あらすじ
某大賞に出したかったけど、間に合わなかったやつ4。
ある貴族がいた。彼の熱い志に対して、周囲の目は冷ややかだった。
平民からの視線は、貴族はそうあれと突き刺さるような……疑い。
彼のそうなりたくないという心がけにも関わらず、しかしその通りに、彼は貴族としての責務を怠った。
他人にそう思われていると意識すると、そのように振る舞ってしまう心理がある。
いざという時は前線に立ち、日常は民の手本となるような生活をする。税収をもってそれ以上の利益で潤す。責任を伴い、良い国を。家督を継ぐ前はそう決めていたのに。
彼は怠惰で、呼吸するにも息継ぎが必要なほどに肥えて、高価というだけの悪趣味なジュエリーをまとい、市民からは搾り取った。民は真逆に痩せこけて、死ぬまで働かされる。
やがて当然のように訪れる反乱。捕らえられる美しい彼の妻と娘たち。彼女らもまた彼の抑止、支えとならなかったという連帯責任を課されて、貴族の目の前で犯され、殺される。
それらの煮えたぎって溜め込まれた力は、他の地へも伝播する。いつかの歴史通りに……貴族の抹殺が行われた。それは貴族の善性に関わらない。衆人は回らない頭でどうにか練り上げられた不満を爆発させた。覆せない階級差の存在が、蜂起への最後のひと押しとなる。
一方で恩を忘れないものたちもいる。ほとんどの貴族は必要であることを理解するものたち。彼らもまた敵と見なされた。市民たちは個人の意志でなく群れの目的に仮託して行動する。反発する集団が現れれば、当たり前のように敵として争った。
……熱が冷め、目が覚める時が来る。隣人を信じることができなくなり、間もなく社会は崩壊した。統率する者がいなければ自然とそうなる。
読み書き・算盤ができず、取引もできない。真っ直ぐに何もできない者たちが残る。
故に気づかない見落としがある。いくつかの貴族の邸宅には緊急用の逃げ道があったし、影武者を用いることもあった。
彼女らは見ていた。固唾をのんで、その惨状を、ずっと。代わりがきかないものの崩壊。
家が侵されて、家族が脅かされて、犯されて、殺される。
やがて自壊していく。そんなざまを。
そして決めたことがある。
「絶対に全員、殺す」
彼らの上に立ち、信頼させた上で、裏切る。そうされたように。