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記録3『実験:猫と犬の死体』

惑は、溜息を吐きながら歩いていた。


「変な人だったなあ、急に怒り出すんだから、まあでも品物は入手したしいっか!」


惑は、手にリンゴを握られていた。

追い出される前にお金だけ棚に置いて、リンゴを勝手に持って行ったのである。

そして、そのリンゴを口に運ぶ。


「ふーん、あんふぁりおいひくないなあ、ゴクン、何かに使えるかもしれないししまっておこ」


惑は、リンゴを食べ切ると芯と種だけは、懐にしまった。

そして、流れるように目の前にあった本屋に入った。


「すみません……寝てる」


店には、椅子で寝ている店主らしき老人がいた。


「不用心だな、まあ僕には関係ないけど」


惑は、先程追い剥ぎから奪ったお金を見る。


「あのチンピラ結構持ったよな、貴族の子供からでも脅したのかな?」


袋の中には、金貨100枚、銀貨10枚、銅貨20枚入っていた。

先程リンゴは、銅貨5枚の為、銅貨は15枚になっている。


「さてと、錬金術師の本と後地図があれば……あった、合わせて金貨2枚か」


寝ている為、店主近くに値段分のお金を置き、錬金術師の基礎本と地図を持って出た。

そして、どこか落ち着ける場所を探していると、先程の噴水の近くのベンチがまだ空いていた。

ベンチに座り、路地裏を見ると先程合成した追い剥ぎが必死になってゴミを漁り、食料を丸呑みしていた。


「頑張って生きているようで良かった」


惑は、それだけを言うとすぐに錬金術師の基礎本に目を通す。


錬金術師は薬草や医療、魔道具の作成に金の錬成を生業としている。

ただ最近では、効力のない薬や形だけの医療、偽物の魔道具を売ったり、金を大量に売る事により市場価値を下落させたりと非常に厄介な存在として扱われている。

まともな錬金術師は数える程度である。

スキルには、合成、金生成、錬成、採取、調合、魔道具成功率UP等その他のスキルについては記載がなかった。

合成は、壊れた物を修復する為に使用される。

金生成は、金を作り出す。

錬成は、武器を組み合わせて形状を変化させたり、素材から道具を作ったり、魔道具の元を作る為に使用する。

採取は、動物や魔物などから必要な素材を抜き取る。

調合は、薬草を使用した薬の作成。

魔道具成功率UPは魔道具の開発の際に成功する確率が上がる。

錬金術師は、スキルの使用と道具の使用によって経験値を得られる。

武器の作成の場合は、武器を使用する事によって経験値を上がる。

職業レベルが上がれば、新たなスキルを取得する事が出来ます。

錬金術師はレベルが無制限で、唯一勇者と同じように際限なく成長できる。

その為、勇者と比較されやすく悪目立ちする者もおり、偏見の目で見られると記載されている。


「なるほど、この世界の人達は人間を使ってスキルを発動したことがない、もしくはそういう文化体系はないのかな? もしくは歴史から抹消されたか、まあいいや! 僕が前からしたかった改造研究の為に利用出来そうだし!」


惑は、そんな事を考えていたが、一般論として考えれば人間を材料として合成を行おうとは思わない。

あくまで、道具や物を修復する為に使用されるスキルであり、人と人とを合成するような発想はない。

生物を素材にするにも、動物や魔物ぐらいである。

惑の世界でも実際人体実験が行われたが、現在では安全を考慮した上で、倫理規範が設けられており、それを違反するような人体実験は認められていない。

しかし、惑という少年にはその規範がない。

惑にとっては十分な説明した上で、実験体の同意さえ取れれば研究対象として確定してしまう。

そして、足が付かない犯罪者、不法滞在者等であれば、惑は遠慮なく利用する程の研究への渇望があった。

そこに少しでも可能性がある場合は、例え魂や幽霊という不確定な存在であってもそれを実験の材料として活用したいと考えている。

惑は、改造こそが人類進化に貢献していたと考えている。

病人を治療する行為、薬の投与、自身の免疫や能力を生まれる子供が引き継ぐ遺伝子、格闘技の引継ぎと進化、動物の品種改良による食品化等は、全て人類が生きる為に必要と考えて改良に改良を加えた結果だと考えている。

だからこそ、自身の知識や能力を使用して、生き物を改造し、子供の頃にサイボーグや人造人間、キメラ等に興味を持った。

異世界に来る前は、参考資料としてB級映画やパニック映画、パンデミック映画にホラー映画、ゾンビ映画、ライトノベルや漫画等を嗜んでいた。

必要であれば、悪役思考も取り入れた。

その結果、窓の研究対象の中には、動物だけでなく、人間も含まれるようになった。


「この世界で手に入れた錬金術師のスキルが僕にとっては色々と楽しめる能力みたいで良かった……もしかして僕が召喚された際に手に入れたこの職業って僕の精神に相性の良かったからかな?」


