記録6.5『天山有志の事件簿前編』
有志は目を覚ますと、薄着のシャイニャスが嬉しそうに有志の顔を眺めていた。
「ふふふ、寝顔……堪能しちゃいました」
「はは、堪能されちゃった」
二人は、互いに微笑み合いながら余韻に浸る。
有志は、シャイニャスの頭を撫でながら言った。
「俺はこの後、再び王様と謁見するよ、今後の事も話しておきたいし」
「分かりました、私も出来る事があるなら協力させていただきます」
二人は、軽くキスを交わしそのまま服を着替えて部屋を出た。
有志は、玉座の間へと姿を現すとファルトコン王が出迎えた。
「有志殿、昨日はよく眠れましたかな?」
「はい! あんな素晴らしいお部屋をありがとうございます」
「良いのですよ、私達も有志様のような素晴らしい方を召喚出来て嬉しいのですから」
隣にいたファマルマ女王も嬉しそうに有志に話す。
そして、ファルトコン王は真剣な表情で話し始める。
「では、有志殿……今後の魔王退治についての計画を聞いておきたいのだが」
有志も真剣な表情になり、ファルトコン王に跪いて話し始める。
「ファルトコン王、俺は魔王を倒す為に必要な事を昨日は考えていました……それで誠に勝手ながらこの国で剣の鍛錬をして戦いに慣れてから魔王退治へと向かいたいと思うのですが?」
「ほほう、理由を聞いても宜しいですか?」
ファルトコン王は、有志の話に耳を傾ける。
「俺の世界は元々争いのない安全で平和な国でした……そして武道や剣道というこの世界では剣術なるものを学んではいました……しかしそれもこの世界での剣術や実戦とは違うものであります……もしこのままの状態でいきなり魔王退治に向かえば失敗の可能性があると思うのです……」
「確かに、あまり急ぎ過ぎて有志殿が殺されてしまえば元も子もない……魔王の侵攻は恐ろしいがその恐ろしさに負けてしまえばそれこそ魔族共の思う壺だろう……」
「そうですね……勇者である有志殿のその考え方は正しいと思います……」
「それに、我が国には急がば回れという急ぐ時程早道や危険な方法を選ばないで回り道でも確実に安全な道を通る方が早く着くという言葉があります」
有志の知識を聞いて、二人は感心した表情で有志を見る。
「ほほう、有志殿は博識でもあるのだな」
「こんな聡明な方を勇者として迎えれたなんて! 本当に我々は運が良いです!」
「ははは、大したことはしていませんよ」
有志は、いわゆる現代知識無双をする事で二人に褒められて満足気な表情をする。
そんな時であった。
「皆の者急げ! 殺人が起こったぞ!」
「被害者は女性だ! 加害者らしき者も近くで死んでいるそうだ!」
そんな声が城内に響いていた。
「何かあったようだな」
「殺人とは……何と恐ろしい……」
ファルトコン王とファマルマ女王が少し怯えていると有志は突然立ち上がった。
「俺も同行してもよろしいでしょうか! 勇者として見過ごすことが出来ません!」
その言葉に、二人は少し驚くと同時に誇らしげになる。
「さすがは有志殿だ! 正義感にも溢れているとは!」
「さっそく勇者様の活躍が見れるのですね!」
「話は聞かせていただきました! お父様! 私も有志に着いて行っても宜しいでしょうか!」
そんな喜びに溢れている中、一人の声が響いた。
声の方向へ視線を向けると、そこにはシャイニャス姫がいた。
「シャイニャスよ……其方に危険が及ぶかも知れんのだぞ? ここは有志殿に任せていた方が良いのでは?」
ファルトコン王は、心配そうにシャイニャスへ声を掛ける。
しかし、シャイニャスは真剣な表情で訴える。
「確かにお父様の仰る通りだと思います、しかし、有志はまだこの世界に召喚されたばかりで殆どの方が有志が勇者であるとこを知りません! だからこそこの国の姫である私がそばに居れば、きっとお役に立てるかと思います!」
