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記録20『本物か偽物か』

惑は、辺りを探すが、他の者の魂は見当たらなかった。


「魔族の場合は結構時間経ってたけどちゃんとあったよな? しかも死体の近くに……やっぱり人間と魔族では魂では何か決定的に違いがあるみたいだな」


そんな事を考えながら、死体のある場所へと戻った。

皆、悲しみに包まれており、啜り泣きながら、村人の死体を埋葬していく。

しかし、一人だけ拒んでいる者がいた。


「いやよオオオオオ! 離さない! アルーは渡さないんだからああああああ!」

「ルーズさん! しっかりして下さい! アルー君はもう!」

「嘘よおおおお! 生きてるんだからああああああ! 勝手に殺さないでえええええ!」


ルーズは、現実を受け止められず、我が子の死体を離そうとしなかった。

アレンは、必死で説得するが、全く聞き入れて貰えず、覆い隠すようにしながら奪われないように抱きしめる。

惑は、その様子を見て二人に近づく。


「どうしたの?」

「惑さん……」

「西院円さん! お願いです! 私の息子を! アル―を助けてください!」


ルーズは、縋るように惑に、アル―を救って貰おうとする。

しかし、惑は残念そうにしながら答える。


「さすがに無理かなあ……死んじゃってるし……脈も止まってるし魂も探したけど見当たらない……」

「そんなあああああああ!」


ルーズは、アル―が助からない事を惑から受けて、絶望する。

ルーズは、夫を病気で失い、自身の父親と母親はすでに死別していた。

更には、先程の兵士達に強姦された為、心は最早ボロボロであった。


「私にしたようにすれば助かるんじゃない?」

「え……」


その時、イネの言葉がルーズの心に救いを与えた。


「? イネにしたみたいに? どういう事?」


惑は、イネの言葉の意味が分からなかった。


「ほら、私は死体から他の生物の魂を錬成した上で生まれたじゃない? だからそれをすればアル―君も生き返るんじゃない?」

「!! 本当ですか! 本当に!」


その言葉に、ルーズの想いが生き返った。

アレンも、その言葉を聞いて惑に希望を求める。


「もしそれが本当ならその方法を使用すれば他の者達も助けれますか!」

「それは本当か!」

「錬金術師様!」


イネの言葉を聞いて、他の村人達も一気に集まる。


「ああ……あれか……でもあれってさ? あくまで他の生物から集めた魂を一つの魂に錬成してそれを死体に合成しているだけだよ? だから本当にその人が生き返っている訳ではないよ?」

「え? でも私の中にお父さんとお母さんがいるよ? それは何で?」


イネは、惑の言葉に不思議そうにするも、惑は淡々と答える。


「確かにお父さんとお母さんの死体で君を作ったけど……君の中にいるお父さんとお母さんは本当に君のお父さんとお母さんなの? 君自身が辻褄を合わせる為に作り上げた人格って可能性は? じゃあ君自身は一体何なの? 蘇生できるなら君自身は出来ず、お父さんとお母さんの人格がその体に宿ってるんじゃないの?」

「え……その……あの……えっと」


イネは、だんだん自信を失い始めた。

その会話を聞いていた他の村人達も、少し恐怖を覚えた。

もし、イネのように魂を錬成して村の仲間を蘇生させても、それは本当に、今まで一緒に暮らしてきた仲間なのかどうかと考えたのであった。

そして、一通り思考して村人達は顔を合わせる。


「止めて……おこうか……」

「ああ……さすがに怖い……」

「そうだな……そんなのが普通に仲間として会話しているのもちょっと……」


不気味さを覚え、失った仲間は帰って来ないと考えた方が、まだ健全であるとそう悟ったのであった。


「それでもいい!」

「え……」


しかし、ルーズ一人だけは違った。


「お願いです錬金術師様! お願いお願いお願いいい!! 私はまたこの子が! アル―が動いているところを見たいのおおおおおおお!」


癇癪を起す子供のように、ルーズは何度も何度も惑にせがんだ。


「うん、いいよ」

「本当ですか!」

「お! おい! 良いのかルーズさん! あんたそれで!」


他の村人達は、動揺しながらルーズに聞くが、ルーズは全く聞き入れる様子はなかった。


「じゃあ準備するね……イネ! 害虫やらネズミを沢山集めて!」

「りょ……了解」


イネも、ドン引きしながらそれらを集め始める。

そして、大量のネズミやミミズ、さらにはゴキブリなどを集めると


「さてと、じゃあ魂採取!」


惑の掌に沢山の魂が集まる。


「錬成!」


そして、魂は一つの人の形へと変貌した。

それは、アル―の姿によく似ていた。


「そして合成!」


惑は、あっさりとアル―にその魂を合成した。

そして、しばらく経った後、アル―は動き出した。


「ま……ま」

「アル―! アル―うううううううう!!」


ルーズは、涙を流しながら我が子を抱きしめた。


「よ……良かったのか……」

「ほ……本人が喜んでるんだし……良いんじゃないのか……」

「どうする……俺達もやってもらうか?」

「いや、止めておこう……さすがに怖い」


ルーズへどう声を掛けていいか分からず、他の村人達も動揺する。


「さてと! お腹も減ったし! ご飯にしよう!」

「はい! 本当にありがとうございます! アル―も! ご飯食べようね!」

「……うん、食べる」


お腹が減っていたのか、アル―は涎を垂らす。


「おい、アル―って食事の時涎垂らしたか?」

「ええと……どうだろう……垂らしてた? なかった?」

「よく分らんが異様な気がする」


そして、惑はいつも通りイネが持って来た獲物で、モツ煮込みを作ると皆に振舞う。


「さあ食べようか!」

「あ……ああ」

「そっそうだな……」

「イタダキマス……」


皆が無理をして、惑の料理を食べているとアル―が空の皿を上げる。


「おかわり!」

「あら! アル―もう食べちゃったの!」

「うん! だって美味しかったもん!」


その言葉を聞いて、イネを含め、村人全員血の気が引くような感じがした。


アル―は、惑が最初来た時作ったモツ料理を食べて不味い、臭いと言ってルーズに文句を言っていた。

しかし、今はとても美味しそうに食べており、更にはおかわりまでした。

その姿を見て、村人は全員こう思った。


この子は、本当にルーズさんの子供、アル―なのか。


しかし、死んだことによって味覚が変化したのかもしれないし、もしかしたら慣れたのかもしれない。

そう考えると、アル―でないという事を否定する事も難しいと考えるようにした。

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