記録214『マジか……コイツ』
(まさか……こんなに簡単に受け入れるだなんて……惑の潜入方法を聞いて唖然としたけど……まさか本当にこの方法で?)
勇者パーティーへ潜入した名の無き猫は、呆れを隠しながら何とか進む。
第一関門はクリアしたが、何処か釈然としてはいなかった。
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「さってと、口説くのは良いから話をしようか?」
「本当に下は勃たないのね……残念」
名の無き猫は、惑の性に関する興味が歪な事に、少し落ち込む。
「我妻に魅力がないと?」
イネの体を使って、夫の名の無き犬が口を出す。
「お! お父さん!」
「そうか……お父さんいるんですね……息子さん? 娘さん? どっちか分かりませんが迷惑を掛けられています」
「そういうのは逆の挨拶なのでは?」
「迷惑! お! 受けています!」
「どこかクレームの様にしか聞こえない……イネよ……もう少し手加減をしてあげた方が良いかもしれないぞ?」
流石の父親も、イネに仕方なさそうに注意を呼び掛ける。
「うーん……はい」
「で? 私はどうすればいいんでしょうかあ~?」
惑は、任務の説明を始めた。
「君は勇者から種を取って受精してくれ」
「受精と言いますと……孕むという事でよろしいでしょうか?」
「そうだよ、それでね……まあここからが一番大事なんだよお……そう……一番大事一番一番大事!」
気持ち悪く嗤いながら、惑は母親の片を掴んで語る。
「その受精卵をね……僕のスキル送るを使って孕んだ受精卵ごとこっちに送る事を契約して欲しい」
「ええ! せっかく孕むのにですかあ! 勇者の子供が生まれるかもしれないんですよおお!」
「でもその子が恨む可能性なんてほとんどないでしょ? 教育を施しても完全とは言えないしね」
惑の言葉には、理があった。
いくら教育を施そうとも、子がそれを拒めば、学ぶ事はない。
学びを放棄してしまえば、結局のところ惑の望む可能性はほぼ皆無となる。
「僕が狙っているのは君の受精卵やイネが沢山の者から受精卵を手に入れてそれを使った転生術を開発する事なんだ……云わば人工転生チートだ」
「人工転生……それで勝てるの?」
「勝てる可能性は高い……何故なら毒の中から生まれた生き物はその毒に対して耐性を持っている、その国の言語は生まれたばかりは使えないが実は喋れないだけである程度の理解はしている……だから話を聞いているだけで赤ん坊は言葉を覚える事が出来る……まあ逆に赤ちゃん言葉を使うと理解するのに時間が掛かるらしいけど……という感じで実は既にある事、ある技術を覚えるのに時間が掛からない様に既に持っている力に体が拒絶する事はないんだよ……そして技はその中の仕組みとして組み込まれている……つまり生まれた瞬間で既に理解が入っているってことだよ……後は使い熟すだけでいい……それもエレンちゃんの理解力と復讐力なら時間はかからないだろう」
惑の説明を聞いて、母親は少し怪訝そうにする。
「勇者パーティーにはどう潜り込むべきなの? 場合によっては私殺されるだけど?」
「簡単だ……夫と娘を助けて、仲間にして、二人は西院円惑に操られているって言えばスンナリさ」
「勇者はそうかもだけど……他の3人は? イネがテュリアメルをレイプしたから信用は難しいよ?」
惑は、その質問に嗤う。
「妖精は大丈夫だ、勇者の言う事に従う奴だから……他の二人は騎士の方が寸止めの剣技を見せつけるだろうけど……君なら殺気を読み取るのは分かるだろう? それで避けなければ問題はないよ」
「まあ……殺気がないなら避けなくていいと体が判断するけど……そんな程度で?」
「あの騎士はそういうタイプの騎士だ……数回顔を合わせただけで何となく理解出来た……そしてシャイニャスの方は騎士の事を信用し切っている……だからアイツだけを説得出来れば問題ない……その後は有志とよろしくやればいいさ」
「ふーん……」
少し信用せずに、母親は勇者パーティーに向かった。
何かあれば、惑に文句を言ってやるという想いを胸に。
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(と思って来たのに……まさか本当にその通りだなんて……)
母親は、有志に魔王を倒せるか心配になった。
「そうだ! 君の名前! 俺あ決めて良いかな!」
「え! ああ! はい! お願いします!」
取り敢えず、有志の想いのままに行動する事をしばらくは指示を受けている為、同意する。
「そうだな……ミーシャってのはどう?」
(え……それも惑が付けられるであろうと言っていた名前……ていうか何でミーシャ?)
「ありがとうございます」
想いはおくびにも出さず、ミーシャは自身の名前を取り敢えずは受け入れた。
(ミーシャか……何でそんな名前……趣味じゃないなあ……)
そして、有志の目は何処か色っぽくなっていた。
(今日かあ……何でだろう……嫌だなあって思いが少しある)