記録78『ドライアドの危機』
惑達は、ララルア街には入らず、近くの森へと入って行った。
しかし、イネは違和感を覚えた。
「何だこれ?」
「どうしたんですか?」
エレンは、イネに聞くとイネは鼻を啜りながら辺りを見回す。
「この辺りにはないはずの植物が元来あった植物よりも割合が多い気がするんだけど?」
「そんなこと分かるんですか?」
「臭いでね、本来の空気の中に別の匂いが紛れ込んでる感じかな? でも何故かその紛れ込んでる分の方が本来の空気を押し退けているみたいで」
エレンは、驚きながらも森を見渡す。
すると、違和感に気付いた。
「あれ? 奥にある森の種類と明らかに手前に生えている植物が全然違う」
すると、惑は手を叩いて呼び掛ける。
「はいはい、外来種は放って置いて奥にある本来の植物を見に行こうね! 奥に言ってドライアドに聞けば分かる事だから」
惑の言葉を聞いて、ララルア街の森に着く前の言葉をエレンは思い出した。
(町の人はその森で取れるモノを育てて経世を立てている)
その言葉に、ある意味では偽りはないのだろう。
しかし、どのようにして育っているかまではある意味察しが付いている様子であった。
そこに、この外来種と呼ばれた植物の秘密があるのだとエレンも気付いた。
「さてと、ここで色々と植物を見学するよ」
「はい」
「分かった」
そして、三人は森の植物の観察を始める。
すると、最初はイネが気付き、その次にエレンが気付いた。
「お? 来た?」
「来たね」
「来ました」
惑は、イネの視線の方向へと大声を出す。
「貴様等……我等に気付いたのと言うのか?」
「人間共! 我々の森をこれ以上切り倒す事は許さん! ラブラスの実が売れるからと言ってやり過ぎだと思わないのか!」
「人間は信用できない!」
すると、数人のドライアドと思われる者達が惑達の目の前に現れる。
「君等がドライアド? 僕西院円惑! よろしくね!」
「こちらとしては、よろしくしたくも無いな」
リーダー格と思われる一人の少年は魔法の準備をして惑に向ける。
「惑、どうする?」
「まあまあ、落ち着きなさい、イネ、彼等は人間が信用出来ないんだ、仕方ない」
「じゃあどうするの! 殺されるよ!」
エレンは、不安そうにしながら惑に聞く。
「ねえ、ちょっと待ってよ、私達はあの等はララルア街の住人じゃないよ! 本当だよ!」
「そうそう、実際君等の森を切り倒す様な道具はないと思うけど?」
「……アイテム袋から道具を全て出せ」
「はいはい」
イネは、獣人の為か、少しは信用したのか、惑のアイテム袋を開けさせてそれを確信に変えようとした。
「ほら、これでいい?」
「うーん……」
ドライアドの兵士達は、惑のアイテム袋の中身を慎重に確認する。
「何だこれは、趣味が悪い」
「ああ、虫の死骸に……人間か? 人形? それが液体の中に入っている」
「うわ」
ドライアドの兵士達は、惑にドン引きしながら中身を改めていくが、特に森の樹木を切り倒せるような道具を持っていなことをが分かり、溜息を吐く。
「貴様等は何をしに来た……どうしてドライアドの森に……」
「ちょっとドライアドの人達とお話がしたくてね」
「我々と?」
「うん、この状況になった理由をね! 余所者があのララルア街がこの森に何をしたのかをちゃんと把握したくてね! 後は君達の生存保存のお手伝い?」
ドライアドは、惑の言葉に怒りを覚える。
「貴様等人間が……我々をここまで追い詰めておきながら」
「その人間とは違うという事を理解してくれると嬉しい、でも立ち去れって言うなら立ち去るよ」
リーダー格の少年は、敵意を解かずに質問に答える。
「この森は本来ドライアドの森として少しは神聖視されていた……しかし現在の人間共は我々の森を切り倒し、金になるラブラスの木を勝手に植えて育て始めた、当然我々も抵抗した、しかし人間共は経世を立て直す為に少し森を使わせて欲しいと言った……そして、我々の姫はそれで子供が助かるならと言って少し融通したというのに……それからはドンドンと我々の森を切り倒し進み、ラブラスの実を植えて、更には煙草やゴミを神聖な川に捨てるという愚行をした」
「抵抗は出来なかったの?」
「したよ、当然……だがあの国には炎の魔法使いが居て我々にとって致命的となる冒険者を雇っている……そして長年のゴミの投棄と森を切り倒された事によって我々の力が弱まったのが理由だ……糞……姫様の慈悲をこんな形で返すなんて……」
リーダー格の少年は、悔しそうに涙を流す。
それを聞いて、エレンは同感した。
「私の村もそうでした、ペプリア国に見捨てられた挙句、もう必要ないという理由だけで魔族に襲われた跡地として観光名所にしようと仲間を沢山殺されました」
「!! 君も……」
少年は、エレンの言葉に嘘がないと目を見て確信が出来た。
「さてと、理由は聞いた……なるほどねえ、どこの世界でもある意味では同じか……ねえ! 姫様に会える?」
「……」
少年は、少し悩む。
エレンは、頭を下げる。
「お願いします! 多分惑なら知恵を貸してくれると思う! なんたって錬金術師だから!」
「錬金……術師……ああ! 最近色々問題を起こしている!」
「どこまでその噂が回ってるの惑」
「さあ?」
イネは、惑の悪評の浸透に呆れていた。




