記録58『対話』
ライアンは、息を呑んだ。
目の前にいる魔族の姿は、禍々しいものであった。
四天王のバザル、竜人種である。
「嘘だろ……何で目の前に四天王が……」
「ふむ、シャガル国の長か……よろしく頼む」
テーブルを間に、二人は向かい合う。
「で? どうして四天王のアンタがここに……明らかに場違いだろ」
「魔王様からの命でね……無法都市やシャガル国に送り込んでいないはずなのに魔族が
制服に成功したという話を聞いた」
「なるほど」
この話を聞いて、ライアンはバザルの言葉に納得した。
アルマダの存在は、西院円惑が作り上げた魔族。
云わば、魔族が管理していない存在である。
しかも、元人間であれば出生の管理すらも範囲外である。
そんな彼女が無法都市を征服すれば、異様に思い様子を見に行く事はおかしな話ではない。
「来てみればこれだ……人間が作り上げた魔族……ックックック」
「? 何がおかしい」
「いや、気にするな……こっちの件だ」
少し笑うバザルにライアンは質問するが、首を振って理由を言わなかった。
ライアンは不審に感じたが、少し考えてから話し出す。
「まあいい、で? どう思った? この状況」
「我々にとっては別に問題はない……無血開城するならばそれで良いしここを魔族へと進化したこの者に任せるのに否定的ではない」
「ほう、俺もそれに関しては何も言うつもりはない……何故ならここは無法都市、力こそ正義の街だ……だからここがマジで魔族に落とされても何も問題はない……だが結果この女がこの街を支配し、更には我がワンダ街とシャグル国の繁栄を手伝ってくれるとのことだ……こんな都合の良い事なんてそうそう起きやしない」
「確かに……子供が生まれにくくなる時は必ず来る、その時の為の対策は打たないとならない、我々竜種だって同じだ……恐らく波だろう……以前の子供を産む事に関しての興味が失せかけている……だがこの娘、アルマダの性欲の増強能力は素晴らしい……本物のサキュバスやインキュバスに任せれば限度がなくなる、だがこの娘は限度を上手く扱える」
「ほう」
ライアンの興味は再び、アルマダに向いた。
「私は娼婦よ、相手を果てさせても枯らす事が仕事ではないわ、枯らしてしまえば私に対しての興味が急激に下がる……娼婦はそのギリギリを狙って相手を満足させるだけ、そして果てても枯らさない事によってもう再び私を求めたくなるの、最初から最後まで気持ちいで締めくくる、それが我々娼婦の務めよ」
サキュバスやインキュバスは、相手を虜にして生気を吸い取る悪魔、場合によっては人が死ぬ。
しかし、娼婦とはそもそもから相手を満足させる為の仕事をしているせいか、加減を知っている。
相手の緊張を解し、心を認めて、性欲を昂らせ、行為へと至らせ、絶頂の限りを尽くし、満足感を相手に見せ、一緒に気持ち良くなる。
それこそが彼女のコミュニケーションの取り方であった。
アルマダの言葉には、それだけの説得力があった。
「ふむ、ならこれからも頼もうか……この街を、そして我が国の子孫繁栄と魔族との和平条約を」
「我等としても無駄な争いは起こしたくない、オーガの里がペプリア国の貴族に襲われはしたがそれらは君を改造した者が村人に滅ぼさせたと聞く」
「う……うん」
ある意味では、オーガ族の里を襲った貴族は殺したが、国自体の姫と騎士が逃げている為、完全に滅ぼせたわけではない。
しかし、今ここで余計な事を言って和平に傷を入れる訳にはいかない。
そう考えたライアンは、その事に着いては伏せた。
「それでは、これで和平は結ばれたものとする、我が国シャグル国は、魔王に対して攻撃する事を禁じよう、私は協議会にも出ているから積極的に話を勧めれるようにする」
「わかった……頼む」
こうして、魔族とライアンとの和平は成立した。
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「なるほど、それで機嫌が良いのか」
「そうだ! だから俺は積極的にこの和平を勧める! お前等もどうだ!」
「だがそれは君の国での話だ……我々としてはどうメリットがあるのかまだ分からんだろ」
「西院円惑は非常に気まぐれな人間である事だけは分かる……もし我が国に矛先が向く様な事があれば魔族との和平など意味がない」
他の競技会の者は、反対意見が多かった。
しかし、ライアンはほくそ笑みながら答える。
「確かにメリットがなければ魔族を滅ぼさない為の理由がない事になる、しかし勇者が召喚されたからって別に確実に魔族を滅ぼす理由にはならない、今までだって勇者を召喚してもまた魔族の王が復活し我々を襲っているのは事実だろ?」
「確かにそうだが」
「それを俺等で断ち切る必要があるんじゃねえのか? その為の交渉だ、騙されてるんじゃねえかって言うならそれでもいい! だが俺はあの四天王の事を少しの会話で信じようと思った……それは悪い事か?」
「いや……決してそのような事は……魔族との和平は必要であれば行う代案に過ぎない……それに勇者はもうすでに旅立っている、そこに魔族を殺さなくていいと言っても納得してくれるか?」
現在での問題について話しを振る議長にライアンは俯く。
「まだ分からん、だが勇者は所詮余所の世界の者、そしてペプリア国が勝手に召喚しただけの話だ、律儀に勇者が魔王を倒すという構図にこだわる必要はないんじゃないか?」
「それもそうだが」
議会は、結局様子を見て必要であれば和平を結ぶことを約束した。




