記録87『魔族とは』
「っく!! いつもだ! いつもこうだ!!」
有志は、目の前の絶望に憤りを感じていた。
「何でいつも間に合わない! どうして俺は守れない!! 俺は何の為にこの世界に呼ばれた! 勇者なのに!! この世界に希望をもたらす為に来たのに!!」
「ああ……あああああ」
目の前に広がっている街は、木々に覆い尽くされており、街と呼べるようなものではなかった。
ドライアドが、行った所業を見てレティリアは唖然とする。
「こんなこと……どうしてドライアドが……こんなこと出来る訳がない……確かにドライアドは森を育て見守る為の力がある……でもこんな人の街を無理矢理奪うような森の作り方は出来ない……しない……誰かが……誰かが唆したんだ……こんな魔族のような非道を躊躇いなくする様な……そんな下劣な事を行った奴がここに居る」
「っく! 西院円惑……きっと奴だ……奴は人だけではなく、精霊すら唆すというのか……」
レイシャの言葉に、有志は怒りを露わにしながら街を見据える。
「まだだ……生き残りがいるなら助けるべきだ! そしてドライアドにこんなことを止めるように説得してみせる!! もしかしたら奴に大切な者を人質に取られているのかもしれない!! 必ずドライアド達も救ってみせる!!」
有志の本気を見て、仲間達は覚悟を決める。
「ああ、私達も絶対に許せない……奴は悪魔だ……人の川を被った悪魔だ!! 最早魔族と同等に扱った方が良い」
「そうですね、何であんな悪魔のような男が勇者召喚で一緒に来てしまったというの……」
すると、テュリアメルは思い出したように話す。
「聞いた事がある、エルフのお伽話で邪悪な魔族を作り上げたのは錬金術師だって……」
テュリアメルの言葉に、一同は驚愕する。
「錬金術師が魔族を作り出した元凶だって……」
「そんな!! まさか!」
「だが、西院円惑の所業を見ればただのお伽話とも思えない……恐らくエルフ達は何らかの形で錬金術師にバレないように伝えようとしたんだろう……」
驚くシャイニャスを余所に、レイシャは冷静に分析する。
「錬金術師は亜人達の力を超える為に人間を改造して戦いを起こそうとしたんだと思う……いや……神を超えようとしたのかもしれない……人間の中にはそのような事を考えなかった人間がいなかった訳ではなかったから」
レティリアの言葉を聞いて、有志は怒りが湧く。
「神を……超えるだと……そんな下らない事の為に人を傷付けたというのか! 人を改造したというのか!! 人から怪物に変えられた人間達は大切な者と離された人間達を無理矢理に!! 人間でなくなった者や奪われた者達のことを考えなかったというのか!! 糞!! 許せない!!」
そして、聖剣を抜いて構える。
「止めるぞ!! この世界の魔族が錬金術師に作られたというのが本当ならあの男を止めるのは最早必須条件だ……絶対に俺達の手で止めるんだ!!」
『はい!!』
皆の心が一つになった。
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「ふーん、大体予想ついてはいたけど……確証が取れた」
「錬金術師が魔族を作ったってことですか?」
「そう、でも決定付けるには少し弱いのもある……でも錬金術師が魔族を作成に少なからず関わっているのはマジだよ……だけど歴史的に神を超える為だけなのか……そこが今は疑念点だ……何故なら魔族との融合をすれば魔族になったけど、ただの動物を融合しても人間は魔族にはならなかった……なら大切なのは魔族の遺伝子かもしれない」
惑の説明を聞いて、エレンも疑念を抱く。
「なるほど……確かにおかしいですね……そういえば魔力石は入れてもだったんですか?」
「いや、動物の場合は魔力石を入れれば暴走を起こして死に掛けた……推測出来るのは何人かの人間は突然変異を起こしたのかもしくは元の遺伝子がいるのか」
「よく分らないなああ」
イネは、頭を悩ませながら煙を出す。
「イネはちょっと準備をしてくれる? 勝てる為の行動はすることになっているからね……」
惑に、指示を受けてイネは少し考える。
「準備かあ……ねえ? 私猫になって良い?」
「うん? どういう……ことですか?」
エレンは、言っている意味が理解出来なく、質問する。
「そうか、森だから瞬発性が強い方がこの戦いに向いている……それなら君の性別転換でネコ科してからの方が戦いには向いているという事か……」
イネのアイディアに、惑は感心する。
「イネ、それで行ってくれ」
「分かった!! うぐぐぐぐがああにゃああああああああああああああああ!!」
すると、イネの姿が変貌し始める。
そして、徐々に猫の体へと変わっていく。
そして、完全に猫になると姿っも完全に女性の体になった。
見た目は、明らかに間男といたファイナと呼ばれる女の姿であった。
「うふーん! 惑ニャン!! 勝ったら私としたいかニャン!」
「ふむ、したいかしたくないかはどうでも良いが……語尾がニャンになった、イネで良いんだよね?」
「そうだニャン! だけど今までのイネじゃないニャン! 私はイネの母親ニャン!!」
「立証は未だに出来ていなかったけど……人格が入れ替わっただけか、それともマジかどっちだろう?」
損な推測をしていると、イネは答える。
「惑は私の魂が完全にないと思っていたみたいだけどそうじゃないニャン! 私の魂は君の世界で言うところのマイクロぐらいには残っていたニャン! だから私の魂と錬成した魂が重なったお陰で私も主人も生き残っているニャン、犬イネは最早私の主人ニャン!」
そんな事を話していると、ハロドルが現れる。
「惑様! もうすぐ戦いの……誰ですかその人?」
「イネ」
「!! ええ!!」
「ほらほら! 行くにゃ! 行くにゃああ!!」
「えええええ!!」
驚くハロドルを余所に、イネは無理矢理引っ張って行った。




