記録289『皆貴方の中にいた』
イネは、エイズと会話していた時であった。
『おい! 俺達もいるぞ!』
『その通りです! 一体どれだけしたか覚えていないのですか? 我が宿主は』
『オイラ達を忘れて貰っちゃ困るぜ!』
『フフ、その通りですぞ!』
『そうね、皆貴方の中にいたのよ』
『ぐへへへははは!! その通りだぜええ!』
『全く……忘れるなんて酷いと思わないか? B!』
『全くだA……』
『お前たちは』
『皆お前の為にここへ集まった……原虫や他の細菌もいたが……皆お前の環境についていけなかった……だがこいつ等は違う……俺達は生き残ったエリート達だ!』
エイズは、嬉しそうに語りながらイネに言った。
『お前等……梅毒! クラミジア! 淋菌! ヘルペス! ヒトパピローマウイルス! カンジダ! A・B型肝炎の双子! そして……』
『! おっと! 俺の名前はエイズじゃない……そう言ったよな!』
『そうだった! ごめんごめん!』
不意に言い間違えそうになったイネを止めて、性病達は笑い合う。
『最初に感染したのがお前だっけ! 懐かしいなあ! ファイナさんの時には既にだっけ?』
『そういうお前も! 次の町でアルマダさんと共にした奴の中に混じってただろ!』
『懐かしいなあ!』
皆、嬉しそうに自身の出生を語る。
皆懐かしい重みに浸り、いつまでも続いて欲しい時間が流れる。
しかし、当然そんな時間はない。
『イネ、俺達を使え』
『!! 何を言っているんだ! そんな事をしたら!』
『ううん、十分だよ……私達は忌み嫌われるウイルスと菌……元来人間となんて一緒に暮らせるようなものじゃないの』
『でもお前は俺達に愛をくれた! 勇気をくれた! 俺達だって! イネの為に! いやお前の為に戦いたんだよ!』
『辛いときは寝る前にお話ししてくれたありがとう! 今度は僕等が戦う番だ!』
『ヒッヒッヒ!! 糞勇者を一泡吹かしてやるぜえ……』
『その通りだと思わないか! なあ! A!』
『そうだな! B!』
当然のように、皆がイネの為に命を使って戦おうと心に火を灯していた。
『皆忌み嫌われた菌とウイルス……だがお前だけは俺達の手を取ってくれた……それは誰にでもできる事じゃねえ……』
『皆……』
イネは、涙を流しながら性病達の笑顔を見る。
『俺達はお前の為に勇者……いや神を汚染する……だがすぐに殺されてこの世から消される可能性もある……だから時間稼ぎだ……その間にお前は俺達との思い出を思い出して、その想いを使って神に拳を当てろ!』
『!! でもその為には……』
イネは、動揺しながら断ろうとした。
『分っている……俺の名前と他の奴等の名前を憶えて絆を共鳴させる……それは例え神であっても破壊できない……でもな、俺達にもやるべきことが出来たんだ……もしこの戦いが終わればお前は生き残った性病達をバラ撒いてくれ』
『そんなの嫌だよ! 皆でばら撒くんだ! そうだろ!』
『ごめんね……それは出来ない……このままじゃ君は殺される……ならせめて君だけでも救いたい……』
『分ってくれるだろ……イネ』
『……皆……』
イネは涙を流して、皆の提案を受け入れた。