錬金術師の基礎本を閉じ、持っていたカバンの中にしまった。


「大体分かったし、次はどうしよう……先に宿を探すかな?」


ベンチから立ち上がると、探索の際に見つけた宿へと向かった。

そんな時であった。

異臭がした。


「!! この臭いは死臭か!!」


惑は嬉しそうな表情で、臭いの方向へと走った。

異臭のするゴミ置き場へと入る。

そこにはゴミが散乱しており近くには猫と犬の死体があった。


「!! お! やった! これなら早速動物実験が出来るぞ! 取り敢えず今度は犬と猫か! 合成をどうするかな? よし! 取り敢えず次はちゃんとした形の犬と猫が合体した様な姿をイメージしてみよう!」


合成の際、どのようにイメージするかの内容を即座に決めた惑は、すぐに準備を始めた。


「まずは、二匹の長所を書き出そう……まず犬といえば嗅覚の良さ、そして力の強さと足の速さ、噛む力と牙は必要か、そして猫は聴力、俊敏性と運動能力、爪も武器になるから残して……」


一通りの長所を書き出して、残す部分と残さない部分を仕分けた。


「まあ死んでるし、形だけなら何度でも練習出来るだろう、物理的に分解すれば問題はない、合成」


惑は、手を翳して早速合成を行った。

すると、先程の追い剥ぎとは違い腐ってはいるが、犬と猫の特有とする四足歩行の姿へと変化した。

犬の特徴として残したのは、嗅覚の鼻と口の牙、そして猫の特徴として残したのは、聴覚と鋭い爪、両種の特徴として発達した後ろ脚と筋力は合わさった状態にある。


「ほほう、これは良い! 早速鑑定!」


しかし、何も現れなかった。


「ええ……まさかこのスキル死んだ者には使えないのか? いや少し見えそうで見えない様な?」


惑が目を凝らすと、少しぼんやりとしたものが目に映っていた。

しかし、気のせいと思える程に、薄いせいでただの靄にしか見えなかった。


「まあいいや……死んでいるから動かないし鑑定に意味はないだろう……解体して今度はどうなるかを……」

『職業:錬金術師のレベルがアップしました』

『スキル:採取を取得しました。』

『スキル:金生成もしくは、錬成のどちらはかを取得できます……どうしますか?』


しかし、惑の目の前に自身のステータス画面が現れた。


「もしかして、レベルアップしたから画面が映ろうとしたのかな? ふーむ……当然錬成だろ? だって金生成って限定されたものなんかに一体何の価値があるんだ……素材としては便利かもだが現段階での必要性は少ない……またの機会にでもしよう……」


当然のように金生成のスキルを捨て、錬成のスキルを選択する。


『スキル:錬成を取得しました。』

「ふむ、取り敢えずステータス」


そして、ステータス画面には追加項目が増えていた。


Name:西院円 惑

HP:1200、MP:1000、攻撃力:1100、防御力:2100、スピード:9500、知力:31000、魔法:なし、スキル:合成、採取、錬成 職業:錬金術師Lv:2


と記載されていた。


「職業レベルが上がってスキルとステータスが上がったと、まあステータスよりまずはスキルの採取と錬成の詳細だな」


採取: 欲しい素材となるものを抜き取る。

錬成:物質同士を掛け合わせ、新たな物質へと変化させる。


そんな簡単な説明が記載されていた。


「素材かあ……まあ確かに解体して臓器だとかを傷付けないで取り出すって結構難しいからな……同じ個体でも臓器の位置が微妙に違ったりするし……そういう部分ではかなり役に立つ、そしてこの錬成も新たな物質か……合成と同じでこれも想像しながらその個体へと変化させるって意味で良いのか? 取り敢えずはこれも試していかないとなあ」


そんな時だった、乱雑に放置されていたゴミの中に蠢く何かがいた。


「そうか! こういう場所には!」


すぐさまゴミを漁ると、そこには大量の害虫と数匹のネズミがいた。


「やった! こんなに沢山の素材の元があるなんて! まさに素材の山だ!」


惑は、近くにいた害虫やネズミ達に手を翳すが、直ぐに止まる。


「待て落ち着け……まず何を抜き取るかだ……そこを考えなくては……興奮して素材を不意にしてしまう」


惑は、頭を落ち着けながらしばらく目を閉じて考える。


「そうだ……」


小さく思い付いたように声が出ると、先程合成した犬と猫に視線を移す。


「あの死体を蘇生する事は出来るだろうか……この害虫やネズミのHP、MP系を全て素材とすれば……いや待て……それでアイツは回復するか? さっきの人間は生きてたから合成しても動いてはいたけど……それぞれに意識があって鑑定の結果名前も混ざった感じだ……犬と猫同時に生き返るのか? それとも……」


