの使用者の誰かにドラッグプログラムを送りつけたかったって考えるのが自然なんだ」

 そのために私書箱203は利用された。

「ああ」

「それも、まだ送りたかった相手に届いていない可能性も高い」

 リカちゃん事件の加害者、阿部一郎がドラッグプログラムを手にしたのは9月15日だった。少なくともその日までに相手の目的は達せられていない。

 一番最初にタチバナと作成したメモを思い出した。頭の中で内容が埋まっていく。リカちゃん事件まで、オレはドラッグプログラムが売られている物とばかり思っていたが、そうではなかった。

「におさんが使われたのはルネとしても嫌な気がする。だけど、やっと手がかりが掴めたね」

 振り返った幼女の顔に、やっと小悪魔のような表情が戻った。

「あとはルネの仕事。裏をとって確認するよ」

「了解」

 お開きだった。ルネの頭を一撫ですると、擽ったそうにピンク色の目を細める。オレも満足してギアを捻った。



 仕事の依頼が来ていた。午前2時、オレは盛大に顔を顰めてスクリーンに向き合っている。今すぐメールの存在を削除したい気分に駆られるが貯金残高が脳裏を掠めて思いとどまる。狙ったとしか考えられないこのタイミングにオレは唸るしかなかった。

 触手クラブ・アマゾン支店、なるものを作るらしい。

 すでに場所の手配済みで、要となる触手が大量に必要だそうだ。現在新宿にある触手クラブとは違い、アマゾンの植物をモチーフとした触手だとなかんとか。

 それから、蟲。

 メールを読み進めるに従って、眉間の皺がどんどん深くなる。

 蟲、虫ではない、蟲だ。メールにそう書かれてある。蟲ってなんだよ、どんなプレイだよ。こちらと年齢イコール彼女なしの人間だぞ。どんどん変な知識だけが植え付けられていくようでげんなりする。

 さすがに何度か取引をしている間柄なだけあって、社長は丁寧にイメージ図までつけてくれていたマングローブの根や、樹に絡まっている蔦が少女を襲うシーンに思わず目を背ける。

「オレの周りって何でこんなんばっかだよ」

 慎吾しかり、社長しかり、ニューフェイス・サイバー課本村弘美、お前もだ。

 そういえば作った触手でエロビデオ撮ったんだよな。『密林少女』、だったっけか。

「あー……」

 ガリガリと頭を掻く。生憎と断るという選択肢はないんだよな。メールに提示された金額は貴重なオレの軍資金だ。前金だけで3ヶ月は生きていけるだろう。しぶしぶと、承諾と打ち合わせのお伺いメールを相手に投げた。

「そういえば」

 他にメールは着ていなかった。エマノンがハッキングした9月18日のメールだけは一切削除されていて見ることができない。だが、あれほど大量にメールを送りつけてきたセインから、この2日間何も音沙汰がなかった。やっと、カインが倒れた後一切連絡がとれていないことに気づく。

「お嬢様だから絞られでもしたか」

 それにしても、この沈黙は不気味だった。あれほどカインのことを知りたがっていたというのに……。

 胸に不安を抱きながら、ルネの部屋で会えないかというメールをセインに出した。



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