ファルトコン王は、シャイニャス姫の訴えに対し少し考える。
「確かに、有志殿一人では勇者としてまだ認識不足かもしれん……そう考えるとシャイニャスも一緒に居ればその証明になる、いやしかし……」
ファルトコン王は、やはりシャイニャス姫の事が心配なのか煮え切らないでいた。
「大丈夫です! きっと私の事は有志様が守ってくださいます! それに他の騎士や衛兵がいるのです! 問題はありません!」
「いや……それだけではない、いくら城下町とはいえガラの悪い連中もいる、しかも今回は殺人だ……犯人は死んでいるとはいえ仲間がいるかもしれない……奴等は身体的な傷を与えるだけでなく、心を傷付ける術を持っておる……そういう手合いの場合シャイニャスがどれほど傷付けられるか……そして、シャイニャスにはその者達の御し方はまだ知らないし……」
「そっそれは……」
ファルトコン王の言葉を聞いて、シャイニャス姫もたじろぐ。
すると、ファルトコン王は思い付いたように声を出す。
「そうだ! ならば私が付いて行こう! 私としてもシャイニャスもいずれはこの国を治める者となる、ならば私が付いていきその者等をどのように御するのかを見ておくのも勉強になるだろう……」
「確かに、そうすれば安心だわ」
ファルトコン王の言葉に、ファマルマ女王は歓喜する。
「分かりました、お父様ありがとうございます」
シャイニャス姫は、少し不満そうにするが、納得した表情になり、お辞儀をしながらお礼を言った。
「それではすぐにでも行きましょう! 時間が経てば経つ程犯人は証拠を消すかもしれません! 犯人は一人とは限りませんし!」
「確かに、有志殿の言う通りだ!」
「さすがは有志様ですね」
「という事で宰相よ、私の公務はよろしく頼むぞ」
「分かりました、お任せください」
近くにいた宰相はお辞儀をする。
「有志殿、これをお使い下さい」
そして、近くにいた衛兵の一人が融資に近づき剣を渡す。
「ありがとうございます」
「それでは向かうとしよう」
ファルトコン王とシャイニャス姫と有志は騎士や衛兵達と共に現場へと向かった。
------------------------------------------------------------------
現場に到着すると、そこには悲惨な光景が広がっていた。
「ファイナあああああああああああああああああああ!! どうして! 何でこんな事にいいいいいい!」
女性の死体に覆うように、一人大人しそうなさ優男が泣き喚いていた。
女性は、下着のパンツしか履いておらず、顔の原型が分からなくなるぐらい青痣だらけで、へし折れた歯が部屋の壁などに突き刺さっていた。
身体中に殴られた痕や物で殴られたような傷と綺麗に整えられたであろう手や爪は、反撃した為か、剥ぎ取れた爪は、あちこちに飛び散っており、綺麗な指はあらぬ方向に曲がっていた。
そして、部屋のドアから何とか逃げ出したかのようにうつ伏せで横たわっている。
もう一人の男性の死体も、女性の死体のように下着のパンツのみで、同じく顔の原型を留めておらず、歯も飛び散り、体中の痣とへし折れた指に剥ぎ取れた爪、そして部屋の中は大量の血痕が飛び散っており、部屋にあった家具やベッド、壁等は壊れている。
「酷い……何という惨状だ……」
「こんな……こんな事って……」
あまりの惨状に、シャイニャス姫は蒼白しながら目を背ける。
ファルトコン王も冷や汗を掻きながら、表情が険しくなる。
そんな中、有志は女性の死体に寄り添っている男性に近づく。
「大丈夫ですか?」
優しく声を掛ける有志に、男性は涙を流しながら答える。
