記録5『二人の欲望』
惑は、イネとの会話を終えた後、糸が切れた人形のようにベッドの上で項垂れていた。
「だるううう……」
「大丈夫ですか? 惑?」
「だるうううい」
気怠そうな声を上げながら、眠そうにしている。
「あの……さっきから気になってたんですかけど……あんなに沢山スキルを使用して、MPの方は大丈夫ですか?」
「え? ああ……ステータス」
惑は、イネの言葉を聞いて気付いたように自身のステータスを開いた。
Name:西院円 惑
HP:1200、MP:10、攻撃力:1200、防御力:2200、スピード:1000、知力:32000、魔法:なし、スキル:合成、採取、錬成、記録、職業:錬金術師Lv3
と記載されていた。
「やっぱりですか……もしかしてスキルにもMPが必要って事知らなかったんですか?」
「ああ……何となくそんな気がしたんだけど……夢中になりすぎて考えていなかった……」
「気付いてたなら自制してください! 場合によってはMP不足で死にますよ!」
「研究者は命を削って奇跡を誕生させる……それだけ奇跡の種を芽吹かせる事が大変という事だよ」
惑の研究に対する考え方は度が過ぎており、さすがのイネも頭を悩ませる。
「全く……取り敢えず食事と睡眠をきっちりとればMPも多少は回復します……」
「頭を使うには糖分が大切……だからパンこそが食事としては効率が良い……だから今日もパンで……」
「いや! 効率を考えるなら食事をちゃんと取ってください! 惑はスキルも尋常じゃないくらい使用してるんですから! スキルなしで研究するなら良いんですけど……」
「ああ……それはそれで困るな……現代人にスーパーコンピューターなしで研究しろって事になる……手計算は面倒くさい上に、効率が悪い……」
「ならしっかり食事は取ってくださいね」
イネは、惑を抱きかかえて部屋を出た。
『はあはあ……最高だったわ……』
『だろ? お前のヘニャチン旦那とどっちが良かった?』
『貴方よ!』
隣の部屋からは事後の会話が聞こえて、イネは顔を頬を染めながらも移動を続ける。
「終わったみたいだな……良かったじゃん、安眠できるぞ?」
「惑もちゃんと眠ってくださいね……」
「ああ、食事が終わって研究資料のチェックが終わったら45分ぐらい眠るよ」
「もっとちゃんと眠ってください!」
「えええ……」
「えええじゃないです!」
呆れながら怒るイネに対して、惑は溜息を吐く。
イネは下に降りると、店主が戸締りをしていた。
「すみません、食事ってありますか?」
「ああ……そこから銀貨2枚置いてパンを一個ずつ取れ」
「やった」
「ううう」
あまりにも少ない食事の量と明らかに法外な請求金額に、イネは不満そうにする。
しかも、置かれているパンはどれも粗雑な作られ方ををしている。
「じゃあこれを……」
「うう……私は……これで……」
惑は迷いなく適当にパンを取るが、イネはまだマシそうなパンを慎重に選んだ。
そして、机がなかったので近くの椅子に座りながら、惑は食べ始めた。
その足元には沢山のパン屑が落ちており、虫が湧いていた。
「うえええ!」
イネは、吐き気を催しながらも一気にパンを口に詰め込んだ。
「うう! うえっ……うえ……ゴクンッ! ハアッ! ハアッ!」
えずきながらも、何とかパンを食べ終えると乱れていた息を整えた。
「よく食べれますね」
「うん? ああ……確かにまずいね……でも腹になんか入れといた方が頭回りやすいからであって、味は正直言ってどうでも良い」
「そうですか」
「ご馳走様」
惑は、パンを食べ終えると同時に立ち上がり、イネと共に部屋へと戻る。
イネは、カップルの部屋を通る度に、顔を赤くさせてモゾモゾとしながら歩く。
惑は、部屋に入るとベッドへ一直線に向かいそのまま仰向けになって寝た。
「すーすー」
「眠りに着くの早! って私はそれほど眠くないな……どうしよ……」
イネは、生まれたばかりな上、元々の体が死んでいた為、疲れ自体がなかった。
その為、数分間ただただ横たわりボーッとしてきたのだが、時間の感覚が長くなるだけであった。
そして、やっと45分ぐらい経った頃、惑の目が開いた。
「おはよう」
「だから早すぎますって! まだ45分しか経ってませんよ!」
「大丈夫、僕ショートスリーパーだから」
「しょっ? えっと、何ですかそれ?」
イネは、言葉の意味が分からず聞き直す。
「ショートスリーパーっていう体質なんだ、6時間未満の睡眠でも体調と寿命に影響が出ない……ステータス」
Name:西院円 惑