再び、実験の為の検討の為思考を巡らせる。


「取り敢えずこの害虫1匹で試そう、鑑定」


そして、1匹のゴキブリのステータスを確認する。


Name:ゴキブリ

HP:10 スキル:性別転換、繁殖


「採取」


Name:ゴキブリ

HP:0 死亡


「ふむ、HPっぽい何かが採取出来た」


手元には、何か緑に光の靄があった。


「これを……合成」


手元にあった緑の靄が、死んでいる猫と犬の合成体に移動する。

しかし、猫と犬の合成体に纏わり、体に入って行く。

すると、腐食していた体はドンドンと元に戻る。


「鑑定」


しかし、体だけが治癒されただけで、蘇生したわけではなかった。


「うむ……これじゃただの治療になるのか……ならばどうするか……」


再び思考を巡らせる、そして再び閃く。


「そうだ……宗教では魂というものがあるって言っていた……身体に宿って心の働きを司るとされているとか肉体から独立したものとか精神とか確かそういうの……それを素材として採取すれば合成でも上手くいくか? いやそれだと害虫、もしくはネズミの意識がこいつの宿るのか?」


何度も何度も思考の中で、確定的な方法を模索する。

そして、一つの案が再び出た。


「錬成……そうだ錬成で魂を新たな物質へと……いや集めた魂を新しい別の魂へと変化させれば、その精神はこいつだけのものになるのでは?」


どんな結果になるか分からない。

だからこそ惑にとっては興味をそそり、再び実行に移す事こそが惑にとって重要であった。

猫と犬は死体であり、害虫やネズミもどうせ駆除対象の為、魂を採取しても問題ないと判断した。

追い剥ぎを身勝手に合成しても罪悪感の一つも覚えない惑にとって、実験以上に大切な事はなかった。


「採取」


そして、その場にいた害虫やネズミの体から害虫やネズミの形をして、光った何かが現れたと同時に、その場にいた害虫もネズミも動かなくなった。


「ほほう、死んだって事は魂って本当にあるんだ! さすが異世界! いや俺の世界にもあるのか? ただこの採取スキルがなければ見る事も叶わなかったって事か?」


そして、集まった沢山の害虫やネズミ達の魂を見つめる。


「錬成」


そして、錬成を使ったと同時に魂は一つになった。

そのまま、先程の猫と犬の合成体と同じ形になった。


「うん! そしてこれをその死体に合成」


すると、魂はその猫と犬の死体へと移動し、体の中へと入って行った。

しばらく観察していると、合成獣の死体はピクリと動き出し、目を開ける。


「ワニャアン」


そして、合成獣は小さく鳴いた。


「あは! 成功だ! ラノベだの漫画の類い、映画を嗜んで良かった! この時の為に鍛えられたのかもしれない! 僕のインスピレーションは!」


もし、惑が頭デッカチに勉強こそ大切という考え方ならば、そんな発想は生まれなかっただろう。

しかし、惑の考え方は違った。

ただ堅実に勉強するのではなく、異次元的な面での考えを持ちながら実験するべきであると、だからこそラノベや漫画、映画を嗜む事でインスピレーションを高め、実験のバリエーションを増やせるようにした。


「さてと、こいつはどう動くか?」

『職業レベルが上がりました。』

『スキル:金生成か分析のどちらかを取得でき……』

「分析でお願いします」

『スキル:分析を取得しました。』


惑は、迷わず即答で分析を選んだ。


「さてと、分析のスキルは……」

『分析:必要な素材や工程を予め予測する事が出来ます。』

「なるほど……例えばさっきの工程は?」

『生物から魂を素材として採取し、集めた魂を錬成スキルで新たな魂へと変換、その後死体の体に合成する事で合成獣を誕生させることが出来ます。』

「ではこれからは分析スキルを活用すれば実験も簡略化出来るのか……後は……鑑定」


Name:合成獣(キメラ)

HP:30000、MP:30000、攻撃力:40000、防御力:40000、スピード:50000、知力:300、魔法:なし、スキル:瞬発、動体視力、聴覚鋭敏、嗅覚鋭敏、性別転換と記載されていた。


「なるほど……二つの性質が合わさった上名前も合成獣って記載されてる……でも、ゴキブリのスキル性別転換まで習得しているのは何故だろう?」


そんな事を考えていると、辺りが暗い事に気付いた。


「今日はこれぐらいにするか……今から宿泊できる場所を探しても空いてるところあるかな?」

「ワニャアン!」


惑は、合成獣の首根っこを掴みながら宿を探しに行った。


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