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記録4『奇跡の種』

惑は、情報収集の際に目星をつけた宿屋に向かって走った。


「寂れているから繁盛しているようには見えなかったけど……あったここだ」


そして、目星の宿屋の中に入り、受付に座っている店主に話しかけようとした時だった。


「ウチはペット禁止だよ」


店主は、眠たそうな目で惑の手にいる合成獣を見て注意する。


「そうなんですか? 他の宿屋もそうなんですか?」

「他は知らないが、ウチは見ての通り繁盛してないからね、宿を逃した奴がウチに泊まった際に動物の声がうるさいだとか部屋が臭いだとか因縁をつけて金を払わなかったりするからね、だから出来るだけそんな事のないようにしてるんだよ……まあ獣人とかビーストテイマーの契約獣ならいいんだが」

「獣人とビーストテイマーは大丈夫なんですか?」

「獣人は会話が出来るし、金も払える……それに大体が訳ありか差別で宿が見つからない奴等だからな、ビーストテイマーは契約獣を呼び出す方式だから鳴き声の心配はない、運が良ければ契約獣を間違って出して宿を壊せば金を吹っかけられる……くくく」


店主は厭らしく嗤い、それを聞いた惑は少し考えた後口を開く。


「えっと……つまり獣人やビーストテイマーとしてならばこの動物を連れても良いと?」

「まあそりゃそうだが……何言ってるんだお前?」


訳が分からなそうにしながら店主は聞く。


「まあまた後で……」

「はあ」


結局理解出来なかった店主はその場で、惑の事を忘れた。

惑は、合成獣を片手に近くの路地に入る。


「さて、早速分析スキルを使うか……まずは、獣人で分析」


惑は合成獣に手を翳す。


『獣人への変換をするには、人間の遺伝子情報を取り入れる必要があります』

「つまり、人間の遺伝子をコイツの遺伝子に合成すれば良いのか?」

『それだけでは、合成獣の身体が中途半端な形で人化してしまい、この世界での獣人とは異なる形になると思われます。』

「なら錬成ならどうだ? あれは物質と掛け合わして新しい物質へと変えられる……つまり遺伝子も人間と猫と犬の遺伝子に変えられるのでは?」

『それであれば成功率は98%になります。』


惑は首を傾げながら質問する。


「98%? 100%でない理由は?」

『この世界での実例がない為です、ただ分析によるシミュレーションであれば成功しております。』

「ふむ、そうか……それは僕の遺伝子でも大丈夫か? 髪の毛1本でも人間の遺伝子情報は詰まっている」

『問題はないでしょうが……出来るだけ現地人の遺伝子の方がこの世界の生き物との相性が良いかと思われます』

「性別に関してはどっちでも良いのか?」

『性別はこの合成獣と同性のものが良いかと思われます。』

「ふむ、ならまずは確認だ」


惑は、合成獣の股を確認した。


「あ……ち〇こもま〇こもある……」


なんと猫と犬の両方の性別が異なっていたようだ。


「なるほど、だから性別転換がスキルにあったのか」


惑は、どこか納得した


「このち○こだと犬が雄で猫が雌かな?」

『その通りです。』


惑は、ち○この形で犬と猫の性別を見分けた。

しかし、その事で惑は少し頭を抱える。


「これは面倒だ、ここに丁度良く男と女が現れるとは思えない……そう考えるとここだと確率が低い……こんな安宿の近くではなくもっと花街の様な場所の方が良いか……それだと開いている部屋がるか……」


そんなことを考えていると、誰かの声が聞こえて来た。


「ここお? こんなオンボロ宿でヤるの?」

「ここ殆ど人が来ねーんだゼ、だから大丈夫だって! 旦那にはバレねえって!」


仲睦まじいそうにしつつも、どこか警戒したような短髪のイケメン顔な男と長髪の美人でスタイルの良い女が歩いていた。


「君、運が良いね、確かに繁盛していない宿屋なら間男にとって都合が良いかもしれない、そしてあの女も口ではああ言ってるがまんざらではない辺りここから離れる様子はなさそうだ」


