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記録54『性界平和』

アルマダの理想は徐々に広がっていく。


「ねえ! ここではどんな生物でも性の悦びで平和に生きれるって本当ですか!」

「私も! 平和に生きたい! もう苦しいのは嫌! 惨めなのは嫌!」

「私は……私にはもう何もないと思っていた……でも……ここで取り戻せるなら! 取り戻したい!」


3人のみすぼらしい姿の男女がいた。

アルマダは、微笑みながら三人にキスをする。


「大丈夫よ、それは喜びなの、気付いていないだけでその苦しみも惨めも失う事すらも本欄喜びなのよ……負の感情は裏表、それを同じように愛する事こそが本来の人間よ……死んだ時その二つを失う……でもそれを失わないようにするのがこの街なの、無法都市は今性の無法都市へとなったわ、性病で死ぬ事も私の眷属による繋がりで共有する事で失わず正も負も悦ぶわ、ここに来て、本当の悦びを知る事が出来るわよ」


その甘い言葉が、三人の脳髄に入り込む。

そして、甘い蜜の味を言葉だけで依存させた。


「はあはあはあ」

「だめえ……あああ……だめええ」

「気持ちい、心地良い」


言葉だけでここまでの悦びが、体の芯から頭まで満ち入る。

これを味わえばもう戻りたくなくなる程の依存性が、誘惑する。


そして、三人はその依存性に飛び込んだ。


-----------------------------------------------------------------


着々と、無法都市を性の無法都市へと変えるべく、誘惑の渦へと飲み込んでいく。

アルマダは、支配者五人と対峙する。


「おまえ、俺等の街で好き勝手しているようだな?」

「テメエよお? 覚悟あるかああ?」

「私達の世界を荒らすのは許されない」

「ヒヒヒヒヒヒヒ……血を見たい」

「まあまあ、皆落ち着いて殺しましょうよ」


乱暴そうな者、イキる者、欲深い者、異常な者、冷静な者。

そのどれもがアルマダにとって大好物であった。

何故なら感情が、見て聞くだけで露わになっているからだ。

ここまで感情が見えていれば、最早アルマダの性で溶かす事が出来る。

惑と違い、喜びの部分がちゃんと人である。

それこそが、支配者の最大の弱点であった。


そして、五人は物の数分で堕とされた。


「ああ……ああ……あああ……」

「もう果てちまったぜえ……極限までええ」

「私の世界は狭かった」

「ヒヒヒヒヒヒ……全てが愛おしいよおおおお」

「ふー、これからどうします? もっと味わいますか?」


満足気にする五人の支配者にアルマダは想いを告げる。


「私はこの街を貰いたい、もちろん皆を愛したいから、そこで御願いがあるの、薬物がこの街に横行しているけど……それを排除してくれるかしら? キメセクは気持ちが良いのは理解しているつもりよ、でもそれじゃあちゃんとしたコミュニケーションが取れないわ……薬に頼ったところで本来の気持ち良さを味わう事は出来ないわ……それってとても不幸な事よ」

「確かに、こんな極上に美味しい事……薬で誤魔化すのはもったいない」

「ああ! あああそうだよなアああ! これは元の味を知っちまえばよおお! こんな紛いもんいらねえよなアあ!」

「私も賛成よ」

「ヒヒヒヒ、本来の味を愉しむもんだあああ!!」

「その通りです、今日からこの味はすべて禁止にしましょう……でなければ皆本来の味を愉しむことも出来ない」


支配者達を、全員を誑し込む事に成功したアルマダは満足そうに星を見る。


「とっても綺麗ねえ、この街の全部は愛で出来ている、暴力・威張り・強欲・殺人衝動・冷静さ……その全てが繋がるのが性欲……この世界は性を謳歌する事で楽しめる……でもそれこそがとても生物らしいわ」


皆が全員頷く。

心ではなく、性本能で気付いた。

理解し、喜びに身を委ねた。


そして、この街は。

無法都市は、性の無法都市として性界として平和な世界が出来上がった。


「性界かあ……正解に似た言葉でとても素晴らしいね! アルマダ!」


惑は、言葉遊びに感心していた。


-----------------------------------------------------------------


ライアンは、頭を悩ませていた。


「おい、ライアン……浮かない顔だな……」


バイアンは、ライアンの様子を伺う。


「いやあそうだなあ……悪い訳じゃないんだけど……俺の知らないところで無法都市が変わっちまった事かなあ……でも悪い事だけじゃないのが一番厄介だ……本当にこれで良いのかねエ」


ライアンは、悩ましそうにしながら自身の経済状況や町の様子を見ていた。


「西院円惑がまた改造人間を使ったらしいな」

「そうなんだよなあ、でも無法都市は法のない都市だ……だから文句も言えねえ」

「なら良いじゃないか」

「それが、無法都市に移り住む者も出てきたんだ……しかも性の眷属として……さすがにこれはどうするべきかと悩んでなあ……」


バイアンは、その事を聞いて意見する。


「お前がそこに言って視察すれば良いじゃないか」

「視察ねえ……でも俺も取り込まれそうな気がするんだよなあ……冷静に判断できないのは国家を運営するうえでぜってえやっちゃあいけねえって事はお前も知ってるだろ?」

「まあそうだな……でも視察せず放置するのも運営するうえで守らないといけないんじゃねえの?」

「だよなあ……仕方ない、申請して視察でもするか?」


ライアンは覚悟を決めたようにファイアルアに報告に行く。

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