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記録7『料理』

惑とイネは、国の門の前に来ていた。

これから、国の外に出ようと手続きをしようとした時だった。


「おいおい、姫に不敬を働いた屑錬金術師様じゃないか? 運良く処刑ではなく城から追い出される形になったみたいだが、なんだ? 今度は国外追放か? ギャハハハ!」

「無様だなあ、身の程を知らない奴はどこまでも無様だ」

「はは、そうですね、僕もそう思います、いやあ何とも不甲斐ない……それでこの国を出て別の街でやり直そうと思いまして……」

「惑……」


イネは、門番に言いたい放題言われても尚、下手に出る惑を見て悲しそうにする。


「おいおい、お前さあ? ここを出たけりゃ通行料を払うべきじゃないか?」

「なるほど、確かにそうですね! いくらですか?」

「二人で金貨10枚だ!」

「え! 何でそんなに!」

「分かりました、イネもいいね? 僕と割り勘で払おう!」

「え! 一応は金貨5枚あるけど……」


イネは、不満するが納得し、惑が袋から金貨を5枚取り出す事を許した。


「ふん、まあいいだろう……さっさと出て行け!」

「いて!」

「うわぁ!」


金貨10枚を乱暴に受け取ると、門番は惑とイネを外に蹴り出した。


「ふー、やっと外に出られたね」

「いや! こんなのってある! 明らかに他の人より通行料も高い上に追い出されるように蹴り出されるなんて! どうしてこんな理不尽許せるの!」


イネは、何の文句も言わない惑に抗議する。


「え? あれくらい普通じゃない? それにあんな事にいちいち抗議していた方が時間のロスだよ……それにああいうタイプの方が金で解決出来るから余計な時間を掛ける必要がない」

「そうなの? いいカモにされたりしない?」

「じゃあイネはアイツ等とまた会う機会があると思う?」

「えっと……この国に来ない限りないかと……」

「だろ? だからカモになるのはあの場限りだよ、それに僕等の事を詳しく調べず国外に出した、つまりは目先の金だけが目当てのつまらない連中だよ、もっとよく調べたら出世してもっと儲かる可能性もあったのにそれが出来ない時点で彼等に成長性はない」

「ああ……はい、なるほど」


イネは、惑がどのような基準で人を見ているかが、少し理解出来た。


「惑って、人のちゃんとした欲望が好きなんだね」

「なんだよ、ちゃんとした欲望って?」


怪訝そうにする惑に、戸惑いながらもイネは説明する。


「どう言えばいいのか、何かこう……欲望が薄いというか、自身の立場を利用して至福を肥やす為の欲望よりも、何か叶えたい事のある、渇望しているような欲望の事で……例えば私の生きたいっていう欲望とか?」

「ああ〜まあそうだね、確かにそういう意味では欲望の薄い人はあまり興味ないな~実験してもあまり良いデータが取れない傾向があるし……やっぱり本気で取り組んだ方が結果は良い方向に進みやすいし、君の言う通り僕としても素体には本気の欲望で取り組んで貰った方が良いかな?」

「そうですか……分かりました! 私も生きたいし、自分がどこまで成長出来るのか気になるので、惑について行けるように頑張りたいです!」

「おお! その意気だ! 意気込みがあればある程幸運を掴みやすいから! 取り敢えずアイツ等倒そうか?」

「え?」


惑が指さす方向を見ると、そこには大量のゴブリン軍団が襲ってきていた。


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

「はは、僕も出来る限りのことはするけどあまり戦闘は得意じゃないんだ……精々護身術程度かな?」


惑は、イネに説明しながら突っ込んできたゴブリンを合気道で頭から地面に叩きつけた。


「ほらほら、早くしないと死んじゃうよ? 成長したいんでしょ?」

「ああ! もう!」


きのう生まれたばかりにも関わらず、イネは自身の身体能力を全力で使い、ゴブリン軍団を一掃した。


そして、一時間後、


『錬金術師のレベルが上がりました』

『スキル:複製を手に入れました』

『スキル:修復を手に入れました』


Name:西院円 惑

HP:1400、MP:1400、攻撃力:1400、防御力:2400、スピード:1400、知力:35000、魔法:なし、スキル:合成、採取、錬成、記録、複製、修復、職業:錬金術師Lv4


「ハア……ハア……ハア」

「ふー! 終わった……粘着保護液結構使ったなあ」


近くには、粘着液に包まれて窒息したゴブリンの死体が数十体転がっていた。

しかし、そこから離れた場所にはイネに潰され、引き千切られ、噛み千切られた大量のゴブリンの死骸があった。


「さすが合成獣人、体はなかなかに動くようだ」

「惑もあの中でよくもあんな道具を使って生き残りましたね……その粘着保護液って丸呑みにされた際、円を描くように自身を守る様に包み込んで胃液から守る魔法が掛けられているのに、それで攻撃って……というか、死に方エグ!」


窒息したゴブリン達は、糞尿や冷汗塗れで真っ青な顔になっていた。

苦しいせいか、首を掻き毟ったせいか首筋が抉れて血だらけになっていた。


「よくも器用に顔目掛けて当てられたもんだ……1発目は二匹だったけど2発目以降は四匹ぐらい着実に当ててたよね」

「相手の動きと粘着液の着弾点を予測して投げるのはそこまで難しくない、君の牽制もあったからね」

「私の動きも見ていたんですか!」

「寧ろそれが目当てかな? 君の才能は感覚学習の方が合ってる気がしてね、人の口の動きで言葉を覚えて昨日のセックスもその場で相手の喜ぶプレイをしてあの二人喜ばせてたでしょう?」