惑は、そのままひっそりと近寄ると手を翳す。


「採取、髪の毛」

「うん?」

「何かが……」


二人は違和感を感じたが、特に気にせず宿へと入って行った。


「うむ、二人の髪を手に入れた」


惑の手元には二人の髪の毛2本があった。


「さてと、では今から君を獣人に変貌させるよ……君はさっきから最高潮に運が向いている……一度死んだから? それとも神と呼ばれる者とは関係なく僕がスキルで誕生させたからかな? なかなかに興味深いと思わないかい? 採取、遺伝子そして錬成」


二人の髪の毛から遺伝子だけを抜き取り、それを合成獣の遺伝子に錬成した。


「ッググアアワッワアアアアナニャアアアアア!!」


呻くように体を縮こませながら合成獣の体は変異していく。


「うんうん!! いいねえ! そのまま頑張れ! 君の新たな人生に乾杯だ!」


ただの犬と猫の死体を合成し、採取した害虫やネズミの魂を錬成した合成獣の体は見る見るうちに人間の体へと変貌する。


「凄い! これは凄く興味深い! 流石は異世界! 流石スキル! これがこの世界の技術! 魔法がないのが残念だが、一体どういうシステムなんだこれは!」


惑が興奮しながら眺めていると、短髪でイケメン顔の少女のような体付きの獣人になった。


「ふむ、歳は僕と同じくらい、高校生ぐらいかな?」


蹲っていた合成獣は、ゆっくりと目を開ける。


「わ、わだじ、どなあった」

「喋った!」 


慌てながら体中を見回す合成獣が思わずボーイッシュな声を出した。

喋り出した姿を見た惑は驚愕する。


「お前! これ何! どういう! 私! 人間に! どうして!」

「獣人になっていうより、人間の遺伝子を取り入れた事により、今まで見て学んだ人間の口の動きを無意識に使っている感じか……しかも意外に知能が高い……犬は2・3歳ぐらいで言語が理解出来る、それに人間の遺伝子を取り入れた事で理解力も高くなったのか?」


合成獣の様子を伺いながら、合成獣の状態を考える。


「獣人……私は……獣人になったのか……さっきから行っていたスキルの事か……」

「そうだよ、僕は君を錬金術師のスキルを使って作り上げた……それも人間の遺伝子による記憶か? それとも君自身の記憶か?」

「私自身分からない……でもこうなる前から知っていた……スキルというのは他の動物も使う事が出来るから……」

「そういえばゴキブリにも性転換と繁殖がスキルとしてあったな……なるほどねえ……」


納得しながら惑はメモを取る。

そんな時であった。


『スキル:記録を取得しますか?』

「はい」

「どうした?」

「記録のスキルが増えたんだ……取り敢えず今の状況を記録しておきたいから君を鑑定して良いかな?」

「? いいけど……」

「ありがとう、記録」


少し怯えるようにする合成獣人は不思議そうにする。

記録を使うと、目の前に伝言板の様なものが現れそこに、惑が記録したい事が記入されていく。


「おお! 便利! 凄い」

「えっと……確かに……凄いですね」


感嘆する惑を余所に、合成獣人は戸惑いながら同調する。


「話が逸れたね……では君を鑑定する、鑑定」


そして、目の前に合成獣人のステータスが現れた。


Name:合成(キメラ)獣人

HP:30000、MP:3000、攻撃力:40000、防御力:4000、スピード:50000、知力:300、魔法:なし、スキル:瞬発、動体視力、聴覚鋭敏、嗅覚鋭敏、獣化、性別転換、2倍発情、人格交換

そして、鑑定された情報は記録スキルに入力される。


「へえ……メモいらずだな……それより、獣化は分かるが、2倍発情? 人格入れ替えってなんだ? 後、性別転換ってお前の雄と雌が入れ替わるだけって事?」

「それは貴方が私の母と父を合成したからそうなったんですよ……父は犬で母は猫なので性別に合った姿へと変貌します、そして人格交換は獣人になった事で父と母の人格に入れ替わります……性別転換と共に発動します……」

