記録271『托卵』
「やたー! やたー! 呪いスキル貰ったああ!!」
惑は、大喜びしながら試験官を覗き込む。
「ありがとう! どう感謝をつた……」
「あ? ああ……それよりさ!」
「それより……」
アワホの喜びの感謝よりも、惑は別のことを考えていた。
「これをシャイニャス姫に追加したらどうなると思う!」
「え? それは……どういう」
「だってさ! この魔力暴走は相手の体を歪にするんだよね! 王族の高貴な魔力を暴走させるんだよ! きっと楽しいぞ! 絶対に!!」
「ちょ! 生きたままずっと苦し……」
「さっそく準備だ! イネ!」
「はいはい」
「俺の話を聞けえええええええええええええ!」
アワホの言葉などすべて無視して、惑はすっ飛んでイネと共に勇者を向かい受けようとした。
「私も見学しよう」
「プランもおお!」
エレンとプランは楽しそうにしながら野次馬に行く。
「ああ! もう!」
「兄さん待って!」
ファリルナは、元気になったお陰か歩けるようになった。
しかし、すぐに転ぶ。
「い!!」
「ああもう、……すぐ動くから」
「バワカさん……ありがとう」
バワカの肩を借りながら何とか外へと出た。
「ここが……外……久しぶりで何だかいっぱい変わってる……」
「まあそうだな……」
懐かしそうにしながらも、何処か喪失感を味わい、ファリルナは喜びに打ち震えた。
「あの桜……まだあ……」
「わにゃああああああああああああああああ!!」
イネが、思い出の桜を思いっきり頭突きで倒してしまった。
「近道使うよ!」
「おううよ!!」
「……儚いね……思い出………」
「……ああ……」
何とも言えない気持ちが二人の心を埋め尽くす。
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「もうすぐで彼女を助けられる! 俺の愛で! 彼女を!」
「ええ! その……その時は私も……」
「ああ! 一緒に救おう!」
有志とシャイニャスは、もう少しで英雄パアワアプの家へと到着する。
そんな時であった。
「追加」
「あぶ!!」
シャイニャスは、一瞬で通り過ぎた惑に触られた瞬間、顔が歪に歪んだ。
「シャイニャス……」
シャイニャスは、感じた。
(ああ、もうダメだ……今ので……私はダメになった……こんなに呆気なく……こんなに一瞬で……こんなに……こんなに一緒に居たのに……一緒に旅を……有志を想っていたのに……さいごに……お願い……私の最後のこと……)
「言わせねえーよ」
惑は、更に口を塞いだ。
「集中して貰うんだ……魔力暴走に……君の高貴な魔力暴走に……さあ! 見せておくれ!!」
そして、最後の言葉すら言えず、シャイニャスは歪に変形し始める。
「ああ……あああああ……ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!! 西院円惑おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「ひゃあはあ!! 腹も膨らんだ! 一体何が起こ……」
「おgy……おtytがあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
しかし、シャイニャスの腹は裂けてもう一つの人間が歪に膨れながら現れる。
それはシャイニャスの変形ではなく、腹にいた何かが変形した者であった。
「おおお……まさか……孕んだ赤ん坊が一気に成長して魔力暴走したというのか……」
「ああ……あああ……ああああああああ……俺の赤……」
「退けええ!!」
泣きながら近づく有志を押し退けて、イネがシャイニャスへと駆け寄る。
「そんな……そんなうそだ……」
「?」
何故か、イネがシャイニャスの赤ん坊を抱いて泣き出す。
「僕の赤ちゃんガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
「!!!」
「……は?」
「えええええええええええええええ!!」
「あはははは! ええええええええええええええ! えええええええええええええええ!」
惑は驚き、有志は絶望し、エレンは驚きの余り絶叫し、プランは面白がってエレンの真似をする。
「ひどいひどい!! 惑! どうして僕の赤ちゃんをおおお!」
「ええ……君いつシャイニャスとしたの? したのってテュリアメルだけだよね?」
「そんなの! 托卵に決まってるじゃないか! 僕がエイズを皆に振りまいているのは知っているでしょ!! 僕はエイズを種として利用して、受精の為に他の精子達を利用して、やっとエイズで作り上げた赤ちゃんを! どうして! どうしてええええええええええええええ! 酷い酷い! あんまりだあああああああああああああああああああ!!」
「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
あんまりなのは、イネの方だった。
そのせいで、有志は絶望のそこへと叩き落とされた。