惑の言葉を聞いて、イネはドキッとした。


「いや、確かに行為をしながらよくあるプレイで喜ばせてましたけど……でも意外と誰でも出来そうな事をして……」

「いや誰でもがよくあるプレイであんな喧嘩は生み出せないよ? 相性もあるし、テクニックとかもそう簡単には身に付かないからね? それに君は生まれたばかり、親と遺伝子の記憶があったとしてもそれが出来るかは、人間相手に上手く出来るかはまた別の話だよ?」

「あ!? え? えっと……」


惑の言葉に、イネは顔を赤くしながら俯く。


「しかも今の君はそれを上手く説明出来ない、自分でも説明出来ないけど上手く出来るなんて感覚派に多いからね、つまりは君は感覚的に優秀な天才型だと思うんだよ、それには兎に角実践を繰り返していく必要があるんだよ……ああ、ショートした」

「ワニャアアア〜……」


惑の説明を聞いていたイネは、頭から煙が出たように顔を赤くしてグッタリしていた。


「まあ戦闘の後だし、仕方ないか……取り敢えず食事の用意をするか……睡眠と食事をすれば多少体力も戻るだろう……スキルもゴブリンの性質も拠点見つけてからでいいか……ここだとあまり時間は掛けられないし……」


惑は、腕捲りをしてアイテム袋から鍋や狩猟ナイフを用意して、支度を始めた。


―――――――――――――――――


イネは、頭がクラクラする中何とか目を覚ます。


「ワニャアア〜ン……ああ、しんどいよお……お腹は気持ち悪い……」


気付くと、不快感を覚える程の空腹感に襲われる。

すると、鼻に何か食欲を唆る様な匂いがした。


「ワニャ?」

「ああ、起きた? ご飯もう少しで出来るよ?」


そう言って惑は、大きな鍋の中に大量の具の入ったスープを煮込んでいた。

そして、近くにあった皿に入れてイネに渡す。


「ありがとうございます、ズズッ……美味しい」


イネは、スープを飲みながら中にある具も食した。


「変わった味ですね、美味しいけど……何て料理ですか? これ?」

「モツ煮だよ」

「モツに? どのような料理ですか?」

「臓物や肉を煮込んだ料理」


イネは、不思議そうに具を見つめる。


「いつの間にそんなの調達したんですか?」

「調達も何も……さっき狩ったじゃないか」

「へ?」


惑が、キョトンとしながら視線を送り、イネは、視線の先に目を向けると、そこには、大量のゴブリンの首が並べられていた。


「ワニャギャアアア!」


イネは、見慣れないおぞましい光景に、悲鳴を上げる。


「昔の日本風に晒し首の要領でここに首だけ置いてみたんだけど……どう??」

「悪趣味ですよ……」


惑から感想を聞かれて、ドン引きしながらイネは答える。


「そうか……ドン引きかあ……これが異世界との文化の違いなのかあ……まあ僕の時代もこういうのはもうしていなかったんだけどねえ……」

「なら何でしたんですか?」

「中世の雰囲気を醸し出してたから何となく? どんな反応するかによってこの世界の倫理観念も知りたいし……それより食べれる? 美味しいっていてたから問題ないという事で良い?」

「うーん……まあ確かに味は特に不満はないけど……惑は?」

「うん? 美味しいけど?」


イネ自身も、ゴブリンの臓物と聞いて少したじろいでしまったのに、用意した惑は何の躊躇いもなく食しているのを見てイネは聞いた。


「惑は……こういうのは慣れてるの?」

「?? モツ料理は前から好きだったよ……」

「そうなんだ……ちなみに何で食べようと思ったの? 他に肉とか野菜とかあるのに……」

「食べようも何も……僕のいた日本料理の一つだからなあ……まあでも僕た食べようと思ったきっかけは子供の頃に見た映画である賢い男が臓物を酒のつまみにしながら食したって聞いて自分も臓物を食べればより賢い発想が出来るんじゃないかって思って食べたのが切っ掛けかな? それからハマって食べてる、まあ別に関係あるわけでもないみたいだけどね……」

「へえ……その人が食べたのは一体何の臓物なんですか?」

「人間の肝臓」

「……」


イネは、聞いた瞬間何も発することなく黙ってさらにあるモツ煮込みを食べ切る。


「ご馳走様」

「うん、美味しかった」

「私は大丈夫でしたけど……惑も美味しいと思ったんですか?」

「うん、臭みがとても効いて美味しかった……」

「そうですか……分かりました……そういえば水ってどこから……」

「そこにあったけど?」


惑の指差す方向を見ると、そこには井戸があった。


「あれって……何であそこに井戸が?」

「さあ? 管理されているみたいだし国が管理してるんじゃない?」

「それって! 勝手に使っちゃダメなんじゃ?」

「大丈夫大丈夫、だってさっき金貨10枚払ったじゃないか、法外的にお金を取ったならこっちだって法外的に水を勝手に使っても問題ないさ!」

「ええ……ああ……分かりました……」


呆れながらも、イネは取り敢えず惑の料理について何も言おうと思わなかった。

そして、食事を終えると二人は再び歩き始めた。

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