「合成によってそんなスキルが手に入るとは……てっきりゴキブリのスキルがそのまま合成されたと思ってた……興味深い」

「そっそうですか……」

「この2倍発情は?」

「父と母の発情が同時に訪れるという事です……」


合成獣人は顔を赤くしながら答える。


「なるほど、さっきから犬と猫の事を父と母と呼んでいるがそれは何故?」


惑の質問に、合成獣人はきっちり答える。


「私の父と母は特殊な死に方をしたみたいで……どうやら種族が違うのに愛し合ってしまったみたいです……それで仲間達に襲われて死んだみたいで……」

「ああ! そういえば僕の世界でもそういう事があったな……同種でなくても愛し合っているのか……ただ仲睦まじいのか……そういう関係になる動物……もいるのかな?」

「そうなの! 父と母はおかしくないの?」

「さあ? 他の者によっては異常に感じるのでは? 僕はその感情自体理解出来ないから特に何とも……」

「そっそうなんですね……良かったです」


合成獣人は、安心した表情で惑を見つめる。


「さて行こうか」


惑は、上着を合成獣人に掛けると歩き出す。


「えっとはい、ありがとうございます……さっきの宿屋ですよね」

「うん、そうだよ」


合成獣人は惑の裾を握り、惑と一緒に宿へと向かった。


「いらっしゃ……またあんたか」

「はい、ペットはダメと聞きましたので獣人に変えました、これで宿泊出来ますか?」


店主は、惑の隣にいる合成獣人を見て、目を丸くして驚く。


「なんでだ! どうしてそうなった! 普通ペットがダメなら別の宿探すか野宿か捨ててくるかだろ! どういう考え方すればペットを獣人にする選択肢が出る! ていうかどうやって獣人にした!」


あまりにも意外な対処法に店主は思わずツッコんだ。


「人間の髪の毛から遺伝子を採取してコイツの遺伝子に錬成しました、ダメですか?」

「いや……ダメって事はないが、あんた何者だよ……ペットを獣人化した錬金術師なんて聞いた事もないぞ」


店主は、呆れながら惑の正体を怪しむ。


「今日この国の城で召喚された錬金術師ですが? さっきの八百屋の店主みたいに入店禁止とかですか? 事情がある人は泊めているみたいなので大丈夫だと思ったんですが……」

