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記録47『話術』

惑は、少し若返った老婆を満足そうに見ている。


「うう……か弱い老人になんてことを……およよ」

「可愛い」

「イネさん……守備範囲大きすぎないですか?」


盛り上がっている二人を見て、エレンは付いていけていなかった。

だが、イネはニタニタと笑いながらエレンを見る。


「ああ、なんか惑さんがせっかくの娼婦なんだから少しプレイをしてみたいって言ってアルマダさんが付き合ってくれたみたいで、まあ私も楽しかったですけど」

「楽しかったんだ……てかあの人アルマダさんって名前なんだ……」


惑は、ワクワクした様子で色々と実験に関して、話を続けていた。


「でえ! でえ!」

「はいはい、ゆっくりね」

「もう孫の話を聞いてあげるお祖母ちゃんみたい」

「さすが元娼婦、話を聞いてあげる事に関してはプロだね……」


イネの慣れた口調に対して、本気で嫌悪の表情を向ける。


「そう警戒しないでよ……私が今日から君に戦闘訓練を任されてるんだから……」

「ああ、確かにそうですね……それに関してはよろしくお願いします……でもそれ以外は出来るだけ関わらないようにしましょう」

「うわ~結構ドライ」


少し寂しそうにしながら、イネは指でエレンを誘う。


「取り敢えず私を殺しに掛かっておいで、どんなものか見るから、私に対してそんなに嫌悪感があるなら余裕でしょ?」

「……分かりました、お願いします」


そして、エレンは容赦なくナイフを持ってイネに襲い掛かった。

しかし、イネはナイフがどう向かってくるのか分かっていたように避け続ける。


「くのお!!」


エレンは、蹴りを入れるが軽く手で掴まれて動かす事が出来ない。


「っく!!」

「まあそんな感じだね……基礎がなっていないし私への殺気が強すぎる、こんなのじゃ私じゃなくても戦闘経験のある奴なら簡単に躱せるよ」

「う……」

「勇者なら簡単に躱しながら君を説得する余裕を見せると思うよ? ムカつかない?」


エレンは、イネに言われて怒りが爆発しそうになるが、グッと堪える。


「はい、ダメ! 堪えすぎても攻撃力が鈍くなる……攻撃に殺意を込めないと今度は攻撃力が格段に下がる、技と殺意による力の強さを使って相手を襲わないと、まずは殺意のコントロールをする為に身体能力と基礎能力を鍛えようか?」

「……はい」


エレンは、イネに対して文句すら言えなかった。


「イネエ! エレンちゃん! 凄いよおお! この吸血スキルを人間に与えても若返るってことは! 進化も出来るのかという検証を試せる場所をアルマダさんから教えて貰ったんだ! そこなら法律無視で実験が出来る! イネもそこでエレンちゃんを鍛えるのにちょうどいいと思うよ!」

「そうなの? 良かったね惑……」

「どこですか? というか惑さん、その研究は私が勇者に復讐する事と何か関係あるんですか?」

「ないけど?」


惑の言葉に、エレンは唖然とする。


「え……関係ないんですか?」

「ないよ」


何度聞き直しても、同じ解答を貰い、頭を抱える。


「じゃあどうしてその実験をするんですか? 私に勇者への復讐をさせる気あるんですか?」

「あるよ、でもインスピレーションが浮かばないんだもん……だから別の事をしてそこから何か浮かばないか考えてるんだよ」

「浮かぶんですか?」


エレンは、イライラしながら聞き返す。


「さあ? 浮かばないかもしれないし浮かぶかもしれない……」

「!! そうですか! ああもおお!! 何なんですか! 


エレンは、怒りを露わにしながら惑に詰め寄る。


「はいはい、エレンちゃん落ち着いて」


そこに、割って入ったのがアルマダであった。


「惑君もちゃんと考えているわよ、私が見る限りだけどこの子は純粋に貴方の夢を叶える事を考えてるわ、でも思い浮かばない時は本当に何も浮かばないわ……私は色んな人を相手してきてそんな人が沢山いたわ……いくら考えても思い浮かばなくて夢自体が潰れた人もいたし、上手くいった人も沢山……そして上手くいった人は大体が別の事をして息抜きをして自身をリラックスさせていたわ……でも逆に潰れた人は夢を考えすぎて、どん詰まりな状況を何とかしないとと考えすぎた人が多かった……惑君は多分自分を分かってるのよ、だから安心しても良いと思うわ……待っている人からしたらもどかしいかもしれないけど……」

「でも! それで勇者が来て殺されたら何にもならないじゃ!」


エレンもさすがに反論するが、アルマダはエレンを抱きしめる。


「確かにね、でも慌てすぎてチャンスを不意にするより準備を整えてから力を尽くした方が成功しやすいんじゃない? 貴方はまだ若いんだから復讐の為に準備をするぐらい気長に待った方が良いわよ、余裕があるのに自分でなくしてしまう方が一番失敗しやすいわよ」

「……」


エレンは、どこか納得できない表情ではあったが、アルマダの声や話し方に少しずつ怒りが収まって来た。


「落ち着いた?」

「……はい」


エレンは、アルマダに頭を撫でられながら少し泣いた。


「プロってスゲええ」

「うん、惑……プロは凄いよ」


二人は、さっきまで癇癪を起していたエレンを落ち着けたアルマダの話術に感心した。

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