記録86『大切な人が』
有志達は宿から出た後、国を出ようとした時の事だった。
「号外! 号外!! 最近滅びたペプリア国の領地の一つ! ララルア街がドライアドによって侵略されたそうだあああ!!」
そんな言葉を聞いて、シャイニャスは唖然とする。
「え……ララルア街が……そんな」
「!! シャイニャス! 大丈夫か!」
「シャイニャス! 糞! 一体どういうことだ!」
「ドライアドがそんな! 嘘!」
「そうです! そんな事聞いた事がありません!」
皆が驚いている中、有志はその情報を伝えている男の胸ぐらを掴む。
「おい!! 適当な事を言うな!!! ふざけているのか貴様!!」
「ぐが!! ふざけてなんて……無い……これは最早他の国にも伝わっている……確かな情報ですよ……昨日レジスタンスが動こうとしたが……それも全滅してもう希望はないと……言われている」
苦しそうにしながら、情報が確かである事を証明しようとする男。
男は、新聞と水晶に映し出した証拠の映像を見せた。
「な!! これは……きさま……こんな事が起こっているのに……それを金儲けの道具にしようというのか!! しかも貴様では何とかしようと思わないのか!! このマスゴミめ! 昨日レジスタンスが動いていたというのに貴様は一体何をしていた!!」
有志は、証拠を見せられた事により、ますます怒りが大きくなった。
「はあ!! 何とかも何も! 俺にどうにか出来る訳がねえだろ!! それにこれは俺の仕事だぞ! 皆に最新の情報を伝えるのが記者の仕事なんだよ!! それの何が悪いってんだ!!」
当然、男は自分の正当性を訴える。
しかし、有志の正義にとってそんなのはただの良い訳であった。
「黙れ! このゴミ野郎がアアアアア!!」
有志は、そのまま記者を殴り付けて、ゴミ箱の中へと入れた。
「ゴミはゴミらしく……ゴミ箱の中に入っておけ……」
そして、冷たい目でその場を立ち去る。
男は、気を失ってそのままゴミ箱の中に頭を突っ込んでいた。
目撃していたゴミ収集の男二人は、戸惑いながら相談する。
「おい、確かあいつ勇者だよな……アレどうすんだよ」
「どうするも何も……いくら勇者様がゴミって言ってたからって……人間だぞ……ゴミ箱から出してその辺に寝かしておくしか……」
「そ! そうだよな! まずは出して上げないと……」
そんな会話をしていた時だった。
「おい、何をしている……」
『!!』
ゴミ収集者の二人の後ろに、貴族の男がいた。
「いやっ……えっと……ゴミの中に入っている人を出してゴミを回収しようと」
「そうです! ゴミ回収の為に!!」
二人は、揉み手をしながら答えると貴族の男は不遜な表情でゴミ箱を見る。
「人間? 一体どこにいるというのだ?」
「え? いやだからゴミ箱の……」
「いないではないか……まさか……ゴミを街に捨てて街の風景を穢す気ではないよな?」
「え?」
「そうだよな? まさか勇者様が言っているゴミを人間とでもいうのか? そうか……貴様等にはアレが人間に見えるのか……つまり貴様等も……」
「いえいえいえ!! そんな事ありません!」
「そそそそそそうです!! アレはごみです!! 間違いなく!!」
体を震わしながら、貴族の言葉を肯定する。
すると、貴族の男は鼻を鳴らしながら言い放つ。
「さっさと処理しろよ」
「……はい」
「分かりました」
まさかの展開に、二人は青ざめながらゴミ箱に入っている男を見つめる。
『マジか』
そして、仕方なくゴミ箱に突っ込まれている男ごとゴミを処理した。
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有志は、怒りに満ちていた。
「糞!! 人の不幸を金儲けに利用しやがって!」
「全くだよ! 有志の言う通りだ!」
「ああいう人達はどうしてこうもデリカシーがないのでしょうか!!」
「ああああ……そんなああ……あそこにはお婆様が……」
「そうだな、ファルトコン王の母君があそこにはおられる」
その言葉を聞いて、有志はシャイニャスに聞く。
「確かお婆様が死んだと聞いたけど……それはもしかしてお母様の方のお婆様かい?」
「はい……お父様のお婆様はまだ生きています……私にとって最後のお婆様なのに」
「!! そうか……分かった……絶対に助けよう……」
有志は、シャイニャスを抱きしめると決意に満ちた目で皆に言った。
「ララルア街に向かう……シャイニャスのお婆様を助けるんだ」
「ああ! 分かっている!」
「うん! きっと助けよう!」
「私も協力します!!」
「みんな……ありがとう……」
涙を流しながら、シャイニャスは笑顔を取り戻す。
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ハロドルは、もう少しでララルア街を完全に森で作り替える事が出来る。
惑も最後までそれを見届ける為、観察している。
そんな時であった。
「惑、勇者一行がここに向かっているらしい」
「ふーん、魔王城からここは離れているはずだよ……いくらペプリア国の領地の一つだからと言ってそんな事いいのかなあ?」
「多分シャイニャス姫のお婆様を守る為じゃない……そういう自分にとっての正義があの糞には必要なんだよ……」
エレンの情報を聞いて、惑は顎を撫でながら考える。
「よし、ハロドル……ごめん多分この森林計画は失敗する……さすがに勇者に勝てるかと言われれば成功率が急激に下がると思った方が良い」
「!! そうですか……でも確実に終わるわけではないのですね」
「ああ、それに秘策だって用意しているだろ?」
「はい」
ハロドルは、覚悟を決めたように地面に手を当てて魔力を送る。
「今準備をしています……もしもの場合は貴方にこれを」
「うん、分かった、色々と弄るかもしれないけど出来るだけの事はする」
「はい」
惑の言葉に、眉が動くがハロドルは微笑みながら返事をした。