HP:1200、MP:1200、攻撃力:2200、防御力:2200、スピード:10000、知力:32000、魔法:なし、スキル:合成、採取、錬成、記録、職業:錬金術師Lv3
と記載されており、MPが回復していた。
「ええ! なんで! どうして! たった45分で!」
「僕は結構短い時間でノンレム睡眠に入るんだよ……って言っても分からないか……人間は深い睡眠をちゃんと取れれば短くてもちゃんと体は回復するってことだよ」
「えっと……何ですかそれ……深い睡眠を取るって……あんな短時間回復って……」
「まあ分からなくてもいいや……とにかく僕は大丈夫だよ! ステータスを見ても分かるでしょ?」
「そっそうですけど……まあでも回復していますし……惑が良いなら私はもう何も言いません……」
頭を抱えながら、イネは仕方なく納得した。
「イネは眠れたの? 普通は浅い睡眠の中で数回ぐらい不快睡眠を取るのが普通らしいけど……」
「へえ……でも私眠くないです……多分死んでいたから、その……ずっと寝てたみたいなものですし……」
「まあ確かに、人間の遺伝子を手に入れた時に体を変異させたから多少体力が削られたと思ったけど……見る限り大丈夫そうだね」
惑が伸びをしながら椅子に座ると、イネは股をモゾモゾとさせながら惑を潤んだ目で見つめる。
「その……それで……惑が良ければなんだけど……隣のカップルが……してた……」
その姿を見て惑は、困った顔をする。
「ごめん、今から取ったデータ記録の確認をしたいんだよ……悪いけど部屋を出て貰える?」
「そうですか……申し訳……え? 部屋を?」
惑に断られた事でイネは少し落ち込んだのだが、突然部屋を出るように言われて困惑する。
「うん、部屋を……集中したいから」
「そっそうですか……」
困惑しながらも、何故か真剣な目で頼む惑の言葉を無視する事が出来ず、イネはしぶしぶ部屋を出る事にした。
部屋を出ると、隣の部屋から女性が一人出て来た。
「あら? 貴方獣人? ……隣から男の声が聞こえたんだけど……奴隷なの? まあ獣人なんてそんな者よね! でも意外とイケメンじゃない! 獣人を性奴隷として飼ってる奴もいる事だしい~そういう事を私がしてあげても良いわよ?」
『ヤリたい……貪りたい、この女の体を……』
イネは、女性の誘惑を受けて己に眠っていたと思われる欲望の一部が漏れ出した。
『待て! 何を考えている! ここで問題を起こせば惑に迷惑を掛ける! 落ち着け! 落ち着け!』
しかし、まだそれだけで自身に残る自制心が、惑への負担を考えて欲望を抑える。
「おいどうした? お前! 俺の女に何してやがる!」
すると部屋から男が出てきて、イネに突っかかる。
イネは、男を見て欲望が揺さぶられる。
声をかけてきた女と自分に突っかかって来た男は、さっきまで隣の部屋で喘ぎ声を上げながら性行為をしていた。
その時のフェロモンが鼻に漂う。
イネの頭は、沸騰寸前だった。
そんなイネを見ていた男は、胸元を見て驚く。
「お前……女か?」
「嘘! でもアソコが膨らんでるわよ!」
「てか、コイツなんか俺等に似てね?」
「もう! 我慢出来ない!」
『スキル:2倍発情が発動しました。』
「「!?」」
イネの目は、獲物を狙うような鋭さを見せ、二人を壁に追いやり、そのまま壁に手を着き、二人の逃げ場を塞いだ。
「! 何よ!」
「おい! どういうつもりだ!」
二人は、怯えながらも強気な態度を見せる。
「ねえ、私と……しても良いんだよね? お姉さん……」
「え、でもアンタ女で……」
「お前……まさかそういう……」
「お兄さんもどう……一緒にしない?」
「おいおいおい……どっちもイケんのかよ……」
「だって、私……こっちもあるから……」
そう言うとイネは、女に自身の股を触らせる。
「え! 男!? 女!? どっちなの!」
「どっちもだよ、私は……」
「「え……」」
二人は、引きながらも少しイネに興味を惹かれてしまった。
「ねえ……二人は両性はダメ? 私、二人と楽しめるよ? 良いでしょ? 私、二人に乱暴されたいな……」
「「ゴクンッ」」
二人は、元々性に関しては強い関心を持っており、特殊なプレイについても興味を持っていた。
だからこそ、女は夫がいるにも関わらず間男を作り、背徳感を味わいながら性を楽しみ、男も夫がいる人妻をわざわざ寝取るという、女と同じ背徳感を味わって楽しんでいた。
その為、二人にとって両性との性行為は、レアな性経験が出来るという好奇心と喜びがあった。
「いいわよ」
「良いぜ! ヤろうか!」
そして、三人は惑の隣の部屋へと入った。
惑は、スキル記録を使い今日の出来事について、ズボンを下ろして自慰行為をしながら確認していた。
