記録29『正体』
有志達は、先程の奇妙な魔物の正体を探るべく、死体を城へと持ち帰った。
「なるほど……これは確かに奇妙だ、明らかに人間の姿が三人ほどくっついたような姿をしている……しかも敢えてこのような歪な状態で……」
白衣を着た、丸禿の壮年男性が不思議そうに、その生物を観察していた。
「魔生物学者である貴方から見てどうですか……ランザベル=ライセンス殿……」
レイシャは、神妙な面持ちで問い掛ける。
「さあ……私もこんなの初めて見た……魔王がわざとこんな人間のような生き物を作り出したのか……もしかしたら魔族の中から人間と同じような者を作り出そうとしているのか……もしそうなら何故……それに何の意味があるのかを考える必要がある……」
その言葉を聞いて、有志は少し恐ろしい推測を立てる。
「まさか……わざと無力な人間の形をした魔族に勇者を襲わせて罪悪感を憶えるように仕向けているとか?」
「そんな! 非道にも程があります!」
「もしそれが本当なら本当に魔王は許せんな……」
ランザベルは、腕を組みながら考える。
「それはどうだろうか……もしそうなら今この国に放つ理由が分からない……それに勇者様がこの地に召喚されたという情報はこの国の中で止めている……だから明日の勇者出立のパーティーにだって来賓者はこの国の貴族達だけだ……そんな事に意味があるとは思えない……」
四人は、必死に魔王の意図を読もうとしている時だった。
「退いてくれ! すまない! 通してくれえ!」
「何だ貴様!」
「! おい!」
すると、貴族の男が血相を掻いて現れた。
男は、有志が倒した奇妙な生き物の一つの顔を見て青ざめる。
「そんな……ジョン……馬鹿な……どうしてこんな……」
その場で、膝が崩れて涙を流す。
「あ……貴方は一体」
有志は、涙を流す貴族に声を掛けると悔しそうにしながら答える。
「そこにいる……奇妙な生き物に変えられた青年の……父親です……一体誰が……こんな惨い事をおお!!」
泣き叫びながら貴族の男は自身の息子の首を抱きしめる。
「父親……まさか! この奇妙な生き物の正体は!」
「元……人間!」
あまりの衝撃に、四人は唖然としながら奇妙な生き物を見る。
「一体……誰がこんなことを……」
シャイニャス姫は、口元を押さえながら悔しそうにする。
「糞! 非道にも程がある! 人の命を何だと思っている!」
有志も、怒りのまま机を拳で叩きつける。
「この生物が元の人間ということは……他の二人もまさか! お前等! 今すぐこの二人の素性を調べろ!」
『は!』
騎士達は、他二人の素性を調べに動いた。
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そして、判明した結果。
最初に、現れた貴族は伯爵の次男息子、ジョン・ランゼマ。
そして他二人の正体は、侯爵家の三男息子、ラオ・コルジャと公爵家の次男息子、ロウ・タウロであった。
三人の親は、息子達の成れの果てを見る。
「ああああああああああああああああああ!」
「どうしてええええ! どおおじでええええ!」
「いやああああああああああああ!」
それぞれ、悲鳴を上げるように息子達の前で泣く。
そんな姿を見て、有志の心は激しく痛んだ。
「大丈夫ですか……有志」
シャイニャス姫は、心配そうに有志の背中を摩る。
有志は、少し元気が無さそうにしながらも微笑みながら答える。
「大丈夫……と言ったら……嘘になるかな、こんなことになる前に俺が守るべき者がこんなことになるだなんて……俺は一体何をしてるんだ……そう思うばかりだよ」
「そんな事はない! 有志は良くやっている!」
少し落ち込んでいる有志に、レイシャは励ましの言葉を掛ける。
「ありがとう、レイシャ、シャイニャス……分かってる! 俺はそれでもここで折れる訳にはいかない、いやこんなことが起こったからこそ俺は折れちゃダメなんだ!! 俺は例えどんな絶望の前にも屈してはいけない! それだけは絶対にダメなんだ!」
「勇者様……」
「勇者様……」
「ああ……勇者様」
息子を失った三人の貴族は、そんな有志の勇敢でこの世界を背負う為の覚悟を見て尊敬の念で見た。
「さすがは有志です……でも無理はしないでください! 私達もその重みを背負わせてください」
「そうだぞ! 私達だって有志だけに頼ろうとは思ってない! 自分達の世界である以上出来るだけのことはしたい! そして……その良ければ私も……一緒に……」
「ず! 狡いです! わ! 私だって有志と!!」
二人は有志を励ましながら、魔王退治の同行を求める。
その二人を見て、有志は涙が出た。
「有志!」
「大丈夫ですか!」
「いや……ごめん、あまりに嬉しくて……つい!」
涙を腕で拭いて、二人に微笑みながら答える。
「俺も……その……二人が良ければ……一緒に旅が出来たらと思ってたから……」
「「はあ!! 喜んで!!」」
息子達が死んだにも関わらず、勝手に勇者パーティーが結成している三人を見ていた貴族達も、何故か涙を流して喜んでいた。
「素晴らしい……そしてとても美しい!」
「ああ! 私達は歴史的瞬間に立ち会ったのだ……」
「なんて感動的な場面でしょう……」
三人の貴族達にとって、所詮は次男坊の息子等どうでも良かったのかもしれない。