「ああ、姫に不敬を働いて追い出された奴か……なるほどね」


店主は少し悩むが、溜息を吐きながら名簿リストを出す。


「別に泊めるなとは言われていない、ただ姫に対して不敬な事を言ったという噂を聞いただけだ……事情があるなら泊めてやる……ただし! 二人金貨2枚だ!」


店主は訳ありである事を良い事に、法外の値段を要求した。


「はい」


惑は、迷わず金貨2枚を支払う。


「毎度あり……名前はどうする」

「僕は西院円惑だけど、コイツは……」

「惑……」


合成獣人は不安そうな目で、惑を見つめている。

そんな合成獣人の頭を撫でながら答える。


「イネでお願いします、犬と猫の合成獣人なので」

「はい、サイエンマドとイネね」

「安直すぎる!」


イネは、自身の名前があまりにも適当な方法で付けられた事に少しショックを受ける。


「では、奥の部屋をお使い下さい」

「分かりました」

「……」


少し不満そうにしながらもイネは、惑に付いて行った。


「ああぁん! 良いわ! もっとおお! もおおおっとおおおお!」

「中に出してやる! お前の夫は種無しだからな! 俺の子供を孕んで育てろおおおお!」

「!! うう……」

「隣の部屋はお楽しみ中みたいだけど……まあそこまで長くないだろ……時期に終わる」

「ええっと、はい」


イネは部屋から聞こえる喘き声に居た堪れない気持ちになるが、惑のサッパリとした態度に、困惑しながらも冷静になる。

そして、2人は部屋の扉を開けて中に入る。


「ふー、興味深い1日だった」

「私もまさか獣人にされるとは思いませんでした」


惑は一息つくが、イネは自身の体をあちこち見ながら不思議そうにする。

そして、惑の方を見て質問する。


「どうして私だったんですか?」

「うん? ああ! えっとね、最初は僕も君は合成した後に解剖しての繰り返しで使い潰そうとしてたんだけど……」

「使い潰す!」


とんでもない発言に、イネは背筋が凍るような感覚に襲われる。


「そしたら職業レベルが上がって採取と錬成を手に入れてさあ、それと同時に死んだ君の死体を見ているとインスピレーションが働いてね、まずは害虫やネズミのHPを採取してそれを君に合成すれば生き返るのかを実験したんだけど体の負傷や腐食が治っただけだった……だけど今度は害虫とネズミの魂と呼ばれるものを採取してその魂を君の形に錬成したんだ、そして君に合成したらあら不思議! 君はこうして生き返ったってことだ!」

「え! 私害虫やネズミの魂で作られたんですか!」

「うんそうだけど、良いでしょ? どうせ食べてるんだしキミ」

「まあ食べていましたけど……って! 何で知ってるんですか!?」


自身の食生活を暴かれイネは焦る。


「君の腹からネズミの骨と害虫の溶けた体があったからね……」

「そっそうなんですか……うう」


イネは、恥ずかしそうにしながら惑の上着を被る。


「まあまあ、恥ずかしがらずに……食物連鎖なんだから」


恥ずかしがるイネの頭を撫で、イネを落ち着かせる。


「まあ蘇生に成功した後、鑑定で君を調べて分析スキルを手に入れてから辺りが暗くなっていることに気付いたから宿に向かったんだけど」

「宿はペット禁止だったという事で私を合成獣人にしたんですか?」

「うん! 凄いでしょ!」


惑は、イネに共感を求めるように目を輝かせる。

イネも、仕組みまでは理解は出来ていないが本能で惑という男の凄さを感じた。


「確かに……そんな事父と母の記憶の中にもありません……あるのは錬金術師が詐欺師という醜い人間の代表のような存在という事だけです」

「そうなんだ! 錬金術師も大変だ!」

「貴方がそれを言いますか……」

「そんな事より!」

「そんな事って……ふふ」


しかし、錬金術師に対する評価の低さにも全く興味を持たない惑に対してイネは少し笑ってしまう。


「君は凄く運が良い! だってここまで僕のインスピレーションやスキルを働かせて死体から合成獣人へと進化するだなんて! まさに奇跡だ!」

「いやいや、凄いのは貴方ですよ! 合成獣人にしたのは、奇跡を起こしたのは他でもない貴方なんですから!」


いきなり褒められたイネは、驚きながら謙る。


「確かに僕が君を合成獣人にした……だがそこまでの道には君の運も関わっている……もし君が生きていれば合成のみで特に何もしなかったかもしれない、そしてあの場にゴミもなく綺麗に整えられて害虫もネズミも湧いていなければ魂の採取と錬成を試さなかったかもしれない、この宿がペット禁止でなければ君は合成獣人でなく合成獣のままだったかもしれない、雄と雌の合成獣だった君を合成獣人にする際、隣のカップルがこの宿に入らなければ君を合成獣人にせず捨てていたかもしれない、そんな一つ一つの偶然は連続して起こる事は殆どない、つまり君の幸運が引き寄せた結果であり、君自身が生きようとした結果でもある!」


話を聞いたイネは愕然とするが、すぐに我に返る。


「えっと、つまり私に運がなければ今の私がないという事ですか? 貴方には私を助けようという想いはなかったと?」

「うん、そうだけど」

「では私を作った理由は、たまたま偶然が重なったからであって本意ではないと」

「うん」

「そ……そうですか」


惑には、イネを助けようという意思も想いもなく、その場の勢いで自分という存在が作られたという事実を聞き、その場にへたり込んだ。


「何がいけないんだい? 言っておくけど、生命の誕生なんて奇跡そのものなんだよ? 運に恵まれなければ男の精子の段階で失われるし、例え受精しても流産の恐れもあればDNA損傷のせいで命の誕生自体起こらない事だってある、例え出産までいってもそのまま死ぬ事だってある、その観点から見ても君の誕生は他の生命となんら変わりない奇跡そのものなんだ」

