記録76『怒れるライアン』
「ちくじょうがああああ!!」
ライアンは、噴き出る血を抑えながら必死に意識を取り戻す。
「ぐう!! ヒール……」
そして、自身の魔法によって腹の傷口を塞いだ。
「はあ! はあ!! 許さん! 絶対に許さんぞ!」
ライアンは、急いで世界平和議会の施設へと馬車を走らせた。
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「ら……ライアン……どうしたその顔」
「ああ……真っ青だ」
「何かあったのですか?」
「からかいとかなしで……本当に……」
議会の仲間達は、本気でライアンを心配していた。
「勇者だ!! あの糞勇者にやられた!! 魔族との平和協議をしている事を話したら容赦なくな!!」
「!!」
「それは!」
「まさか……」
「あくまで戦争を望むというのか……」
唖然とする仲間達、ライアンの予想通り話が通じるならば出来るだけ魔族との戦争は望んではいないようだった。
もし、争いを望むのであれば、ライアンが提案した時点で反対の声が挙がっている。
しかし、以前の議会にて、そのような断固とした反対意見はなかった。
つまりは、平和的解決こそが理想であると皆の心にはあるという事だ。
しかし、勇者が絡めば話は別であった。
「だが我々は勇者を召喚したのだ……ペプリア国の断行行為とはいえ、召喚をしたというならば勇者の影響力を考えてこっちから勇者の意向を無視するわけには」
「確かに……」
「だが本当に勝てるのか? 勇者だって全戦全勝出来るとは限らんだろ」
「そこは心配ないと思うわ、だって召喚の際我々の世界的一般の強さとはかけ離れている事は確かであると報告があったわ……つまり魔王を倒しうる力は有していると考えてまず間違いないわ」
議会の四人は必死に思考を巡らせながら、議会を進めていく。
しかし、ライアンは机を思いっきり叩いた。
「そんな話をしに来たんじゃねえ!! あの糞野郎は殺すべきだ! でねえとあの糞の思い通りの世界になっちまう!! あれは危険だ! 人類が扱うには……いや! そもそも扱おうと考える事すら危険だ! ならば封印か殺すかの2択で考えるべきっだ! 特定の一人の思い通りになる世界なんて悍ましいと思わねえのか!!」
ライアンの言葉に、四人の言葉が詰まる。
大きな力を持つ者が、世界を支配すれば今まで作り上げて来たシステムを破壊されかねない。
しかも、ライアンの平和協議の話を聞きもせずに斬り倒す様な者に政治が出来るとは思えなかった。
そんな素人が、この世界を好きなように回せば確実に世界に不具合が発生する。
この世界に疎い者であるのならばなおさら止めるべき案件であった。
「確かに……だがどうやって殺す……もしくは封印だ……簡単にはいかんだろ」
「そ……そうですよね……少しでも間違えれば確実に我々は殺される……いや我々だけでなく国民の命すらも危ない」
「まさかこんな事で選択を迫られるとは思いもよらなかった……」
「ああ……一体どうすれば……」
勇者の危険性に、四人は頭を抱えている。
「いるだろ? あの勇者を殺しうる存在が……そいつに手を貸すんだよ」
「誰の事だ……そいつは……」
ミクルスは、不安そうにしながら聞く。
「錬金術師……西院円惑だ」
「やはりか……」
嫌な予感が的中したのか、ミクルスは溜息を吐く。
「そいつが勇者と同じく世界を自分勝手に作り替えないとでも?」
「さあな、だが政治には関与しないし奴の場合は、明らかな危害を加えない場合は何か仕出かす様なマネはしないと思う……もしくは村の村民や種族を追い詰めた場合力を貸すと言った互いに戦いを引き起こす可能性はあるが、それもこちらが出来るだけ差別されている種族に配慮すればいいだけの話だ! それに進化であれば世界の改革を行える……それは寧ろ我々にとって有効活用できるとは思わないか?」
その言葉に、四人は自身の国が抱える問題が頭に浮かぶ。
しかし、その思考を遮る様な悍ましい声がした。
(ダメだ……)
『!!』
頭に響く様な声が直接伝わった。
「だ……誰だ!!」
「止めろライアン! これは書物で読んだ事がある!! これは……まさか……」
「ああ?」
(私達は神だ……勇者の召喚を望む者)
その発言と同時に、五人は硬直した。
「か……神様って! まさか……そんな」
「この声が聞こえるのは恐らく数百年ぶりだ……戸惑っても無理はない……」
「だがなぜ今なんだ……」
「多分……ライアンが……」
皆、ライアンの方に視線を移す。
(その者のいう人物に頼る事は許さん)
「ああ! なんでだよ!」
「ライアンよせ!!」
(お前生意気だ……これを見ろ)
そして、ライアンの目の前にモニターのような映像が現れる。
「?? 俺の国? それがどうし……」
(どかーん)
ライアンは、映像に目を疑った。
シャグル国とワンズ街、そして無法都市が焦土と化した。