「うふん……やはり合成スキルによって二つの精神がイネの中に宿っているのか、それとも記憶があるから辻褄を合わせる為に人格が三つに分かれたのか? どっちにしろ興味深い……そして、元の世界では出来なかったスキルによる異次元的な改造……とはいえ元の世界でも遺伝子組み換えや移植手術があった、あれも少し合成や錬成に似ているのかも……そう考えるとこの世界の魔法はある意味元の世界の科学に置き換えれる……ふんふん……今まで使った感覚だと体の中の精神力を具現化している感じだな……魔法もその類だろう……ひとまず使用するスキルはまたの機会に調べるとして……問題は……ううん!! イネが誕生したのはここがカギだ……ゴミ置き場によって……奇しくも人や動物等から捨てられるべくして捨てられた場所から誕生した……やはり価値が示される裏側こそが科学の発展には必要だな……非人道的は価値として認められてはいない……だがそれこそが人道的な実験よりも効果的であることは本にも記されている……だが出来るだけ守らなければ人という存在の恐ろしさを露わにしてしまう……だからこそこれからは人の……それも出来るだけ必要とする者が必然的に必要とする瞬間を狙って実験内容を開示した上で、納得の上で実験をすればきtっつうううあああああ!!」
記録を確認しながら、今後の行動について考え終えると、その瞬間に惑は果てた。
「ふうー……スッキリした……さてと、イネを呼び戻……」
『わにゃあああああん!! わにゃああああん!! 良いです! ステウ! もっと突いてください! そしてファイナさんも! もっと動いてえええ!! 私は動けないから! 貴方達が私を乱暴にしてえええ!!』
『えええ! いいわ! 最高よ! 貴方の棒の具合! さいこうおおお!!』
『良いぜ! イカせてやる! 俺の剣で果てさせてやるううう!!』
『いいよ! ステウ! 一緒に! 君は私で私はファイナに! 一緒に! 出すからあああああ!』
『ワニャアアアアアアアアアアアアアン!!』
『『あああああああああああああああああああああああああああああ!!』』
隣の部屋から先程のカップルとイネの喘ぎ声が聞こえて来た。
「ふむ、イネも今はお楽しみ中か……正直観察したいけど……僕もこういうのはあまり見られたくないしそれはいっか! でも隣から聞こえるから聞き耳立てられるのは我慢してね」
惑は部屋から出ず、3人の喘ぎ声だけではどんなプレイをしているかは分からないので、想像だけで観察を続けた。
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そして、次の日
「あの……惑……ただいま……帰りました」
イネは、バツが悪そうにしながら、部屋に戻って来た。
「昨夜はお楽しみだったみたいだね」
「!! 聞いてたの!」
「聞こえてたよ」
「うう!!」
顔を真っ赤にしてイネは蹲る。
「ごめん……」
「? 何で謝るの?」
惑は、不思議そうな表情でイネを見ていた。
「いや……私……勝手に……惑の許可を取らずに……その……」
「性行為をしたから?」
「そ! その……はい」
「え? 別にいいけど……ちなみに君に種付けはされた?」
「いえ! それだけは気を付けました! 私に子供が出来ないようにはしたんですが……相手の女性に自分の種と……その……ステウの種を配合して入れたので……」
「うむ、それに関してはまた詳しく教えてね! まあ僕も昨日は自慰行為に励んだんだけど」
「!! だったら私が! 私に言ってくれたら良かったのに!」
イネは、少し悔しそうにしながら言った。
「ごめん、僕データでしか興奮しないんだ……」
「え?」
しかし、惑は申し訳なさそうな表情で言った。
惑の言葉に、イネは訳が分からなそうにする。
しかし、惑はイネに懇切丁寧に説明した。
「僕にとってね、データが興奮材料なんだ……前にも言ったけど、データって失敗も努力も忍耐も発想も全て奇跡の種を芽吹かせる為の大切なものなんだ! つまり、データこそが種そのもの! 云わば精子だ! 精子は子供が生まれるための大切な種! そして卵子に受精する事で子供が誕生する! 奇跡の種が世界という卵に受精し生まれる事で世界を孕まし奇跡産む! そしてその奇跡が世界に大きな変動を起こす! なんて素晴らしい! こんな素晴らしいオカズがあるんだ! 僕にとって! いや錬金術師にとって世界を孕ますことこそがイッてしまう程に興奮するんだ! 男が他人の性行為で興奮するように僕はデータと世界の性行為で興奮するタイプなんだ! あの時は言葉を濁したけどもういいよね! 君も淫乱って分かったんだし下ネタで話しても!」
