記録284『降臨』
有志の攻撃は、一切惑に当たらなかった。
「くぞおお! くぞおおお!!」
『有志! 奴はお前の心を操っている! 心を! 精神を落ち着かせろ! そうすればきっと西院円惑に当たる!! すぐに!!」
「!! はい! 神様!」
有志は、神の言葉に自身を取り戻した。
有志は、追い詰められたからこそ、縋りたい状況へと陥ったが為に怒った心の変化。
自身を掬い上げる為の生存本能と正義の心、惑を倒す為に必死の心が生んだ正気の一つである。
「ふー……」
「ふむ自分一人で成し遂げればいいのに……君はどうして……」
「分からないか? これが人の心だ! 人の想いだ! 人との繋がりだ! お前には一生分からないだろうがなアあ!!」
「はあ」
惑は、溜息しか出なかった。
「そんなのは知っているよ……理解しているよ……でもさあ? いつもいつも誰かとの想いがなきゃ生きていけないなんて……なんて成長性の無い……」
「フン、そんなのは貴様だけだ! 西院円惑! お前は寂しい奴だ! お前なんて誰からも望まれていない! 誰からも信じられていない! 誰からも愛されていないゴミだ! そんなゴミに生きる価値なんて一切ないんだあ! お前なんかにこの世界を好きにさせて堪るかアアアアアアア!」
有志は、冷静な表情で惑を斬りに掛る。
「よ! っと」
「っく!!」
しかし、攻撃は当然のように躱される。
「僕がね……言いたいのはそういう事じゃないんだ……君にも一生分からないだろうけど一人で出来る成長だってあるんだよ? いつか人は一人になる時が確実にある……その時誰の力も借りず、誰にも心を預けず、誰とも想いを共有できない……そんな時、一人でどうにかしないといけない時の乗り越え方は一人の時しか学べない、そして個人の力を成長させない事には例え誰かと協力しても絶対に強大な力には勝てない……魔王が一般兵何億人に負けるとでも思うのかい? 核が何億人で耐えられるか? 否、科学者も医師もアスリートも芸術家も! 孤独に打ち勝って一人の力を引き上げる必要がある! そうすれば協力した際に更に強い成長と素晴らしい結果を残せる! 皆のレベルが高い中一人だけ大したことない奴が一体何の役に立つ?」
「フン……まさにゴミの発想だ……そんなのは皆がフォローしてくれればどうにかなるだろ?」
「おいおい……そんな無能の為に皆がどうにかしてくれると?」
一通りの言い合いが終わると、有志は聖剣を向けた。
「ホーリーインパクト」
「よ!」
そして、ホーリーインパクトを放ったと同時に。
「セイクリッドインパクト」
「フン!」
惑は、その全てを避ける。
「今だ! うおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「全く……君のその力は人から貰った力だよね? いつまでそれに頼るの」
呆れながら、惑は全てを避け続けた。
だが、同時に左手が破裂した。
「おや?」
「フン、それはどうかな? 貴様の尺度で測るからそうなる」
有志の雰囲気が一気に変わる。
「ほう、遂に我慢の限界って訳かい? 全く……人任せとは……情けない勇者だ」
目の前に立っている者は、有志ではなく神が憑依した有志であった。




