記録41『勇者覚醒』
アレンは、薄れる思考と理性の中、透明な体を使って攻撃を繰り出す。
地面は抉れるように飛び散り、戦闘に慣れていないシャイニャス姫の意識を散らす。
「っく!! 小石が当たって!」
「任せろ!」
レイシャは、シャイニャス姫に向かってくる小石を全て撃ち落とす。
その間に、有志は聖剣を構えて、アレンの触手を斬り落とす。
「っぐがああ!! ぎぎぎぎぎぎがあああああ!」
聖剣に付与されている神聖力により、魔族としての体を持つアレンには、効果的であった。
斬り落とされた触手の先が徐々に溶けていく。
しかし、その効果はいきなり止まった。
「ぐぎゃgyがあ! がああああ!!」
そして、そのまま触手は再生する。
「何だこれは! 何かがおかしいぞ! こいつ! どうして聖剣で斬ったのに! 効果はあったのに!」
「まさか……聖剣の神聖力を上回っているというのか! そんなバカな事があるか! 神が作り出した剣だぞ!」
レイシャも、予想外の状態に困惑する。
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そんな中、惑は崩れた屋根から観察していた。
「ックックック……アハハハハハハ! 凄いぞ! 君のお兄さんもあの魔虫も! 素晴らしい! これぞ精神の強さ! 意思の強さって奴だよ! エレンちゃん! 君のお兄さんはとても素晴らしい! これって凄い事だよ! 分かる!」
「兄さん……」
エレンは、心配そうにしながらアレンを見守る。
「兄さんは……もしこれで勝てたとして……元に戻りますか? 兄さんは助かるんですか?」
「それは分からない、実験していないから一発勝負になる、でも全力は尽くすよ、採取で寄生した虫を取り除いてその虫のHPを利用して回復させれば恐らくは?」
あいまいな答えに、エレンは少し悲しそうにする。
「けど……あれで勝てるならきっと勇者何てそんな者なんだろうけど……あの程度で本当に魔王に勝てると思うかい? いくらまだ弱いからってこんな中盤のモンスターみたいな奴に勝てないとさすがにキツイでしょ?」
「どっちの味方だよ惑……」
「いやいや、僕はさすがに勇者をあんな簡単に倒せるだなんて思ってないからね? これは客観的感想である、結果が分かる前に予測を立てるのはとても大切だよイネ」
イネに注意するように、惑が説明すると溜息を吐きながら頷く。
「私は信じる……兄さんならやってくれる」
エレンは、祈りながらアレンの無事を願う。
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「糞おお!」
「ううがあああああああ!!」
触手と共に、オーガの拳が飛んでくる。
アレンは、虫の制御に慣れ始めている。
「糞! あのオーガ! 動きがドンドンと俊敏に!」
「このままでは負けてしまう……」
「ぐあああああ!」
「有志!」
「有志!」
二人は、吹っ飛ばされた有志に呼び掛ける。
有志は、壁に叩き付けられてグッタリする。
「くっそ……どうして……俺にもっと力があれば……」
有志は、歯を食い縛り聖剣を握り締める。
その時だった。
「聖剣が……光輝いて……いる」
「……綺麗」
「これは……」
『有志! やっと私を呼んでくれたね!』
突如、有志やシャイニャス姫とレイシャの耳に響く様な言葉が聞こえる。
すると、聖剣から少女の妖精が現れた。
妖精は、楽しそうに有志の周りを飛び交う。
「君は?」
「私の名前はレティリア! 有志の想いに応える為に君の元へとやって来た光の妖精よ!」
「アレが……伝説の光の妖精なのか……」
「可愛い」
有志に出会えて嬉しいのか、小さい体で有志に抱き着く。
「有志! 聖剣の力はこんなものじゃない! そして有志のその強くなりたいという思いに応えてくれる! さあ自分と聖剣を信じて! きっと勝てる!」
「俺と聖剣を……」
「そう、信じて魔力を込めて……今の有志なら使える……」
「頭に……何かが浮かんで……」
有志は、体の赴くままに聖剣を握り、自身の魔力を付与した。
すると、聖剣の光はより一層増し、有志自身も光り輝き出す。
「これが聖剣に選ばれし者の力」
「有志! 頑張ってええ!!」
「ああ! 任せろ!」
「その調子だよ! 有志!」
そして、有志は聖剣を構えながらアレンへと立ち向かっていく。
「くらえええええええええ!!」
「うがあごおおおおおおお!!」
向ってくる有志に、アレンは全触手を使って襲い掛かる。
「ホオオオオオリイイイイ!! インパクトオオオオオオオ!!」
「うごおおおあああああああああああああああああああああああ!!」
有志が放った、聖剣の光によりアレンの体は消し飛んだ。
有志は、アレンを倒すと聖剣を杖のように地面に刺して何とか立ち上がる。
「頑張ってね! 有志!」
「有志!」
「有志!」
有志は、レティリアに頭を撫でられ、そしてシャイニャス姫とレイシャは有志の元へと駆け寄る。
「大丈夫! 有志!」
「無事で良かった……レティリア、ありがとう」
「ううん! 気にしないで! これが私の使命だから!」
三人は、互いの無事を喜ぶ。
しかし、レティリアだけが崩れた天井の方を見上げていた。
「レティリア?」
有志が、不思議そうに見ているとレティリアは声を上げる。
「隠れてないで出てきなよ! 君が首謀者なのは分かっているんだよ!」
「!!」
「まさか!」
「魔王がここに!」
「ううん、違う……魔王じゃない! アイツは!」
すると、ローブに包まれた一人の少年が姿を現す。
「いやあバレてたか!! でも……良い物が見れた! とても素晴らしい国家転覆だよ! 失敗を恐れず皆よく頑張った! 偉い偉い!」
嬉しそうに拍手をしながら、少年はローブを取る。
「お前は!」
「貴方は!」
「そう……やっぱりそうなんだね……君達は!!」
驚きを隠せないようにシャイニャス姫とレイシャは、少年の顔に唖然とする。
レティリアは、少年に静かな怒りを向ける。
「西院円……惑おお!!」
有志は、怒り爆発させながら惑の名前を叫ぶ。
「お久―! 元気してた! 勇者様」
惑は、嬉しそうにしながら有志に手を振った。




