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記録37『説得』

ロードルは、城から出て逃げていた。


「はあはあはあ!!」


息を切らしながらも、自身の屋敷へと急ぐ。


本来なら馬車を使わせて数分であるのだが、御車はすでに殺されていた。


「クぞお!! 役ダダずガアアあ! どいつもこいつも使えやしねえ! この俺様の言う事だけが正しいというのに! 俺達は王に認められた大臣だぞ! この俺様が言ったことがこの国の進む道だというのに! どうしてこうも上手くいかない! いやこれは試練だ! ここを乗り越えれば俺様は好き放題で生きていける! 何だって俺様は選ばれているんだからな!!」


自我自賛しながら何とか屋敷に、辿り着いた。


「貴様等あああ! 逃げるぞおお! さっさと用意しろ! 糞共がああ!」


ロードルは、屋敷中に叫ぶが全く反応がない。

そこにいたのは、最近雇った薄汚い従者服の村の娘だけであった。


「貴様あ! 薄汚い村娘だが仕方ない! この俺様の荷物を用意する許可を出そう! さっさとしろ!」


本来であれば、村娘にそんな命令はしない。

理由は、薄汚い手で服や荷物を触られたくないからである。

しかし、ロードルも相当焦っているのか構わず命令を下す。


「そ! そんな事を言われましても……ロードル様の荷物や服の場所など私には……」


当然、そんな命令も下す事どころか、見る事すら許さなかった為、場所を知っているわけがなかった。


「きざまあああ! このやくたた!」

「ここだよ、惑」

「OKイネ、お兄さんの妹さんの服の匂いは確かのようだ」

「ありがとう」


イネは、嬉しそうにしながら惑に頭を撫でられる。


「き! 貴様等何……」

「邪魔」

「あぶば!」


イネは、ロードルの顔面を手で払って吹っ飛ばした。


「えぐ! まあ採取」


惑は、当然のようにロードルの死体の素材を採取した。

そして、全部収縮スキルで小さくし、ホルマリンの入った試験官に入れた。


「さてと、君はエリンさんですね」

「ドっどうして……私の名前を……」


エリンは、震えながら反応する。


「君のお兄さんから話を聞いてね、君を迎えに来たんだ」

「に……兄さんを知っているんですか?」

「うん、知ってる、アレンさんだろ?」


懐かしい名前を聞いて、エリンは少し嬉しそうにする。


「げ……元気にしていましたか……村の人達や……子供達も……アル―君も……」


その言葉を聞いて、惑は不敵な笑みを浮かべる。


「聞きたい?」

「え……」


惑の表情と言葉の雰囲気に、エレンは不安を覚える。


「端的に言うとね、村は滅ぼされた」

「え……」


惑は、躊躇いなく真実を伝えて、エレンは絶望する。


「な……なんで」

「貴族達がもう村はいらないという事で魔族に滅ぼされた跡地として観光スポットとして活用しようとしたんだって!」

「だから……守ってくれないと……」

「いや、貴族達が直で滅ぼしたよ」

「は?」


目を見開きながら、エレンの心に、怒りが芽生え始める。


「それでね、僕も協力して何とか生き残った村人にこれからどうするかを聞いたんだ、そしたら村の仇を取るって言って国にクーデターを仕掛けるって言ってね、今起こっている事は全部村人達が起こしてるんだよ、さっきこの子供が騒いでたでしょ?」

「それ……私に何かできる事がありますか……」

「参加するの?」

「参加したいです……」


その目に、真剣さと熱意を感じた。

しかし、惑は首を振る。


「残念ながら君に出来る事はない……何ならこのクーデターは失敗に終わる」

「じゃあ何で!」

「失敗するからやらないとはいかないのが人間って奴だよ、失敗を恐れず挑戦する者達は歴史上にたくさんいる、だからここまで人間達は進化出来たんだよ」

「じゃあ成功するかもしれないじゃないですか!」


エレンは、必死に惑の言葉を否定する。


「いやそれは無い、何故ならこの国に勇者がいる……」

「明日出立するって聞いています! どうして今日なんですか!」

「村人は自身で望んで僕の改造手術を受けた、だからもう人間というより魔族なんだ、つまりは結局村人達はいつか滅ぼされる、だから今が弱い間に勇者を倒そうと考えているんだよ」

「どうして……どうしてなの……兄さんは参加してるの……」

「ああ、参加している」


惑の言葉を聞く度に、エレンの心には悲しみが募っていく。


「私も兄さんと一緒に戦って死にます……だからお願いです……私も改造を……」

「それはダメだ、アレンさんからの御願いを最初に聞いた、残念ながら順番的な優先度を考えれば君の願いを叶える訳にはいかない」

「どうしてよおおお……どうしてなのよおおおおお……兄さんんんん」


エレンは、涙が止まらずその場で泣きじゃくるしかなかった。


「そうなると思って君のお兄さんからは僕の好きに交渉して良いという許可を得ている! ねえ君! このクーデターは失敗に終わる、例え国自体を亡ぼす事に成功しても姫や勇者はほぼ確実に生き残るだろう……そこで君はお兄さんや村人達の意思を受け継がないか?」

「うけ……つぐ?」

「うん! そう! この戦いを糧に次は君がお兄さんや村人達の仇を討つ! その為に僕と共に勇者や国の生き残りをぶっ殺す為の復讐の旅に出る! ここに居たってどうせ何も残らないんだし! きっとその方が君の人生の為には良いと思うよ!」


その言葉を聞いて、エレンの目に希望の光が灯る。


「兄さん達の意思を受け継いぐ……勇者と国の生き残りを」

「そう、勇者がいる限り高確率で改造した村人達は勇者や国の者に殺される、だからこそその復讐を君は受け継ぐ権利がある! 当然放棄する権利もあるけど……だから君の意思決定に委ねる! どうする?」

「……私は……」


エレンは、少し俯きながら真っ直ぐと惑を見る。


「やります! 確かにその方が良いかもしれないです! ここで無駄死にする事を許されないならそうするしかありません! どうせここに居ても奴隷商人に攫われて売られて死ぬかもしれないですし」

「良し! 交渉成立! これからよろしくね!」

「はい!」

「それでいいのかなあ……」


イネは、二人の会話を聞いて不安そうにする。

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