「大丈夫? そんな訳ないに決まってるでしょ! どうして最愛の妻の死体を見て大丈夫でいられると思うんだ!」
「そ! そんな言い方!」
シャイニャス姫が、男に対して言い返そうとするが、有志は手を翳して止める。
「そうですね……俺が無神経でした……すみません」
「いや……こっちこそ、心配してくれているのにすまない」
有志の謝罪を聞いて、男も少し気まずそうにしながら謝罪する。
すると、一人の衛兵が軽薄そうな男を連れてきた。
「ファルトコン陛下、勇者様、どうやらこの男がこの宿の店主みたいです、名前はラノーバというそうです」
「ども」
ラノーバが、軽く挨拶すると、有志は悔しそうに歯を食いしばる。
「どうして止めなかった……」
「は?」
有志の突然の問いに、ラノーバは意味が分からなそうに返事をする。
すると、有志はラノーバを睨み付ける。
「どうして止めなかったと聞いているんだ! 答えろ!」
「ちゃんと泊めてるじゃないですか」
「そんなことを聞いているんじゃない! どうして彼女がこうなる前に止めなかったんだと聞いたんだ!」
ラノーバの言葉の勘違いに、有志は怒りを向けながら問い質す。
「そんな事をしたら喧嘩に巻き込まれるじゃないですか」
「だったらそうなる前に! ここに連れ込まれる前に! 彼女のSOSに気付いて男を止める事だって出来たはずだ!」
「は? えす……何て?」
「助けを求める事だ! そんなことも知らないのか!」
ラノーバは、知らない言葉に困惑すると、有志はラノーバを見下す様に怒鳴る。
「ああ、はあ、すみません……助けですか……助け……」
ラノーバは、有志の言葉に適当に返事をしつつ、被害者女性と男がここにやってきた時の事を思い出す。
「うーん、仲睦まじくしていたと思いますよ? 腕とか組んでたし」
「嘘だ! 僕という者がいながら妻がそんな事するわけがない!」
ラノーバの言葉に、否定したのは被害者女性の夫であった。
「浮気じゃないですか? そういう人よくここに来ますよ?」
しかし、夫の否定に対してラノーバはアッサリと答える。
「そんな事はない! 妻に限ってそんな事!」
「それ、よく浮気される男のセリフですよ」
「黙れ!」
有志は、夫に対するラノーバの辛辣な言葉に壁を叩き付けながら言葉を遮る。
「お前はもう喋るな……下衆野郎」
「ッチ! だったら最初から聞くなよ、カス」
ラバーノは、舌打ちをし悪態を呟いた後、すぐに黙る。
有志は、夫の背中を摩りながら話し掛ける。
「落ち着いて下さい、貴方の奥さんは絶対に浮気してませんよ」
「本当ですか!」
夫は、有志に救いを求めるように手を握る。
「はい、えっと……」
「ロギスです……ロギス・ナグリー」
「ロギスさんですね……俺には分かります……奥さんは貴方の事を愛しています……彼女が倒れている方向を見てください、ドアから逃げ出すように倒れています……きっとこの男から逃げようとしたんでしょう」
「たっ確かに! そうでなければこんな倒れ方なんて……」
有志の言葉を聞いて、ロギスは少し元気を取り戻す。
「……倒れているこの男も見てください、殴られた痕があちこちにあります……奥さんは貴方の事を想い、そして再び貴方に会える事を願ってこの男に立ち向かったのでしょう、勇敢な奥さんですね……」
「ファイナああ……頑張ったな……よく……頑張ったな……」
ロギスは、涙を流しながら奥さんのボロボロの手を愛おしそうに自身の頬に当てながら自身の妻の勇敢さを讃える。
「こんなに悲しい事がありますか……」
「こんなにも立派な女性が……自身の夫への愛を一途な思いをこんな簡単に壊されるだなんて……何と言う悲劇だ……」
シャイニャス姫もファルトコン王も涙を流しながらファイナを讃える。
そんな時だった。