「誕生自体が奇跡?」

「そうだよ! まさに全てが奇跡! 奇跡の連続によって世界は成り立っている! 僕みたいな研究者! ここでは錬金術師というのか……僕等は皆その奇跡の種を芽吹かせる為に存在している! 新薬の発見も! 未知のウイルスも! 手術の成功率も! 戦闘技術も! そして子作りの成功率や出産成功率等の奇跡の種を芽吹かせる為に生きているんだ!」


目を輝かせながら説明する惑は、まるで年相応の少年のようではある。

しかし、イネの記憶にある人間とはまるで感性が違っていた。


「奇跡の種を芽吹かせる為……ですか……」

「そう! どんなに努力しようが、どんなに発想を研ぎ澄まそうが、どんなに失敗をしようが奇跡の種を芽吹させる事が出来なければ新しい奇跡を誕生させる事は出来ない!」

「そうなんですね……それは魔法もですか?」

「この世界がどんな風に成り立っているかは知らないけど……多分そうだよ」

「でも……私にある記憶の中では、確か魔法は生まれた時から使える魔法属性の適性は決まっているらしくて、それは覆せないとされていますが? そして魔法はエルフや妖精、人間では貴族にしか使えないとも……だから冒険者の魔法使いも貴族ばかりだという……」

「フンッ……」


その説明を聞いた惑は、鼻で嗤った。

イネは、顔を真っ赤にして怒った。


「な! 何で嗤うんですか!」

「ああ、ごめんごめん……でもそれってどうせ下らない常識に閉じ込められたような考え方でしょ? 僕の世界でもあったよ、そんな薬出来る訳ないだとか……空なんて飛べる訳ないとか、宇宙になんて行ける訳ないとか……」

「宇宙? は、分かりませんが……えっと……もしかして……」

「そうだよ……新薬は今も開発されているし、空も飛べたし、宇宙にも行けた……つまり覆せないと思った時点で奇跡の誕生を諦めている……そんな呆れた考え方を聞いて鼻で嗤わずにはいられない……」


惑の言葉に、イネは言い返す言葉が思い付かなかった。


「まあ魔法についてはまた本を読んでどのような常識がまかり通っているのかは調べるとして……どうせそんな事だと魔法がどのようにして使用しているとか調べた事ないんじゃないかな? まあ大抵の人はそんな事を調べたりはしないんだろうけど……多分貴族は力を自分達で独占する為に、そんな常識を流しているんだろうね……その常識から外れない限りきっと一生隷属する事になるだろうね」

「うう……でも本当にそうだったりしたら……」

「だったらどうして君は獣人になったんだい? 普通の獣は獣人に変貌出来るのかな? それに性転換のスキルは君の親は持っていたのかな?」

「それは……獣人になったのも驚きました……性転換のスキルも元々なかったみたいです……」

「つまり……魔法も同じように適性を増やす事は可能になる奇跡の種が必ず存在する……君はそんな奇跡的体験を一日で何度も体験したんだ……だから君という存在は奇跡の実証者であり奇跡に恵まれた存在だ……今君に使用出来る魔法はないが……もしかしたらいつか使用できるかもね……」