惑は、イネの顔に近づけられて顔を赤くする。
「分かりましたから……ちょっと近いです」
「おっと失礼! でもそれだけ良いんだ! 昨日は君のデータでイッてしまって! ああ! 君のデータは素晴らしい!」
「そっそうですか! ありがとうございます……」
イネは、自身の事で興奮されたことに何故か嬉しくなった。
「……もしかして君チョロい?」
「次言ったら私の全力をお見舞いします」
「ごめんなさい」
拳を握り締めるイネに、惑はすぐに謝罪をして余計な事を言わないように反省した。
イネは、恥ずかしそうにしながらも部屋の隅に座る。
そんなイネに、惑は質問する。
「そういえばスキルってレベルが上がると取得出来るけど得られるスキルは職業によって決まるの?」
「そのはずだけど……何で?」
「いや、僕の錬金術師のスキルだけ他の錬金術師とは違うみたいだからさ、本がどれだけ正しいのかとこの世界の人がどれだけ誤認しているかを知りたくて、分析」
『スキルの取得は、本人の精神性によって異なります、金銭欲の強い者は金銭的なスキル、惑様のように好奇心に突き動かされる者は、知識的なスキルを取得します。』
「ああ、そうなんだ……魔法もそうなの?」
『同じように精神性によって属性が決まり、魔法を取得していきます』
「精神性によって属性の適性が決まる……か……それも記録しておいて」
『承知致しました。』
「ああ……そういえば暑苦しい人が炎魔法とか冷静な人が水魔法のシスターや神官が聖属性魔法を覚えてたり、自然が好きな人が草魔法、土弄りが好きな人が土魔法とかそういうのはギルド近くで話をしていた人がいた記憶がある……そういうの?」
『イネ様の言う通りです』
「フーン……」
惑は、世界の法則性を理解しつつ方向性を考えた。
「取り敢えずは今まで通りスキルを手に入れる為に職業レベルを上げるべきか……その前に宿を出て服を買った方が良いか……ずっと学生服を被せるのもな……」
「えっと……そうですね……さすがにこのままでは……」
昨日もイネは、学生服の上着を被されたまま行動していた。
昨日会った店主は他人に興味がないのかそれとも慣れているのかあまり突っ込まれる事もなく、そしてイネと性行為を行ったカップルは、すでに半裸であった事もあり、気にされる事はなかった。
しかし、このままの姿であれば人目を引く為、服を手に入れる必要があった。
「取り敢えず街の何処に服屋があるかは昨日覚えたから宿を出たら直行で向かおう……今の時間なら人通りも少ないだろう」
「はい、惑」
軽くお辞儀をして、イネは惑の後ろに着いて行った。
その時、隣の部屋から怒声が聞こえて来た。
『テメエ! 俺こそがイネちゃんに相応しいってつってんだろうがあああ!』
『うるさい! 私がイネ君に相応しいのよ! アンタなんかのヘナチンがイネ君を気持ち良く出来ると思ってんのかゴラアア!』
昨日まで仲が良かったカップルが、今にも手が出そうなぐらいの暴言を吐き、イネをめぐって大喧嘩していた。
「イネ、アイツ等に私の為に争わないでって言わないの?」
「……言わない」
『ふざけんじゃねえ! テメエのガバガバマ〇コの何処が良いんだよ! 俺のア〇スの方が締まり良くてイネちゃんも喜んでたじゃねえか!』
『ふざけないで! 貴方の陳腐な手マンよりも私との貝合わせの方が強く感じられてイネ君も喜んでいたわ!』
「お前何してんの?」
想像以上のプレイに、さすがの惑も顔を引き攣らせる。
「いや……これは……つい盛り上がっちゃって……」
「だからって節度を守れよ……」
惑は、呆れながらイネを見る。
イネは、目を逸らしながら顔を真っ赤にする。
『糞女が!』
『うぐう!! やりやがったなこの野郎が! 死ねええええ!』
暴言を吐きながら、二人は殴り合っているような鈍い音が鳴り響く。
「やーい、両性たらし~」
「揶揄わないでくださいよ……昨日のは、一夜の夢というか……二人も分かってくれます」
『ぶっ殺してやる!』
『このゴミがああ!』
二人は、殴り合いの音から、物を使っての殴り合っている音に変わっていた。
「……まあ君がそういうならいいか……今の内に出よう」
「……はい……」
二人は、カップルに悟られないように、急いで受付へと向かった。
「うるせえなあ……」
「あの? チェックアウトしたいんですけど?」
「あ? ああ……分かった……またのご利用を…」
店主の適当な仕事が功を奏したのか、惑とイネはスンナリと宿から出る事が出来た。
そして、二人はそのまま服屋へと向かった。