「あの~? お取込み中すみませんが、ちょっと良いですか?」
「何だ! こんな時に水を差すのか! 貴様!」
ラノーバが、突然割って入った事に対し周りの者達は不快感を覚える。
「いえ、ただその女の夫である……えっとロギスさんでしたっけ? ここの部屋に家具や部屋の損傷に対してロギスさんに損害賠償請求させて貰う、ざっとこれぐらいはするんですが……」
「な! 損害賠償請求だと……キッ! 金貨30枚! そんなお金! あるわけないじゃないですか!」
ロギスは、渡された紙に記載された請求額に驚愕する。
「金貨30枚?」
有志は、まだ異世界に来たばかりな為、金額について詳しく分かっていなかった。
しかし、突如目の前にステータスと同様の画面が現れた。
『銅貨100円、銀貨1000円、金貨10000円単位です。』
その表示を見て、有志は驚愕する。
そして、すぐさまラノーバの胸倉を掴む。
「ふざけるな! この下衆野郎が!」
「はあ?」
いきなり恫喝されて、ラノーバは有志を睨み付ける。
「この宿にそんな価値はない!」
「馬鹿にしてんのか!」
有志の侮辱的な発言に、ラノーバは声を荒立てる。
「黙れえ! そんな法外な請求が通る訳ないだろ!」
「妥当な金額だ! 寧ろ安宿だからこれぐらいの金額しか請求してねえんだよ! この男も金持ってなさそうだから仕方なしで! だがこれ以上は譲らねえ! どうにかして払うんだな!」
「そ……そんな……」
ロギスの心は絶望に包まれる。
そんな中、有志はラノーバに対して疑いの目を向けていた。
「あ? なんだ? まだ文句あんのか?」
流石のラノーバも有志に対して、威嚇するように尋ねる。
それと同時に有志は、何かに気付いたように、ラノーバに指を刺しながら言い放つ。
「おかしいと思ったんだ、ロギスさんの奥さんの助けを無視した上、喧嘩すら止めようとしなかった、そして部屋のこの惨状……間違いない! お前! この男と組んでるな!」
「……何言ってんだ? お前?」
ラノーバは、訳が分からなそうにしながら聞き返す。
「お前はこの男に大金を払いこの宿に連れ込むように依頼! そして、この部屋に連れ込ませ乱暴を働かせた! その際この部屋の家具や壁! そしてドアを損傷させてロギスさんの奥さんが逃げたところを追跡して浮気という嘘をチラつかせて宿の損害賠償請求をする気だった! だが男もロギスさんの奥さんも死んだからこの男に対して請求した! そうだろ!」
「流石有志殿! 名推理だ!」
「そんな訳あるか!」
有志の推理を聞いて、ファルトコン王は称賛するが、ラノーバは異議を唱える。
「たった金貨30枚の為にこんな手の込んだ事するか! そもそも男に大金払って宿の部屋壊してる時点で金貨30枚なんて消し飛ぶわ!」
「それはどうかな、こんな安宿捨てて別の土地で金貨30枚を使い豪遊しようと考えてたんじゃないか? 浅ましい人間は少量の金額で簡単に人も殺す」
「なるほど、有志殿の推理、一理ある」
「ねえわ!」
勝手な憶測で、悪者扱いされたラノーバの怒りが爆発した。
「いい加減にしろよ! さっきからくだらねえ憶測ばかりしやがって! こっちは被害者なんだよ! それに今のは全て憶測に過ぎないだろ! 信憑性に欠けてんだよ! それとも、一理あるというだけで王族は犯人を決めるのか? そう考えると今までの事件の犯人も正しいのかも怪しくなるなあ〜こんな奴らがこの国を担っている事を知ったら他の国民はどう思うかなあ?」
「きっ貴様! 我等を脅す気か!」
ラノーバは、国の威信を脅しに、自身の潔白を証明しようと試みた。
ファルトコン王は、悔しそうにラノーバを睨み付ける。