「……」


不敵に嗤う惑の言葉に、イネは心の底から震えた。

今日生まれたばかりではあるが、親であり、元となった犬と猫の記憶と隣のカップルの遺伝子を取り込んだことによる人間の常識を一瞬にして壊されたのだ。

自身の動物的本能が訴えている、この男から早く逃げ出すべきであると危険信号を鳴らしている。

しかし、同時に合成獣人となったイネの心には、常識を壊す事に喜びを見出している部分があった。

惑の存在に対してイネの心の中に憧れのようなものが生まれたのだ。

そして、その憧れは自身に対する危険信号が聞こえなくなる程の魅力が感情を飲み込んだ。


「取り敢えず……分かりました……私は貴方に付いて行きます……私を作った貴方と……惑と一緒に奇跡の種を芽吹させて生きたい! 私は惑が起こす奇跡を見ていきたい!」


だからこそ、イネの心は憧れへ身を委ねる結果へ至った。


「うんうん、好奇心も旺盛で何より! これから沢山の奇跡を芽吹かせていこうね!」

「はい! よろしくお願いします!」


二人は固く手を握り合った。


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その頃有志は、豪華な寝室に案内されていた。

綺麗に設置されたアンティーク家具、美しい名画やトナカイのハンティングトロフィーが飾られており、キングサイズのフカフカベッドが用意されていた。

机には、美味しそうな果物や冷やされた飲み物等があり、ディティールにまでこだわられた洒落た食器やフォークが置かれている。


「凄い! 本当にこんな凄い部屋を使って良いのか!」

「はい! 有志様は勇者様なのですから! 気にせずお使い下さい! 何か必要なものがあれば使用人を呼んでいただければすぐに手配させますので!」


少し興奮気味に喜ぶ有志に、シャイニャス姫は微笑ましそうに話す。


「ありがとう! シャイニャス姫!」

「フフフ、シャイニャスとお呼びください、有志様には呼び捨てで呼んで欲しいです」


照れながらお礼を言う有志に、シャイニャスは赤い顔を隠しながら敬称を外すようにお願いする。


「分かったよ、シャイニャス、まさか城の案内をシャイニャス直々にしてくれるとは思わなかった」

「私からお父様に頼んだのです……少しでも有志様のお役に立ちたくて」

「ありがとう、俺の事も有志って呼んでくれて構わない……」

「わっ分かりました……有志……ぅぅぅ!」

「フフフ」


呼び捨てにした事を気恥ずかしくするシャイニャス姫を有志は微笑ましく思う。


「俺頑張ります……この世界を救えるように、そして君を守れるように……」


有志が魔王を倒す事を固く決意する姿を見て、シャイニャス姫は優しい表情になる。


「大丈夫です! 有志ならきっと出来ます! それに……もうすでに守ってくれたではないですか……」

「え? 俺が……一体何を……」


キョトンとする有志に対して、シャイニャスは照れながら抱き着く。


「シャイニャス!?」

「守ってくれましたよ……私の大切な……お婆様から譲り受けたネックレスを……あの邪悪な錬金術師から守ってくれたではないですか……」


シャイニャスは涙を流しながら嬉しそうに、有志の胸に顔を埋める。


「あれは! 何というか! 俺もアイツの言葉が許せなくて! 人の大切な……それも形見を売って金を寄越せという言葉は俺の世界でも最低の言葉で! それはアイツも同じ世界に住んでいるのなら分かって当然の感情なはずです! でもあの男……西院円惑という男は理解すらしようとしていなかった……だから当然のことをしたまでで! 別にお礼を言われるような事は……」

「それでもです……私は貴方が怒ってくれた事が嬉しかったのです……人の気持ちを理解出来ない西院円惑という男から私の心を……お婆様の思い出の品を守ってくれたのです……そんな有志だから信じられるのです……大丈夫です……きっと……」

「シャイニャス……」


有志もその言葉に勇気を貰い、シャイニャスを強く抱きしめる。

シャイニャスは上目遣いで有志の顔を見る。


「有志……私……今日は有志と一緒にいたいです……私をあの邪悪な錬金術師から守ってくれた有志の大きな腕の中で……」

「!! シャイニャス!」

「あ! 有志……」


有志はシャイニャスをベッドに押し倒し、シャイニャスもそれを受け入れた。

シャイニャスは世間知らずな為か、はたまた有志が勇者だからなのか、ただお婆様の形見であるネックレスを守ってくれただけの男に対し、簡単に股を開いた。


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