「だよなあ! いくら勇者の言葉でもただの憶測だけじゃあ信じられる訳ねえよなあ! もしここで権力を使って無理矢理俺を裁いたら、俺の知り合いが俺の潔白を証明しようと行動するだろうよ〜その時本当に俺が潔白だったらどうするよ〜? ああ?」
ラノーバは、煽る様に王族を責め立てて、ファルトコン王も為す術がなくなる。
そんな時だった。
「私は有志を信じます」
「何でだよ!」
その声を上げたのは、シャイニャス姫だった。
「私、人を見る目はあります、貴方は人の弱みに付け込み金をかせしめる悪徳な商売をいつもしているのでは? 例えばここに泊まった人は他の宿に泊まる事が出来ない訳アリの方々、そしてこのような安宿なのは壊れやすくしておいて物が壊れた際、先程この被害者の旦那様にしたような請求をしたのでは?」
「おいおい、それも憶測だろ? それにコイツに賠償請求したのは事実壊された物がある、それに確かにこんな安宿だから多少のトラブルはあったのは事実だが、実際壊されてしまったんだから賠償するのは当然だろ?」
「それはどうでしょうね? もしここに泊まった者達の殆どが賠償請求されたのならばきっと貴方がどれだけ悪徳な方であるか証明してくれると思いますが?」
「はあ! そんなの自分の金が戻ると思えば俺が悪徳だと嘘でも証言するだろうが! そんな事も分かんねえのか!」
シャイニャス姫の言った通り、ラノーバは確かに不当な賠償請求をしていた。
だからこそラノーバは、王女と比べれば金銭に関しての経験が豊富であり、人間がどれ程金に貪欲であるかを理解していた。
自身も金に貪欲であり、様々な方法で金を稼いでいたからこそ、金に貪欲な者がどのような行動に出るか理解している。
ラノーバに恨みを持った者、金に意地汚く集ろうと便乗する者、泊まってもいないのに自分も被害に遭ったと言い出す者がどれだけ現れる者も出て来る事を考えると、ラノーバは、冷汗が止まらなくなる程であった。
「その冷汗、図星のようですね……」
「はあ!」
「貴方のように人の弱みに付け込んでお金を巻き上げようとする者が、この国で宿屋を経営しているだなんて、この国の恥以外の何者でもありません! 我が国に必要な宿とは! 疲れた者を癒し最高のサービスで御持て成しをする事こそです! それが出来ない貴方には! 宿を経営する資格はあり……」
「図に乗ってんじゃねえぞ! この糞ビッチがあああ!」
シャイニャス姫が言い終わる前に、ラノーバの怒りが頂点に達した。
「くっ糞ビッチ……とは、私の事ですか……」
泣きそうになりながら、シャイニャス姫はラノーバに問い質す。
「ああ! そうだよ糞ビッチ! テメェに言ってんだよ! さっきから適当な事ばかりほざきやがって!」
「貴様! 我が娘を! 国の姫をビッチと呼ぶか! 不敬だぞ!」
ファルトコン王も、娘の暴言に対してラノーバを咎めるが、ラノーバの怒りを止める事は出来なかった。
「糞ビッチを糞ビッチと言って何が悪い! テメェが俺の事を好き勝手に語るなら俺だってそうしてやる! これでも客商売は長くてな! 分からない奴も最近来たことあるが、分かる奴は分かる! 特にテメェみてえのはなぁ!」
「いっ一体……何が……分かるというのですか……」
シャイニャス姫は、暴言を吐かれながらも涙を堪えて聞いた。
「テメェは、ちょっと人に優しくされりゃ! 簡単に股開く女ってえ事だよ!」
「なっ! 何を……」
シャイニャスが、顔を真っ赤にさせるが、すぐに手で隠す。
しかし、ラノーバは、その瞬間を見逃さなかった。
「何だ? 図星か? まさか本当に股開いたのか? まさかそこの勇者か? 嘘だろ! 勇者召喚が成功したの昨日って聞いたぜ! それなのにもう肉体関係を築いたのか? まだ会ったばかりの男に? おいおいもし本当ならとんだ糞ビッチだな! ええ? おい?」
「だから、だから何なのですか! 貴方に関係ありますか! 私は有志を愛し……」
「うーわ! この姫認めやがった! さっきから呼び捨てだから気になってはいたが……本当に糞ビッチだったとは! こんな糞ビッチがこの国を担う次期女王って! 大丈夫なんですかね〜この国は! こんな糞ビッチに資格あるんですかねえ〜ビッチ臭い国になるのでは? イヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!」
「ひ…酷い……酷過ぎます……あああああ!」
遂にシャイニャス姫は、泣き出してしまった。
「おいおいおい! 泣いてやがるぜこの糞ビッチ! イヒャヒャヒャヒャヒャ!」
「シャイニャス! 貴様あ! 言わせておけばあ!」
ファルトコン王も、ラノーバに対しての怒りが爆発しそうになっていた。
「もういい……」
「イヒャヒャヒャ……え?」
ラノーバが、嗤っていると、後ろから冷ややかな声がした。
振り返るとそこには有志がいた。
「お前は二度と喋るな……」
「は? お前何を…め…ピギャア!」
そして、有志は腰に据えていた剣で、ラノーバを斬る。
ラノーバは、大量の血を流しながら斬られた勢いのまま後ろに倒れる。
「グバア! 馬鹿な……こんな……嘘だろ……ありえ……な……」
そして、ラノーバはそのまま息をしなくなった。
有志は、抜いた剣を鞘に戻し、ラノーバの死体を気にせず、踏み付けながらシャイニャス姫の元へ行き抱きしめる。
「シャイニャス、大丈夫かい」
「有志……私…私」
「シャイニャスは何も悪くない、悪いのはこの屑だ、俺に対する君の想いは、何者にも変えられない尊いものだ」
「有志……」
シャイニャスは、嬉しそうにしながら有志の胸に顔を埋める。
「大丈夫、シャイニャスは俺が守るから安心して、この屑の言葉なんて気にしなくて良い、君は絶対に立派な女王としてこの国を担う事が出来るさ」
「ありがとう、有志……」
シャイニャス姫を励ました後、有志はファルトコン王へと視線を変えて頭を下げる。
「申し訳ございません、王様……勝手な事をしてしまい」
ファルトコン王は、首を振り有志を優しく微笑みながら頭を下げる。
「有志殿は正しい行いをした……もし有志が斬っていなくても、私が直接この屑を斬っていた……シャイニャスの為に怒ってくれてありがとう、心から感謝する」
「ファルトコン王」
「これからも我が可愛い娘を頼む」
「お任せ下さい! 必ず守り通して見せます!」
二人は、お互いの信頼の証として、固い握手を交わす。
「ロギスさん、この屑に金を払う必要はない、それよりも貴方の奥さんの潔白を証明しに行きましょう……きっと何か証拠があるはずです、奥さんの名誉を守る為に」
そして、有志はロギスに向き合い、話を再開する。
「有志さん、ありがとうおございます、私はこんな屑より妻を信じます、そして必ず妻の名誉を、ファイナの心を守ります!」
「そうだな……衛兵達よ、そこにある薄汚いゴミ共をすぐに国の近くにある魔物の森に捨ててこい、そしてこの者の奥方の遺体は丁重に埋葬してあげなさい」
「は! 承知致しました!」
そして、ラノーバと加害者男性の死体は、国近くにある魔物の森に捨てられ、魔物の餌となった。
ファイナの遺体は、ファルトコン王と有志の計らいにより、立派な墓が建てられ、埋葬された。
「よし! じゃあファイナさんの名誉回復の為にも! 一刻も早く証拠を探しにいきましょう!」
「はい! そうですね!」
「では、残りの衛兵と騎士達は我々に続け!」
『は!』
「ファイナ! 待っててくれ! 必ず君の心を救ってみせる!」
こうして有志達は、ファイナの名誉を守る為に、浮気が潔白である証拠を探しに行った。
この後、めちゃくちゃ浮気の証拠が出て来た。